殺戮の魔狼 ~神の咢が吼える時~その2
戦場へと向かう亜空間。
魔王様を失い、歯車の狂った世界の真実を聞き――麗しニャンコは動揺を隠せずにいた。
なんか。
よく知るおバカワンコが闇落ちしたら、新しい世界を作っていて――しかも主神になっていて。
実はもう人間という種族自体を諦めて、審判を下し滅ぼしていました。
おわり。
だもん。
バッドエンドルート。
だよね、これ。
新しい世界を作り出しているという事は――たぶん、元の世界も既に滅んでいるのだろう。
そんな。
かなり衝撃的な事実を聞いて、大魔帝ケトスことニャンコな私は、えぇ……っと困惑中。
『なるほどね。だからこの世界にはほとんど神の加護がなくなっていたのか。ホワイトハウルが、主神……ねえ』
モフモフ尻尾が、でろーん。
耳も後ろに下がって、イカみたいな形になって警戒中。
かなりテンションも下がってしまう。
仲の良かった親戚の子が、再会した時に超グレていた。
そんな気分なのである。
げんなりする私を眺めて、黒ニワトリこと大魔帝ロックがクワワワ!
『当時を思えば、まあ不思議に思うであろうな!』
『あー、うん……魔王様がいなくなってしまうと……そんなに変わってしまうんだね。あの厳格で公明正大なワンコが神を捨て、人間を捨てて世界すらも諦めたって。結構ショックなんだけど』
うわぁ……と、呆れ。けれど、切なく呟く私の猫口を見て。
一時の間を作り。
黒ニワトリは静かに告げる。
『魔王様の消失、たしかにそれは悲しき事。なれど、問題はそれだけではないからな――』
『どういうことだい?』
『考えてもみよ。魔王様が消滅するということは――魔帝ケトス、おまえが制御できない程に膨大な闇の魔力、狂える混沌と化してしまうということでもある』
先ほどまでの邪悪いたずらニワトリではなく、大魔帝ロックとしての気高き顔で。
卿は言う。
『余は見た……今のそなたが歩んだ道を。おまえは亡き我が魔王陛下の導きの元、グルメを通じ……多種多様な光と巡り合った。ステータス情報としても読み取れる、有り余るほどの幸運値。おまえはそれを他者にも振りまき、幸福を導いていたのだ。時にはありえないほどに都合の良い運命の流れすら、その肉球で強引に引き寄せてな。出逢った者達の人生と運命を捻じ曲げ、良き方向へと変えてしまったのはおまえなのだよ、大魔帝ケトス。なれど、ここは救世主ともいえるおぬしがおらん世界だ――全てが幸運に進むお前の世界とは違い、全てが大魔王ケトスの嘆きと憎悪によって、不運と滅びを運ぶ世界となっているのだ』
黒き翼が一枚の羽を飛ばし、亜空間に二つの魔術文字を刻む。
輝く世界の絶対幸運。
嘆く世界の絶対不幸。
おそらく、幸運が私の持つスキルで不幸が大魔王の持つスキルなのだろう。
効果は、世界に幸運を招く事。
そして、世界に不幸を招く事。
魔王様のいない世界は、私が狂った世界でもある。
か。
まあ――思う所はあるが、感傷に浸るよりも状況把握が先である。
『で、六番目の世界っていうのはどういう意味だい』
『言葉通りの意味であるぞ。最初の世界……お前も知るであろうラストダンジョンのあったあの世界は、既に大魔王ケトスの手により滅ぼされておるからな。次元の狭間が得意フィールドであるホワイトハウルはその後、狭間から干渉し、滅びた世界の残滓を拾い集めた。奴は既に主神であったからな――それを核とし、主神としての奇跡と共に世界構築魔術を発動。新しき世界を作り上げたのだ。それが第一の世界アルフェス大陸』
じっとり、汗が浮かぶ。
あ、あの世界――やっちゃった犯人は私なんだ。
……。
ま、まあ私じゃない私だし、私、悪くないよね。
『ホワイトハウルはまた一から世界を作り直し、やり直そうとしたのだろうな。魔王様を失い、絶望するお前に立ち直って欲しかったのか、それとも天界を滅ぼしたとはいえ神族であったからか。余はその理由を知らぬ。しかし――新しき世界でも……大魔王ケトスは泣き続けた。魔王様を想い、泣き続けていた。わんわんわんわんと、破壊と消滅の慟哭を上げ続けた。その涙が全てを呑み込み、新しく生まれ変わった世界も――殺戮の霧と共に海へと呑み込まれた。ほぼすべての大陸が憎悪と嘆きの涙で沈んだのだよ』
それが一度目の世界の終わりだ――と。
さらっと告げられて、私はなんとも微妙な気分になってしまう。
昔話をするように、卿は続けて吟じる。
『第一の世界の終わりを見届けたホワイトハウルはもう一度、世界を作り直した。今度は魔猫を慰めるためだけの世界だ。ケトスよ、おまえが泣き止むように。魔王様亡き世界でもおまえに立ち直って欲しいと――グルメを生み出す人間を中心に創造し、おまえの心の渇きと飢えを癒そうとした』
『やっぱりグルメなんだね』
この作戦なら――。
まあ、成功しそうな気もするのだが。
うまく、いかなかったんだろうなあ。
私は先を促すように、ニワトリさんに肉球を傾けてみせる。
『泣き続けるそなた、二番目の世界で弱体化した大魔王ケトスが封印されたのはそのすぐ後……。犯人は異世界に逃げ込み潜んでいた勇者。そしてその協力者として姿を現したのが、一人の賢者。お前も知っているであろう? 世界の滅びが別の異世界に広がる前にと、手を伸ばした魔王様の影法師だ。相手はあの魔王様だ。憎き勇者とはいえ、魔王陛下の力を借りた存在だった。そこに動揺したのだろうな、大魔王はおとなしく――封印されてしまったのだよ』
『え!?』
私は待ったをかけるように、肉球を前に出す。
『ちょっと、待ってよ! 弱体? 世界を滅ぼすほどに強くなったのなら、勇者と魔王様の残滓にも負けないと思うし、封印自体、魔術計算式的に不可能だと思うんだけど――封印されたってどういうことだい?』
自分の弱点ともなるのだ。
それは把握しておきたい所である。
異なる未来のロックウェル卿が、翼を広げ――回答する。
『魔力の枯渇だ――世界を滅ぼした大魔王ケトスであったが、滅びた世界はあやつにとっても回復手段を失った世界。なにしろ憎悪を吸収するはずの生き物さえ、全て滅ぼしてしまったのだからな。そしておまえはもはや、まともに思考することなく混沌と化した魔猫。力を伴った涙を常に垂れ流しておったから、仕方あるまいて』
しばし意識を集中し。
脳内でシミュレートしてみる。
……。
泣いてる私も、かわいいね?
って、自画自賛している場合じゃない!
『ああ、なるほど――私も以前自分の倒し方を考えたことがあったけど……世界から憎悪が消えれば弱体化する――そう結論を出したこともあったっけ。常に破壊の魔力を放出しながら泣き続けているのなら、弱くなる一方なのか……』
まあ、私を倒そうとしてその状況になった時は、既にどん詰まり。
世界自体が、色んな意味で終わっているわけだけど。
『当時の第二世界ベイティヌスは生まれたばかり、まだ憎悪もさほど育つ前だったからのう――。なれど本当ならそれはチャンスでもあったのだ。魔力を減らし、だんだんと空腹になっていたおまえと会話をする、絶好のタイミングでもあったわけだからな。世界と人間の存続をまだ考えていた当時の魔狼、ホワイトハウルはそこを狙っていたのだ』
まあ、悪くない作戦ではあると思う。
『しかし、あの魔狼は失念していた。勇者がまだどこかで生きていると言う事を……。そして、運命のあの日。奴がおまえのためにと用意したグルメを手渡した、その瞬間。ようやく泣き腫らした目を見開き、泣き止みかけた大魔王がグルメに手を伸ばしたその時――次元が割れて、勇者が再臨した。お前は、その隙をつかれ……』
そこまで告げて、黒き鳥は首を横に振った。
封印された、ということだろう。
『大魔王の封印をきっかけに、第二の世界は平和になる。はずだった。実際、人間達は勇者に扇動され喜んでおったからな。なれど――それに怒り狂ったのが、裁定の神獣であり世界の頂点にいた真なる神獣、主神――ホワイトハウルだ』
『す、すごい出世してるよね……あのワンコ』
それは私のせいでもあり、おかげでもあるのだろうが。
大魔帝ロックは、はぁ……と露骨なため息をつく。
複雑そうな顔をして、続きを語り始める。
『既にホワイトハウルは主神。その方針は大魔王ケトスを慰めにより鎮め、元のケトスに戻す事であった。にも拘わらず――勇者は、主神の許可なく大魔王を封じてしまった、グルメによってその嘆きをようやく拭い去れるかもしれない――その瞬間に襲われたのだ。それも気に入らなかったのであろうな』
亜空間を移動しながら、黒きニワトリはポテチをバリンと粉々に砕き。
その粉をムシャムシャしながら言う。
『主神としての権能を行使し――ホワイトハウルは、全てを破壊しおった』
はい、また世界滅ぼされた。
こんなにぽんぽん世界が滅ぼされるって、本当にやばい世界だよね。
ここ。
『そして戦犯ともいえる勇者はどこか別の異世界へと逃げ、生き永らえた。神であるヤツに謝罪もせずにな。思えばその時、ホワイトハウルは人間という種を諦めてしまったのやも知れぬ。ま、余は霊峰でそれを見ていただけ。想像することしかできぬがな』
『なるほど。そこでまた歯車がズレたわけか。魔術的に考えると――全てが不幸に進む世界、スキルの影響かな。幸運への道を世界が進もうとすると、大魔王のスキルがそれを邪魔するようになっている可能性があるね』
しっかし。
ブブニャっと邪悪なネコ顔をして、私は、うぅぅぅぅぅっと唸る。
『人間にしてみればあの勇者も、希望の象徴なような存在なんだろうけど。すんごいうざいよね? うん、勇者ウザイ』
まあ、あの勇者もほとんど感情を殺した機械のような存在になっていた。
全ては世界のため、人類という種を存続させるため。
その呪縛を解いたのは私。
大魔帝ケトスによって解放されたのだが――。
……。
その解放も、この世界では起こらなかった、ということである。
勇者もある意味で異界召喚で巻き込まれた、被害者なのだ。
ムカつくけど。
頷き、大魔帝ロックは戯曲を奏でるように歌を再開した。
『それ以降、奴は変わってしまった。何度世界を作り直し、何度裁定しようとも――奴は人を否定するようになった。魔王様とケトスを奪った人間を憎悪するようになっていたのだ。嫉妬の魔性であり、主神でありながらも人を憎悪しはじめた奴の身は、黒く染まっていた――闇に落ちたのであろう』
あー、ワンコもやっぱり黒くなってるのね。
『もし勇者が邪魔をしなければ私も泣き止んで、大団円。グルメを運んでくる人間を許し、第二の世界が発展したかもしれないのにね』
最初からグルメのために作られた世界なら、きっといい世界になったと思うんだけどな~。
まあ、もう滅びてしまったのなら仕方ないけど。
『そういや――ちょっと話が戻るんだけど。あのワンコ、どうやって大いなる光を滅ぼしたのさ。当時の主神は既に怠惰で堕ちかけていたけど、仮にも神だ。そう簡単に倒せるもんじゃないだろう』
今でこそ天界とはうまくやっているけど、もしかしたらそういう場面がくるかもしれないし。
真似できるなら、今のうちにカンニングしときたいのである!
『あやつが裁定の神獣なのは知っているであろう? その能力は特殊、相手に罪ありと判断した時に飛躍的に跳ね上がる。奴は神獣として正式な能力と権限を発動しおった。その権能を行使し、神を審判にかけ裁定しおったのだよ』
『ああ、正式な魔術名は覚えてないけど……冥府魔狼の天秤だとか、そういうのだよね』
相手の罪を起点に効果を発揮させる裁定魔術。
私もカラアゲとロックウェル卿に嫉妬したワンコに、一回魔力を奪われたことがあったし。
確かに……。
あの手の能力は概念を魔術として扱う力。
魔術対象と効果――すなわち罪の範囲と犯した罪が一致する場合、本気を出した魔王様と同じくらいの力を発揮する事も可能なのだろう。
あのワンコ。
実際、厳格で――相手が罪を犯した者となると目の色を変えて凶悪になってたし。
元からそういう可能性のある神獣であったということか。
まあ、さすがに主神を裁判にかけ滅ぼすって、凄すぎるけど……。
正確には魔術名を覚えていなかったのだが、異界のロックウェル卿にはそれで通じたのだろう。
クワクワと頷き。
『かつての主神、名は大いなる光と言ったか? あの者は神としての仕事を放棄しておったからな。永遠の如く生きる神にとっては一時のさぼり、されど世界にとってそれは長きにわたる背信といえよう。そしてホワイトハウルは厳格な獣。相手がたとえ主神であっても――罪を裁いてしまったというわけだ。あやつは、相手が罪を犯していれば犯しているほど強くなる。神殺しは得意分野であろうからな。天界が公平性を捨て勇者に味方をしていたのだ、それを正すのもヤツの本分であったのだろう』
まあ、結局のところは主神の自業自得なわけか。
実際――私が介入する前は、わりと大荒れ。
一部の教会とか、かなり腐ってたし。
ど、どうしよう……。
これ、事件が解決した後に大いなる光には……伝えない方が、いい、よね?
いや。
サボルとワンコに噛み殺されるから、頑張れと言ってやるべきか。
悩みどころである。
ともあれ。
色んな感情にブブニャ! ネコちゃんフェイスを七変化させる私の顔を見て、ニワトリさんが更に続ける。
『その後、ホワイトハウルはお前の封印を解く術を探りながらも、世界を数度作り直した。はたして主神として、人間を作り直すべきなのかどうか。世界を使い実験をしたそうだ――。なれど結果は全て同じ――人間は不要であるとの結論だ。人はもはや作るに値しない、ノイズであり寄生虫だと判断しおった。もはや五度目の世界の終焉、六度目の世界の誕生。このディガンマ大陸を作り上げた時点で、心まで血と憎悪、赤と黒色に染めてしまったのだよ。そしてこの地こそが、最後の審判が行われる場所。だが、余にはその答えがもう見えておる』
まあ、答えは分かっている。
『すなわち、人類など必要なしと――な』
やはり、そうか。
厳格で公正なあいつのことだ。
おそらく、その世界実験でも裁定魔術で審判をしたのだろうが――。
考えながら私は言う。
『一応、数回程度は人間を見捨てない道も探してはいた。というわけか。なら、まだ説得ができる可能性もあるわけだけど――』
会ってみないと、分からないか。
『まあ無理であろうな』
『そう思う理由を聞いてもいいかな?』
全てを見通す者が、断言している。
その言葉は無視できるものではない。
『ホワイトハウル――奴もケトスのように、人間の卑怯な手により封印されたからのう』
言葉を区切った黒ニワトリは、ポテチの袋をガサガサガサ!
ケッ――と珍しく舌打ち。
頬一杯に頬張ったポテチを、がーつがつがつ!
『相手は例のアレ。忌まわしき存在! 人類の存続をなによりも優先させる勇者、そしてその関係者である! 余ですらいまだにイラついておるくらいだ。不意討ちを受け、封印されてしまったあやつの怒りは怒髪天を衝く勢い。既に人間を見ると、無条件で毛を逆立て唸りを上げる猛犬となっている。人への怒りはかなりのモノだ――人間との共存を含む説得など、無意味であろう』
私の顔が、ガッコン。
キシャアァァァァアアアアアアアアアァァァ!
はい! また人間のせいぃいいい!
勇者のせいっぃぃぃぃ!
にゃぁあああああああああああぁぁぁぁっぁぁぁ!
あのクソ勇者!
どこまでも私を邪魔するヤツである!
と、心の中でだけこっそり唸る私。
偉いね?
んー……とネコちゃんアイを上に向けて、私は想像する。
ガチギレのホワイトハウル……。
さっきの私みたいなガチギレ。
あー、説得は無理そうだ。
『卑怯な手っていうと、やっぱりグルメとかを利用したのかい?』
『いや――もはやあやつにそのような手は効かん。余と同じく、とっくにグルメなど捨てていた』
あのグルメ大好きワンコまでもが……グルメ断ち。
完全なる、闇落ちか。
私は表情を引き締める。
『奴を封印した方法は簡単、やはり魔力が弱った瞬間を狙ったのだ。なにしろ勇者共が魔狼を襲ったのは、六度目の世界を作った直後。さすがに主神と言えど、新しき世界を作るには膨大な魔力が必要であるとは分かるだろう?』
『そりゃまあね』
私も夢と影の中の私の世界。
ドリームランドに何かを追加する時には、それなりに魔力を使うし。
『もしこの最後の大陸で、人が道を踏み外したら捨てると神狼が決め、このディガンマ大陸を生み出した直後――勇者は魔狼を襲った。主神ホワイトハウルをケトスと同じ空間に封印した、というわけだ。そもそもだ。ここは最後の楽園、神としてのあやつが憎みながらも人間への情けをかけ、作り上げた世界でもあったからな。それを裏切られる形となったこともあり、相当に人間を憎んでおるのだよ』
まあ勇者が相手にするのは基本格上だし、そうやって――隙をつかないと倒せないから仕方ないんだろうが。
ふと賢い私は考える。
いや、さあ。
ゲームや物語でよくある展開でもあるけど――。
勇者って基本、卑怯だよね……?
もし、この記録クリスタルを見ている勇者や勇者候補がいるのなら。
ちゃんと胸に刻んでおいて欲しい。
やれ神の竜が残した光る球でボスを弱体とか、やれ力の源である眷族を先に殺してボスを弱体とか。
勇者とは! そうやって卑怯な手を使いまくり、我等悪者を陥れていると! 卑怯者集団であると自覚をするべきである!
ででーん!
よーし、言い切った!
うわあ、やっぱりないわー。勇者、ないわー。
般若猫の顔で、ぐるるるるる!
目を三角に尖らせる私は、こほんと咳払い。
冷静になることを心掛けて、口を動かした。
『かなりムカつくけど。まあいいや。しかし――じゃあ五度目の世界まで、あの勇者もその関係者もどこか……んー、次元の狭間のような異空間で、生き続けていたってことだよね? そんな世界になっても生きてるもんなのか……ゴキブリみたいな連中だね』
『然り……あやつらは、本当にしつこかったからのう。何度世界が消えてもどこかに潜んで、ネチネチネチネチ、淡々とチャンスを狙っていたのだからな。思い出しただけでも、ぐわわわわっわ! 鶏冠が怒りで燃え盛るわ!』
しつこかった。
その言葉から察するに、既に勇者もその関係者も全て駆逐されているのだろう。
『それで、結局あの勇者の最後はどうなったのさ。この大陸も既に崩壊寸前だった。三分の二も、君達の悪党を使っての侵略を受けているのに、でてきていないってことは――たぶんもういないんだろう?』
『クックックッ、クワワワワワ! よくぞ聞いてくれた! 憎き勇者どもを滅ぼしたのは、なにを隠そう、この余なのだ! 長きに渡りチャンスを待ち、ついにその日! 憎き奴らの魂、その輪廻まで石化させ、二度と再臨できぬように木っ端みじんに砕いてやったのだぞ! どうだ、褒めよ! 褒めよ!』
もしかして、このものすごーく長い話。
その結末は……。
『君さあ、どうして素直に話してくれたのか、ちょっと疑問だったんだけど。ようするに、それを自慢したくて話してくれたわけ?』
『コケケケッケケケ! その、通り! さあ、余がどうやって勇者を滅ぼしたか。分かるか? どうだ? ん? ん? わかるまい?』
私は猫の爪を刃に見立てて、じぃぃぃぃ。
ちょっとしたスキルをこっそり発動。
『あー、わかった……勇者たちがホワイトハウル封印のチャンスを狙っている後ろで、同じように、勇者たちがワンコを封印し力を使った直後を狙った――そういうわけだね』
舞を披露していた、その翼がギクっと止まる。
本当は自慢しながら、説明するつもりだったのだろう。
ニワトリさんは、ブスーっと半目になっていう。
『なんだ、すぐ答えを言われてしまっては面白くないのう。きさま、剣の道を究めた先にある「答えを得るスキル」を習得しておるな?』
『おや、レアなスキルなのに、よく気付いたね。ちょっと便利そうなスキルだったからコピーしといたんだよ』
必殺!
自慢を企む相手に自慢で返す、ハイレベルなドヤ!
これもグルメ散歩での出会いを経て手に入れた力。
すなわち、魔王陛下が私に残してくださった力でもある!
『まあ、勇者たちを二度と再生できんようにした反動か、余もそこで力を使い果たしてな。封印の檻に囚われてしまった。そこでようやく、大魔王ケトス、大魔帝ロック、大魔帝ホワイトハウルこと主神、全員が次元の狭間に封印されたというわけだ』
『君達には悪いけれど――そのまま封印されていれば、まあ世界は平和だったわけだね』
だが、そうはならなかった。
それほどに、私達の人間への恨みは募っていたという事だろう。
『その通り! 素晴らしき余がタダで封印される筈も無い! 封印される際に仕掛けをしたのだ、百年後、三匹同時に封印が解けるように外と内からクワワワっとな』
『うわぁ……人間達にしてみたら悪夢だね……』
つまり、この大陸のピンチもこのニワトリが原因かい。
マジでタダでは封印されない極悪鶏でやんの。
私の言葉を賞賛と受け取ったのか。
ふふんとモフ胸羽毛を見せつけ、彼は言う。
『それから百年弱、勇者も大魔王も我等もいないこのディガンマ大陸は滅びることなく、存続し続けた。もっともケトスよ。お前は封印の中にあっても、既に憎悪とネコの邪気を取り戻していたからな――我等は結託し、人間の駆逐を誓った。封印の檻の中から戯れに魔力を飛ばし、嫌がらせを続けていたのだ。それがつい最近までの話。そして今、百年の時を経て我等の本体は目覚めようとしている。異界から呼んだ悪党、そして我等を裏切った人間を生贄としてな。飛ばす魔力体の力も、それなりに強いものとなっておるということだ』
なるほど、いつの頃からかは分からないが――その裏であの方も動いていた。
勇者とホワイトハウルの小競り合いの裏で、魔王様の残滓ともいえる北の賢者は研究を進め。
このディガンマ大陸を拠点に様々な異界に干渉。
色々と布石を残していった。
というわけか。
そして、その布石を辿り――召喚に割り込んだ私がこの地に顕現。
ここでようやく話が繋がるのだろう。
ひとしきり聞き終えて、私は更に尻尾をぐでんぐでんに揺らす。
小刻みに左右に振る――怒っているわけではないが、尾がビタンビタンと揺れてしまう……ちょっぴり不機嫌モードである。
『なーんか、一つの世界創造神話を聞き終えた気分だよ……』
ようするに。
滅茶苦茶だという事だ。
六番目の大陸が作られるまで、破壊と再生を繰り返した世界が、どれほどのペースで作られ滅んだのかは分からないが。
魔王様……。
いっぱい頑張って異界の私を探していたんだろうなあ。
長い話を聞き、私は肉球をチペチペしながら考える。
『なんというか……魔王様を失ってしまった世界の私達って、かなりとんでもない事をやらかすんだね……ちょっと、引くかも』
『余に言わせればそちらの世界が穏やか過ぎるのだ――グルメを求め、人間とも手を結ぶ……か。ケトスよ、きさまが世界の歩みをムチャクチャに変えてしまった結果、そのような愉快な世界となったのだろうが。余にはそれが――少し、いや、だいぶ羨ましく思えるぞ』
静かに告げて。
大魔帝ロックは言う。
『さて、ここまでの話を聞いてどうだ、ケトスよ。余はそなたに力を貸すと言ったが、一応聞いておこう。我等と共に、全世界から人間を排除する道を歩もうとは思わぬか? 全世界とはむろん、この世界の事だけではない。異界も含め、全てである――人は哀しみしか生まぬ、愚かな生き物だ。かつて人間であった余はそれを知っている。そしておそらく、かつて人間であったお前もそれを知っているのであろう?』
人間であったからこそ、人の愚かさを知っている。
か。
それでも私は――。
『それさあ……私の答えが分かってて聞いてるんだろう? 答える必要、あるかい?』
ブスっとした顔で言ってやったのだが。
したり顔で彼は言う。
『まあ、念のためである。どうせ答えは――魔王様の御意思を尊重するであろう? 変わらんな、お前は』
その言葉には敢えて答えず。
私は言った。
『とりあえずの流れは分かったよ。あくまでも君の見た光景だ、実際の行動に多少のずれはあるんだろうけど――助かったよ。もう少し聞きたい所だけど、そろそろ亜空間を抜ける。タイムリミットだね』
けっこうシリアスな顔で告げているのに。
私の目の前には、モッコモコに膨らんだ羽毛毛玉なニワトリがいる。
こいつ、ポテチで大きくなりすぎだろ……。
『それでは、亜空間を抜ける前に、余からのお節介だ。今の奴の名を教えてやるとするか。主神となったホワイトハウルは既に、あの名をあまり使っておらん。その黒く染まった獣毛と纏う紅き魔力波動、そして大魔王より授けられた位を合わせ、あやつは自らをこう呼んでおる』
開いた紅き瞳から、黒きワンコの魔術映像を投影し――。
黒ニワトリさんが言う。
『殺戮の魔狼。主神ブラックハウル卿――とな!』
私の目に映るのは、魔術映像。
白銀だったモフモフ毛玉が、真っ黒になり――血のような文様が刻まれたシベリアンハスキーが一匹。
ぶ、ぶらっくはうる卿……ねえ。
あー……。
安直なネーミングである。
きっと、あのワンコ。
カッコウイイと思って、そんな変な名前を付けたんだろうなあ……。
その辺のセンスはぜんぜん変わってないでやんの。
私の反応が薄かったからか、黒ニワトリさんはククワ?
と、首を傾げ――私の顔の前に顕現し直し。
クワ!
『主神ブラックハウル卿――とな!』
『いや、二回も言わなくてもいいよ……聞こえてるって』
しかし。なんかどっかで聞いたような名前だけど……。
なんだったかな。
思い出せないなら、そんなに大事な名前じゃないんだろうし――まあいいや。




