かつて信じられなかったあの日 ~ニャンコ、やらかす~後編
世界変革が起こった日。
日本をソシャゲダンジョン化したのは天才ニャンコこと私。
ネコ魔獣で神属性持ちなみんなのアイドル! 大魔帝ケトスである!
ででーん!
転移帰還者達を保護する組織の面々も。
聖剣使いの女子高生ヒナタくんも――だんまり中。
あれ、けっこう凄い事をしたのに反応が薄いな。
上を向いて、ウニュウニュっとモフ毛を靡かせながら私は考える。
そして、思い至った!
『あー、分かった! 死んじゃったらどうするの? とか気にしているんだろう! 平気平気、その辺もちゃんと考えてある! 死んじゃっても既にダンジョンゲーム化されてるからね、ちゃんとリポップするから安心さ! むしろ死ぬはずだった運命の人も、この領域内なら何度でもやり直せるって事だし――うまい事をすれば死の運命さえ覆せるはずだよ! いやあ、お得だねえ! まあその分、死への畏怖や、死への概念が弱くなっちゃうかもしれないけど――そこは仕方ないだろう? 良い意味でも、悪い意味でもゲーム化されちゃうわけだね』
ニャハハハハと、懇切丁寧に解説する私は更に魔術式を展開。
『事件が解決したら元に戻すし、終わるまでゲームには参加せずにノンビリ暮らして貰ってもいいしね! いやあ、長い休暇を貰えるなんて現代人にとっては絶好の機会だよ? 私も働き過ぎなブラックニャンコだから、その気持ちもよくわかる! うんうん、現代人! たまには休みたいよね~♪ そんなみんなに強制的にゲームに参加させてあげるなんて、私、優しいね~♪』
事実であると証明してみせ――どう、すごいだろ! と、肉球をピンと立てて、説明するのだが。
はて。
ヒナタくんの肩が震えている。
大きめだった瞳が、般若のようにつり上がり――!
ギラり!
「だぁぁぁぁあああああああああぁぁぁ!? ケトスっち、あんた! どーすんのよ、これ! 世界を救いに来たのに、逆にあんたが滅茶苦茶にしちゃったら元も子もないじゃないの!」
『えぇ……何を怒っているのさ』
モフ耳が怒鳴り声に反応し、ビクビクっと震えてしまう。
「日本を滅茶苦茶にしちゃったからでしょう! あたしだってできたら怒りたくないわよ! 経済とかも大パニックになるだろうし、なによりみんなが魔術を知っちゃったら、生活も滅茶苦茶になっちゃうじゃない! あんた! 絶対、側近とかまともな部下のだれかに、世界に干渉するほどの魔術はちゃんと周囲に相談してから決めてください、とか言われてるはずでしょ! そこを省略したわね! たまにはちゃんと怒られなさい!」
おや、本気でお怒りのジャハル君の時のような顔をしている。
……。
ま、まあたしかに、いきなりやってしまったのは悪かったかもしれない。
しかし、私も悪戯でやったわけではない。
実は安全も絶対確保済みなのだ。
《暗転影世界》で既に実験したからね――これはその延長。極大化して私の神としての権能を乗せた、大規模術式に過ぎないのである。
あの世界と同じように――私の魔術でチョチョイのチョイ!
都合のいい世界に、上書きしてある状態にあるのだ。
思い出して欲しい、結界を解けば全部元に戻るという制約を。
そう、証拠隠滅のために三獣神で作り出した魔術だからね、ちょっと魔術としての完成度が違うのだ!
いわばセーブポイント、復元能力も設定してあるし。
本当に、後で全部元に戻せるっていうのがでかい!
極端な話。
魔王様の未来視で観測されている惑星崩壊、あの滅亡が起こってしまったとしてもだ。ダンジョン領域化した時点の状態に、全部戻すことができるからね。
本当に世界を救うためには手っ取り早いのだ。
まあゲーム化は半分以上、そんなに流行ってるなら遊んでみたい! っていう、ニャンコのちょっとした我儘だが。
ともあれ。
私はヒナタくんをじっと見る。
腕を組んで、ゴゴゴゴゴゴゴ。
口はお説教をダダダダダダダダダダ――!
炎を背負う顔は、弟を心配するお姉ちゃん。
怒られるのは――本当に心配され、気にかけられている証拠か。
私は大人ネコの顔をし――息を吐く。
これ、たぶん……。
ようするに、私のために怒ってくれているのだ。
大事な説明を省きまくって、勝手にやっちゃったのは事実だしね。
間違ってるよ!
と、指摘するのってけっこう神経も気力も使う行為だろうし。
ふっ……しょうがない。
たまには怒られてやるか!
えらいな~、私。ちゃんと怒られるなんて、さすがは大魔帝♪
さて。
じゃあちょっと真面目な顔に切り替えてっと。
あれ、怒られる時の顔って……。
こうじゃないし、これも違うか。
耳を下げて……うにゃ……。
うるうるうる。
よっし、準備オッケー!
「ちゃんと聞いてるの!」
『ごめん――じゃあ少し真面目に話をしよう。今の状態だと私でも世界を救える自信がなかったんだよ』
本当に心から詫びて。
申し訳なさそうにシッポを力なく倒し、しゅん……っと瞳を潤わせる。
『未来を変えるには禁術による干渉が必要だろう? 干渉される数が多ければ多いほどいいだろう? だったら、日本全部に協力して貰った方がいいじゃん? 何もしなければ五年かそこらで滅んじゃうんだ、何もしないで滅ぶより、遊びながら抗った方がいいじゃん? 実際――たぶん今、滅びるはずだった未来はとんでもなく書き換えられている筈だよ? 滅びすらも観測できない状態になっているだろうし――』
チラっと一瞬だけ上目遣いで、見る。
ここも重要ポイントだ!
『それにだ。もし誘拐事件の黒幕がいたのだとしたら、今頃ひっくり返っている筈だよ? なにしろもっと大きな事件が起こってしまった訳だからね? 大混乱だよ? 致命的な一手を打ったはずだよ? 病院で寝ている弟さんを、堂々と魔術で治せる空間と環境も作れるし……全部を同時に満たすには、これしかなかったんだ。もちろん悪かったとは思ってるけど……』
「そ、そりゃあそうかもしれないけど……」
ブツブツ言いながらも、ヒナタ君は既に納得し始めている。
当然。
魔術師としての思考が、合理的な作戦だと理解し始めているからだろう。
そしてだ。
この可愛いニャンコが元気をなくして、しゅん……としたからだろうね。
これは説教軽減スキル――ネコちゃんの専用特技である!
つまり――。
イタズラニャンコ時代に習得した、《魔王様ごめんにゃさい……》を使ったのである!
ちなみに。
これ、ワンコ系の魔獣も使えるらしい。
まあ――たぶん本気でいたずら目的だけでやらかしていたら、アウト。
スキルは無効どころか大炎上。
今頃、火を噴く勢いでのお説教が続いていたと思われる。
相手が魔王様の娘さんだからね……、ヒナタくんは魔術式の大事な部分を読み取って。
はぁ……。
ネコモフ耳に届くような、オーバーアクションなため息をつき。
ジト目で言う。
「まあ事情もやりたいこともわかったけど……本当に、大丈夫なのこれ?」
『魔術師としての私は、信頼してくれていいよ。もし、失敗してしまったとしても――スタート地点からやり直せるし、ダンジョン領域日本にかけた魔術を解けば、元の状態に戻せる。魔術式を見て貰えば分かるとは思うんだけど――』
言って、私は誰にも真似ができない魔術式。
ミジンコサイズの魔術文字がびっしりと刻まれた、東京ドームサイズの魔導書を映してみる。
宇宙に浮かぶ魔導書を見せて、私は問う。
『ね? ちゃんと直せるだろう?』
「わ、わかったわ……その魔術式と魔導書はしまってちょうだい、頭が痛くなるから……」
ヒナタくんなら、そのうちこれくらいの魔術式も読めるようになるとは思うのだが。
まあ、まだ聖剣スキルの方が慣れているのだろう。
「ケトスっち、あんたが悪さでやってるんじゃないってのは理解してるし、これ以上は怒らないけど。あたしが一番怒ってるのは、勝手に先に動いちゃったことよ? こんな大魔術なら、マジでちゃんと事前に相談しなさい。だいたいあんた――今回も全部自分で抱えて解決しようとしてるでしょ? 実際、あんたならできちゃうし、今までもそうだったのかもしれないけど。お人好しが過ぎるわよ。もう! そういうのさ、周りから見てると……ちょっとハラハラするんだからね!」
微妙に最後がツンデレっぽいが――なんか妙に説得力のあるお説教である。
これは……ふむ。
ヒナタくんも異界で勇者をやっていたとき、似たような理由で怒られたことがあるのだろう。
まあお人好しの勇者だっただろうからね。
自分が解決すれば問題ないと、無茶をしていたのだろう。
ま、心配されることも。
こういうお説教を受ける事も悪い気分ではない。
『悪かった。今度からはもうちょっと相談するよ。ありがとう、ごめんね』
お説教モード終了な彼女は私の鼻先をツンとつつき。
しゃあないわね!
っと、にっこり笑っていた。
◇
さて、今度はグレイスくんの方を向き。
私は簡単な私側の事情。
端的に言えば、世界が滅びるというので故郷に戻ってきた件を伝え。
まあできることなら、世界を救う気でもあると伝え。
ポテチの脂がついた肉球をチペチペ。
『とまあ――そういうわけさ。君にも説明する前に世界をソシャゲ化して悪かったね。謝っておくよ』
詫びる私に慌てて赤毛を振って。
グレイスさんが逆に頭を下げてくる。
「いえ、本当に世界が滅びるというのなら――むしろこちらが感謝し、神であるあなたに頭を垂れるべきなのでしょうが。こ、これ……大丈夫なのですか?」
『後の影響を心配しているんだね――それもバッチリ対策済み。繰り返しとなってしまうが――私がダンジョン領域化を解けば、全部なかったことになって元に戻るから安心しなよ。ここで過ごした時間もね。長い夢を見ていたような錯覚に陥るだけで、元の日本の生活が始まるって事さ――』
これは私の持つ夢と影の世界、ドリームランドの力も利用しているのだが。
その辺を彼女に説明すると、さすがに話が逸れるのでカット。
「ケトス様からの話を要約すると……つまり、ゲーム化している間に――帰還者を拉致している犯人を捕える、ということですか?」
『そういうこと。ゲームで遊びながら私達は何食わぬ顔で犯人探しをする、そいつの存在だけを排除しちゃえば――こちらの勝ちってことさ。このダンジョン、すなわち世界の領域ボスは私だからね――。全部がなかったことになっても、犯人の死や消滅だけは現実であったことに書き換える。これは創造神、主神としての権能さ。元の世界に戻って消えるのは、その黒幕だけとなるって寸法だよ。もちろんその逆も可能、君の弟さんをこの世界で治して、元に戻せば――あら不思議、弟さんの治療も完了しているって事ができるからね』
まあ本当は、日本をゲームダンジョン化させる以外にも手段は何個かあったのだが。
それは最終手段だろう。
やり方は単純。
私や大魔王ケトス。
黒白ワンコと黒白ニワトリがこちら側に全員顕現。一度こちらの宇宙から地球を破壊して、創世し直すっていうムチャクチャなやり方だからね。
あとはゲーム化じゃなく、普通のダンジョン化でもよかったのだが。
そこには、ちょっと私の都合もあるんだよね~。
ゲーム化した日本はそのうちに事態を把握し、動き出すだろう。
取り込んだゲームの魔物や、ダンジョンなども出る可能性が高い。
すなわち。
私が持っている回復アイテムや、私特製の特殊装備やアイテム、魔導書などを複製販売すれば――!
むふ、むふふふふふふふ!
ぼろ儲け間違いなし!
このゲーム化世界が無かったことになったら、普通は稼いだお金も消えるのだが。
にゃふ、にゃふふふふふ!
私のアイテム領域に、なぜかバグが発生。
金銭だけが残る状況を作ることも不可能じゃない!
遊んで、儲けて大金持ちになって、ついでに世界も救って、帰還者達も救う!
ついでに弟くんの昏睡状態も、堂々と魔術を使って解除する!
一石二鳥どころではないメリットがあるのだ!
それに!
だって!
そんなにのめり込んで遊べてしまうゲームなら、私だって遊びたい!
「なーんか、妙に楽しそうよね。ケトスっち。まだ何か隠してない?」
『なーんも隠してないよ?』
ゲームしたい!
ゲームしたい!
そんな感情を隠して真面目に語る私に、ヒナタ君が言う。
「まあ――本当に世界のためでもあるってのは、あんたの性格を考えれば分かるけど……で、さあ? いつこのソシャゲダンジョン化を解くつもりなのよ」
『現実世界で二週間たてば自動で解除されるさ。ちょうど君のお父さんとお母さんが帰ってくる時期だね。この中での時間は時の流れが狂ってズレてるから……たぶん二年間ぐらいかな』
体感時間と流れる時間のタイムラグは、まあ仕方がない。
元に戻った時にも、時間のズレが発生する筈なのだが――。
この辺は転移門を繋いでいる状態を利用した時魔術。
そして、既に実験済みの暗転影世界の研究でどうとでもなる。
ようするに、本当に最終的には元に戻せるという事だ。
「え、じゃあ……あたしたち……ていうか、今、日本にいる全員がこのダンジョン化した日本で二年間もゲームをしないといけないわけ? で、終わってみると二週間が経っていて――その黒幕も消えて、立花さんの弟さんも昏睡状態から回復していて。なおかつ、一般人からゲーム化している状態の記憶が抜ける……ってこと?」
『うん、そうだよ』
首をこてんと倒して、精一杯の可愛い顔をしてやる。
「そうだよ……って。簡単に言うけど、これ、本当に世界を一つ作るくらいの魔術だと思うんですけど?」
『そうだよ? だって私、神属性持ちだから。やろうと思えばできちゃうんだよねえ』
褒めろー!
褒めろー!
超凄い事なのは理解しているのだが、あえて、分からないフリをする!
これも私の必殺技である!
ちなみに、やりすぎるとくどくなる諸刃の剣でもある。
「あぁ……そういや、あんた……。マジで世界すらも作れちゃう神で……考え方もネコちゃん基準で……。常識を逸脱してるんだったわね。あー……前に召喚された異世界にいた、サイコパス気味な神様を思い出すわ……悪気は全くないんだけど、神様基準で行動するから、やることがエグイというか」
さて、またお説教が始まっても困る。
『まあ、安心しておくれ。本当にちょっと急にやり過ぎたことは反省しているからさ。それを理解した上で、このまま世界が滅びるより、マシだろう? 本当にこのまま放置すると滅びてしまうのは、魔王様とウチのニワトリのお墨付き。実際には二週間しか経たないのに、二年間、中では時間稼ぎができるから、世界滅亡を防ぐ手段を思考する時間も増やせるからね。それに、たぶん帰還者を拉致している連中もそれどころじゃなくなるし、ゲーム化は本当に有効な一手なんだよ。どうか、理解しておくれ。新魔術とゲーム化された世界で遊ぶつもりもあるけれど、遊びだけではないってね』
更に追撃。
もう一度お説教など、ごめんなのだ!
物わかりのいい顔で神妙になって、私は感謝を述べる。
『大丈夫、君のお説教も心にとどめておくよ、ありがとうね。怒ろうとしてくれて』
「安心なさいよ――もう怒らないってば」
おー、よかった。
ほっとする私の頭をヒナタ君の手が、ナデナデナデ。
「あんた本当にお説教、嫌いなのね。もう、かわいいんだから~! ズルイわよね~、猫って。もう猫って時点でアドバンテージがあるんだから! でも、次やらかしたらお腹モフモフの刑だからね!」
『くははははははははは! 良いぞ、良い! もっと我の頭を撫でるのにゃ!』
女子高生とニャンコ。
ダブルかわいいである!
そんなほのぼのな私達のやり取りを見ながら、グレイスさんがぼそりと言う。
「えーと、なんかぽかぽかな空気感を出されている所を恐縮なのですが。これ、わたし……上にどう報告したらよいのでしょうか……?」
ヒナタ君はお説教モード終了と共に、いつもの能天気顔に戻っているので。
ポテチをぱりぱりしながら指をパタパタ。
「さあ? まあ、別にいいんじゃない?」
『そうそう! 黙ってればいいんじゃないかな?』
いつものテキトーさで言う。
当然、私もテキトーである。
「いや、二人していきなりタッグを組まないでくださいよ!」
『だってさあ――たぶん、麗しい黒猫が日本をダンジョン化させました、なーんて報告しても信じて貰えないだろうしね。最悪、過労とストレスで頭がおかしくなったと思われてクビになるよ? そうしたら、課金、できなくなっちゃうよ?』
「そ、それは困ります!」
私、見た目だけなら本当に、ただ可愛いだけのニャンコだからね。
鑑定しても、レベル一桁で鑑定妨害されるだろうし。
『だろう? それに私、言ったよね?』
悪戯ネコの顔で、ニヒィ!
「言ったとは、なんのことでしょうか」
『責任、取ってくれるよねって』
私はニッコリと、全責任を押し付けた。
まあ、本当に救ってあげるつもりなので――それくらいは、ねえ?
グレイスさんは受け入れる顔で微笑んだ後。
ふと考え込み、その美貌をうぬっと歪める。
「責任の方は覚悟していますけど。そっちの問題だけではなく……だ、大丈夫なんですか? あの、わたし、ハマっておいてなんですけど……このソシャゲ、クソゲーですよ?」
『……え?』
目を点にして。
私は可愛い猫の顔を、ぶにゃん?
肉球をのばし、いやいやいや。
御冗談をという顔で――猫口をうなんな。
『だって、君、そこまでハマってるわけだし……すごい面白いゲームなんじゃ』
「わたしが好きなのは世界観とかキャラなので、イベントをみたいので毎日プレイしまくってますけど……正直、その、ゲーム内容自体は……ひょ、評価が分かれるところ、なんですよね」
床を眺めるように、スーツ赤毛な美人さんが落とす視線は――。
わりと重めである。
あ、やばい。
この言い方、たぶんマジでクソゲーだ。
ど、どうしよう。
このパターンは想像していなかった。
明日からは車崎セイヤくんとやらがでてくるソシャゲの世界を利用した、ゲーム世界が強制始動されるはずなのだが。
ク、クソゲーだった場合。
……。
あれ? 二年間、世界がクソゲー化するってこと?
ま、まああくまでもベースにしただけであって。
他のゲームも山ほど混ぜたわけだし。
だ、大丈夫!
だよね?
▽▽▽
▽▽
▽
【魔王様ご報告用にゃんこメモ。媒体:記録クリスタル】
【筆記理由:眠れないから】
かくして、前代未聞の大事件。
ネコちゃんによる大悪戯――日本ゲーム化が実行されたのである。
とりあえず動き出すのは明日からという事になり。
予定通り、私はヒナタくんの家で居候することとなった。
誘拐犯の消去、滅亡する未来回避のための布石作り。
グレイスさんの弟君の治療。
全ての懸念が終わり二年経てば――転生魔王様の帰宅する二週間後の時間軸と合流できるはず。
民間人たちの記憶も、まあ……消去する方がいいのかな?
ダンジョン化事件は夢の中の事件。
泡沫に浮かんだ、一瞬だけ存在したゲーム。
夢には力がある。
現実に少しだけ影響を与える魔力がある――それが世界滅亡回避に繋がると信じるしかない。
そして。
夢が終われば全てがなかったことに。
けれど、消すべき相手は消す。
それが私の計画だ。
明日からは、ゲームを一から進めるみたいに。
とりあえず、遊びまくるのじゃ!
おそらく、こちらが遊んでいるうちに――相手の方から勝手にスキを見せ始めるだろう。
だって絶対に……計画を邪魔された犯人やら、世界を滅ぼそうとしている黒幕? やらが動き出すからね。
悪さもせず潜んでいるそれなりに強い帰還者達も、動かずにはいられない筈だ。
世界を書き換える程のヤベエ存在が現われた――と。
冗談やネタみたいになっているが、これは立派な世界創生規模の魔術。
力ある存在ほど、この状況に怯え――考え込んでいるだろう。
そう、世界は動き始めたのだ。
この一石が、地球という惑星の滅亡を防ぐことになるかは分からないが……必ず変化は起きる。
とりあえず最優先事項は――。
帰還者を拉致している連中の抹消か。
私は少しシリアスな顔をする。
転生魔王様の家――ヒナタくんの部屋。
女子高生な主がクカークカーっと眠る中。
私もネコ用毛布の上で身体を丸めて、くふぁーっと欠伸をした。
困った。
まだ眠れそうにない。
出したお腹をポリポリと掻いて眠るヒナタくん、その呑気な顔を薄目で見て。
ちょっと、私はホッとする。
本当の意味で最強に近いこの私に、心からの説教をしてくれる相手は少ない。
どうやら彼女も、その数少ない中の一人らしい。
それが、少しだけ。
そう――ほんとうに少しだけだが……嬉しかったのだ。
「ん……ポテチにマヨネーズをつけるのは……邪道……」
……。
なかなかどうして、個性的な寝言である。
風邪をひかないように毛布を召喚して、彼女のお腹にかけ。
元の場所に戻る。
本当は魔王様と寝る時のように、上にどでーんと乗ってやってもいいのだが。
まあ、一応、遠慮をしてやっているのである。
温かい毛布の上。
私は天井に猫の手を伸ばした。
いつもの肉球と、猫の爪が見える。
ネコの口から、不釣り合いな冷徹な声が漏れていた。
『転移者達を誘拐する、黒髪の男……か。せいぜい足掻いてくれてもいい、ゲーム化した愉快な世界の裏で……私は必ず君を殺す。もう、君は何もできない。どうせ最後には――私の肉球が踏みつぶすからね』
そう。
ようするに私は、実はけっこうご立腹なのだ。
『気に入らないね、本当に――』
ネコの私、人間の私、魔族の私。
共通しているのは、犯人を絶対に許さず――逃がさないという強い感情である。
手は打った。
ダンジョン領域日本の主神は私。
既に、度が過ぎる残酷な行為は禁忌に登録してある。
そのようなタブーを起こそうとする輩がでれば――私はすぐに察知することができる。
敵はいま、何を考えているんだろう。
こっちも色々考えちゃうよね?
これから全部、狩るつもりだし。
戦うべきか、逃げるべきか。
爪でも噛んで、狼狽えていたら嗤ってやるのだが。
まあどちらも結果は同じ。
力ある存在が逃げようとすれば私は感知できるし、戦いとなったら言わずもがな。
肉球でベチン♪
である。
日本をダンジョン化した時点で、私の勝利は確定。
絶対に揺るがない。
既にその何者かは転移者に手を出し、犠牲者を出しているのだ。
きっと、女性や子供もいた事だろう。
それはとてもいけないことだからね。
ゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴゴゴ!
……。
はっ! いかんいかん憎悪の魔力が世界を振動させてしまった!
怒りを堪えて、私はゲームを楽しむ顔でベッドの上でごろ~ん♪
しぺしぺしぺと、背中のモコモコを毛繕い♪
そう。
この世界、漂う憎悪の魔力が強めで……うっかり暴走しないようにしないと。
危ないんだよね。
気分を落ち着かせようと毛繕いをする私のお腹に、温かい手が伸びてくる。
「ゴゴゴゴゴゴゴゴ……うるさいわよぉ……ケトスっち……ほら、こっちであたしの湯たんぽに……なりなさいっ。むにゃむにゃ」
『ぶ、ぶにゃ!』
毛布ごと抱き寄せられてしまった。
うにょ~っと抜け出そうとするが、抜け出せない。
完全にロックオンされてしまった。
やっぱり、ちょっと魔王様に似ている。
まあ、いっか。
彼女の能天気さで、憎悪の感情も落ち着いてきたし。
魔王様みたいに撫でてくれるし。
ちょっと眠くなってきたかもしれない。
スヤァっと瞳を閉じて。
闇の中。
眉間をうにゅっとして考える。
明日から、ゲームを隠れ蓑にした作戦が始まるのだ。
遊びながら世界を救ってやろうか。
遊びながら抹殺を行ってやろうか。
残酷さも享楽に身を委ねるこの感情も、どちらも本物。
私は私自身の心。
そして魔王様の理想と信念に従うだけだ。
このダンジョン領域化事件を知り、私を責める者がいても構わない。
悪人と罵ろうとする者がいたとしても――構わない。
実際――何も知らないモノからすれば、遊んでいるようにしかみえないだろう。
けれど、それでいい。
やらかしたと思われた方が、都合もいいのだ。
既にここは私の狩場。
敵を探すための索敵領域。
このダンジョンからは――。
誰も逃げられない。
◇
なんて、格好いい事を記録クリスタルに刻んだけどさ。
眠れないのにはわけがある。
こんなポエミーになっているのにも理由があるのだ。
いや、さあ。
もしクソゲーだったら。
マジでどうしよう。
これ。
セーブしてあるから、世界を救うまで――。
私も……逃げられないんだよね。
既にヒナタくんからお説教済みではあるが。
完全に……やっちゃったんじゃないだろうか?
……。
ま、考え過ぎても仕方ないか。
きっと大丈夫。
実はそんなにクソゲーじゃなくて、楽しめるはずだろう!
――報告用メモ、おわり――




