神クソゲー ~パンケーキよりも甘いモノ~
チュートリアルとログインボーナス……。
スキルや魔術の習得方法の説明。
さらに――毎日プレイするだけで貰える報酬が降ってきたのは、世界変革の日の翌朝。
女子高生ヒナタ君の家でくわ~っと快眠!
お目覚めと共にパンケーキを焼き――ふわふわ生地の両面にバターをぺったぺった♪
蜂蜜と共に塗りたくっていた、七時丁度のことだった。
日本にいる生物全員に配られたニャンコ型のスマホは、私の魔力が込められた魔導端末。
にゃんスマホ♪
使用できる範囲はこのソシャゲ世界のみ。
スキルや魔術を習得するのに必要な能力を肩代わり、にゃんスマホに魔術式を計算させている状態を作り出したのだ。
まあようするに、にゃんスマホさえあれば誰でも魔術を使えるようになったのである。
一から魔術式を覚えるには適性がいるからね、そこは平等になるようにしてあるのだ。
偉い!
さすが天下の私、素敵ニャンコ神な大魔帝ケトス!
と、自画自賛はまあいいのだが。
ダンジョン領域日本にいた人々は、急に現れだしたステータスやスキル。
ファンタジーゲームな要素に混乱してはいたものの、スマホ自体は既に普及していたおかげか。
お昼ごろには既に、落ち着きを取り戻し始めていた。
皆はこう思ったのだろう。
あ、これ――夢だな、と。
そして続いて、こうも思った筈だ。
どうせ夢だし遊んでみるのも悪くないかな?
と。
まあ、そういう風に私が猫電波をうにゅにゅにゅにゅ♪
暗示を掛けているからなんだけどね。
ヒナタ君と立花グレイスくんには、それ洗脳じゃない?
と、言われたが違うよ? と、言い切ったので問題なし!
二年間は遊んだり休んだり好きにしていいよと、そういう猫の神託も送ったし、実際そういう生活ができるようにも調整してある。
毎日配られるログインボーナスで、食料やゲーム内資金も確保できるし、ステータス画面から選択できる魔猫ショップで生活必需品を購入もできる。
そういう操作が分からないご年配や子ども用に、新規に登録された眷属――日本ネコの魔猫が顕現して、親切サポート。
購入から生活介護まで、全部してくれるようにしてあるからね。
ただし。
残念ながらネコちゃんアレルギーの人もいるだろうからね。
そういう介護施設などでは、ネコちゃん防御服を着こんだ介護猫が働いているのでこっちも問題なし!
獣人モードで働き出しているニャンコも出始めているようだ。
全部が面倒って人のために、二年間お休みコースもあるからね!
体感時間一瞬で、二年後に飛ぶことも可能!
なんかダンジョン領域日本自体が、猫に支配され始めているような気もするけど……。
ま、気のせいという事で。
にゃふふふふふ!
まさに完璧のサポート体制!
いやあ、私!
やる気はないけど、どこかで主神とかやっても問題なく世界運営できるんじゃないだろうか!
と、こんな事を口にしてしまったらホワイトハウルが目をギンギラギンにして。
おー、こんなところに主神の席が空いてるのだがー?
と、私を最高神にさせようとするので気を付けないといけないが。
ともあれ!
これがゲームの世界だと気付き始めた人間達が、魔物退治やスキル習得などの楽しさを覚え始めて、活気もではじめている!
あとは、私も遊びながら誘拐犯を探すだけ!
……。
だったのだが。
◇
ダンジョン領域日本が、にゃんスマホに支配されて半日。
お昼を過ぎたポカポカ陽気な公園のベンチで、私はモキューっと俯せになって尻尾をブンブン振っていた。
ついつい意味もなく、お手々をしぺしぺ毛繕い。
いやあ、太陽が温かくって気持ちいいね。
ゲーム?
ああ、やったよ。やった。
初めの一時間は楽しかったよ?
うん。
それだけは本当だ。
まさか敵の種類がこんなに少なくて……。
そのほとんどが、色違いだったり角を足しただけの手抜きだなんて……。
思わないじゃん?
不貞腐れる私の前で、聖剣使いの女子高生ヒナタくん。
そして、赤毛異国美人な立花グレイスさんがキャッキャうふふと騒ぎだす。
時間ごとに湧いてくる意思なき魔物を聖剣で薙ぎ払い。
魔導拳銃でパンパンパン!
まるで女性が主役のアクション映画みたいに、彼女たちは魔物を華麗に狩り続けているのだ。
「いやあ、なんだー、心配しちゃってたけどさあ! 神ゲーじゃないの! これ!」
「ふふ、実際に自らの足で歩きプレイしてみると満更でもないですね。スマホを弄っているだけだと、正直思う所もあったのですが――」
公園にはポップした魔物を狩ってレベルを上げる若者や、女子高生やオフィスレディ。
ホステスさんや女性警官さん、そして休憩中にやってきただろう女性看護師さんの姿が見えている。
一つだけ。
大きな共通点がある事にお気付きだろう。
「よーし! ねえねえグレイスさーん! 阿弥陀キネヅカくんドロップしたんだけどー! この子、どうやって使ったらいいのー?」
「ああ、その子は陰陽師の血族でサポート系ですね。火属性の軽い攻撃と補助能力が特徴なんですが、一番の活躍どころはお茶会イベントになりますね。新月の日に交流イベントがあるので、それまでにレベルを上げておくと、一枚絵が手に入ったはずです」
ヒナタくんの目の前に、寡黙な青髪イケメンが召喚され。
跪いているのだが……。
大魔帝ケトスな私は、にゃんスマホのステータス画面を見て、じぃぃぃぃぃっぃい。
表示されているゲームの、ほわほわ感。
独特な空気と雰囲気にとっくに気付いていた。
なんか男キャラ、多くね?
と。
『ねえ、グレイスさん。このゲームってさ……』
「ええ、女性向け乙女ゲームですよ?」
そう。
ゲームの目的そのものが、私の求めるベクトルとは真逆。
イケメンキャラと親交を深めることがコンセプトの、ネコちゃんにとってはまったく嬉しくないゲームだったのである。
私は公園の周囲をじとぉぉぉぉぉぉぉ。
こっちには男性たちがズラリ。
一緒に取り込んだ、美女やかわいい女性キャラとの交友を深めるゲームが発生しているエリアである。
こちらのコンセプトもはっきりしている。
敵を倒しかわいい女の子をドロップさせ、それを育てたり一緒に戦ったりアイスを食べたりキャッキャうふふ。
ゲーム性は二の次で、なにがなんでも女の子と親交を深めるジャンル。
ギャルゲーだろう。
どちらも共通しているのはガチャ。
代価と引きかえに確率抽選で装備や、キャラを入手できる仕掛けがある事か。
異世界に住んでいる私達にとっては魔術やスキルなんて日常だし、イケメンや美女を召喚するなんてまあよくある話だが。
現代人にとっては、美男美女が召喚されてただ会話をできる。
それだけで新鮮で神ゲーなのだ。
ようするに、明らかにクソゲーなのに。
けっこう皆、楽しんでいるのである。
当然。
唯一あそびからも取り残されている私は、そんなに面白くない。
だって。
湧いてくる魔物はさっきも述べた通り――ほとんど色を変えただけのコピペだったり。
とりあえず苦戦しないようにと設計されたのだろう。
一撃で倒されるような低級魔物のみ。
まあいきなり大ボスとか湧かれても困るのだろうが。
かなーり暇。
私なんてただ歩いているだけで、レベル差による自動殺戮モードで殲滅できちゃうし。
報酬はショボいし。
退屈で、ネコちゃんつまんにゃい……なのである。
まあ、日本にいる全員が使える魔猫ショップの経営者は私。
魔術で作り出したアイテムを無限分裂させた商品を並べているので、お金儲け自体は出来ている。
配られたゲーム内通貨だけでは物足りないと、思う人間がもうちらほらと、ではじめているのだ。
課金方法は単純。
魔猫ショップを開いて一定クオリティ以上のグルメアイテムを献上するか、または日本円による直接課金の二つ。
どうせ夢だからとお金を使う人も多いのだろう。
作戦自体もうまくいっている。
これは夢ではなく現実。
異世界の主神クラスによる干渉だと気付いた転移帰還者や、力あるモノたちが出現しだしているのである。
次々に、このゲームからの離脱――つまり私を神とするダンジョン領域から脱出しようと魔法陣や魔力を展開。
魔術やスキルを行使しているようだが。
結果は言わなくても分かるよね?
私の魔力に勝てるはずもなく――脱出は失敗しているようだ。
そのうち、このダンジョン化の犯人。
すなわち私に誰かが辿り着き、会いに来るだろうが――それまでは暇で暇で。
ヒナタくんはそんな私を眺めて、ニヒィ!
「なーによケトスっち、あんたがやりたがっていたゲームでしょうが」
『そりゃそうだけど、まさか女性向け乙女ゲームだなんて思わないじゃないか……私はさ、ダンジョンに入り込んで魔物を倒してお宝探しをしたり、超低確率で落とすアイテムや湧く宝箱を探したりしたかったんですけど?』
献上された課金グルメをバクバクしながら私は言う。
対するヒナタくんは本当に楽しそうに、あはははははは!
「残念だったわね~♪ ぷぷぷー! ちゃんと事前に相談しておけば、ベースにするゲームを一緒に選んであげられたのに。いやあ、相談しなかったネコちゃんが悪いんじゃないかな~って、あたしは思うのよね!」
『はぁ……分かってるよ。実はさ。今、かなーり反省してるんだよね……ちょっと懲りたよ』
まさかこんな形でヒナタくんのお説教が突き刺さる事になるとは。
うん。
事実は小説より奇なりだよね。
そう。
まさにちゃんと相談しておかなかった私が悪いのである。
グレイスさんも赤毛を太陽に反射させて、こちらにやってきて。
自分のステータス画面を表示させて言う。
「それにしても本当にすごいですね。わたし、魔術やスキルに対する適性がなかったので、事前に魔力を込める魔銃に頼っていたのですが――今は普通に習得できていますし。どういう原理なのですか?」
「あー、やめておきなさいって。ケトスっちならちゃんと魔術式で公開してくれるだろうけど、ハッキリ言って人間の頭脳で理解できる処理能力を超えているから。無理、むりむーり」
冗談めいた口調であるが、その顔は案外にシリアスになっていた。
「この子、こんなかわいいマイペースニャンコだけど、本物の最上位を越えた神で――天才なんて言葉じゃ足りない程の大魔術師なのよ。だから知ってはいけない領域の知識も持っているし、今回みたいに世界を書き換える禁術も平気で使っちゃうし、それを秘匿しようともあまり思っていない。忠告しておくけど――魔術って本来は禁忌や制約も多い危険な力。遊び半分で――下手に世界の法則を覗き込もうとすると、頭が狂って……帰ってこれなくなっちゃうわよ? わりかしマジで」
その気迫に押されたのだろう。
グレイスさんが息を呑んでいる。
おー、なんか勇者っぽい!
まあ正真正銘の勇者なんだけど。
ヒナタ君の言葉を肯定するように、私は続ける。
『まあ、原理を理解してなくてもいいじゃないか。発動すればいいんだし。君だってどうやって心臓を動かしているのか、あまり意識することはないだろう?』
「それは、まあ……そうですね」
心臓に手を当てる彼女に、私は言う。
『ただ、まあ――適性に関してはちょっと覚えておいた方がいいこともあるけどね。このダンジョン領域日本で習得したスキルや魔術の感覚は、元の世界に戻っても記憶の残滓として定着する可能性がある。もしかしたら、全てが終わって元通りになっても使えるままになるスキルもあるかもよ?』
「スキルが残る可能性……ですか。もし残るのなら、夢のある話ですけどね」
くすりと微笑む顔は、豹というよりは猫っぽいモノになりつつある。
私に気を許し始めているのだろう。
彼女のにゃんスマホを見る限り……習得しようとしているスキルと魔術は回復系統。
まあ、そういうことか。
世界の混乱に乗じて――もう弟君を含め、負傷して発見されている転移帰還者達を保護してあると、彼女には知らせてあるからね。
グレイスさんは弟さんの治療を、自分の手で行いたいのだろう。
魔術やスキルなら確かにそれも可能だ。
そういうのは、まあ嫌いじゃない。
こっそり応援をして、気付かなかったフリをし。
『さて、じゃあそろそろ帰ってオヤツにしようか!』
帰ろうと肉球をガバ!
次元の扉を作ろうとする私を抱き上げ、ヒナタくんがムフフのフ!
「なーにいってるのよ! まだまだ遊ぶに決まってるじゃない! ガチャだってまだそんなに回せてないのよ!」
尻尾と耳をあからさまに落として、私は四肢をバタバタバタ。
肉球が太陽に反射して、かわいいね?
ともあれ、その笑顔をジト目で睨み。
『えぇ……ガチャならさっき回してたじゃん。なんかショボそうな竹やりとか、同じ装備ばっかりでてたけど』
「そ、そうなのよね……なんかこのゲーム、本当に渋くて……レ、レアどころかキャラがまったくでないのよ。ケトスっち、あんた、この世界を作る時になんか仕掛けでもしたんじゃないの?」
問われて私は世界に干渉し。
チェック。
『いや、確率とかはたぶんベースになってるあのゲームのまんまだと思うけど。もう一度設定しちゃったからね、後から変えるとかはしないよ?』
そんなことしちゃったらルール違反だしね。
「よりによって廃課金前提の、コアなファン向けゲームのそういう残念な部分をコピーしないでよ……」
『廃課金って、いっぱいお金を使っちゃう人の事だっけ。まあ、裏技がない事も無いけど』
言って私は自分のステータス画面から、ガチャ画面を表示。
肉球でタッチ♪
虹色に輝く排出演出が十個並んで、ガチャン!
全て最高レアリティのキャラが、簡単に入手できてしまったのだ。
虹色レアリティな輝きを放つ、美貌の騎士団を並べて。
ドドドドド、ドヤァァァァァァァ!
にひゃ~!
っと、笑って二人を眺めてやる。
「は!? なに、あんた! 管理者権限でインチキしたの!」
『ちっちっち、甘いね。これはゲームの形をしているがダンジョン領域結界なんだよ? 幸運値の影響を受けるからね、私の幸運値がどれだけぶっ飛んでるかは君も知っているだろう?』
言いたいことを察したのだろう。
いたずら娘な顔で、ヒナタくんは頬をデヘっと残念に緩め。
「なーるほどね~、ゲーム化してるってことで騙されてたわ。結局は現実なわけだもんね。あたしの能力がなくなっているわけじゃない」
『そういうこと。君も、もし幸運強化系のスキルや魔術があるなら』
「使った後にガチャを引けば――!」
言って、ヒナタくんは魔導書を顕現させ。
バササササササ!
幸運強化の魔術を自らの身体に纏わせ。
ガチャ画面をタッチ!
「こうなるってわけね!」
私ほどではないが、最高レアリティのキャラをゲットしたようだ。
普通に遊んでいる人間達には悪いが、元からこういう能力を持っている者が大幅に有利なんだよね。
これ。
裏技も教えたところで、私は身体を宙にふわふわ浮かせ。
いざ、目指すはオヤツ巡り!
『さて、グレイスくんにヒナタくん。私はちょっと用事があるから君達は一般人のフリをして、普通に楽しんでいておくれ。もし怪しいヤツを見つけたらすぐに連絡を――まあ私の眷属猫もパトロールしてるから、過度に警戒する必要もないけど、一応ね』
「ケトスっちー! あんたはこのあと、どうするつもりなのよー?」
私を見上げて問いかけるヒナタくんに、尻尾と肉球をふりふり。
『あー、さすがに乙女ゲーは私の知識の範囲外だからね。変革した世界の様子を、神様視点で眺める事にするよ。確かめたいこともあるしねー!』
「夕ご飯はハンバーグにするから! それまでには帰ってきてよー! あんたのために作るんだから、それを一人で食べるってのも寂しいんだからねー!」
おー、なんか急にやる気が出てきた!
『チーズも上に乗っけてね~!』
んーむ、これでゲームがまともだったら言う事なしなのだが。
……。
クソゲーじゃなくて。
まともなゲーム……やりたかったな。
◇
転移した場所は、次元の狭間に顕現させたニャンコ砦。
まあいつもの拠点である。
発見された転移帰還者達を私が独自に、ここで保護しているのである。
ニャンコな看護師がわっせわっせ♪
立派に働く中。
この施設には当然、グレイスくんの昏睡状態の弟さんもいて。
私はグレイスさんと目元が似ている、眠っている弟君をチラリ。
黒髪の誘拐犯に拉致され非道を受けてしまった彼。
その様子を、医療に強い魔族に診て貰っていたのである。
私の目の前――白きニワトリが、クワワワ!
蛇が絡み付いた世界蛇の宝杖を輝かせ、私も知らぬ魔術論理の波動を発動させる。
『其は憐れにも道に倒れし者――余は汝に光と導きを与えし者。安らかなるコケコッコー……汝、この気高き光に導かれ、その身を休ませたまえ』
当然、医者は私が知りうる限り最高の医療魔術の使い手。
こっちももうお馴染みであろう。
白き翼の神鶏ロックウェル卿である。
卿なら私と同じく大魔族。
あの転移門から単独で転移してこられるからね、ちょっと連絡をして呼び出したのだ。
どうやら治療は完了したようだ。
まあ、まだ起きる事はないが。
こちら側の事情を聞き、しばらくして。
駄ニワトリモードに戻ったロックウェル卿が、ぬふふふふふ!
苦笑しながら喉を翼でカキカキ。
『クワクワクワ! なーるほどのう、ケトスよ。それでおぬしはそんなに不貞腐れておるのか! まあ、たしかに? せっかくどっぷり遊ぼうと思っていたゲームが? 人間女性や女性種族向けのゲームとあっては! さしもの大魔帝もどうにもならんか!』
私の失敗が愉快なのだろう。
翼をバッサバッサとさせて大笑い。
ロックウェル卿はいまだにクワワワワ――小さな笑いを漏らし続けている。
『本当に地味~にショックだったんだから、あんまり虐めないでよ……。ま、事前にちゃんと相談してれば他のゲームをベースにもできていたんだろうし、仕方ないけどね』
まあいい薬だと、ロックウェル卿は苦笑し。
杖を亜空間に収納。
報酬代わりの熱々たこ焼きにカツオブシをまぶしながら、卿は言う。
『それにしても、ただ雑魚を倒し続けるだけのゲームなのだろう? それも生きた魔物や敵ではなく、周囲の魔力で生み出されている幻影のようなニセモノ。よくもまあ人間達は飽きずに続けていられるな。余にもその感覚はいまいち理解できんのだが』
『まあ魔術やスキルを、自分の手で実際に使えるってのが大きいんじゃないかな? それはどんなゲームでも味わえない先の技術だろうし。私達だって、初めて魔術を発動させた時は嬉しかったんじゃないかな。さすがに……もう、あまり覚えていないけれどね』
慣れてしまった故の、退屈。
というやつだろう。
『なにしろ四百年以上前の話であるからのう』
私とロックウェル卿は、小さく微笑んでいた。
昔をこうやって懐かしむこともできる。
それが、今の平和でもある。
ま、こっちの世界は平和どころか滅びかけてるんだけどね。
今の私にとっては魔王様のいる世界が故郷なのだから、こっちを軽視してしまうのは仕方のない事なのである。
たこ焼きを一緒に食べて、談笑した後。
空気を切り替えた私は、すぅっと瞳を細める。
真面目モードな顔を作ったのだ。
『それで、どうだい――この男の容態は』
『ふむ、哀れにも色々と実験をされてしまっていたようだが、根本的には――魔力を抜かれて魂が灰化しているようであるな。まるであの未来視で灰化していた地球のようにのう』
『それって――』
私は口元についたカツオブシをシリアスにペロペロリ。
先を促すように。
紅しょうがをクワクワっと銜え込む、ロックウェル卿の言葉を待つ。
『おそらく、転移帰還者達を拉致している連中と、地球滅亡の予知には繋がりがあると考えるべきであろうな』
『喜ぶべきかどうかは、微妙な所だね』
『あくまで関係しているだけであって、協力関係かどうかまでは分からんからのう。なにしろ情報が足りん。まずはその黒髪の男を探し出すことが先決か。ともあれ――そなたの行った日本ソシャゲ化計画は作戦としては悪くなかったという事であるな。おそらく、相手は今頃大慌てで動き出しているだろうて!』
なぜか自分の手柄のように笑いながら言って。
卿は眠るグレイスくんの弟さんをちらり。
『余ならこのまま目覚めさせてやることもできるが、本当に良いのか?』
『ああ、あとちょっとの所で止めておいておくれ。やはり自分自身で習得した回復能力で治療した方が――あの娘の心も晴れるだろう。見捨ててしまったと自責の念に駆られ続けるのは、可哀そうだ』
これは、あの娘の心の治療にもなるわけである。
私も……。
起きない大事な人をただ待ち続ける、その侘しさを知っているからね。
『ケトスよ。おまえは相変わらず女子供に甘いな――朝食のパンケーキよりも、その上にかけるメイプルシロップよりも、更に甘いのではないか?』
『それがモテる猫の秘訣ってもんさ』
『クワワワワワワワ! まあ、好きにするがいい』
余はそこまで他人に甘くはできんがな!
と。
クチバシについた青ノリを拭き拭き。
ロックウェル卿が鳥足をどでーんと前に倒し、言う。
『そうそう――余もしばらくこちらに滞在するつもりだ。ここの患者を診る必要もあろうしな。ケトスよ、ヒナタとやらに連絡をしておいてはくれぬか? 転生された異界の魔王様の家に、余も世話になろうと思っているのだが』
『構わないけど、大丈夫かなあ』
にゃんスマホに魔術メッセージを入力しながら呟く私に。
卿はコケケケケ!
『な、なんと! 転生された異界の魔王様の娘は、ニ……ニワトリの一柱が増えるだけで狭く感じるようなウサギ小屋に住んでおるのか!?』
『いやいやいや、違うって。私が言っているのは、あのワンコの事だよ。あいつ嫉妬の魔性だろう? 最近は大人しくなっているけど、私達だけでこっちで遊んでいる……こっちで仕事をしている事がバレたら、すんごい吠えてくるんじゃない?』
ロックウェル卿は未来視を発動させるように紅き瞳を輝かせ。
……。
にやり!
『クワワワワワ、問題あるまい! あやつも主神の器。そのような嫉妬は既に卒業しておろうて』
確かに、それもそうか。
と。
私はヒナタくんにハンバーグの材料を十人分、増やしてくれと連絡をした。
◇
この日の夜は、歌って飲んで食べて。
楽しく過ごしたのだが。
どうやら――。
あのワンコ――嫉妬を卒業してはいなかったらしい。
私のにゃんスマホにワオーン♪
特殊メッセージが届いたのは翌日のこと。
『我を置いてっ、我を置いてニワトリめと先に遊びおって! 我、もう怒ったのだからな! 謝るまで、この世界を我の領地とする! 返して欲しくば、ごめんにゃさいと我に詫びるとよかろうなのだ! グハハハハハハハハ! 追伸、世界の管理はちゃんとしてるから心配はするでないぞ? 怒られないラインでちゃんとやっておるからな? マジギレは大人げないからな?』
やられた!
私のソシャゲ化ダンジョン領域が、乗っ取られちゃったようなのだ!
ワンコの手で、ぷふふーっとしている姿が目に浮かぶ!
しかし、いくらあいつでも単独でここまでできるとは考えにくい。
となると。
もう一つ、メッセージが届いている。
『ついでにこちらで信仰値を稼ごうと思います。どうか、ウチの可愛いワンコを責めないで上げてくださいね? だって~! ちょう、かわいくお願いしてきたんだもん! 断れないわよね~♪ ああ、本当に、ちゃんと世界の管理はしとくんで、そこは心配しないでね! じゃあ、ちょっと世界のシステムもちょちょいって弄らせて貰うから! じゃあね~! 取り返しに来てもいいけど、こっちは二柱だから! 遠慮なく撃退させて貰うからね~! 超絶美しい光の女神、より』
だ、そうである。
まあたしかに、世界を壊そうとしている黒幕の目をごまかすには、こういう余興も悪くはない。
悪くはないのだが……!
この神聖な波動には覚えがある。
大いなる光……っ、あんのサボり女神!
かわいい駄ワンコに頼まれてタッグを組みやがったな!
クソゲーとはいえ、私の世界を乗っ取るとはいい度胸である!
しかし。
はて……。
ロックウェル卿はたしかにあの時、未来視を発動させていたと思ったのだが――、なんで止めなかったんだろう?
まさか退屈していた私のためだったりは……。
まあ、それはないか。
ロックウェル卿はそこまで私に、甘くないだろうしね。




