ケトス対策会議 ~無理ゲー~
黒ワンコとの聖戦を終え、二日ほどが過ぎ。
ニャンコ砦に帰還した私達は、しばしの休憩――体力と魔力の回復を行っていた。
仮にも主神を相手にしたのだ。
消耗がけっこう大きかったのである。
そう、消耗が大きかったのだから――。
ぶにゃ~んと、ふわふわロイヤルベッドでごろごろしていても仕方がない!
まあ私、回復力も高いからもう全快してるんだけどね。
お目々をギンギラギンに輝かせ、ヒゲをぴんぴん♪
『くはははははははははは! チーズケーキにゃ! この疲れを癒すにはチーズケーキしかないのにゃ! 早く魔力を回復しないといけないからニャ~、誰か持ってきてくれないかニャ~?』
聖帝国から派遣されている衛兵君に注文して。
しぺしぺしぺ――毛繕いをしながら、ごにょーんと寝具で転がる私。
かわいいね?
素敵ニャンコな大魔帝ケトスこと私の横。
ふわふわモッフモッフな尻尾をバッサバッサさせるのは黒ワンコ。
ブラックハウル卿が、ふかふかクッションの柔らかさを確認するように獣毛を擦りつけて――顎を乗せ、ムフーッ♪
別の衛兵くんに向かって、空いた皿をペチペチ肉球で叩き!
『おー、おー! 我、主神ぞ! 主神ぞ! 人間どもよ、もっと我に媚びへつらうべきであろう? 我、ショートケーキのお代わりが欲しいのだがー? あー! 我、ついうっかり本体と合流して世界を裁定してしまうかもしれないのー!』
『クワワワワワワ! 余、おとといの戦いでも大活躍であったなー! 余がおらんかったら、この大陸は真っ二つに割れていたんだがのう~! 余にも生チョコケーキのお代わりがあるべきだと思うのだが? 思うのだが? クワワワワッワ、クワ!』
邪悪コンビ。
現在、世話係となっている衛兵君をいびり中である。
まあ、実際。
大魔帝ロックこと、異界のロックウェル卿が世界を支えてくれていなかったら。
この大陸、滅んでたんだけどね。
『あー! 早くケーキのお代わりが届かないと、のう~! 我、この世界から加護を奪ってしまおうかのう~!』
『クワックワワワワ! この砦にいる人間どもの、過去を見通し、いろいろと恥ずかしい初体験を暴露しまくってやってもいいんだがのー!』
黒き翼の先に魔導メガホンを装備して、ニワトリさんが衛兵をチラッチラ!
ちなみに。
ギャグみたいに吠えている二獣だが、避難所ともなっているこのニャンコ砦で既に一度暴れている。
避難してきた人間が全て真人間である筈もなく。
ちょっとしたトラブルがあったのだ。
事件はよくある話。
避難中という混乱した状況を利用して、見知らぬ女の子にスケベを働こうとした輩がいたのである。
ネコの直感で、ぶにゃにゃ!
なんかやべーぞ! とイチゴ大福を齧っていた私がすっ飛んでいったときには、既に、不逞の輩は身も心も凍り付いていた。
罪を裁く黒ワンコによって魔力を吸われ、全てを見通す黒ニワトリさんに過去の恥ずかしい体験をすべて暴露されチクチクチクチク。
ニンゲンへの恨みとストレス、二つを解消するオモチャにされていたのであった。
むろん。
この砦の、この二日間で起こった犯罪行為はただその一件のみ。
罪を起こしそうな気配があると察知した黒ニワトリさんが顕現して、メガホンを構え。黒ワンコがニタ~っと、罪を起こす人間を待ち構えるようになったからである。
ま、犯罪抑止になるから……別にいいんだけどね。
衛兵君がいつまでオネショをしていたのか、暴露しメガホンで館内放送する極悪ニワトリを横目に。
聖剣使いの女子高生勇者、ヒナタくんが――黒ホワイトハウルことブラックハウル卿をブラッシングしながら言う。
「ねえ、ケトスっち……なんなの、この――可愛いけど偉そうな、えーと……シベリアンハスキー……かな? もふもふふわっふわで可愛いけど、なんか明らかに強いわよね。この子」
『ああ。この世界の主神だよ?』
実はここ、ベッドをもちこんでのんびりしているけど――会議室で。
人間達の表情がビシっと固まる。
構わずヒナタくんはワンコに抱きつき。
ピョコピョコさせている犬耳の間に顎を置き。
「へえ! この世界の主神ってワンコだったんだあ! あははははは! でも、ごめんねー、ワンワンちゃん。あたし、主神の概念ってあんまりわかんないのよね~。で、どんくらい強いの? この子」
『油断すると私がやられる可能性があるぐらいには強いよ。まあ封印された本体から魔力を移してある分身体だから、なんとかなるけど――あ、正真正銘、本当の神様でこの世界の創造主だから……マジで不敬な態度取ると、いろんな天変地異を起こせるから、気を付けてね?』
魔術モニターで繋がっている先。
イプシロンのイケおじ帝やデルトライアの魔術師王が、どうしたらいいか混乱しているようである。
あー。
そういや、主神だって説明はして、なかったかもしれない。
ま、いま説明したんだからいいよね。
空気に構わず黒髪をぶわっと靡かせて、ヒナタくんが目を輝かせる。
「ねえねえ! お手とかできるの?」
『娘よ――我は全世界の人間を駆逐する使命に燃ゆる、裁定の神獣であるぞ?』
いや……お手をしながら言ってても、説得力ないんだけど。
まあいいや。
現実逃避はこれくらいにして。
私はまじめな顔で、猫鼻の前でネコ手を組んで――。
静かに議題を口にする。
『で、集まって貰ったのは――そろそろ考えないといけないことがあるから、でさ。問題は。どうやって異界の私、つまり大魔王ケトスを倒すかってことなんだよね』
思いっきり頭を悩ませ、唸る私に――。
しばし二獣は上を向き。
考え込み、じとじとと汗を垂らす。
あ! 黒ワンコと黒ニワトリさんが、目線を逸らした!
『再封印するにしても、説得するにしても、やっぱり一度は勝たないと言う事をきかないってのは分かり切ってるし。ねえ、君達はこっちの私の能力は知っているんだろう? 詳しく話を聞きたい……って、なんで逃げようとしてるんだい?』
転移魔法陣を形成しようとしている魔力波動を、肉球でキャンセル!
ブスっと瞳を尖らせ私はじろり。
『そうは言われても』
『のう?』
私がせぇえっぇぇぇえぇぇっかく!
現実逃避から回復して、真面目に語ろうとしているのに。
どう説教してやろうか。
そう――思っていた所に、声をかけてくるのはヒナタくん。
「ちなみに、ケトスっちはどういう能力を持ってるの?」
『まず基本情報として不老不死で、例外もあるけど基本的には絶対に死なない』
言葉を続けようとする私の猫鼻に、ぴっと指を当て。
「あー、出鼻をくじいて悪いんだけど――それってどういう系統の不老不死なわけ?」
『どういうって』
「ほら、不死って言っても色々な種類があるじゃない。存在そのものがアンデッドだったり、情報体が精神領域にバックアップされてるから無限に再生する、イコール不死だったり。無限に再生するから不死。無限に復活するから不死。色々ね?」
原理か。
そういえばちゃんと考えたことはない。
そこに弱点を見つけることができれば……。
『とはいってもねえ。転生特典だし。気付いた時にはもう不老不死の猫魔獣として転生していたから、私も詳しくは……』
「って! なにケトスっち転生者だったの!?」
『そうだよ? あれ、言ってなかったっけ。元は君達と同じ人間だよ、不本意だけどね。ほら、レースゲームも上手かっただろう?』
ホワイトハウルとロックウェル卿は既に知っていたのだろう。
そこに関して、驚いた様子はない。
まあ、この二獣もかつては人間――ようは転生者みたいだし。
ともあれ、今は関係ない。
私は話を再開。
『で、私の種族はラストダンジョンに登録されている低級猫魔獣。憎悪の魔性っていう――人間への憎悪の感情を暴走させた果てに化生、つまり魔性となった身。憎悪や負の感情を糧に強力な魔力を得ている存在だから、死ぬほどの目に遭うと憎悪で能力が大幅に上昇する。たぶんダンジョン契約は切れてるからリポップはしないんだろうけど……もしリポップできる存在のままなら一日に千回程度までなら滅ぼしてもリポップする』
更に続ける。
『そして、異界の主神――大いなる導きっていう女神の話だと。私はネコとしての心、魔族としての心、更に人間としての心。それぞれが憎悪の魔性として覚醒しているらしいから、能力が全て三乗状態になっている。それと嘆きの魔性の力を吸収し取り込んでいるから、嘆きの魔力も得ているんだけど……こっちの世界の私はたぶん、歩んだ道が違うから嘆きの魔性としての力は考慮しなくていい筈。まずこれが種族としての基本スペックだ』
ヒナタくんがうへぇ……とした顔で、ワンコをツンツンする。
黒ワンコはニワトリさんと目線を合わせ――それはそれは残念な顔をして、頷く。
私の言葉を肯定したのだろう。
だんだんとドヤ顔になっていく私。
かわいい猫口が、軽快に動き出す!
『得意技は魅了と影を使っての魔術とスキル。そして、窃盗スキル。たぶん厄介なのは窃盗スキルだね、たとえば――どんな傷さえ癒す、神話領域の全回復アイテムを誰かが持っている時点でアウト。もし追い詰める事ができたとしても、窃盗スキルのレジストに失敗すると盗まれて振出しに戻る。で、私、幸運値がとんでもなく高いから確率判定系のスキルは全部成功すると思ってくれていい。魔王軍の精鋭から訓練を受けたから、武器は基本的に全部戦神レベルで扱えて、魔術も基本、全部使えると思って貰っていい。東洋西洋とかそういう次元の全部じゃなく、本当に全部だ。ちなみに元が人間だから、魔族の身であっても――神や加護の力を得たり操る、奇跡系と祝福系統の回復や補助も使える。錬金術や支援魔術ももちろん使えるし、召喚魔術も大得意。状態異常は完全無効、麻痺や毒といった肉体系は当然として魅了や恐怖や洗脳といった精神系の状態異常も完全無効。火炎系の魔術はほぼ完全無効。雷系も猫毛で吸収し、逆に魔力に転換される。ダメージを通すなら冷気系の魔術だろうけど、今日は暑いにゃ~とか思っていると、気分次第で完全無効化する。闇属性の魔術は吸収。聖属性の魔術はほぼ無効化に近い耐性持ち。で、魔力は世界に憎悪がある限りほぼ無限、もちろん自動回復もする。体力自動回復能力持ちで、毎秒、世界に漂う憎悪の感情に比例した速度で回復し続ける。日頃から異界召喚しているから伝説系や神話系の装備も魔道具も、回復アイテムも山のように持っている。だからアイテム封じの能力か儀式が必須だけど、たぶん状態異常判定だからレジストする。自動蘇生のアイテムや、全ての確率判定スキルが成功になる運命操作系の装備とかも完備しているから、本体能力の幸運値をなんとか下げたとしても確率判定スキルは全部、都合よく成功か都合よく失敗で計算される。んで――』
魔術ボードにケトス対策をカキカキしている私の肉球を、ぎゅっと握り。
ヒナタくんが顔を溶かす勢いで変顔をし。
「ちょっとストップ……。それ、どうやって倒すのよ?」
『さあ?』
「いや、他人事みたいに首をこてんとされても、あたし困るんですけど」
『だから困っているんじゃないか。思い浮かぶ私の弱点……も、あるっちゃあるんだけど』
ヒナタくんが希望を求めて目をキラキラさせている。
魔術モニターで情報を共有している王者二人も、こっちを凝視。
『期待させてしまって悪いけど。無駄さ。黙っていても仕方ないから言うけどさ。反射的に仲間を優先して守ってしまうっていう、致命的な欠点があるんだけど――』
『今の大魔王には仲間はおらんし、求めてもおらん。そもそもだ。破壊の概念となっているような存在なのだ。優先して守るなどという行動は取らんだろうな』
と――黒き翼をチーズケーキでべっちょべっちょにする大魔帝ロック。
その羽に握られるのは私の、私の、わーたーしーのチーズケーキ!
邪悪である。
怒りをぐっと我慢して、私は言う。
『君達二人で説得するってのも無理そうかい?』
二獣は私から奪ったチーズケーキを更に奪い合いながら。
しかし。
口では冷静な声を出す。
『クワワワワ……。ヤツの心と感情は既に破壊のエネルギーと融合しつつある。時折、気まぐれに猫心を思い出して、ネコの形を取り戻し顕現。人間世界に遊び感覚で干渉。ネコが獲物を狩るかのように遊んだりはしておるが――基本は、ずっと寝ている状態。ただ眠りながら、破壊の夢を具現化させ現実世界に顕現させておるのだ。破壊し続ける魔力の塊のような存在となっていると思っていい。説得など……まあ無理と考えよ』
スイーツを取り合い、喧嘩する獣達に割り込んで。
仲裁なのだろう。
チーズケーキを魔術で分裂させたヒナタ君が、言う。
「ねえねえ? たしか……異界のケトスっちって、生贄を捧げないなら当分は封印を解けないのよね? だったら、見なかったことにするって手も……」
『我は別にかまわんがのー! まあ、真面目な話をするとしよう』
主神としての顔で、ワンコが淡々と告げる。
『たしかに……いまのあやつは封印されている。封印の檻の中――悪党を召喚し、人間社会を征服しているのも悪戯。魔猫にとってはボードゲームに興じているようなもの。しかしだ。あやつは遊びながらもその裏で、非常に計算高い。人間達を駒とし本気で遊ぶと同時に、自らが再臨するための贄を集める儀式も行っている。わざわざ人々に害をなす悪党ばかりを召喚しているのは、自らの力の源となる憎悪を蒔くためでもあるのだ。憎き人間同士で殺し合わせ、その憎悪を吸い、復讐の爪を磨いておるのだよ。世界を壊すほどの力持つ気まぐれなネコが、今すぐにでも壊れそうな檻の中にいると思うが良かろう。たとえ悪党召喚を阻止し、生贄を捧げないようにさせようとも――必ず別の手段を考え出す。そう遠くない未来には解き放たれるぞ』
ここまで喋って、ワンコとニワトリさんが顔を擡げ。
シュタ!
大量の楽器と、眷族を召喚し――翼をバサ! 遠吠えをワオオオン!
クワックワ!
滅びーよー! ドンドン! 滅びーよー!
ニンゲン、ほーろーべー♪
ほーろーべー! ドンドン! ほーろーべー!
ニーンゲーン、ほろべー♪
ワワワオーン!
口をそろえて阿呆な戯曲を披露し始める。
……。
は……っ! つい、一緒になって歌って踊ってしまった!
聞いていた衛兵君。
イプシロン帝、デルトライア魔術師王がそれぞれに貌を青褪めさせる。
こほんと咳払い――。
クッションの上に戻った私は、何もなかった顔で言う。
『私は魔王様に異界の私を頼まれているからね。放置ってわけにもいかないし……なにより、私だからなあ……放置したらしたで、とんでもないことになるよね』
「ねえ、ワンコちゃん。あんた主神なんでしょ? なにか手はないの? ほら! 例えばその魔性化? を解くとか、不死の力を一時的に封印するとか! 神的パワーでなんとかなんないの?」
問われたワンコ。
異界のホワイトハウルは、叩いていた和太鼓を亜空間に戻し。
ふむ……。
イケワン顔で――ゆったりと紅き瞳を閉じる。
『こやつは魔王様に愛されておったからなあ、阿呆みたいな寵愛スペックなのだ。それにだ。たとえ異界の魔術や儀式に頼り、その不老不死能力や、三乗状態に膨れ上がっている魔性としての力を取り除いたとして……勝てるとは思えん。そこに残されるのは、全ての分野において達人の領域を超えた――神に等しき猫魔族。並大抵のことでは傷一つつけることもできん。我はずっと眺めていたから知っている。まあ我とこのケトスとの世界は違うのだ、おそらく細かい差異はあるだろうが――基本は同じの筈。こやつは魔王様の力になろうと努力をし続けた。初めから強かったわけではない、というわけだ。それこそ、脆弱なる人間に何度も殺され、愛する者を奪われてしまったほどにな――その研鑽を甘く見ると命取りになるぞ。青き故郷に転生せし魔王陛下の愛娘よ』
ん……?
私は黒ワンコの顔をぎょっと睨む。
こいつ。長い言葉の中。
最後の最後に、特大地雷にも匹敵する爆弾発言をしなかった?
青き、故郷。
転生した魔王陛下の……娘?
『えぇぇえぇええええええぇぇっぇぇぇ! ヒナタくん! 君! 魔王様の娘だったの!?』
黒ニワトリさんの方が、翼で頭を抑えてクチバシをくわっとさせる。
『ブラックハウル卿。きさま……余がせっかく黙っておったのに、それを口にしてしまうか?』
『なんぞ? もしや、異界のケトスよ! おぬし、この娘の素性を知らんかったのか!? 魔王様は輪廻の輪から外れたわけではない。当然、消滅した後に転生していたとしてもおかしくないであろうが』
衝撃の事実を受けて、色々と考えてしまうのだが。
やばい。
これ。
詰んだ可能性がある。
私はいざとなったら、眠る魔王様ではなく――異なる道を歩んだ魔王様を蘇生させることで大魔王を説得して貰う。
なーんていう、戦闘回避ルートを考えていたのだ。
けれど。
魔王様が異界に転生しているのなら、蘇生はできない。
なるほど。
魔王様の愛娘が勇者としてこちら側についているから、ブラックハウル卿も、大魔帝ロックもおとなしく眷族化しているのか。
でも、たぶん……。
暴走している異界の私、大魔王ケトスには魔王様の娘といっても通用しないよなあ……。
え、やばい。
私って、どうやって倒したらいいんだろう!?
大混乱し、ダダダダダダダダダダ!
会議室の中を走り回る私、かわいいね?
ただでさえ頭を悩ませる中。
魔術メッセージが私の脳裏をよぎる。
「運動中のようですが……よろしいですか? ケトスさま、ヒトガタです」
『だだだっだ、だいじょうぶだよ。ぜーんぜん、うん。まったく問題ない。だいじょうぶ、ああ、だいじょうぶ』
「そ、そうですか? ではご報告だけを手短に。ディガンマ大陸全土の制圧、奪還。全て滞りなく完了いたしました――可能ならば捕らえてある悪党転移者たちの処理……生命結晶化の魔術をお願いしたいのですが……と、どうしました。ケトスさま?」
言われて私は考える。
そういや、ホワイトハウルとの戦いの後に……。
……。
私は魔術モニターを顕現させ、ヒトガタ君の顔に目をやる。
『え、いや。たしかに――私が休んでいる間、君に指揮を任せて占領されている地域の解放をお願いしてたけど……お願いしてから二日しか経ってないよね』
「ええ、あなたの部下ですから。ワタシ、頑張りましたよ?」
千の魔導書を操るサウザンドこと、かつての魔物の中ボスヒトガタくん。
満面の笑みである。
整った顔立ちの人間なので、ヒナタくんがぱぁぁぁぁっと顔を輝かせるが。
ニャンコな私は、真顔のまま。
ぶ、ぶにゃ~?
いや、さすがに私でも全土奪還を二日では――無理だ。
ニャンコ砦とデルトライア王国。
この二箇所を取り戻すのだって、それと同じくらいの時間がかかっている。
けれど。
ヒトガタ君は、そういう虚言を言うタイプとは真逆。
事実なのだろう。
蜂蜜召喚のついで。
この大陸の昆虫、全てをモニター化できる魔術を行使してあった私は、慌ててスイッチをいれてチェック!
なんという事でしょう~。
そこには魔物軍に解放され、魔物に感謝する民の笑顔があったのです。
こっちも! こっちも! こっちの国も!
ぜーんぶ、民間人や囚われていた王族が魔物に感謝し、感涙している。
……。
あー、マジで制圧完了してるでやんの。
しかも、ほとんど死者が出てないし。
す、すごいの一言。
ふとここで。
賢い私は考える。
そういやヒトガタ君が、かつてどんな存在であったのかを。
『あー、そっか。君、よく考えてみたら人間の街を襲撃するプロだもんね……主神の心臓である聖女さえいなかったら、とっくに、あの学園、制圧してたもんね』
「おそらく誰よりも慣れていると思いますが、それがなにか――」
サバスくんが言っていたよね。
私のために、頑張り過ぎるかもしれないと。
ジトジトジト。
汗が滴る。
あ、これヤバイ。
占拠された国を素早く解放するのは、民間人の事を考えれば悪くないことなのだ。
そう、むしろ褒められる事なのだ。
私もそのつもりで指示を出したんだし。
けれどだ。
その間に、あの魔猫の対策をちゃんと練る筈だったのだ。
優秀な部下を持って私はとってもありがたいのだが――いくらなんでも、早すぎた。
これさあ。
オモチャを失ったニャンコだよ?
生贄の手駒と場所を失った大魔王ケトスが……。
動き、だすんじゃ……。
ぶぶにゃ!
っと、更に困って会議室を神速で駆けまわる私のモフ耳を――魔力が揺らす。
クハハハハハハハハハハハ!
クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
◇
麗しき魔猫の声が、世界に――鳴り響いた。
……。
って、冷静に、記録クリスタルに情報を刻んでいる場合じゃない!
私、ネコちゃんなんだよ!
魔王様の娘とか、大魔王が無理ゲーとか。
既に制圧完了で、大魔王襲来とか。
一度に情報を詰め込まれたら、わからなくなっちゃうでしょうが!




