我が愛しき魔王様 ~ニャンコとニワトリ編~
今宵、この時こそが運命の瞬間。
百年ちょっとの眠りから。
よぉぉぉっぉぉぉぉぉっやく、魔王様がお目覚めになる日。
昏く静まっていた地。
暗黒大陸に灯るのはろうそくの灯り。
光は次々と集って――。
ラストダンジョン全体を照らすほどの灯りが、集合し始める!
大魔帝ケトスこと、素敵ニャンコな私は既に大魔帝セット一式を装備し。
ニャハリ!
全ての準備が滞りなく進み、魔王城はかつてない賑わいに満たされていた。
『さあ、みんな! 今宵は盛大に食べてわらって、食べて踊って、食べて歌って! 魔王様を羨ましがらせ、起きて貰うのニャ! 我こそがケトス! 大魔帝ケトス! 魔王様に愛されし猫魔獣である!』
猫目石の魔杖で拡張した私の声が、会場に響き渡る!
わぁぁぁああああああああぁっぁぁあぁぁぁ!
おぉぉぉおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉお!
ケトスさまぁぁああああああああああぁぁぁぁぁぁ!
歓声に肉球を振ってみせる私。
うつくしいね!
十重の魔法陣を会場に展開、バンバンバン!
照明の奇跡で――更に会場全体を明るく照らし!
高らかに宣言する!
『さあ! 皆のモノ! 飲むのにゃぁぁぁぁぁー! 食べるのにゃぁぁぁぁぁぁぁ! 乾杯なのニャァァァァァァ!』
百年前の大戦当時には考えられない程の、種族のるつぼ。
私のニクキュウの歩みに導かれた光――。
様々な者達による、魔王様のための大宴会。
魔王様グルメお目覚め大作戦が執り行われていたのである!
魔族も魔物も魔獣も。
人間も巨人も神族も。
みーんなとりあえずの関係も、種族間のわだかまりも忘れ――ラストダンジョンに集っていた。
私に強制召喚された者も含めて、どんちゃん騒ぎ。
音楽に踊りにグルメにお酒!
今夜は無礼講ということもあり、文字通り神様だってはしゃいでいた。
そう――それは。
無事にグルメ儀式が始まった、という事でもある!
私はトコトコトコと歩いて、くはははははは!
話をして、くははははははは!
食べながらも、くはははははは!
ウニュウニュウニュ!
魔術波動を全開にし、魔王様の寝室に向かい起きるのニャー!
起きるのニャー!
と、魔術を送っている。
大いなる光も大いなる導きも、久々にお話をしましょう……と、まるで、まともな女神のような祝福を送り。
魔性をはじめとした大魔族たちも、合間合間にグルメ儀式の魔術印を展開!
宴会を楽しみながら行っているが。
これ。
実は超大規模な魔術だからね!
魔王様復活の儀式だからね!
神魔混合の膨大な魔術式。
世界創生にさえ近い魔術現象を、大物たちでコントロールしているのである。
まあ、実はちょっとした事故とかあったら困るから、宴会場には仕掛けがしてある。
出される料理は――猫に祝福された全回復グルメ。
食べると即座に魔力も体力も回復し、おまけに自動蘇生の魔術が発動する神話級のグルメとなっている。
ちなみに、そのアイテム効果は皆には内緒にしていた。
どうしてかって?
そりゃあ、優秀過ぎるからである。
これ、持ち帰って保存しちゃってさ?
戦争時に使ったら……戦力バランスがぶっ壊れるからね。
どうしてこれを、あの時。
あそこでカラアゲの大食い対決をしている黒ワンコと黒ニワトリ、そして白ニャンコとの戦いに使わなかったのかって?
そんなの決まっている!
これはあくまでも、魔王様に捧げるグルメだったからである!
ででん!
まあ魔術儀式という事もあり、警戒して蘇生効果まで祝福でつけたのだが。
幸いにも、死者も怪我人も出ていない。
杞憂だったようではあるが。
ここ――ラストダンジョンだからね。
念のため、自動蘇生ぐらいは必要だしね。そういう気配りも主催である大魔帝の義務なのである。
ともあれ!
私が長年目指していた魔王様お目覚め儀式、グルメ大作戦の本番なのだ!
モフモフにゃんこな私の気分も、ルンルンなのである!
耳の先っちょを、ぴょこんぴょこん♪
かわいいお鼻の先を、スンスン!
ぶにゃ~!
私もグルメをもっと貪るのだ!
そんな私を呼ぶのは色欲の魔性で、商売人のフォックスエイル。
『ちょっとぉぉぉ! ケトスさま! こっちよこっち! シグルデンに作る商業グルメ都市について相談したいから! 悪いんだけど五分程時間をちょうだい! 少しでいいから来て欲しいんだけどー!』
「ケトス殿! すまぬが、余もその件で話がしたい! この機会に、基本部分だけでも構想を進めようと思うのでー! サインを頼みたいのであるがー!」
すっかり、グルメ齎す皇帝として名を馳せたピサロ君もフォックスエイルと商談を進めているようだ。
グルメが発展するのなら問題なし!
ヤキトリ串を銜えながら、尻尾をピンと立てた私はさっそくサインをしてやったのだ!
◇
豪華なグルメを囲う儀式は、まだまだ続いている!
あちこちで、王族達が話を進めているようだ。
これほどの大物が集まるパーティなのだ、ついでに会談を進めるモノも多いのである。
それも問題なし!
美味しい食事で外交も快く進める。
それも、こういう宴会の醍醐味でもあるからね!
異世界からも集められたグルメは絢爛豪華。
数に限りのあるグルメも既に大量生産済み――私の魔術で自動分裂状態にある。
増え続けるグルメを運ぶのも、結構大変なのだが。
ネコ魔獣たちが、わっせわっせ♪
つまみ食いをしながら、交代で給仕スタッフとなって大忙し!
わっせ! わっせ!
わっせ♪ わっせ♪
あのニャンコ達も、自らの役割に誇りを持っているようだ。
お酒が大好きな連中は既に顔を真っ赤にして、酒浸り。
巨人族の女族長とレイヴァンお兄さん、そして大いなる光も酒瓶を抱えてすっかり出来上がっていた。
音楽隊の中央で舞う天女のような大神。
大いなる導き。
舞踊と芸術の神である彼女の魅惑の舞はさすがの一言で、見惚れる男達は後を絶たない。
まあ、魔物と人間の♂が揃って鼻を伸ばしている姿は、なかなかシュールだが。
黒マナティ達やハンドくんたちも空気に酔っているのか、会場の空を嬉しそうにグルグルグル。
会場用のライトを抱えて回っている。
照明係を買って出てくれたのだ。
「アップルパイできあがったよー!」
「こちらのチーズハンバーグも後二分で出来上がる、分裂の魔術が扱える者は魔術発動の準備を!」
「さあ! ケトスくんのためにも、頑張るよ! 我ら料理人はこの日のために準備をしてきたんだ、腕をふるって――恩を返さないとね!」
散歩で出逢ったグルメの達人。
快く私に協力してくれた彼等による料理が、特設会場にどんどんと積まれていく。
露店も屋台ももちろん完備♪
「巨人族名物の巨大ヤキトリはいかが~♪」
「なんと! あのケトスさまも召し上がってくださった炎牛のステーキ串もあるよー!」
「天界の露店なんて滅多に味わえないでしょう? さあ、持っていきなさい! 今日はぜーんぶタダなんだから! とにかく、賑やかに! 儀式成功のために、どんどんやっちゃいなさい!」
まさに空気はお祭り状態!
後は私達が楽しむだけ。
これでさすがに、お寝坊な魔王様も起きてくださるだろう!
人間達とも話をして、グルメをぱくり♪
露店を巡って、目を輝かせ。
『くははははははははははは! 素晴らしい! 実に、すばらしい! 魔王様のお目覚めにふさわしきグルメの山! 我は大変、満足なのである!』
ビシ!
素敵なポーズをとっている私。
かわいいね!
見慣れない女神像や、神像の上でカッコウイイポーズを取っていたのだが。
ばさっばさ!
そこに近寄ってきたのは、白き翼の神鶏。
最強魔族の一角、ロックウェル卿である。
『クワーックワクワ! ケトスよ、ご機嫌であるな!』
『まあね~、って君は嬉しくないのかい? 魔王様のお目覚めなんだよ!』
イチゴパフェのグラスを彼にも手渡し、私はハイテンション!
対する卿は、ちょっとしんみりモードのようだ。
『嬉しいには嬉しいが、いざ魔王様が本当にお目覚めになると思うと――その、なんであるな。ケトスよ、おぬし……大丈夫なのか?』
『大丈夫って、なにがだい?』
べっちゃりと生クリームをつける私の猫口を、ロックウェル卿は苦笑しながら、保護者モードな顔で拭き拭き拭き。
『おそらくだが、世界を壊しかけた回数分はお説教を覚悟しておいた方がよいと――余はそう思うのだが?』
『にゃはははははは! 大丈夫だよ! だって魔王様、私に甘いし~! なにより今回はもっと説教されるはずの大魔王なケトスもいるし~! 私が世界を壊しかけた回数なんて五回ぐらいしかないんじゃないかな?』
『ケトスよ――おまえは本当に、そういう所は変わらんな……あー、けっして、良い意味ではないぞ?』
そう言ってはいるが、ちょっと嬉しそうだ。
会場の人々を見て――ロックウェル卿は嘴をツバサで撫で。
告げる。
『変わったな――魔王城も、お前も……そして余も』
『ああ、そうだね。私もびっくりしているよ。もし過去の私がみたら、仰天してしまうんじゃないかなって、たまに思う時がある』
そう。
最初に人間世界へと干渉したヤキトリ姫の事件。
あの時、グルメを貪り遊ぶために魔王城から脱走した、あの日の私なら。
過去を懐かしむ私の赤き瞳を見て。
ロックウェル卿も赤い瞳で会場を見渡す。
『これほどの人間達がおまえのもとに集まった。あれほど人間を嫌っていたお前も、良き人間とならば共に笑えるようになっている。それはとても――なんであろうな。余は、嬉しく思っているのか、少し寂しくも思っているのか。よくわからんのだ』
『君も、まだ人間を強く恨んでいるのかい?』
問われて、卿はゆったりと瞳を閉じる。
考えているのだろう。
きっと、様々な思いが浮かんでいる筈だ。
『恨んでいないと言えば嘘になってしまうであろう。余はあの日々を忘れん。憎悪も怨嗟も、一生消える事はないだろう。なれど――あんな美味なカラアゲを作られてしまっては……一部の人間を、認めんわけにもいかんだろうて』
私は黒きニワトリ、大魔帝ロックとの戦闘で――卿の過去を少し、知ってしまった。
かつて人間であったことも。
けして消えることのない、人間への恨みも。
それでも。
魔王様のお目覚めのために、協力してくれている彼らを見る卿の瞳は。
優しかった。
『余も、変わった――という事か』
『そうかもね。嫌かい?』
『どうであろうな――ああ、分からぬ。余には分からぬ。なれど』
卿は私を見て。
言った。
『ケトスよ。お前が変わったことを余は嬉しく思えている。ならばこそ、おそらく余も――自分の変化を喜んでいるのではないかと、そう思って良いのかもしれん』
『君も素直じゃないよねえ』
いや、実際さ。
このニワトリ、めっちゃ変わったからね……。
人間なんて、踏みつぶしても問題のない庭の蟻んこ状態だったからね。
わざと追いかけ回すタイプだったからね。
私がしんみり温かい目でみたせいだろう。
ニワトリは、コケケケ!
照れた様子で翼をばっさばっさ!
『ところでケトスよ! これだけ大勢いるのだ! 数人ほど霊峰に持ち帰り、飾っておいても問題あるまいな? 神隠しなど昔からよくある事。そして余は神鶏なのだ、人を隠したとしてもなーんも問題ない! 数人、見繕って石化交渉をしてくるぞ!』
あ、こいつ。
マジでいってやがる。
だいたい石化交渉なんていう謎の言葉、初めて聞いたんですけど。
『いや、問題おおありだよ。って、君! また皇帝のピサロくんを狙っているのかい!』
『やはり余の庭に飾るとなるとそれなりに映える石像が必要であろう? 皇帝ならば、彫像として申し分なし! クワワワワッワ! ちょっと交渉してくるから、待っておれ!』
神像の上で――助走をつけるように、前屈みになるロックウェル卿。
その豪奢な尾羽が、クイクイ♪
っと揺れている。
『ストップ! 今日は魔王様お目覚めの日なんだから、問題を起こさないでよ! どうしてもやるならさあ、シグルデンのグルメ大陸化計画が終わった後でいいじゃん!』
『クワワ、クワッワワワワワワッ! 先日攻め込んできた古き神々を山ほど石化させたら、久しぶりに石化ミュージアムへの収集癖が目覚めてしまってのう! まあ、良いではないか! 今宵は無礼講だといったのはケトスよ、お前であるぞ!』
って、私がよじ登って、くははははははは!
超カッコウイイポーズをしていた、この見慣れない石像って。
私は肉球で踏んでいる、妙に生々しい像を見て。
ぶにゃ!
猫毛を逆立て、更にぶにゃにゃにゃにゃ!
『もしかしてこれ! 私が大魔王と戦っていた時に、君がやっつけた古き神々だったのかい!』
『そうであるが?』
『聞いてないんですけど!? 大魔帝で最高責任者なのに、私、報告、受けてないんですけど!?』
ニワトリさんは、くわわ?
首を横に倒し。
『まあ大魔王と戦っているおまえに心配をかけたくなかったのでな。こっちで済ませておいたのだ!』
『済ませておいたのだ……って』
偉そうに。
そして自慢げに、ん? ん? と、ドヤ顔をしているが。
褒めて欲しいのだろうか。
『あのさあ……そういう大事な案件は、ちゃんと報告を……』
『本当は奇襲のつもりだったようだが、おぬしが真の勇者だと既に気付いていたウサギがおってな。古き神々の動向を見張っていた奴が、トランプ兵を送り密告してきおったのだ。作戦まですべてな。余とホワイトハウル、そしてフォックスエイル。魔王軍幹部の素晴らしき戦い――魔王様とおまえにも見せてやりたかったぞ! コケケケ、コケーッコッコ!』
いや、なんつーか。
古き神々って、ふつうなら強敵なんだけどね。
私も感覚が狂っているが、魔王軍のみんなも大概だよね……。
はぁ……と、ため息をつく私を横目に。
くわわわわ!
ニワトリさんが空を舞う!
『あ、コラ! 本当に今日はダメだからねええええええぇぇぇ!』
『なーに、唾をつけておくだけだ! 安心せよ!』
飛翔するニワトリさんが、グルメ会場を襲う。
私は慌てて肉球を翳し、捕縛の魔術を展開!
『石化能力を制御できるようになってるとはいえ、それはさすがに即完全石化だろう!』
『クワワワワッワ! 余は楽しいぞ! 楽しいぞ、ああ、楽しいのだ! ケトスよ!』
その翼に握られているのは、大いなる光さえも酔わす御神酒。
聖女アイラくんが振舞っている、自慢のお酒である。
あれ。
こいつ……実は完全に酔っぱらっているのか。
普段、ここまで酔う事はないのだが。
無礼講って、言っちゃったからなあ。
つまり。
こいつ、マジでやらかす可能性がかなり高い!
『我はケトス! 大魔帝ケトス! バカ鶏を諫める、素敵なニャンコなり!』
『余こそがロックウェル卿! 全てを見通す者! ケトスの親友なり!』
二人同時に名乗り上げによる詠唱を行い。
魔術の火花が飛び散った。
空で行われるニャンコとニワトリの攻防戦を眺め。
会場の人間達も魔族たちも、みんな。
まーた、ケトスさまがなんかやってるよと――笑っていた。
本編エピローグ ~ロックウェル卿~編
~おわり~




