にゃんこフェスティバル開催! ~姉弟と、にゃんこと朝ヤキソバ~
初の大規模イベントの一日目!
既に全国各地に顕現された特設イベント会場には、魔力が充填。
人の熱気であふれていた。
まだ朝も早いのにこれだけの熱気なのだ、出だしは上々!
ここは現実でもあり夢の中でもある世界。ソシャゲ化されたダンジョン領域日本は一般人にとって、二年間の休み期間状態になっているおかげだろう。
いやあ、遊びに出る時間も早い!
近所の子どもも元気いっぱい! さっそく魔槍を振りかざして、しゅしゅしゅんしゅん! イベント限定で湧く、プレゼントボックス型の物質系モンスター狩りをしはじめているからね!
動く箱を倒すと、色々なアイテムがドロップするのである!
おばあさんが、弓を構えて――しゅん!
空に飛ぶプレゼントボックスを百発百中で撃ち落とす姿も、なかなかに豪快!
……。
てか、マジで凄いな――ん~む、人間のお爺さんお婆さんもなかなかやるなあ。
ともあれ。
会場の人の流れを猫目で眺めて、じぃぃぃぃぃい♪
大魔帝ケトスこと策士ニャンコである私は、にゃん祭りグルメランドエリアで、ズズズズズズズ♪
ぷりぷりエビさんと、格子状の焼き目が特徴的なイカさん入りの大盛ヤキソバを購入して。
更にズズズズズズズ♪
『やっぱり、お祭りの会場で食べる焼きそばって雰囲気も味もあっていいよね~! 三毛ネコのおっちゃーん! 焼きそば、五人前追加ね~!』
むしゃむしゃむしゃ♪
ようするに、思いっきりイベントを堪能していたのだ!
ランチタイムで混み始める前の今。
太陽が上がったばかりの、朝の時間を有効活用。犬の散歩や、ジョギングをしている人間達を前にし、ベンチで優雅に朝食なのだ!
まあ、単純に――ここで人と待ち合わせもしている。
っていう理由もあるんだけどね。
私はお祭り会場。縁日に似た空間を見渡し。
もう一度、飾りや外装をチェック。
ニャンコと、にわとりとワンコと白鳩。
お祭り仕様に専用グラフィックを作った四種類の飾り――素敵アニマルを模した提灯。
更に、それぞれの地域に根付き、協力してくれている土着神の神像。
ファンシーだが極悪性能な、ゆるキャラ警備隊!
樹々にもお祭り用の飾りがジャラジャラジャラ。
うんうん、イイ感じだ!
そして、モフ耳を傾け――私はゆったりと瞳を閉じる。
お祭りフィールドに流れるBGM。
これは太鼓や琵琶を中心とした、和楽器による合奏!
実はこれも、例の誘拐犯に対する対抗策の一つ。魂を保護する魔術効果もあるのだが、その作り主は私達アニマルズでも人間でもない。
暇をしていたり、信仰の減少と共に人間社会に溶け込むようになった日本各地の音楽の神。
彼らの協力のおかげなのだ。
ソシャゲ化空間で神としての力を取り戻しつつある彼等が集まって、一致団結。
同窓会感覚で、文字通り神音楽を作ってくれたのだから、ありがたい!
その音色は私のモフ耳すらも満足させ、とても心地良く揺らしてくれる。
モコモコな猫毛も、音楽に合わせてぶわぶわっとなってしまうのだ!
散歩するワンコが、太鼓の音に合わせてワォォォォン♪
おお、おお、喜んでる喜んでる。
……。
ものすごく、どうでもいいことかもしれないが。
今、私の目の前を横切った――ご機嫌わふわふな散歩中のワンちゃん……。
たぶん、にゃんスマホを所持していて……ご主人様よりレベルが上だった気がする。
腕を組んで、尻尾の先をふぁさ~♪
魔力で浮かべた焼きそばに、魔力で生み出した青ノリを追加で振りかけながら――。
賢くて、えらーいニャンコな私は考える。
あれ? なんか散歩しているワンちゃん全員のレベル、高くね?
と。
お祭り会場の広場で、お散歩中のワンコたちが集まって談笑をしているのだが――。
マルチーズの錬金術師に、セントバーナードの犬君主。
ビーグルの医療術師。
みなさまの、平均レベルは五十ぐらい。
あー、そっか。
私、人間以外にもにゃんスマホを所持させてるから、そういう事もあるんだね。
たぶんだが……ご主人様たちが寝ている間にパーティーを組んで。
ワオワオワオン♪
狩りをしていたりするのだ。
それに今、この世界にはモフモフな獣を自動強化させる私がいる。
更に、犬や狼といった犬系列と認識される種族を大幅に強化するホワイトハウルも顕現し、ダンジョン領域日本の主神の一柱として動いている。
その辺の事情が重なって、このレベルなのだろう。
ワンコたちが相談している内容は――。
あー、夜中に自分の影分身を家に置いて隠蔽工作。
夜にみんなで祭り会場に集合だワン!――だ、そうである。
今のワンコ達はご主人様大好きワンコだったからよかったけど、そうじゃない、我儘ワンコがいたら大変なことになっていた可能性も……。
あれ?
実はこれ、愛犬による反乱が起こったら――。
人類、負けるんじゃないかな。
犬って、ニャンコとは違ったベクトルでかなり頭いいからなあ……。
集団で狩りをできる種族だし。
私の配下のスパイワンワンズも、集団戦闘のエキスパートだし。
まあ、そういう愛犬が人類史を乗っ取る未来は観測されないから……。
あくまでも可能性の話。
それに、警備をしているホワイトハウルの眷属犬は、あのワンコ達よりも更に高レベルだからね。
文字通り、レベルの桁が一つは違う。
問題が起こったら即座に対処をしてくれるだろう。
まあ、眷族犬が愛犬たちに説得されてワンコ側に協力。人類との戦いに参加をする、なんていう可能性もあるけどね!
にゃははははははは!
……。
え? これ本当にだいじょうぶ、なのかな?
ワンコ達のにゃんスマホの機能を制限するべきか。
悩み――。
ウニュウニュっとネコ眉を尖らせ、唸る私に――そっと近寄ってくるのは犬の影。
賢そうな柴犬がスゥっと犬手を伸ばしてくる。
その手に握られているのは、にゃんこ用の高級ちゅ~ぬ♪
賄賂というヤツだろう。
会場にいるワンコたちが尻尾をバッサバッサバッサ♪
うるうると可愛い声で、うぅぅぅううぅぅうぅうぅぅぅ……♪
自分たちもこのまま、人間達のようにソシャゲ世界を楽しみたいと訴えている。
……。
はっ……! 思わず、オヤツを受け取ってしまった!
まあいいや! なんか問題が起こったら、ホワイトハウルがなんとかするだろう!
今頃、別の会場で見張りをしているだろうホワイトハウル。
あの神ワンコが、似たような状況に出くわし――高レベル野良猫から賄賂を受け取っていたら笑っちゃうけど。
さすがにないか。
それにもしもだ。
かわいい野良猫ちゃん達が人間を軽く凌駕する高レベルになっても、何の問題もないし!
まあ鱗や、ツバサあるモノを強化するロックウェル卿の影響が出始め。
知恵あるカラスたちや、川沿いに住まうカモ達。
いわゆる人里に住まう野鳥の知力が更に強化され――にゃんスマホを携帯、レベル上げとかをし始めていたら、さすがにヤバそうな気もするけど……。
ロックウェル卿は私やホワイトハウルと違って、たぶん、放任主義だろうし。
野鳥が一斉に魔術師の杖を握って、公園や川を占拠しても笑って見物するだろうし。
……。
まあ、今はまだそういう兆候はないし。
スズメさんもかわいくチュンチュン鳴いて、「あ、あたしたちはにゃんスマホなんていうとても便利でありがたいモノ、知りませんよ?」って言ってるし。
問題ない……かな?
だって、にゃんスマホなんて知らないって言ってるんだから。
きっと本当に存在自体を知らないのだろう。
……。
うん、ないない!
問題ない!
あー、焼きそば美味しかった!
焼きそばを食べ終えた私が、ビニール袋をがさがさゴソゴソ。
次はどれを食べようかと真剣に悩んでいた、その時だった。
近づいてくる人影が二つ。
美人姉弟の立花グレイスさんとトウヤくんである。
◇
集合時間五分前にやってきた彼等に手を振って。
私はにこりと猫のヒゲを動かしてみせる。
『二人ともおはよー! こっちだよー! こっち! 悪いんだけど、来てくれるかな~?』
事情を知らないと、まるでカップルのようにみえる姉弟。
二人が私に頭をさげてペコリ。
「おはようございます――、ケトス様」
「っす、今日もすばらしいモフモフですね」
『やあ、すまないね――こんな朝から呼び出して。君達も焼きそばを食べるかい?』
太陽に赤毛を輝かせるスラっとしたスーツ姿の女性、残念な趣味さえ知らなければ文句なしの美人姉。
異国美女なグレイスさんの方が先に言う。
「ふふ、いえ――とてもありがたいですけど――それはあなたが召し上がってください。わたしたちはもう、ニワトリさま病院の食堂で軽く食べてきましたから。それにケトス様。ヨダレ、だらだらですよ?」
あの病院、そんな名前だったんかい。
「あー、ケトスさん、どうもお久しぶりっす。今日はその、なんつーか。よろしくお願いします」
二人を見比べて、やっぱり似てるな~と思いつつ。
私は猫口を上下させる。
『にゃはははは、トウヤくんはあいかわらず痛めた首を押さえる、乙女ゲーみたいなポーズをしてるんだね』
「あ、やっぱりそう思います? ふふふ、ちょっとセイヤくんみたいなんですよね。まあセイヤくんの方がカッコウいいんですけど。わたしの弟も、なかなかだなぁ――ってちょっと思っちゃうのは、姉の欲目なのかもしれませんね」
きっと、芸能事務所に勝手に弟の履歴書を送るタイプだな、彼女。
おっと、グレイスさんが早口モードになりそうだ。
私は弟くんに目を向けて、耳をぴょこぴょこ――。
話に割り込んで! の合図である。
「姉ちゃん、それは――まあ別にいいけどさ。ケトスさんの話を先に聞かねえと。その、大事な話だろうしさ。俺達を誘拐していた連中の事だし……な?」
「あっと、ごめんなさい。わたし、セイヤくんの事になると――すみません。そうそう! セイヤくんといえば、この子、このあいだダンジョンタワー最上階限定ドロップの犬耳セイヤくんの召喚カードを、わたしにプレゼントしてくれたんですよ!」
最上階限定ドロップの召喚カード。
ああ、あの時の植物系ボスが落とした報酬アイテムかな。
ははーん、なるほど。
なんで召喚カードを欲しがっていたのか不思議だったのだが。
ニヨニヨと猫笑いをし、私はトウヤくんの顔を見て。
『どうやらグレイスくん、君の弟くんは私が思っていた以上に姉想いなイイ子みたいだね。なんで病院を抜け出したのかと思っていたら、そういう事情もあったのか。そりゃ、限定アイテムがあそこにしかないなら、登るしかなかったよね~』
訳知り顔で指摘する私に、気まずそうに後ろ髪を掻くトウヤくん。
「まあ、一応……寝てる間。ずっと看病してくれていたみたいっすから、なんか……お礼とか、その、アレっすよ。色々と返してやらねえと、気が済まなかったっつーか……って、今はイイじゃないっすか! 本当に、話を進めましょうよ!」
顔を赤らめる弟くんの話もごもっとも。
私は二人のにゃんスマホに干渉し――アニマル四柱の神力による魔術式を入力。
仕掛けをして……と。
『よし、こんなもんかな! これで今、この世界は君の魔力パターンで探知を掛けている状態になった。後は自由にして貰って構わないけど、一応、連絡は取れるようにしてくれると助かるよ』
「では、いよいよ――始まるわけですね」
グレイスさんが顔を引き締め、所持する魔銃を意識しはじめる。
私もスゥっと顔を引き締め。
『ああ、今回のイベントで確実に敵を狩るよ』
告げるその顔に、二人はごくりと息を呑む。
ひそかに闘志を燃やす私。
その気迫に圧されたのだろうか。
トウヤくんの方が、ぼそりと私に問いかける。
「ケトスさん、実は、その――ちょっと……キレてます?」
『ああ、驚かせてしまったなら、ごめん。でも、そうだね――例の敵に関してなら、たぶん私は本気で怒っているんだと思うよ』
私はお祭り会場に目をやった。
親に連れられ嬉しそうに歩く子どもたち。
ご主人様に連れられて、嬉しそうに散歩するワンコ達。
みな、幸せそうだ。
いつか彼等も成長し、悲しい体験や過酷な経験も積むだろう。
人生とはそういうものだ。
あのワンコ達も、いつか愛するご主人との別れの日を迎える。
種族が違えば寿命も違う。そのいつかは、確実に近づいている。
けれど、それらは今じゃない。
いつか消えてしまう彼らの命や幸せを、邪魔する輩は不粋が過ぎる。
だから、言った。
『こういう平和を見ているとね――やはり思い浮かべるんだ。自戒の意味も含めてね。生きるモノにはそれぞれの物語がある。生活がある。それを身勝手な理由で踏みつぶす輩は……気に入らないのさ。とてもね』
まあ、なぜ転移帰還者を誘拐し、魔力を奪うのか。
その理由を私は知らないが。
やはり気に入らない。
ちょっとだけ。
大魔帝としての私の本気、つまり――民間人を犠牲にしていた敵への黒い感情。
憎悪が透けて見えてしまったのだろう。
周囲のワンコや鳥、野良ネコ達が目を輝かせ始める。
そう、これはお祭りでありながら敵を破滅させるための罠。
遊びながらも、この内心はかなりの大真面目モードなのである。
グレイスさんが、ぐっと唇を噛んで。
けれど、前向きな顔で――私の瞳を見て告げる。
「ええ。絶対に……絶対に犯人を捕まえましょうね!」
『ああ、まだイベントは始まったばかりだからね。君達の事も、頼りにしているよ!』
くはははははは!
と、力いっぱい告げる私に――姉弟も力強く頷いた。
イベント初日。
私達の作り出した罠が、徐々に動きを見せ始めていた。




