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ラスボスが仲間になると強い、その1 ―アイテムクリエイト―前編



 会議は既に終了していた。

 皇帝さんとの話し合いも終わり、あれから六時間程度が経っている。


 モフモフふわふわ猫魔獣!

 えらーいニャンコな私。

 大魔帝ケトスは今、暗い夜道もなんのその! ザザザザザザ――っと獣道ともいえる山道を進んでいた。


 皇帝さんに協力することにしたのである。


 夜の湿り気と葉っぱの香り。

 そして、少しだけ雨に濡れた土の匂いが猫の鼻をくすぐっている。

 山の香りというヤツだ。


 聖帝国イプシロン皇帝、イケおじ帝ことフランシス=ヴィ=イプシロンの話を聞き終えた後。

 私は即座に協力要請を快諾した。

 誤解されたままは癪だし。

 私の名を騙る不届きモノを退治するのだ、他人事じゃないからね。


 見知らぬ地で行動するのはやはり不便な点も多い。

 地理も把握できていないし、なにしろ侵略者と間違えられたら問題だ。国の力を借りた方が当然、話もうまく進みやすい。

 ちゃんと皇帝さんから、関係者だと分かる魔導証書も入手済み。


 大魔王ケトスを名乗る偽物退治。

 この根太い一点で、帝国と私の利害は一致しているのである。


 皇帝さんも疑って申し訳ないと、私に謝罪してくれたし。

 このディガンマ……大陸? を救えば、魔王様お目覚め大作戦用のグルメ報酬も約束してくれたし。

 偽物退治で報酬が貰えるなら、かなりイイ感じではニャいだろうか!


 てなわけで!

 ちょっと頭を冷やして落ち着いた私は、通常ニャンコモードでさっそく悪を成敗しに散歩しに出ている。

 というわけなのだ。


 向かう先は、占拠された場所では一番近くの砦。

 拠点を落とし、逆に占拠。

 転移門を形成し、そこを足掛かりに周囲の街を解放する計画を立てているのである。


 しかし、問題も多々ある。


 皇帝さんの話を聞く限り……うん。

 この大陸……もうかなりやばいんだよね。


 大魔王ケトスを名乗るナニモノかに、既に大陸の三分の二を占拠されているのだ。

 占領された国や町では、人間達や亜人種が奴隷として働かされているらしい。

 もっとも、その情報もあくまでも断片的なものなので……。


 実際はもっと悲惨な可能性もある。


 しかし、だ。

 これだけの事件が起きているのに主神、大いなる光も、私も、冥界神も気付いていなかった。

 そこが少し気にかかる。


 おそらくは、前にもあった状態と同じ。

 この大陸自体が、シグルデンの猛吹雪結界のような感知遮断をされた一種の異世界、大いなる光の目が届かない状態。

 隔離空間になっているのだとは思うのだが。


 うにゅうにゅ、うにゅ~!


 こうして、私も魔術で連絡を取ろうとしているが――上手く通じない状態が続いている。


 こういう状況での通信手段も一応あるにはある。

 隔離も魔術による現象だからね。

 ただ――こういうのは神託や天啓を扱えるワンコの得意分野で私の得意分野ではない、連れてきていない友の力を頼る事は物理的にできないのである。


 結界を作っている魔道具か、術者を退治出来れば神の加護も連絡も届くようになり、だいぶ有利になるだろう。

 ま、その前に近隣で救助可能な民間人を助けるのが先かな。


 ちなみに。

 召喚された勇者たちだが、その何人かは元の世界に帰還した。


 条件指定はかつて世界を救ったモノと厳しかったが――ある意味では無差別召喚だったのだ。

 向こうに早く帰りたいと願う者もいたのである。他人の世界をどうこうするよりも、今危ない自分の世界を気にするのは当然だしね。

 皇帝さんもそれに頷き、丁重に詫びを述べ転送の儀式を行ったのである。


 まあ、そこはちょっとネコちゃん印象ポイントアップかな?

 自分の都合で呼んでおいて、こっちの世界を救うまで帰さない!

 なーんて、言い出したら。

 私からの評価はかなり下がっていたとは思う。


 本来なら転移儀式には時間がかかる筈だったのだが――そこはそれ、私が帝国の協力者となったからね!

 三分クッキングよりも手早く、素早く、完璧に!

 転移も完了していたのである!


 世界の空間と時空座標が分かれば、まあ簡単とは言わないけど不可能じゃないからね。

 送る対象が勇者だから、ちょっと乱暴な術式でも死なないし。


 そうそう!

 この世界の状況を聞き、協力をしてくれる勇者たちは残った状態となっている。


 単純に苦しむ人々のために力を貸してくれる勇者もいる。

 報酬目当ての勇者もいる。

 中には私の扱う魔術や技術を学びたい、そういう戦闘狂、あるいは研究者タイプの魔術師思考の英雄もいるのだが。


 ともあれ、ある程度私が見ていなくても問題のない戦力。

 目を離した隙に敵に殺されてしまう、そんな危険の少ない存在が確保できているのはありがたい。


 私の蘇生魔術は、基本的には元の形がある程度残っていないと使えないからね。


 勇者たちの半数は帝国が落とされると面倒だから、そして本格的に動きを開始するまでという期限付きで、御城に残したままとなっている。

 今回は奇襲だし。

 なにより、遠征している間に拠点おしろを取られるのは困るのだ。


 具体的には、あのロイヤルスイートな部屋を占拠されたら私はムカムカしてしまうだろう。


 だから。

 私は砦に向かって猫ダッシュ!

 樹々の香りが広がる夜の山道を、ぷにぷに肉球が駆ける! 駆ける! 駆ける!

 大地を踏みしめ、超高速で進め!


 ビシ――っ!


 宙でカッコウイイポーズを決めた私に、女子高生勇者ヒナタくんの声が届く。


「ケトスっち、あんた……走りながらポーズを取るってけっこう器用なことしてるわね」

『にゃはははははは! 我に不可能はなし!』


 こんな感じで。

 身軽に動ける職業の英雄も、私に続いて砦攻略に参加している。

 本当は私一人でもいいのだが……。

 悪人ではないし基本良い猫っぽいが――単独行動をさせると何をするか分からない。そう全員一致の意見がでてしまったので、パーティを組んでいる。


 そういう状況なのだ。


 今、私と行動を共にしているのは例の可愛いがちょっと性格がアレな女子高生勇者、ヒナタくん。

 あとは一人。

 姿を消しているが、タヌキ獣人の武闘家勇者も隠匿系統のスキルやら魔術を使って私達を見ているらしい。

 この二人が私と組んでいる理由は単純。

 私の速度についてこられるのが、彼等だけだったのだ。


 黒髪少女と黒猫が闇夜を走る姿って、けっこう絵になるような気がするね。


 月を反射し輝く黒髪。

 そして学生服を風に靡かせるヒナタくんが私のダッシュと並行して、ダダダダダ!


 皇帝君から渡された紙を見直して、んーっと唸る。


「偽のケトスちゃんが出現したのは、ここ数年の話。人間同士の争いは続いていたとはいえ、魔族もいない平和だった地に突如顕現し活動を開始。ディガンマ大陸北部の共和国を乗っ取り宣戦布告、大魔王ケトスを名乗り、悪逆の限りを尽くしている……か。この話が本当なら残ってる国の方が少なそうじゃない! その首謀者がケトスっちの偽物って、勇者もたまに名を騙られるけど大物魔族も大変ねえ」


 ダッシュで揺れる尾を、先までボフっと膨らませて。

 怒りを抑える私は猫口で、うなんな!


『まったくだよ! それも大魔王ケトスの名のもとに各地で暴れている軍勢には、人間の姿も含まれているって……。闇の勢力じゃないじゃん! 魔物や亜人種や人間の混成軍なわけだろう!? これ黒幕の種族は何なんだろうね! 魔族のせいにするな! って話なんですけどー!』


 ぷんすかぷんすか!

 私の肉球は荒ぶり、大地を踏みしめモッキュモッキュ!


 そう。

 皇帝さんの話では――人間の街や国を襲い占拠している非道な連中。大魔王ケトス軍には、多くの人間の姿が確認されているのだ。

 大魔王ケトスに操られている説もでていたらしいのだが。


「黒幕が魔族って線はないって話だったわよね?」

『ああ、魔族。すなわち魔王様の眷属ならば代行者である私の本気の命令には逆らえないし、そもそもここには魔の眷属の気配がない。まったく違う系統の敵さ。魔物だって私達の管理下にいないのなら、魔族じゃない。まあ、私の感知すらも誤魔化している存在だって可能性も一応あるけれどね』


 砦周囲に展開されている罠。

 小賢しい魔力トラップを作動させずに走りながら、二人はそのまま会話を続ける。


「いや、ケトスっちの感知を誤魔化せるって、もしそうなら極悪な敵ってことじゃない……」

『そういうことになるね。まあ魔族の可能性は限りなくゼロに近いだろう。となると――黒幕候補は……恐れを知らない、過ぎた野望を滾らせた愚かな人間か、魔王様の支配下にない私も知らぬ魔族ではない魔の存在か、それとも腐れ外道な古き神々か。勇者の関係者、なーんて外道な連中もいるけど。なんにしてもあまり良い趣味の連中じゃなさそうだね』


 言いながらも、私は山道の先をチラリ。

 ヒナタくんもつられてそっちに目線をやる。

 森の奥。

 正体の分からぬ人影が、焚き火のような灯りを囲んでいるのだ。


「あちゃー、敵かしらね」

『捕まえて拷問するって手もあるけど。もし民間人だったらまずいね』


 ヒナタくんが考え込むように、顎に指を当て。


「んー……敵の砦の近くでキャンプファイアーってまあ間違いなく敵だとは思うんだけど。あたし達みたいに砦を解放しようと潜んでいる味方って可能性もあるし。だぁぁぁぁっぁあ! こんなことなら、こっちの世界の人間も連れて来ればよかった! 来たばかりの世界で敵か味方か判断するのって、けっこう大変じゃない……!」


 もっともな言葉に、ネコちゃんな私も、うーむと眉間の皺を濃くしてしまう。


 人間と別種族の戦争ならば区別も対処も簡単なのだ、敵となる種族を殲滅すればいいだけなのだから。

 けれどだ。

 相手が人間の戦士も使っているというのが、なかなか厄介なんだよね。


 脅されて徴兵されたのか、それとも自らの意思でこの侵略戦争に加担しているのか――その判断が死ぬほど面倒そうなのである。


『私の猫ダッシュに対応できるのは君とタヌキくんだけだから仕方ないだろう。寝坊して遅刻していた私が言うのもなんだけど、砦攻略は早ければ早いほどいいだろうからね』

「まあ、そうなんだけど……ねえケトスっち。このタイミングで聞くのもアレだけど。なんで人間に協力しようなんて思ったの? そりゃあたしは人間だし、困っている人を助けたいとも思うけど……あんたは猫魔獣で、それに、その……過去に人間と色々あったわけでしょ? 大魔王ケトスなんて勝手に名前を使われてムカッ腹なのは分かるけど、別にこの国自体に協力する必要なんてないと、あたしは思っちゃうんだけど」


 私の伝承を知っているようだが、どこまで伝わっているのやら。


『言っただろう。民間人、特に女子供を守る事が私の恩人で主である魔王様の御意思だからね。私はあの方の考えを尊重する、それだけの話だよ』

「魔王様ねえ」

『忠告しておくけど、魔王陛下の事だけは冗談でも悪く言わないでおくれよ。私はあの方に関してだけは我慢も抑えも利かなくなる』


 結構シリアスな渋い声で言ったからだろう。


「わ、分かったわ。あんた、本当に急にシリアスになるから、なーんか調子狂うわね」

『ネコだからね、気まぐれなのさ』


 そう!

 私は自分でも、たまにどう行動するか分からなくなる時があるからね!


 なぜか彼女はジト目をするが、すぐに顔を引き締め。


「で、どうする? 灯りを確かめるか、無視して砦に向かうか。あなたに任せるわ」

『とりあえず近づいてみよう。聞こえるかい、タヌキくん! 私達はあの灯りに向かう! 君は私達とは離れて別行動をしておくれ。判断も行動もそちらに任せるよ!』


 タヌキじゃねえ!

 先に砦を見てきてやる!

 そんな魔力音声が私のモフ耳を揺らした。


 それを肯定と受け取り。

 ネコと女子高生は夜道を駆けた。


 ◇


 焚き火を囲んでいたのは人間だった。

 占拠された砦付近で、夜に、無防備に灯りをつけて寛いでいるのだ。

 まあ敵だろう。


 ここにいるのは二人。

 魔剣士風の紋様付き騎士鎧に身を包んだ大男が一人と、露出度の高い服を着た若いとは言えない魔術師風の女性が一人。

 どうみても民間人とは思えない。


 レベルは……あれ。

 三桁もある。

 人間にしてはそこそこ高いな。


 それなりのレベルだったからだろう。魔剣士風の男の方が、私達に気付き――へぇっと口角をつり上げる。

 夜の中。

 焚き火が男の彫り深い顔立ちを、黒々と染めている。


 パチン――と、火の中で焚き木の割れる音が響く。

 直後。

 不精ひげを擦り男は言った。


「なんだ? 気配がしてみると思えば――ネコと女子高生? はん、どういう組み合わせだこりゃ!」

「ちょっとスティーブン、殺すんじゃないよ! 奴隷はいくらでも必要なんだ、しかもこーんなにかわいらしいお嬢ちゃんだ、きっと砦の男どもが大喜びするよ! ひゃはは!」


 無駄に巨乳な女の方が、そう下卑た笑いを浮かべたのだが。


 ひゃはは……って、おいおい。

 しかし。

 ここで私は一つ、気付かない方が良かったことに気が付いてしまった。


 魔剣士風の男の方に目をやり、私は瞳を細めて猫ヒゲを蠢かす。


『ねえ、なんで君。ヒナタくんが女子高生だってわかるんだい?』

「そりゃ、おめえ。俺様がそこの小娘と同郷だからに決まってるだろ? ま、住んでいた国はおそらく違うだろうがな」


 レベル自体はヒナタ君の方が上なのだが。

 この二人の異様な空気に嫌悪感があるのだろう、ヒナタ君が僅かに身を引いている。

 ……。

 なるほど、まあ故郷が同じ世界ってのは確かにやりにくいかもね。


 守るように前に脚を出し、私は言う。


『ふむ、負けている帝国の皇帝が異界から勇者を呼べたんだ、もしやとは思っていたけれど――なるほどね、大魔王ケトスを名乗る偽物は、異界から勇者ではない転移者を戦力として大量に呼んでいた。北部の占拠が速やかに行われたっていう理由も、外部から強力な戦力を持ってきたのなら、不可能ではない。そういうことか』

「は? なにそれ、ケトスっち。どういうことよ」


 ヒナタくんの問いに、私は更に瞳を細めながら応じる。


『転移者や転生者全てが、君達のようにまっすぐに生きているわけじゃない。中には外道だっている。だって基本的に無双できるからね。全員が聖人君主であるはずがない、志のある英雄や勇者になれるわけではないってことさ。君達の故郷の世界にだって、仕方なくではなく……自ら悪意をもって犯罪に手を染める人はいただろう? まあ、そういうことさ』


 女子高生としてではなく、勇者としての顔で彼女は下卑た二人を睨む。


「じゃあ、こいつらは……っ!」

『そう。異界から呼ばれて、こっちで好き勝手に暴れている連中さ。転生特典やら転移特典を利用して無双してる悪い奴ら、そういうことになるだろう。つまらない人間だよ』


 告げる私に。

 男は軽薄な笑みを浮かべていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] あや?屑転生者あるいは転移者発見!!(゜ロ゜) [一言] うわ~ケトス様が嫌いそうなタイプの奴等だなぁ。 多分ですがお掃除されるでしょう。もちろん必要な情報を抜き取り終わった後…。でしょ…
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