ストーカーは異国美女!? ~信じる思い~
大魔帝ケトスこと異界の最強猫魔獣な私。
そして、聖剣使いの女子高生勇者ヒナタくん。
おそらく、客観的にみたら別ベクトルでかわいい! と認識されるタッグは暗転した影世界で、ニヤリ!
我ら二人を狙うのは――謎の追跡者。
とっとと消すなり、話し合うなりするつもりなのだが――ここは日本、普段通りにはいかない。
なにしろ、異界のノリで敵をうっかり消しちゃったら。
犯罪者……だからね。
なので! 証拠隠滅を図るべく私は動いたのだ!
私の展開した魔術式を眺めたヒナタ君が、聖剣を顕現させ――ブン!
闇の中で光を放ち――瞳を輝かせキシシシ!
「あいかわらず便利な魔術を使いまくれるのね、ケトスっち! いやあ、さすがに現実世界でこれを振り回すわけにもいかないし、助かったわ! で、これ、なにしたの!」
『ああ、やる気満々みたいだけど……まだ攻撃しないでね? たしかにこの空間なら大抵の証拠は隠滅できるけど、相手が敵かどうかわからないんだから』
ん-む、まさかこの私の口から、そういう待ったをかける言葉が出るようになるとは。
これぞ成長というヤツだろう。
一応、ヒナタくんにクギを刺したので――と。
私は周囲を確認する。
『フィールド名は――《暗転影世界》。私の放った影世界による浸食は成功した。世界は闇に落ちたのさ。まあ、一時的にだけどね』
ヒナタ君が周囲を見渡し、うわぁ……っと呆れるように口を開く。
「え、いや……なんか日本全部がダンジョン化されてるような気がするんだけど?」
『おや、よく分かったね――原理はダンジョン領域化そのものなんだよね』
魔術講師の顔で。
モフ尻尾をふわふわさせた私は、周囲を警戒したままに続ける。
『私の魔術と魔力干渉により支配された世界――闇ダンジョン領域化された日本は、一種の特殊空間と化した。世界の流れとも、法則とも分離独立された場所となっている。ほら、鳥も樹も、道行くお爺さんお婆さんも――みんな止まっているだろう? これが基礎魔術式なんだけど』
「ストップ! あははははは、ごめん。ちょっと魔術式が難しくて分からないんだけど。あー……まーた、難しい話になりそうだから。要約してくれると、うん、助かるみたいな?」
時の流れを停止。
世界から孤立した状態となっているのであるが。
……。
簡単に言うなら。
私はドヤっとネコ髯を蠢かしながら言う。
『まあようするに、この中でなら暴れても大丈夫だし! 侵食を解いたら元の状態に戻っている、という事さ!』
「よーし! 分かりやすい!」
弱点といえば、この空間内で動ける人間が限られてしまう事なのだが。
それは逆にメリットにもなっていた。
動けるモノの条件は、一定の魔力を持った者。
それ以外の存在は影世界に存在を許されず、石化したように闇の塊となってしまうのである。
つまりは――。
この空間で動けているのなら、その時点で常人ではない。
ということだ。
そして今、動く気配が数人。
モフ毛をモコモコさせた私は、肉球をぱちん!
挑発の魔術を発動させる。
『ねー! 隠れてないでー! でておいでよー! お姉さんたちー! 私達に用があるんだろう!? それとも、まさか影からこそこそ見る事は出来ても、正面から向き合うことができない。なーんて、恥ずかしい存在なのかな。君達はー!』
魔力を込めた私の呼びかけ。
紅き波動をまとった声は、聞いてしまったものの魂を蝕む扇動の言葉。
分類は、ターゲットを集中させる挑発スキルの一種。
本来なら仲間を守る盾職の技なのだが、私の得意技でもあるんだよね。
たまに勘違いする者もいるのだが、こういう魔術は戦闘中でなくても効果は発揮される。
むしろ。
戦闘時以外の状況の方が有効活用できるのだ。
結果としてだが、隠れている者を強制顕現させられるからね。
案の定、追跡者たちが動き出す。
黒い集団が、ジリジリジリと湧いてきたのだ。
凛とした声が響く。
「おや、よくお分かりになりましたね。気配は完全に消していたと思っていたのですが。索敵が得意な存在なのでしょうか――まあ、いいでしょう」
電信柱の影から、スッと現れたのは――。
スーツ姿の外国人女性。
洋画にでも登場しそうな赤毛が特徴的な。宝塚っぽいイメージの――どことなく目元が豹に似た、鋭い印象の女性である。
まあ美人さんだ。
『声の感じからすると――二十代前半ぐらいの女性の人かな? 私の支配するこの空間で動けているんだ。まっとうな人間ではないんだろうけど、ヒナタくんの知り合い……ではなさそうだね。ふむ、はてさてどうしたもんか』
「よく喋る猫ですね、補助魔術を扱えることからするとサポート特化の眷属、お嬢さん――あなたのファミリア……使い魔ですか?」
スーツ姿の外国人女性は僅かに頭を下げ、私にではなくヒナタくんに言う。
うーむ。
破壊神と謳われるこの私をサポート特化とみるか。
うん。
悪いけど……。
たぶん、そんなに強くないなこの人。
いや、まあ――ただ私達の方がぶっ壊れレベルで強いだけ。
という可能性が高いけど。
警戒したまま。
常に殺せる臨戦態勢を取りながらも、ヒナタ君が友好的な声を上げる。
「うわあ、美人さん。なになになに!? あたしをモデルにスカウトにきたとか!?」
「生憎、そういう冗談に付き合っているほどヒマではないのですが?」
あ、ヒナタくんが、ちょっとムカついた様子。
「ふーん、そう。かわいい女子高生と? かわいいニャンコちゃんの? 集団ストーカーはできるのに? ヒマじゃないんだ~! へー、そー! すごいわねえー!」
「そういった意味ではなかったのですが、お気を悪くさせてしまったのなら詫びさせていただきます。申し訳ない」
面倒くさそうな顔をして、ヒナタ君が問う。
「えーと、昨日コンビニ付近ですれ違った女の人よね? あたしたちに何の用なの? 本当に変質者の類なら、悪いけどここで斬らせて貰うけど。どうなの?」
「敵意はありませんよ――っと、その前に。所属は明かせませんが――自己紹介をさせていただきますね、わたしは立花、立花グレイスと申します」
相手の言葉はそこでいったん止まる。
私達にも自己紹介を促すような間を作るが。
当然、無視である。
わざわざ情報を与える義務なんてないしね。
むろん、こう見えて――私の世界も含めて三箇所も異界を救っているヒナタくんは、わりとドライな思考もできる女子高生。
彼女もペラペラと情報を明かす気はなさそうだ。
名前も貴重な魔術情報。
相手に捕まれてしまうと儀式に使われちゃうからね。
「悪いけど、こちらの名を明かすつもりはないわ。今回は見逃してあげるから、去ってくれないかしら? あたしはともかく、この極悪モフモフがたぶん容赦しないわよ?」
「脅しても無駄ですよ。そのような運動不足そうな大きさの猫が戦闘要員とは、とても思えません。傷つけたくないのなら、早く召喚空間にしまいなさい」
召喚の概念がある世界からの転移者か。
それとも転移などの魔導と関わった地球の人間か。
ともあれ、情報を引き出すか。
鑑定の魔術を使うまでもなく、その能力は把握できる。
レベル二桁の、まあよくいる街の衛兵さんと同じくらいの強さである。
周囲を囲う伏兵も同じ。
言い方は悪いが――雑魚狩り専門程度のステータス。
一般人相手には無双できるが、ちょっとしたまともな相手にはボロ負けするレベルの存在である。
まあ、レベルだけがすべてではない。
危険な魔道具を所持している可能性もあるし。
そのスキルや知能に脅威があるかもしれないのだから、油断しない。
にゃふふふふふ!
私は慎重なネコちゃんなのである!
相手は優位を確信しているのだろう。
淡々と続ける。
「質問をさせてください、あなたたちは異世界人ですか?」
ヒナタくんが私をチラリ。
目で合図をし、私はスッと肉球を進める。
『さあ、どうだろうか。敵か味方かも分からない相手に情報を出すと思うかい?』
「それも――そうですね」
ビジネスとしての枠を超えていない程度の化粧顔に手を当て。
彼女は言う。
「では質問を変えさせていただきます。あなたがたはあの男の味方ですか?」
『あの男?』
「誤魔化すつもりですか、それもいいでしょう――けれど、こうなってしまってはこちらも後には引けません。力尽くでも、口を割らせていただきますよ。多少の拷問は覚悟をしてください、殺しはしませんし、情報を引き出したらちゃんと返して差し上げますからね」
いや。
こうなってしまっては、とか後には引けないとか――ストーカーしてたのそっちじゃん……。
自分勝手な連中である。
まあいいや。
拳銃のような魔道具を取り出した立花なんちゃらさん。
その背後にいる黒服たちも、一斉にガチャ!
お!
私は赤き瞳をギンギラギーン!
ヒナタくんもまるで悪戯モードの魔王様の顔で。
げははははははは!
「ちょっと、ケトスっち。ぷぷぷー! 聞きました!? 今の!?」
『ああ、バッチリ! はっきりくっきり脅迫部分も録音済みさ! いやあ、助かるね~! そういう力尽くを選んでくれないパターンが、一番厄介だったんだよねえ!』
モフ毛を靡かせる私とヒナタ君は目線を合わせ。
胸を張り。
なーっはっはっはっははは!
くははははははははははは!
「いやあ! これは正当防衛よねえ! 女子高生、ピンチよねー!」
『いやあ、まったく! かわいいネコちゃん相手に銃を構えるなんて! 最低最悪だよねー!』
大笑いする私達に、立花なんちゃらさんが声を上げる。
「な、なんなんですこの二人は……っ、急に笑い出して。まあいい! 全員散開! 殺してはなりませんが、多少のケガは許容します!」
声に反応はない。
不審に思ったのだろう。
彼女は振り向き、そして――まともに顔色を歪ませた。
『おっと、動かない方がいい。部下か仲間かは知らないけれど、死なせたくないならね? 私も無駄な殺生はしたくないんだ、どうか――穏便に話を進められると、そうだね。私は助かる』
闇の中で言って、私はあえて静かな声を上げていた。
盗んだ財布の中身を拝借しながら。
財布を盗まれた黒服の皆さまはみな、地面に伏して悲鳴すらも堪えて。
ごくりと息を呑んでいる。
地に這うその背を踏むのは――ダンジョン化した日本で発生した新たなネコ魔獣たち。
ようするに、私の現地部下だ。
『一万円札が一枚、二枚、三枚……ぶにゃははははは! すばらしい! これでもっと、もっと! 液状オヤツを買えるではニャいか! そ、そうにゃ! いっそ、いっそキャットタワーを購入してしまおうか! それとも、ネット通販とやらで、ネコちゃん用のお休みワラ編みベッドを注文してしまうべきか! ふーむ、それが問題だ』
「な……っ、たった一瞬で――なにが……っ」
まさに刹那。
一瞬の間にそれはすべて完了していた。
まあ、全員をただ転ばせるだけの超低級の転倒魔術でコケさせて。
その間に窃盗スキルを発動!
金品を没収!
その次の一瞬に、この世界でも眷属猫を呼べるかの実験を兼ねて召喚――ジャパニーズボブテイルなネコ眷族に、黒服共の背中を踏ませた。
というわけである。
ぶにゃはははははは!
盗んだサイフの中身の確認に忙しい私に代わり――。
ヒナタくんがスゥっと瞳を細める。
「見えていなかったのなら、所詮、あなたたちはその程度の人間って事よ。喧嘩を売る相手はよく見極めなさい。財布の中身だけで我慢してあげる――優しいあたし達じゃなかったら、死んでたわよ?」
言って、ヒナタくんが勇者の覇気を纏ったまま。
立花なんちゃらさんの顔をシリアスに睨む。
敗北を悟ったのか、赤毛の女性はスーツについた埃をすっと払い。
「い、いいでしょう――合格です。あなたたちの力を試すのが目的だったのですが、許容範囲と判断しました。ついて来てもらえますか? とりあえず、わたしたちの組織に案内しますので」
ふっとイイ感じに微笑む、立花なんちゃらさん。
むろん、騙される私達ではない。
じぃぃぃぃぃぃっぃぃぃ。
女子高生とニャンコちゃん、必殺のジト目である。
『で、何か言うべきことがあるよね?』
「サ、サイフを返してください……今月、本当にピンチなんです……課金しすぎちゃって」
美人さんの顔に、ふっと浮かぶ涙。
海外女優かってぐらいの容姿。赤毛スーツでスタイリッシュな女性の涙なので、そこらの男どもなら騙されていたかもしれないが。
ニャンコと女子高生に通じるはずもない。
これだってチャームの魔術の一種だしね。
ていうかサイフとかより……先に謝って欲しかったんだけど。
そもそも返す気ないし。
ともあれちょっと気になったので、私は言う。
『課金って、君達の組織にはそういう上納金のような、献金のノルマがあるのかい?』
「違うのです! 我らの組織にはそんなアコギなシステムなどありません! ただ、わたしは――わたしは! 今月いっぱいでガチャから消えてしまう、限定配信、にゃんこコスプレ英雄モードの車崎セイヤくんを当てたかっただけなの!」
彼女の指さす先にあるのは、おサイフケータイと化し私に窃盗されたスマートフォン。
そう。
お財布を盗もうと窃盗スキルを発動させると、携帯、盗めちゃうんだよね。
便利な世の中になったんだねえ。
感心する私の横で、ヒナタくんが頬を掻きながら困り顔で言う。
「え、セイヤくんって……あたしもそのソシャゲに、ちょっと興味あったんだけど……あれって、たしか……もうコアユーザーしか残ってないから、めちゃくちゃガチャ排出率が低いって話じゃ……」
しかもキャラを何枚も重ねないといけないし。
と、知識としてはあるが――。
私にはちょっと分からない専門用語が続く。
「それでも、ゼロじゃない! 可能性があるなら、わたしは、わたしは――それを信じて課金した! それのどこがいけないというの! あの寡黙なセイヤくんが、わたしのセイヤくんがっ、にゃんこコスプレしてくれるのよ!? こりゃもう、重ねるっきゃないでしょうよ! もうわたしにはこのゲームしかないの! セイヤくんのために生き、セイヤくんのために働く! それ以上の理由なんて要らないわ!」
鼻血すら垂らし、ありがたやー!
ありがたやー!
と、スーツ姿の宝塚風異国美女は言う。
声も綺麗なだけに、ものすっごい怖い。
ドン引きした様子で、ヒナタくんが私を振り向く。
私も、作画崩壊したような顔で……ぶ、ぶにゃ?
この人。
駄目なタイプの美人さんだ。
◇
ちなみに。
盗んだスマホからセイヤくんのデータを消すぞと脅したら、彼女は全面的に降伏した。
黒服の部下共の頭を下げさせ、ははぁ……!
全員で、スタイリッシュな土下座を見せてくれたのである。
なんじゃ、これ。
異世界転生のタイムラグとはいえ。
私がいない間に……現代人、どうなってるの?




