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エピローグ ~動く世界の大団円!~前編



 全ての自我ある生命が泣いたとされる、あの日。

 女神と少年の物語を追体験していた止まった世界。


 後の歴史に残されるだろう、女神再臨の日から二週間が経っていた。


 世界を包んでいた呪いは解けた。

 滅びの予知もされなくなった。


 滅びるはずだった世界は無事、動き出したのだ。

 けれど。

 女神による滅びが回避できたのは、あくまでも十年後の約束の日までの間。


 約束のあの日に下す女神の裁定次第では、この世界は再び滅びの危機を迎える事になるのだろうが――。

 私の未来視によると……。

 ……。

 まあ、それは告げない方がいいか! と。


 希望を掴むように前進する人間達を見て、私は考えていた。


 安心してしまって人間が堕落するかもしれないし。

 なにより私の未来視は正確ではない。

 ぬか喜びさせてしまうのもどうかと思うので、モフ胸の内にしまっておこうと思う。


 ここ。

 なんとなくカッコウイイ演出ポイントである。


 いやあ、まあ!

 滅びがほぼ確定していた世界を立て直すこともできたのだから、その逆もまた然り。人間のこれから次第では、いくらでも滅びる機会はあるんだけどね。

 その時には、うん。

 私の育てた生徒や関わった者達がきっと、なんとかする。

 ……。

 筈である!


 ともあれ世界は救われた!


 それも全て猫のおかげ。

 とある大魔族の活躍のおかげ。

 滅亡の危機を回避!

 明日に向かって人間達は歩くことができるようになったのである!


 ビシ!

 よーし、超カッコウイイポーズも成功!

 伸ばす肉球も輝いている。


 まあ――そのとある大魔族というのは、何を隠そう天下に名高き大魔帝。

 ケトスと呼ばれる天才ニャンコ。

 つまり。

 私の事なんですけどね!

 えらくてつよーい魔術師な、私の事なんですけどね!


 ぶにゃははははははは!

 勝利の哄笑を上げて、私は現在――亜空間にアイテムを収納しまくっていた。


 ふわふわクリームのイチゴケーキに、やわらかお肉のミートパイ。

 ぷりぷりエビの乗ったパエリアに。

 脂も見事なタイの塩釜焼!


 全部、魔王様のお目覚めタイムの宴用のご馳走である!


『いやあ! 世界を救った英雄にはやっぱりグルメがつきものだよね~!』


 そんなわけで!

 世界を救った私は、依頼報酬であるグルメを亜空間に回収しながら、ぶにゃん!

 モフ毛をふわふわに膨らませていたのである。


 場所は王都の宮殿。

 一度女神様が降臨したあの玉座の間――。


 ここなら広いし。

 何より激務に追われている金赤女帝くんにも、別れの挨拶をしたかったからね。

 あんな事件があったばかりだし。

 王様である今の彼女は本当に忙しいのだ。


 なにしろ――仕事が大量に増えたからね。

 あの教皇の傘下に居た女神教徒たち、更にその末端の息のかかった連中を、片っ端から調査している真っ最中なのである。


 いっそのこと関わっていた連中を全員、並べてザシュ!

 首をバッサリやっちゃってもいいと私は思うのだが――金赤君は首を横に振った。

 一人一人。

 罪の度合いをちゃんと調べているのだ。

 自らの意思でやっていたのか、洗脳や脅しを受けていたのではないか。そういった細かい部分まで調査して、それぞれにあった罰を与えるつもりらしい。


 あれほど大きい組織だったのだ。

 賄賂や甘い蜜を吸って、教皇の利益になる行動をとっていたものは多い。

 一人一人をちゃんと裁判にかけるとなると……。

 おそらく。

 死ぬほど大変だと思うのだが――。


 それでも金赤君は言ったのだ。

 女神様との信頼を新たに築く上で、欠かせない儀式でもあるのだと。


 彼女もあの記憶を追体験し、想う所が多かったのだろう。

 濡れ腫らした瞼をこすり、私に告げた――その決意は固いようだった。


 ……。

 んーみゅ。

 私みたいに殲滅して回っちゃう面倒くさがりは、王様には向かないのかもしれないね。

 まあ、皮肉を込めて言えば神になら向いているのかもしれないが。

 にゃーんて。

 主神なんかやりたくないから冗談でも御免だけど。


 そうそう!

 また主神の資格を得る称号とスキルが自動習得されていたので、魔導消しゴムでゴッシゴッシ!

 消して!

 消して!

 消して! なかったことにしたとだけは、記録クリスタルにちゃんと書いておこうと思う。


 あーでも、この記録クリスタル映像はお目覚めになった魔王様に見せるんだから……。

 むしろ書かないで消しておいた方がいいかな。

 ちょっと別の世界で主神をやってきておくれ、なんてなったら困るし。

 私、魔王様の部下のままでいるつもりだし。

 ……。

 後で思い出した時に改竄しておこう。


 ぐへへへへへ! と、悪い猫の顔をする私に近寄ってくる気配が一つ。


 軽やかな身のこなしからすると、武術を嗜んでいる人だと思うのだが。

 声をかけてきたのは傭兵風姿に白衣を纏う、ワイルドな女性教師。

 ハザマ君である。


「おー、やってるねえ。ケトスちゃん。どうだい、ウチの世界のグルメも捨てたもんじゃないだろう?」

『ハザマ君か、まあ見ての通りだよ。魔王様のお口に合うかどうかはまだ分からないけれど、味も見た目も悪くないね! バッチリだよ!』


 世界各地からグルメをかき集めてきてくれた――依頼人でもあるハザマ君が、亜空間に収納されていく大量なグルメを目にして。

 キシシシと笑っている。


「悪くないって事は、あんた……また摘まみ食いしたのかい?」

『君達がそういうことをする人たちじゃないと分かった上で言うけど、それでも一応、魔王様への供物だ。ちゃんと毒見どくみはしておかないとね。供物への呪い対策は、今回の散歩で学んだ利となる収穫でもあるし』


 むろん、魔王様も私も供物に呪いなんてかけられてもまったく効かないし。

 むしろだ。

 私は憎悪の魔性。魔王様もあの伝承が正しいなら絶念の魔性となっている御方。


 呪いをかけられると……逆に、回復とか能力向上するんだよね。


 じゃあなんで毒見をしたかというと。

 そりゃあ、ねえ?


「あー、確かに……金赤女帝様もそうだが。お食事の前には毒見役が必ずいたっけか、上に立つ人っていうのは大変だね」

『善意のグルメ献上品も多いんだろうけど、悪いね』


 モフ耳をぴょこんと一度倒して謝る私に、ハザマ君も微笑んでみせる。


「大丈夫、アンタの魔王陛下ラブは十分以上に分かっているからさ。気を悪くなんてしてやいないよ」


 並ぶテーブルに並ぶご馳走。

 亜空間に収納する度に、ベルトコンベアー式で動くグルメ。


 収納されていくご馳走に目をやり。

 ハザマ君が頬を掻きながら言う。


「それにしてもケトスちゃん。魔王様を起こす宴にグルメを集めてるのは知ってるけどさ――これ、保存しておくにしても。ちゃんと宴までもつのかい?」

『あー、私は時属性の魔術が使えるからね。他の世界からも集めるつもりだし。宴の日まで時間を止めた亜空間で保存しておくから、問題ないよ?』


 私をよく知る彼女は、ジト目を作り。


「いや、そういうもつじゃなくて――アンタが我慢できずに全部食べちゃうんじゃないかって意味で、聞いてるんだけど」


 うっ……、さすがハザマくん。

 なかなかどうして名推理である。


『ま、まあ――食べる前に分裂させておけば減らないわけだし』

「ならいいけどね。ケトスちゃん、食べ物には目がないだろう? ついうっかり、分裂する前に食べちゃうなんてことはしないでおくれよ。これはこの世界から魔王陛下への献上品でもあるんだ。なにしろ、この世界を救ったケトスちゃんの育ての親、つまりは大恩人なわけだしさ。本当に偉大な方だと、感謝させて貰っているんだよ」


 魔王様を褒めている。

 ……。

 むふふふふふふふふ!


 ついついヒゲが蠢いてしまうのである!

 むふふとする私を見て――ハザマ君はわずかに空気を変える。


 そして。

 他の者の目と耳がないことを確認して、私に深く礼をする。


「聖女様の事、本当にありがとうね」


 ちょっとの間の後。

 私は言う。


『おや、なんのことだろうか――』

「とぼけなくてもいいさ、何があったのかは知らないし――知らない方がいいのかもしれないけれど、アンタが何かをしてくれたって事は分かるさ。今のあの人は……本当に幸せそうだから。全部、アンタのおかげなんだろうって、勝手にそう思っているだけさ」


 ありがとう――。

 もう一度、そう言って。

 傭兵風なキリリとした顔で深々と頭を下げるハザマ君。


 面と向かってこう感謝されるのは、その……ネコちゃん的には結構ムズムズするもので。

 うずうずと、尻尾が左右に泳いでしまう。

 話題を変えるべく、私は猫の丸口を動かしてみせる。


『そういえばマイル君は今、どうしているんだい?』

「おバカヴァルスとお目付け役のウォールスさんと一緒に、一足先に大魔女のレストランに行っている筈だよ。今日はあんたの送別会だしね。今頃、飾り付けでもしてるんじゃないかねえ」


 例の元幹部の二人はマイル君と行動を共にしているから、自然とハザマ君とも出会う機会が多くて――もうそれなりに仲良くやっているようである。

 まあハザマ君。

 聖女様至上主義だからね。


 彼女の大事な人ともなれば、こうなるか――。


『あれ? そういや君、ヴァルスくんはおバカ呼びで、ウォールスくんにはさん付けなんだね』

「え? はは、ま、まあ……」


 なんか歯切れの悪い返事である。

 武人然としたウォールスくんと、傭兵気質なハザマ君はあんがい相性がいいのかもしれないが。

 貌が赤くなってるし。

 なにかあったのかな?


 まあいいや。


『それにしても送別会かあ。十年後の約束の日、また私はここに遊びにくるんだ。今はまだこの世界は忙しいみたいだからね、別によかったのに。そりゃあ、もちろん嬉しいけれどね』


 この世界は歩みを再開したばかり。

 やるべきことはまだまだ多いのだ。


 変に気を遣わせてしまうのも悪いかなあ、と思う私にハザマ君は眉を下げる。


「気を悪くしないで欲しいと前置きをさせて貰うけど――長命な魔族の十年と、人間の十年ではだいぶ感覚が違うからね。アンタの教えを受けた生徒達は多くいる、けれど十年後全員が生き残っている保証はない。最後の別れになるモノもでちまうだろうさ――だから、ちゃんと見送りたいんだよ」


 まあ自分で言うのもなんだけど、私、かなりモテモテ教師だったからね。

 あ、でも。


『ねえねえハザマ君。そういや私、ほとんどの生徒達に正体が猫だって伝えてないけど……送別会、大丈夫かな』

「問題ないよ。ケトスちゃん。たぶんアンタは、あの日の女神様とおバカヴァルスの追体験を最後まで見ていないんだろうけど――物語の最後の方で、ちゃんと猫モードのアンタが出てきたからね。殺戮者としてのアイツをエグイ呪いで殺す場面もあったし……」


 口元を抑えて、眉を顰めて言うハザマ君。

 その眉間の皺を眺めて、私はうにゃーん?


『そんなエグイ殺し方してたっけ?』

「あー、なんだい……、まあ……多くの人が本気で同情するくらいには……エグかった……かなぁ……と」


 戦闘に関しては容赦のない、戦場の猟犬と呼ばれる彼女にこう言われるって事は。やっぱり、ちょっとやりすぎてたのかな……。

 いや!

 あの時はどう見ても極悪人だったし、私は悪くない!

 よーし、言い切った!


 その辺を言い訳しようと悪い顔をする私のモフ耳が、ぴょんと立つ。

 近づいてくる気配を感じたのだ。


 この王者のオーラは――金赤君である。

 公務用の煌びやかな女帝風姿で私に頭を下げ、彼女は言う。


「話の最中にすまぬケトス殿、少し宜しいか?」


 金赤女帝君の言葉を受けて、ハザマ君が頭を下げる。


「それじゃあアタシはこれで失礼するよ。先に大魔女のレストランで待っているからね。恥ずかしいからって逃げるんじゃないよ? ちゃんとお見送りをさせておくれよ、救世主様。なーんてね、それじゃあ陛下――ケトス様へのグルメの提供、よろしくお願いいたします」

「ふふ――分かっておる。戦場の女神ハザマよ――あの件への返事は急がぬが……前向きに検討してくれると助かるぞ」


 あの件?

 ハザマ君に聞こうとしたのだが、既に彼女は転移していた。

 ちゃっかり学園内以外でも転移魔術を使いこなせているあたり、彼女も最初より大幅にレベルアップしてるんだろうな。


 グルメを収納しながら私はぶにゃん!

 女帝さんの美しい金髪を見上げる。


『金赤君。ハザマ君に言っていたあの件って何の話だい?』

「あやつをわらわ直属の新設騎士団の代表にと誘っているのだが――教師の方が似合っていると返事を保留されてしまってな。振られてしまっているのだよ」


 眉を下げる女帝さんは、アンニュイな息を漏らす。

 まあ。

 男も女もこの女帝ひとに声をかけられたら、二つ返事で頷きそうだからね。


『なるほどねえ。ま、彼女にはもう心に決めた主人がいるからね。攻めるならそっちを先に勧誘した方がいいのかもしれないよ? 本当に必要としているのなら急いだほうがいい。ハザマ君、人間にしておくには惜しいぐらいに戦闘センスがあるからね。先に別の組織に取られちゃったら大変さ。私も、もし十年後にこの世界が滅ぶなら、喜んで持ち帰るつもりだし』


 滅びの言葉を聞き。

 金赤君は困ったように、けれど親しげに――微笑んでみせる。


「滅ばぬように、努力はするがな――そうそう、滅びと言えばじゃ。聞こうと思うておったのだが、大いなる導き様は今、どうしていらっしゃるのだろうか。あの日以来、姿を見ないのであるが」

『碑文図書館で大魔女君と一緒にいるよ。女神は大魔女さんの創造主でもあるし、親子みたいなもんだからね。色々と話もあるんじゃないかな。それに……うっかり君達人間の顔を見て、そのまま世界をやっちゃっても困るって言ってたし――』

「そうか――妾達、人間がしたことは……そう簡単に……いや、けして許されるものではないからな」


 その心が失われないのなら。

 たぶん、大丈夫だろうけど。


『まあもし滅びの道に歩むようなら、十年後に君も私が回収するから安心しておくれ。魔王軍はいつでもウェルカム。優秀な人材は歓迎するからね』

「貴殿にそう言われると世辞でも嬉しいモノだな」


 ブラックジョークに応じて微笑む女帝さん。

 その顔をじっと見て。

 私は声のトーンを下げて、穏やかな声で言う。


『一応……君にだけは伝えておこうかな。その例の女神様なんだけど、とりあえず一度私の世界に連れ帰ろうと思っているんだ』

「主神様を! ……っと、すまぬ――何ゆえに」


 周囲を見て。

 ボリュームを落とし。


『大いなる導き――彼女自身の願いさ。まあ理由は様々にある。一つ目の理由は単純。私の世界の主神――大いなる光には彼女が滅びたと伝えてしまったからね、滅びはしたが復活したって自分の口で伝えたいらしいんだよ。二つ目の理由は私への恩返しだってさ。例の――魔王様お目覚め大作戦を伝えたら、話に乗ってくれてね、魔王様にもお会いしたいらしいし宴の際に得意な舞を見せてくれるらしいんだよ。主神クラスの女神様の舞だからね、魔王様お目覚めの確率もぐっとあがるし、こちらからもお願いしたって訳さ』


 そして、私はこの世界にとって一番重要な事を告げる。


『なによりもだ――さっきも言ったけど、あの女神さま、今の不安定な状態だと本当にうっかり……あの時の悲劇を思い出してイラっとした瞬間に、この世界をやっちゃう可能性もあるらしいからね。君達の涙と教皇の消失によって心も少しは晴れただろうけど……憎悪の感情はそう簡単に消えるモノではない。しばらく距離を開けて、冷静になりたいんじゃないかな』

「そうか――女神様が……しばらく離れるのか」


 王たる金赤君は複雑な表情である。

 しかし。

 私は明るい顔と声で言う。


『良い事じゃないか。裏を返せば壊したくないと思い始めているって事だし。どうでもいいと思っているのなら、距離を置きたいだなんて発想にはならないだろうと思うよ』

「貴殿は前向きだな」

『誉め言葉として受け取っておくよ。ああ、そうだ。神の加護なら問題ない、大いなる導きが再臨した時に人々の祈りに反応をしていた、あの時点で加護はわずかだが蘇っているし――なによりもだ。この世界には今、天子黒龍神っていう水神様の加護が展開されているからね。十年ぐらいなら問題なく、加護を享受できる筈さ』


 その後は責任取れないけど、と。

 ここは真剣に。

 人ならざる魔族としての顔で告げる。


「その――天子黒龍神? 様の加護というのも、もしやそなたが――」

『ま、そういうことさ。私の友達のニワトリからは過保護だって怒られたけどね』


 ロックウェル卿はこの世界が一時的とはいえ、滅びを回避したことに驚き。

 翼を広げてバッサバッサ!

 そうか、そうか!

 と、内心では喜んでいたようであったが。


 それとは別の問題としてだ。

 心配性な彼は、私という存在が世界に与える影響をもう少し考えてから行動して欲しい――と、お説教したいっぽいんだよね。

 むろん。

 お説教モードに入った瞬間に、通信を肉球でブツンっと切ったけど。


「なにからなにまで……本当にすまぬ。妾は――ふふ、貴殿に足を向けて眠れんな」


 言葉を受けて私は苦笑し。

 そして。

 王としての彼女に告げた。


『ただし、十年後はさすがにもう手を貸せないから注意をしておくれよ。大いなる導きがこの世界の人間を見て……生かす価値がないと判断したら、私はそれを止める事ができない。これは制約だ』


 私自身も、これ以上の干渉はするべきではないと思っていた。

 もう一度、道を踏み外していたのなら。

 ……。

 残念だが、私は私が必要と思う者だけを回収して、この世界を見捨てるだろう。


 そんな。

 割り切った私の考えが王者には分かるのだろう。


「肝に銘じておく。あの方の悲しみを……全部分かるなどという傲慢な事は言わん。なれど、少しならば――理解できているつもりだ。おそらく、他の者達も……。それに、妾は信じておるのじゃ。我ら人類はあのような愚を反省できぬほどつまらん種族ではないと、な」

『信じている――か』


 ならば――と。

 姿を人とネコと魔の合わさった状態、全盛期の私の姿へと変貌させ。

 神たる声で、私は咢を蠢かす。


『我も貴公らがつまらぬ種族になり果てぬと、信じているぞ。我はこの世界が気に入った。できる事ならば、今一度、穏やかなる心でこの地の土を踏みたいと願っている。汝等はこの我に気に入られたのだ。その栄誉――ゆめゆめ、忘れるでない』


 宮殿全体に伝わる声で、私は最後にもう一度。

 告げた。


『前を向き歩け、人間よ。脆弱なるモノたちよ。十年後、約束の日を楽しみにしておるぞ!』


 むろん。

 なんとなくそれっぽいだけの。

 そんなに深い意味はない言葉である。


 天に上り消えていく私に――金赤女帝は頭を下げた。

 その足元には一枚の手紙。


 拾い上げた金赤女帝くんは緊張した面持ちでそれを開き。

 苦笑する。


 書かれていた内容は――。

 格好よく去っちゃったけど、グルメは後で自動回収するから時魔術の停止空間に置いといてね!

 と。

 肉球で掴んだペンで記された、まるいもじの走り書き。


 金赤君は、手紙をしばらく眺めて。

 ふっ……と息を吐く。


「世界を救う者が勇者ならば、あの方こそがこの世界の――。いや……そんなことをあの方に告げたら、きっと、面倒くさそうに否定するのだろうな」


 玉座の間の外。

 流れていく雲に目をやって、女帝はしばらく佇んでいた。

 そんな彼女に声をかけるのは、グルメ報酬を運ぶギルドの聖職者。


「金赤様? どうかなさったのですか」

「いや――あの方の伸ばしてくださった肉球に恥じぬように、生きなければな。そう思っていただけさ」


 告げる美しい女帝の横顔には、王者の貫禄が滲んでいる。


 けれど、その腕の中。

 胸の前。

 女性らしさの残る指の先。


 その手はまるで愛しい猫でも抱くかのように――。

 そっと。

 ネコからの最後の手紙を優しく、抱きしめていた。




 んーむ。

 これ、空からずっと見えてるんだけど。

 戻るタイミング、なくしちゃったよね……?


 ◇


 ともあれ。


 私と金赤君との別れは済んだ。

 後は魔女のレストランでの送別会でどんちゃん騒ぎをして。んでもって、最後に大魔女の森に帰還、碑文図書館で大いなる導きと魔王様の日記を回収して。

 この世界ともお別れなのである。



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― 新着の感想 ―
[良い点] グルメ集めを始めたケトス様。 お土産だけでなく主神まで持ち帰り((o(^∇^)o) [一言] 10年後、またケトス様が訪れた時にやることが人間の回収ではなくグルメの回収で済むことを切にお…
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