殺戮の魔狼 ~神の咢が吼える時~その1
私の部下は強いよ!
と、めっちゃイイ感じに決めた後!
デルトライア王国に繋いだ転移門を潜り抜けるのは、かわいいニャンコなモフモフボディ。
ぶわっぶわっと、もこもこ猫毛がふぁっさふぁさ!
大魔帝ケトスこと私は――今日も駆ける!
ビシ!
時刻は既に黄昏時。
水平線へと沈む太陽はまん丸で、ネコちゃん的な感覚ではジャレたくなってしまうのだが。
ま、そんな事をしてる暇はない。
私は最高幹部なのだ、時には忍耐も必要なのである。
全土が戦場となっていそうな、デルトライア王国。
各地でヒトガタくんこと千の魔導書の部下、レイドモンスターの発生させる九重の魔法陣が上がっている。
敵は――召喚されし異界の悪党軍団だけではない。
縦に長い港町の上空に浮かんでいたのは、翼持つ天使達だった。
天界の住人だろう。
この大陸では偶像崇拝が既に無くなっていた、天界は既に無くなっていたものだと思っていたのであるが――。
ふむ。
賢い私は王城のテラスに顕現。
とりあえず、街に残る民の避難を優先させるつもりなのである。
私は私の部下の強さを信じているからね。
さて、賢き頭脳をフル回転させようと思うのだが――、私の鼻先をシュンと槍の先端が通り過ぎる。
「お、王子殿下! し、侵入者です!」
「なにぃぃいいいいい……っ、は、はやく追い払わんか!」
転移門を抜け出してテラスにズジャっと着地した私を、デルトライアの衛兵たちが囲み始めたのだ。
いや、まあちゃんとこっちの事情を知らないのだろうが。
しっかし。
この国、いろいろと運悪いよねえ……。
『はいはい、そういうのいいから――デルトライアの王様から連絡は来てないのかい? えーと、君、第何王子? まあそんなに興味ないけど、なんで王様の指示に従っていない』
「ち、父上は――や、病でまだ眠っておられる筈! こ、このワタシが先陣をきってだな!」
うわぁ……駄目なタイプの王子だ。
まあ第三王女のシアン君以外はみんな、魔術師なんだろうけど。
構わず私は――じぃぃぃい。
遠距離攻撃が可能な魔術砲台が並ぶ城塞の上で、周囲を見渡す。
目的の人物を見つけ出し、肉球を振ってみせる。
『おーい! こっちこっち、私だよー。私! どうやら、間に合ったようだね――状況を聞きたいんだけどー!』
「その声は――ケトスの旦那!?」
声に気付いて反応したのは、モフモフな獣人。
タヌキで拳聖で勇者な……名前は……。
えーと……タヌキくん!
城下町でシアンくんと行動を共にし、民の避難を進めていたようである。
そのままシュン! シュン!
跳躍だけで、街の端から城のテラスまでジャンプしてやってきたせいだろう。
王子を守るべく、衛兵がぎしりと槍を構える。
ま、勇者だからそれくらいできるよね。
タヌキ君は衛兵にも王子にも構わず、食らいつくように私に言う。
「やべえやべえ、マジでやっべえ! いきなり天使共が攻めてきやがったんだよ! 今、国境付近でサウザンドっていう魔族が迎撃してっけど、天使が何匹かこっちにも紛れ込んできちまってるんだよ! だから、こっちは今、あれだ、民衆を避難させてる所でだな!」
混乱しながらも、わりと適切に状況を教えてくれている。
『ああ、そのようだね。なるほど――』
私は空からこちらを見下す、聖光放つ仮面の天使たちを凝視。
……。
レベルはそんなに高くないが、人間殺しの称号を複数入手している。
ちょっとだけ声のトーンが落ちる。
『主人の名は――ホワイトハウル、か。この世界のあいつは魔族のまま天界を従えたのか……あのワンコ、あれでも本物の神族で神獣だからなあ。こういう未来もあったわけだね』
既に大魔王と化した私と、彼とはどういう関係なのか。
どういう利害が一致して行動を共にしているのか、それは分からないが。
ワンコも本体を封印されているのだ。
きっと人類とは敵対しているのだろう。
悩む私にタヌキ君が言う。
「ホワイトハウル? 敵の名か?」
『ま、そうなるだろうね――……。さて……さっそくで悪いんだが、君には避難民を連れてニャンコ砦の方に移ってもらう。ヒナタくんも向こうに残って、住人受け入れの準備を超高速で進めているからね。そっちを手伝っておくれ』
タヌキ君はちょっと拗ねたように、獣口を尖らせる。
「戦えとは言ってくれねえんだな」
『リポップのできない人間が戦場にいると、こっちが気になっちゃうし、あちらの守りについてくれると助かるよ。敵が普通の相手なら、君に戦って貰っても良かったんだけど――もしかしたら私も苦戦するかもしれない相手なんだ。守りながら戦えるレベルの存在じゃない』
戦力外通告にも等しい言葉ではあるのだが。
タヌキくんは、肩を落とし――はぁ……と獣の吐息。
「ったく、分かったよ。足手纏いになるのはごめんだからな。でもこっちの民は二十万人だろ? あんな砦に入りきらねえだろ?」
『にゃははははは! 私を誰だと思っているんだい? 大魔帝ケトスだよ! 砦内の空間にちょいちょいって細工をして、ブラックホールの力を誤認させた無限サイズの空間があるんだ。二十万人どころか、この大陸全員を避難させられるスペースができている』
今頃あっちは大騒ぎ。
童話魔術を私に伝授された女子高生勇者のヒナタくんが、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっと頭を抱えつつも魔術を発動。
減った魔力は大魔帝風ホットサンドで回復し、無限機関。
不眠不休でお菓子の家の避難所を、大量生産しているはず。
「まあ、旦那がそういうなら――マジでなんとかなっちまってるんだろうけど。で、シアンの嬢ちゃんはどうするつもりだ? 親とはぐれた子どもたちと一緒にいるって言ってるんだが」
言って、街の端にある施設をチラリ。
さっきまでタヌキくんがいた場所だろう。そこにはシアン君も例の魔槍を担いだまま、周囲の天使を警戒。
暗黒騎士姿で、子どもを連れて守る姿が見えている。
『本音を言うと君と一緒にあっちに退避して欲しいんだけど、まあ王族が国を捨ててあっちに逃げるって訳にもいかないだろうね』
猫顎に肉球をあてて考える私に、タヌキ君が言う。
「あー、わりい。その、なんだ……ケトスの旦那」
『おや、どうしたんだい』
「あの嬢ちゃんのことだ、誠実で真面目で、イイ子過ぎる――絶対こっちに残るって言うだろうからな。様子を見ていてやりたいから、ニャンコ砦には戻れねえ……って言ったら、怒るか?」
わりと良い声のタヌキくんの口から、ニャンコ砦って単語がでるのはなんか、うける~!
って、ヒナタくんなら爆笑していたのだろうが。
私は大魔帝、そんなことはしない!
『んー……ようするにシアンくんとこっちに残るって事かい?』
「いざとなったらあの嬢ちゃんも連れてあっちの砦に逃げるから安心しな。なーんか、ほっとけねえんだよ。無茶はしねえし、なにより逃げ遅れた国民を助けるために人手もいるだろう? シアンの嬢ちゃんは、目覚めたっていうここの魔術師王と連絡済み、そっちとも連携しているんだが。どうだ?」
見た目がまんまタヌキなんだけど、このモフモフたぬたぬもやっぱり勇者なのだろう。
私は眉を下げ。
『なるほど、たしかにその方がこっちも安心かな。たぶん結構な規模の戦いとなるから、彼女の事を頼んだよ。それと、彼女には悪いけど、本当に危険になったらシアンくんを気絶させてでもニャンコ砦に強制連行しておくれ。これ、一度見た事のある場所に跳べる転移石だから。とりあえず二つ渡しておくよ』
「任されたぜ。ま、ここでカッコウイイ姿を見せれば、あの嬢ちゃんも……」
石を受けとり、鼻先を赤くするタヌキ君。
……。
はは~ん!
なるほどねえ!
ぶぶぶぶ、ぶにゃははははは!
他人の恋愛事情って、どうもからかいたくなってしまうのである!
「って、何をニヤニヤ見てやがる! つか、なんだその顔は! チェシャ猫かよ!」
『ものすっごい色々と話を聞きたい所なんだけど、それは終わった後にしよう。魔術師王の指示を優先しておくれ』
言って。
私は装備したままになっている大魔帝セット一式を、ぐるん!
『とりあえず、空に飛んでる連中を一掃しようか。あれ、ただの偵察隊ならいいけど、そのまま転移門を形成されたら厄介だしね』
「旦那。頼むから、街は壊さないでくれよ……?」
転移石を収納空間にしまいながら、タヌキ君が頬を掻きながら言う。
んーむ。
最近、加減を覚えた私は威力調整ができるようになっているのだが、街まで壊しそうに見えちゃうのかな。
『平気平気。街も城も壊さないよ――海産物が取れなくなっちゃったら困るし。イクラ丼食べたいし。それじゃあ――まあ、出力は……こんなもんでいいかな』
告げる私の足元から魔力波動が浮かび上がる。
杖先に十重の魔法陣を展開。
発生し回転する多重魔法陣で、チョンチョンと空を叩き。
きぃぃぃぃぃぃっぃん!
首都全域に大魔法陣を展開。
『あーあー! にゃほん! 空を飛んでいる天使達に告ぐ! 私はケトス、大魔帝ケトス! 今から超範囲魔術をぶっ放すから、死にたくないものは撤退しておくれー! あー! 別に命が惜しくないならそのままでいいからー! 警告したからねー! 私、これで責任ないからねー! 私、悪くないからね~!』
よっし! 警告完了。
タヌキ君や、どこかで見ていたらしい魔術師王が大慌てで首都に結界を張る中。
ぶわぶわぶわ!
猫毛をモコモコ魔力で揺らし、ヒゲを靡かせ――私はくわ!
『魔力――解放!』
宣言が、そのまま魔術発動のキーとなり。
術は発動した。
回転し軋む魔法陣が収束し――沈む太陽に接続。私の魔力で歪んだ太陽が、沈むはずだった水平線から浮かび上がっていく。
ぎらぎらぎら。
操られた太陽が髑髏の形へと陽炎を伴って変貌、反射する海面にももう一つ。影の髑髏の形を作り出す。
空には、そのままの太陽髑髏が。
ばぁぁぁぁぁじゃぁぁぁあああああぁぁぁぁっぁあっぁあ!
海の表面に浮かぶ、影の髑髏が。
がっくんちょ!
黄昏の空を割るように、口を開いた二つの髑髏が咢を閉じ――ぐじゃ!
何もない空間に大量の血痕だけが降り注ぐ。
空を舞っていた天使たちは、翼だけを残し髑髏に喰われ――消滅したのだ。
たぶん、どっちかというと悪の大魔術師とかが使うタイプの、大量殺戮魔術である。
まあ、私――魔族だし。
タヌキ君が、うげぇ……っと唸る中。
『よーし! 掃除完了! いやあさすが私! 超範囲呪殺も絶好調だね!』
私はニヒヒ!
ドドドド、ドヤァァァァァァァァァッァア!
空を覆う敵はいなくなったのだ。
一応、相手が善人だった可能性も考慮済みである。
今回の呪術の対象範囲は特殊。
無辜なるモノを故意に殺した者にだけ効果を発揮する邪術。本来なら単体にしか効果のない術を拡張、国全体の敵を対象とし発動。
空に舞う天使たちを殺戮の血で落としたのだ。
上空の天使を警戒していた人間の兵士たちが、ごくりと息を呑む。
そこには、つい数日前に再生したばかりの王子たちもいたのだろう。
まるで化けモノを見る瞳で私に目線を送ってくる。
そういや、まだいたのかこいつら。
まあ、この王子たちの誰かが王様に毒を盛っていたのだ。
そりゃ心配になるよね。
私、今、王様とシアン君の味方ムーヴしまくってるし。
その矛先が犯人に向く可能性もあるわけだし。
にゃっふっふっふ!
ともあれ。ここは偉大なる私のドヤシーン!
『くはははははははは! この髑髏太陽と影太陽は定期的に天使を喰らう。これでしばらく首都は無事さ。まあ、今のところはだけどね』
「あいかわらず、絶対に敵にはしたくねえ……猫だな、あんた」
タヌキ君のジト目を受けて。
『まあねえ! さあ、そろそろ動き出そう。君も言っていたが、デルトライアの魔術師王が戻ってきている筈だ。結界を確認したからね。魔力音声による会話は――どうやら済んでいるようか。住民避難は彼の指示に従ってくれ』
「了解っと。ああ、シアン嬢ちゃんが民の転移を完了させて自分も戻るってなったら、そっちについていく。それまではこっちにいるからな、何かあったら連絡してくれていいぜ? 戦い以外でも、役に立つ場面があるかもしれねえだろ」
戦い以外でも役に立つ。
実はこれ、けっこう本当なんだよね。
イプシロン帝とデルトライア魔術師王。
イケおじとイケ爺の話は既に完了しているらしく。更に勇者たち――すなわちヒナタくんとタヌキ君とも連携済み。
ニャンコ砦にいた、イプシロンの衛兵たちが手を回してくれているのだろう。
実際。
こういう、細かい連絡などを担ってくれるのはだいぶ助かる。
負担がけっこう減るし……なにより私は三個を超えると、途端に忘れっぽくなるからね。
そういう、回避しようのない特性――ネコちゃんのうっかりミスがなくなるのだ。
戦えなくても、こういう面で協力してくれる衛兵君たちは何かと頼りになるのである。
そこに信用できるタヌキ君が加わるのなら、こっちも動きやすくなる。
今の魔術師王達の方針は――。
民の安全が第一。
こちらの王城の戦力とは別に、魔術で生み出したゴーレム兵を使い色々と動き出しているようだ。
自らの息子や部下ではなく、ゴーレム兵の方がこの状況では信用できる。
なんとも皮肉な話である。
あ……遠見の魔術の反応に気付いた魔術師王がこっちをみた。
……。
えーと、なになに。
魔導書や資料があるからくれぐれも城を破壊しないでくれ――お願いします、ジジイの頼みだ。この通り、後で絶対においしいグルメを提供するから。
だって。
……。
どうも私を破壊暴走にゃんこ魔術師だと思ってる人、多いよね。
まあ。壊れる時は壊れるし――。
ともあれ、私は遠見の魔術をオフにしてタヌキ君をチラリ。
老王と既知の関係らしいタヌキ君が、ふわふわ尾を振りながら。
決め顔を作る。
「んじゃ。分かったよ。あの爺さん魔術師王なら信用できそうだからな。ま、うまくやってやるさ」
『それじゃ、うまくやっておくれよ! 色々とね!』
彼の頷きを見届けて――。
私は肉球をパチン――! 老王の元へとタヌキくんを転送する。
◇
残されたのはデルトライアの王族、王子と王子直属だろう衛兵たち。
そして砲撃主たち。
まあ私にとってはそんなに助ける義理も無い、シアン君を虐めていたお城の連中である。
揶揄ってやりたいが。
んー……そんなことしてる場合じゃないか。
その時だった。
タヌキくんの転送を合図にしたのだろう。
転移門からズバっと黒き翼を割り込ませ、ニワトリさんが顕現する。
『おー、本当にデルトライアが取り返されておるのう! 大魔王ケトスが使っていた……あー、なんといったか、あの娘……まあ、名前などどうでもいいが。魔術師の王女は失敗しおったのだな』
亜空間から出てきた大魔帝ロックこと闇落ちチキンが、コケケと着地!
ズジャ、バサ!
華麗な舞を披露してみせ――杖を握る私を見て、ニワトリさんは告げる。
『さすがの大魔術といったところであるが――本格的な戦場はこちらではあるまい。ケトスよ、戦略的優位を取る事よりも、民を逃がすことを優先するのであるか?』
『それが魔王陛下のご意志さ。そして私もそれに賛同している――って、私がせっかくカッコウイイ決め台詞を喋ってるのに、どこにいくのさ?』
いまだにこっちを見ている王子たちの方に、コケコケコケ。
紅き瞳を輝かせ、ニワトリさんが歩いていたのだ。
ジャキンと槍を構え、衛兵が唸る。
「なんだ、このニワトリは! で、殿下!? いかがいたしましょう!」
「ボクに聞くな! お、おまえたち、なんとかしろ!」
慌てる衛兵たち。
いや、ほんとうになんだろうね。
カッシャカッシャカッシャ。
鳩のように首を振りながら、鳥の爪音を立てて、ゆったりと進軍。
怨嗟の魔性の赤き瞳が、ぐわわわわ!
『気にするな、ちょっとしたストレス解消である! なーに、安心せえ。殺しはせぬ!』
『まあ、そっちの人たちなら別に……構わないか。善人じゃなさそうだし。でもさすがに殺さないでよ? 裁判とか、そういうのはこの国の人がやるんだし』
どれくらい反省しているかは知らないけど、シアン君を虐めていた連中だろうし。
私のその微妙な感情を読み取ったのだろう。
『殺しはせぬ、殺しはな!』
大魔帝ロックはニヤリ!
まるでスタートラインにたつ陸上選手のように身体を構え――。
闇落ちチキンな翼をバサっと広げ。
ロケットスタート!
ダダダダダダダダ――!
な! こいつ!
駅前に集まっている鳩の列の前をわざと横切り走って――散らせる、子どもみたいな事をし始めやがった!
「な、なんだこのニワトリは――で、殿下!」
「なんとかせよと言うておろう!」
絵面を説明すると。
人間を追い回すブラックチキン(最強クラス)である。
『クワーックワクワクワ! 見よ! ケトスよ! あやつら、この偉大なる余を見て逃げ出しおったぞ! おー、愉快愉快!』
た、たしかに。
なんか人間どもが蜘蛛の子を散らすように逃げてるけど。
……。
ただ、追いかけ回しているだけである。
『いや、君さあ……殺すような攻撃もしてないし、こっちの王子たちにそんなに良い印象ないからいいけど……そんな嫌がらせをして、楽しいかい?』
『おおいに楽しいが?』
首をこてんと倒して、黒ニワトリさんは満足げにニッコリしている。
こ、これが闇落ちの影響か……。
嫌がらせが――ち、ちいさい……!
更にニワトリは黒い顔を浮かべ。
翼の先に魔導メガホンを装着――嘴を震わせ、コケコッコー!
『あーあー! 人間達に告ぐ! 現国王に毒を盛っていたのはこの国の王族! 王族! 王子の中の誰かであるぞー! あぁ! 人間とは実に愚かであるのー! 誰が盛ったのかのう! あいつであろうか! こいつであろうか! グワグワワワワワワワ!』
こ、こいつ――。
全てを見通す者で、絶対答えを知ってるくせに。わざと疑われる範囲を広げて、城内全域にコケコッコーしやがった!
今は避難誘導や襲い来る天使達を相手にしているので、そんな問題も些事なのだが。
これ。
なんとか今回の騒動を乗り切った後に、ぜったい大事になるやつじゃん。
呆れ顔で私は、ぼそり。
『君、邪悪過ぎない?』
『ふ……っ、どうやら異界のケトスよ。貴様も余の恐ろしさをようやく理解できたようであるな! これが黒ニワトリ落ちの力である! クワワワワ!』
と――ポテチを一気に十枚重ねて、バーリバリバリ!
黒ニワトリさんは、実に嬉しそうにふふんと鶏冠を輝かせました。
まる。
『闇落ちって、こういうのじゃないと思うんだけど……。――って!』
私は慌てて顔をくわ!
『なんて遊んでいる場合じゃない! ほら、避難誘導の相談も終わったから戦場に行くよ! 私の部下が戦ってるんだ、リポップできるとはいえ死なせたくはない』
『ふむ、たしかに余の知らぬそなたの部下を見たい! はよう、行くぞ。はよう!』
クワワワワ!
ビシ、バサっ! ――と、黒き翼で舞う大魔帝ロックは、グルメを捨てたとか言いながらムシャムシャムシャ。
私の部屋で大量生産しているポテチを転移召喚し、無断で爆食い中。
なんか見る見るうちに、まん丸チキンかってぐらいに太ってきてるけど。
これ……。
ずっと我慢していたグルメを口にした影響で……リバウンドかなにか起こしてるのかな。
『はいはい、今最前線に繋げるから――』
転移門を形成する私の横で。
黒ニワトリさんがいまいちど、周囲をじぃぃぃぃぃい。
あ、置き土産とばかりに――王子お付きの衛兵達に向かい翼をジャジャジャ!
財布の中身を石にして、使えなくしてるし。
これ、今は気付かないけど会計の時に困る罠だな。
い、嫌がらせの内容が地味でセコイが、わりと邪悪である……。
ドドドドド、ドヤァァァァァァァ!
っと、こっちを見て目を輝かせてるけど……褒めて欲しいのかな?
すっごい楽しそうだね……。
◇
亜空間を転移する最中、私は闇落ちチキンをジト目でちらり。
『私のポテチをばりばり食べるのは良いけど。ちゃんと情報も提供しておくれよ?』
『くわわわわー! 分かっておる。分かっておる! で、何が聞きたいのであるか? ポテチ一袋につき、一個の情報を提供してやろうではないか! 言うてみよ、ずずいっと言うてみよ!』
邪悪にポイ捨てしまくっているその空き袋は、もう数えきれない程の数。
つまり、聞きたい放題なのだが――。
『君の知るホワイトハウルについて聞かせておくれ。私が知るホワイトハウルは私に眠る魔王様を任せて魔王軍を離脱。天界に戻って、主神の次にえらい最高幹部になったんだけど――』
『まあ、ある意味で似たような感じであるな。あやつ。根本が魔狼――犬族であるからな、主人……すなわち魔王陛下を討った勇者に力を貸していた天界を滅ぼしおったのだよ』
あー、ワンコ。
やっちゃったのか……。
魔王様が滅ぼされる……いや、勇者が勝つ世界になるには、なんらかの変化があったとは思っていたのだが。
天界が勇者に力を貸した世界でもあったわけか。
大いなる光が心を真に入れ替えたのは、私とワンコのおかげ。
冒険散歩があったからだし。
この世界の神は――ホワイトハウルに堕ちた神と判断されて、裁定された可能性が高い。
犬って、主人や格上と認める相手には敬ったりするけど。
格下や資格のないものが上にいると、引き摺り降ろし――自らが上に立とうとガルルルルルルルゥ!
狂暴になるらしいしね。
『それで、今の大いなる光はどうしているんだい。あんまり協力できる関係になるとは思えないが、まあ……一応? ダメもとで声を掛けようと思ってるんだけど』
『なーにを言っておるのだ? あの女神はホワイトハウルとの一騎打ちに敗れ、食われて消えたぞ』
くわわ? と、黒ニワトリさんが事も無げに言う。
……。
あの、ワンコ……魔王様がいなくなると、やべえな。
歯止めがなくなった狂犬じゃん。
『その顔、だいぶ驚いているようであるな』
『そりゃまあ……私が知っているアイツは、嫉妬深いことだけが欠点のわふわふワンコだからね。ギャップがその……すごいっていうか』
私の中のアイツのイメージは。
わっほーい! わっほーい! と、草原を駆けまわるワンコだったのだが。
ええ……。
主神、喰らっちゃったのか。
驚く私が面白いのだろう、大魔帝ロックはとても悪い顔をして。
ぐふふふふふ!
『ならば――もっと驚く話をしてやろう』
答えを知っている黒ニワトリは、訳知り顔でニヤり。
『忌まわしき勇者とお労しき魔王陛下の残滓――彼の者らに封印される直前に生み出された、この六番目の世界。眠る大魔王ケトスのため、猫のココロを癒す遊び場として存在するこのディガンマ大陸を作り出したのは――いったい誰だと思うか?』
『六番目の世界って言葉も凄い気になるけど。その口ぶりからすると、私は先に封印されていたみたいだし……君に世界を作る系の能力があるとも思えない』
賢き私は眉間に猫ジワを刻む。
まあ、消去法で行くと。
『もしかしてこの世界を作ったのは……』
『うむ、その通り。この世界を生み出したのは神を喰らい神となったあやつ――、厳格な審判、五度の世界実験の果て、人間という種そのものを世界の寄生虫と裁定し、諦めをもって滅ぼした神獣。主神ホワイトハウルであるぞ』
思わず私は猫の口をあんぐりと開けていた。
『あ、あのワンコが――主、主神!』
あいつ。
主神なんてやりたくないのーぅ、とか言ってるくせに。
こっちだと、大いなる光を噛み殺してでも出世するんかい!
しかも、なんか元の世界の人間も全部一旦、やっちゃったっぽいな……。
神となり。
世界を滅ぼし再生する的な、ラスボスルートじゃん。
どーりで、世界の基礎は同じ筈なのに。
私も知らない大陸があるわけである。
……。
う、うわぁ……あいつが主神であいつが作り出した世界とか。
この大陸……うん、もうダメだわ。
いや、実際もう滅びかけてるけど。




