全てを怨嗟せし者 ~哀しみの闇落ちチキン~前編
急襲されたのは、攻めの拠点でもあり守りの拠点でもあるニャンコ砦。
転移した瞬間。
ぞっと突き刺すような怨嗟の魔力が、私のモフ毛を揺らしていた。
にゃあぁぁああああぁぁぁぁぁぁ!
魔王様の別荘にする予定の砦なのに――っ!
砦を担当していた勇者たちの石像の山が築かれてる!
片手を石化させながらも、ぐぐぐぐ。
なんとか堪えていた聖剣使いの女子高生ヒナタくんが、くわっと私を指さし!
「ケ、ケトスっち! なによなによ! すぐ、来るって言ってたくせに! こっち、超ピンチなんですけどー! どうにかして欲しいんですけどー!」
『なんとか全員生きてはいるようだ――ね!』
ビリビリと震える空気を打ち破るべく。
コンクリートの草原となった石化平原の中央に、超絶カッコウイイ肉球パンチ!
バリバリバリーン!
突き刺し破った大地に種を植え、緊急顕現。
『世界樹の光よ――我等を包み守る、癒しの盾となりたまえ!』
ぱぁぁぁぁぁぁっぁ!
異神の力を借りた、周囲全体の回復と状態異常回復結界を構築し。
ビシ!
大魔帝ケトスこと麗し最強ニャンコな私、華麗に登場である!
ニャンコ砦に、神の移し身でもある世界樹が聳え立つ。
これでここには神の加護が付与されたのだが――。
首のモフモフ猫毛をふぁさ、ふぁさっと振りながら。
周囲をチェック!
ロックウェル卿らしき姿は見えない。
ただ。
代わりに視界に映るのは――翼持つ鱗の竜。
魔竜!?
その数は……数えるのが面倒になるほどの群れ。
『え! なんでこんなところに魔竜までいるんだい!?』
「知らないわよぉぉぉぉおおー! こいつら、いきなり次元の隙間から湧いて来たんだから! 転移してきたのはケトスっちだと思ってたのに、竜だったから、超ビビったんだからね!」
悪態をつきつつも、石化の解けた手をパタパタパタ。
表情を明るくするヒナタ君に私は問う。
『このトカゲたち。敵、ってことでいいんだよね?』
「完全なる敵よ! こっちは死んじゃいないけど、かなりの数が負傷してる! もう、話し合いなんてとっくにためしたけど、ダメだったの!」
石化から解けた勇者たちが、ざわつきはじめる。
魔竜に囲まれている状況に気付き武器を構え――それぞれに異界の魔術やスキルを発動しはじめる。
五重、六重、七重。
さまざまな形の魔法陣が生まれ乱れる。
魔竜達も咆哮を上げ、人間の魂の隙間に入り込もうと詠唱を開始。
「石化から解けた人たちは一時撤退! こっちでニャンコ部隊が結界を張ってるから、はやく!」
聖剣を振り回し、叫ぶヒナタくんの声にモフみみを揺らしつつ――。
考える。
まだダメージレポートを把握していないこの状況では、敵の存在は邪魔。
しかもどういうわけか相手は魔竜。
勇者が乗っ取られると非常に、めんどうくさい。
つまり!
とっとと掃除するに限る!
私は一度、この状況と似た経験を積んでいた。
砦と魔竜の群れ。
そして、その対処法も知っている。
ドヤりたい感情を堪え、私は、ざぁぁぁあああああああぁぁぁっぁっと殺戮の霧を発生させ。
ぱちん。
『滅びたまえ――』
言葉に従い、魔力が動く。
魔竜によって築かれた山のようなシルエットが軋み。
次の瞬間。
空間が、赤と黒の二色で染まる。
ザジュザジュザジュザジュザジュ! ザザザザァァァァァァザジュジュジュジュ!
全身の骨を異形化させられ。
体内の魔力をズタズタに抉られた魔竜の群れが、全滅したのである。
方法は単純。
生きた魔竜を素材判定し、骨だけを異常成長させたのだ。
メキメキメキ……ッ。
魔竜の死骸を魔力肥料としたのだろう。
急速成長し天へと伸びる世界樹、その大樹によって木漏れ日が生まれる中。
魔竜の死骸の群れの前。
ざぁぁぁっぁ……。
大樹の音だけを残し。
周囲は沈黙で支配された。
「う、うわぁ……一撃で全滅って、あたしたちの苦労はなんだったのよ……」
『魔竜とはむかしっから相性が悪くてね。狩るか狩るかの関係なのさ』
ヒナタ君はしばし考え。
「いや、それ狩るか狩られるかでしょ……ふつう」
死者は――出ていない。
大多数の勇者や衛兵は砦内に退避していたようだ。私の登場一発目の範囲回復で石化状態だった皆も復帰済み!
ただ。
さすがにこの、グロいオブジェ状態の魔竜に想う所があったのか。
勇者たちは嘔吐を堪えるように口元を押さえて、うっ……と唸りを上げている。
ま、まずい……。
こ、これじゃ虐殺にゃんこみたいじゃないか!
そんな空気を吹き飛ばすように。
黒髪を跳ねさせ、笑顔のヒナタくんが叫ぶ!
「あぁぁぁぁぁぁ、助かったー。マジでダメかと思ったわ……こっちよ、こっち――! みんなここを拠点にしているの! あなた達も早く――!」
指揮官であるヒナタくんがニャンコに守られるように――見晴らしの良い広間でこっちに手を振ってみせる。
んーむ。
微妙な空気になりそうだったのだが、状況把握と瞬時の誘導。
うまいな。
たぶん、私の世界での勇者が有する力――扇動の能力者なのだろう。
シュンっと勇者と私達を高台に転移させて、私は指揮官の顔で言う。
『すまない、待たせたねヒナタくん。状況は?』
「伝えた通りよ。やっばいニワトリが近づいてきてる……っ、あいつが羽ばたきを起こしただけで決壊しかけたのよ! 魔竜も突然湧いてくるし、どうなってるのか、さっぱり。んで、ニワトリの方は……次元の狭間からの羽ばたき攻撃が中心ね。今、門番の二獣が迎え撃ってるけど――……って、ウソ! 圧されてるみたい!」
支援の魔術とスキルを行使し続けているのだろう。
ヒナタくんの魔力が明らかに消耗している。
この子、剣で直接戦うより支援の方が強いんじゃ。
ともあれ。
大魔帝風ホットサンドを顕現させ、衛生兵にゃんこに手渡し回復を促し――。
私は周囲をちらり。
レヴィアタンとベヒーモス。
あの二獣は正真正銘の神獣――彼らが苦戦をしている、その時点で並の存在ではない。
思ったより深刻そうだ。
『指揮を引き継ぐ――ヒナタくん、君も砦内に退避を』
「そうね……分かったわ。足手纏いにはなりたくないしね――ただその前に、ここの非戦闘員ニャンコと避難民を転移させるわ――!」
ヒナタくんが言った、その瞬間。
卵の殻を破るような音が、鳴り。
直後――。
ゾガォォォグゥゥゥッゥゥゥォォォオオン――!
ぞくりとするほどの魔力が、砦の城壁にぶつかり弾けたのだ。
「キャ……っ! な、なに!」
『結界を無理やりに突破しようと、次元の隙間から直接干渉を始めたようだ! 危なかったね、私の到着が遅れていたら――侵入されていた!』
どうする。
どうする。この魔力、間違いない。
相手はあのロックウェル卿だ。
「な、なんてヤツなのよ! もう! とりあえず、結界を強化するわよ――! ニャンコ部隊! 力を貸して! こんなところでやられてたまるもんですか!」
ヒナタくんの勇者としての扇動――いや、先導の力が発動する。
強化を受けた三毛猫部隊がカカっと威嚇音を上げ、フィールドに猫じゃらしの草原を顕現。
周囲が猫属性に満たされていく。
勇者は皆を導く力を持っている。
時に、脆弱なる人の身でありながらも、大魔族と対等に戦えるほどに。
ヒナタくんは勇者としての力を、フルに発揮。ニャンコ部隊を導くことに特化した力、ネコちゃん誘導の力を習得し始めているのだ。
これ。
敵に回したら地味に厄介そうだな……。
「ちょっと、ちょっとぉぉおお! ケトスっちもサボってないで、なにかやってよ!」
そうだ。やるしかない!
決意した、私のモフ毛が揺れる時。
それは転移し、突如として力を顕現させた。
十重の魔法陣が展開し、赤き鶏冠を震わせ――それは恐竜のような瞳を尖らせる。
嘴が、言葉を紡いだ。
『その必要はあるまい』
私の声ではない。
敵だ――!
思った刹那に、次元の隙間からそれは攻撃を開始していた。
ざざざ、ざあぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!
天から雷鳴が降り注ぐように、十重の魔法陣が雨のように降り注ぐ。
標的は……勇者たち!?
結界を貫通され、砦が――揺らぐ!
しかし!
瞬時に私も魔力放つ咆哮を上げていた。
『シャアァァァアアアアアアアァァァァァッァァァ!』
魔力と魔力がぶつかりあう。
「きゃあぁああああああぁぁぁぁ……っぐ、な、なによこれ!?」
突如襲ったのは――暴風。
無数の状態異常を振りまく、土煙。
対する私は、空に向かい紅き瞳を見開き――猫の魔眼を展開。
空間を歪曲させ。
降り注ぐ状態異常の雨をシャットダウン。
魔力の雨を防ぎ切った私を見て、闇の中からそれは姿を現した。
見た目は始祖鳥を想わせる――巨大なニワトリ。
けれど――その身には複雑な赤い紋様が刻まれている。
控えるその後ろの次元には、魔竜の群れ。
おそらく――。
全ての鱗持つ者の神……魔竜神としての覚醒を果たした、ロックウェル卿なのだろう。
恐竜の眼光が――すぅっと私を睨んでいた。
『ほう! 余のチェルノボグの涙を防ぐか――!』
『どうして君がここにいる――、いや、いて当然か。私が誰だかわかるかい、ロックウェル卿』
問う私の周囲には聖光が湧き始める。
会話で時間を稼いでいる間に、守りを固めるつもりなのだ。
血に飢えたように全身を輝かせる黒きニワトリが、ぎしり。
くぉぉぉぉぉ……。
嘴から言葉が零れる。
『ロックウェル卿とな?』
『そうだ、私の知る君の名は――ロックウェル卿だよ』
言いながらも私は肉球をズババババ!
会話フェイズを演出しながら、超高速強化。
顕現させた祭壇に並ぶのは、聖者ケトスの書と大いなる光を讃える聖書。
聖なる書は自動的にバサササササと開き、オート詠唱を開始。
《範囲全能力強化》
《範囲オート状態回復》
《範囲オート蘇生》
シュンシュンシュン!
肉球型の矢印が、上に向かってぶにゃんと輝く。
大いなる光の加護と祝福を周囲に張りながらも、更にヒゲ先で魔術印を刻み文字による魔術を発動。
いつかの鑑定娘が使っていた時属性の大時計。
周囲の時間を操るデバフ魔術を顕現させ――私は牽制するように唸りを上げ続ける。
これほど同時に本気の魔力を使う。
こんなことは久々だった。
それだけ――相手が脅威だという事である。
『二種の神の祝福と同時に、時間操作で余の行動を遅延させるか――なるほど、ではそなたが大魔帝ケトス。我が戦友、大魔王ケトスと魂を同じくしていた――かつてのあやつ。魔王陛下を守り切った、ありえたかもしれないもう一つのケトスか』
その声には、少しだけ――昔を懐かしむようなセピアな色があった。
『セピアといえば……イカ墨か、焼きそばでも一緒に食べるかい? 君と戦う前に、話し合いで解決する道も見つけたいなぁ……って、ちょっと思ったりもしているんだけど。どうかな?』
『くだらぬ――余はもはやグルメなど、捨てた』
な……!
あのロックウェル卿が、グルメを捨てた!?
思わず私は武者震いを起こし、後ずさる。
砦のニャンコ達も、顎が外れそうな程にあんぐりと大口を開けて。
あまりの言葉に大混乱。
これはニャバイ! これはニャバイ! と、モフ毛を震わせ、わたわたしはじめた。
まずい。
これは――本気の闇落ちだ。
ここに至ってようやく、私は事の深刻さを噛み締め始めた。
いざとなったらグルメで釣って、隙をつき、封印しようとも思っていたのだが。
甘かったか……!
『なるほど、たしかに――君は私の知らないキミだ。まさか卿の嘴からそんな言葉が漏れるとは、私の友であるロックウェル卿が聞いたら、天まで昇って仰天するだろうね』
『余を友と呼ぶ、か……そちらの世界の余は――』
怪鳥の瞳が遠くの空を眺める。
上下する溢れる魔力が――まるで涙のような筋を作っていた。
『いや、やめよう。全てが終わりし日々、全てが詮無き事。もはや掴むこともできなくなった、ゆめまぼろしよ。あの方がいなくなった世界など些事にしかすぎぬ!』
ニャンコ砦の中にいる眷族や勇者。
そしてヒナタくんを守る私を冷めた瞳で眺め――それは翼を広げ。
朗々と語った。
『ならばこそ――名乗りをあげよう。異界のケトスよ! 余こそが怨嗟の魔性! 百年前、卑劣なる勇者に滅ぼされた亡き魔王陛下。我が恩人。あの方を奪った者達――全てを駆逐する者。全ての怨嗟を晴らすべく、羽ばたく者! 全ての理、全ての魂、全ての輪廻を石化させし翼。余は全てを無に帰そう――常闇の眠りを授ける凶兆の星となろう!』
いつもの変な舞ではなく、まるで大魔族のような威厳を放ち。
『余こそが、全てを見通す者。全てを怨嗟せし魔性。三千世界を滅ぼす誓いを立てた、三獣が一柱! 脆弱なる汝等は我等をこう呼ぶ――全てを破壊する獣と! 我が名はロック! あの方が授けてくださった魔帝の位を越えし者――すなわち!』
魔性としての赤き魔力を放ち。
卿は吠えた。
『大魔帝ロックなり――!』
淡々と名乗りを上げる。
それだけで詠唱となっているのだろう。
結界を再度展開した私の周囲を、強力な石化フィールドが侵食し始めていた。
◇
朗々と語って翼を広げる大魔帝ロック。
異界のロックウェル卿はギャグも舞も挟むことなく、背後に控える魔竜達を召喚させようと魔術印を刻み始める。
負けじと――くわっ!
目を見開き私は唸る!
『な、名乗りが長い!』
ツッコミによる召喚妨害は――成功!
あっぶねえ……成功率が三十パーセントぐらいだったのだが。うまく決まってよかった。
大魔帝ロックが瞳を細め、感嘆とした息を吐く。
『短文詠唱の召喚妨害か――なるほど、貴様はどうやら強敵と呼ぶにふさわしい魔族のようだな』
『あの変な舞を踊らないキミは……君じゃないようで、やりにくいね』
ビシ! バサ!
って、あれがなくなっているせいで、詠唱にも行動にも無駄がない!
時間を稼ぐように私は言う。
『だいたい、なんで君が人間達を襲っているのさ!』
『魔王様は余に言った。怨嗟する者は選べとな――あの方がいたから人間を狩るのを止めていた。ただそれだけの話よ。貴様もケトスならば知っているであろう。人間が、余に何をしたのか。余にはその復讐をする権利がある、そうは思わぬか?』
言われて私は少し返答を躊躇ってしまう。
そう。
私は知っていた。
ロックウェル卿は闘鶏として人間に囚われ、見世物にされ、仲間同士の殺し合いをさせられていたのだから。
……。
その復讐を止めていたのは魔王様だった、ということだろうか。
魔王様がいなくなってしまった世界は、全ての歯車が狂った世界。
私の理解には及ばぬ変化もかなり起きているのだろう。
けれど。
私は――、どうしても信じられなかった。
だから。
『それでも。それでも君は! 私の知っているロックウェル卿は、魔帝ロックは! 無辜なる民を襲ったりなどしなかったはずだ! まだ間に合う! 私と共に、大魔王を止める道を探すことはできないのかい!』
思わず声が熱くなっていた。
言葉を受けて――卿は、ゆったりと瞳を閉じる。
『そうか。貴様の知る余は――おまえにそう思われる程に、救われておったのだな』
『今だって、キミもそうである筈だと願っている!』
交渉スキルで無理やり、突破……は。
できそうにないか。
説得スキルがレジスト判定を示している。
『ホワイトハウルではないが、貴様の知る余に嫉妬をしてしまいそうになったぞ。ああ、詮無き事、詮無き事。そう……全てが終わった話。もはや余は引き返せん、引き返そうとも思わぬ。それが魔王陛下を守れなかった余の贖罪。愛しき魔猫へのせめてもの懺悔。大魔王ケトスが世界を滅ぼすというのなら、余はその翼となる。そう――決めたのだ!』
言って、赤き瞳を輝かせ大魔帝ロックが唸る。
再び両翼を大きく広げ、回避不能な状態異常の羽吹雪を飛ばしてきたのだ。
さきほどから遠距離攻撃ばかりである。
まだこちらの次元に転移が完了していない、とみるべきか。
ならば、私は得意中の得意技!
挑発の魔術を発動!
『残念! 私は君が知る私より更に状態異常耐性が完璧になっている! ぜーーんぶ、無効なんだよね~! ぶにゃ、ぶにゃはははははははっはは!』
『っく、ターゲット固定か――あいかわらず強大な力を持ちながらも慎重に、姑息に搦め手を好むのであるな』
挑発の魔術を解くべく、卿が魔力を高める――が。
私の影は天へと伸び、開口しバックンチョ!
周囲の次元の魔力を全て喰らい、吸収していく。
『どーだ! どーだ! いくら君でも、次元の狭間の中で魔力を奪われていくのはきついだろう!? さあ、おとなしく降参するのニャ!』
くはははははは! と尾を揺らし、ビシっと宣言してやったのだが。
バシュ!
ジュジュ、ジュシュゥゥゥゥゥゥゥウウ!
次元の狭間に、赤と青の鮮血が広がる。
「なによ……あれ、なんなのよ!」
ヒナタ君の引き攣る声が響く。
嘴が、闇の中で蠢き始めていた。
大魔帝ロックは周囲の魔竜を喰らい、魔力を吸収しているのだ。
『な……! み、味方を食べるのかい!』
『貴様の手の内は見えている。余を誰だか忘れたか? 全てを見通す者であるぞ。この魔竜らに既に意思はない、全て余の操り人形――こやつらが存在する限り、きさまが得意とする魔力喰いによる封印も――無意味!』
普通の相手ならば、これでもいつかは勝てるのだ。
魔竜のストックがなくなるまで、繰り返し魔力を喰らってやればいいだけなのだから。
けれど。
相手は治療の神ともいえる存在。
喰らった魔竜を得意な治療魔術で回復させ――無限に喰らっている。
うわぁ……ガチでダークサイドに落ちてるでやんの。
しかも、私への対策もばっちりだし!
って。
呑気に感心している場合じゃない――! ともあれ、まずは状態異常攻撃をなんとかしないとまずい!
私はそういう状態異常を全て無効化するが、普通の人はそうはいかない。
ヒナタくんや砦内にいる他の勇者。
召喚されているダンジョン猫達も、一瞬で魂まで石化されてしまうだろう。
しかも、だ。
私の知るロックウェル卿は石化能力を制御できている――けれどそれは、私との再会や、魔王軍幹部による協力のおかげ。
魔族たちの力比べの競い合いで、制御できるようになっただけ。
制御魔道具を開発したおかげなのだ。
おそらく。
この大魔帝ロックは、常に無差別石化効果を行使し続ける怪鳥なのだろう。
それは平和の世となったグルメ世界では欠点であるだろうが、戦時となれば大きな利点となる。
魔力行使のコストがほぼゼロなのだ。
実際――卿は無限に、周囲を石化し続ける。
徐々に死亡状態とかいう、私も知らない闇落ちで手に入れた反則のフィールド魔術を周囲に撒きながら。
卿がクククと哄笑を上げる。
『状態異常完全耐性、か。異界のケトスよ――余がもっとも苦手とする存在よ。おまえ自身を石化させる事は出来ん。だが――余の怨嗟は既にぬるい世界を怠惰に過ごした貴様も知らぬほどに膨らんでおる! 汝の憎悪も魔力も、心さえも、余は石化させてみせよう! そして余と共に――霊峰で、大魔王ケトスが世界を滅ぼすさまを眺めようではないか! 世界が終わるその時まで、永久に我のコレクションとなるがよい!』
次元の隙間から、赤き瞳が輝き出す。
羽ばたきによって生まれた羽毛と眷族魔竜の山。
こちらの世界に十重の魔法陣が乱れ飛ぶ。
やはり狙う先は勇者たち!?
こいつ! 魔王様が勇者に滅ぼされたから、勇者を目の敵にしている!?
聖剣で羽毛を弾き、石化の魔力を薙ぎながらヒナタくんが唸る。
「ちょ! なんなのよ! この闇ニワトリ! まじ、怖いんですけど!」
『ぶにゃ! さ、させるか――!』
ニワトリご自慢の蛇の絡んだ杖。
世界すら軽くひっくり返せる武器――世界蛇の宝杖を使ってこないから助かっているが――。
……。
いや、あの宝杖は百年前、眠る前に魔王様が授けてくださった神器。
この大魔帝ロックはあれを所持していないのか!
『とにかく一旦体制を立て直さないと――っ。ズレた次元からこちらに攻撃している、それなのにこの影響か。にゃぁぁああああああああああぁぁぁぁぁ! これだから大魔族は!』
しゅばばばばば!
ぷにぷに、ぷにん!
肉球で大地に魔術門を描き――発動!
徐々に死亡フィールドを、私の魔力のごり押しで無理やりに破壊して――。
ぎり!
こちらの次元に顕現する前に、なんとか追い払うか退治をしないと。
『全員、砦の中か私の後ろに――はやく!』
「オッケー! まかせなさい!」
すぐに対応したヒナタくんが翳した聖剣をぐるりと回す。
空間軸を操作するスキルなのだろう。
彼女自身と散っていたニャンコ部隊がすべて、私の背後へと配置し直される。
ビシ!
空気をぶっ壊すようにいい笑みを作って、ニヒヒヒ!
「どーよ! 盾職を輝かせるためのあたしのスキル! いやあ、力では敵わなくてもこういう一芸があるっていうのが、あたしの魅力よね!」
『ヒナタくんナイス! 勇者のスキルって便利なの、多いよね――っと!』
ダンと影を踏みしめ、強制的に石化フィールドを解除し。
ダンジョン領域に干渉。
砦自体に状態異常耐性属性を付与しながら――私は牙を光らせた。
『ええーい! がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、この闇落ちチキンめ! 状態耐性まで貫通してくるスキルに魔術に、ごちゃごちゃ付属効果までつけてきやがって、きつい! 対応結界の計算式が頭おかしい事になってるにゃぁぁぁぁぁぁ!』
乾いた息でぜぇぜぇ……十重の魔法陣を並べ投げつけまくる私。
愚痴を叫ぶ私のウニャウニャ声。
焦っていても私、かわいいね?




