禁忌 ~ロイヤル寝具は誰のモノ~後編
王宮で行われた解呪の儀式。
女神による呪いを受けていた金赤女帝さんこと、この国のトップと協力関係を築いたのはいいのだが――。
神父姿でメロンを美味しくいただいていた私、大魔帝ケトスの前に現れたのは一人の男。
相手は――影渡りの術で王宮に侵入した賊。
サメのような牙を持ち。
三日月刀を操る――神父姿の、濃い錆鉄の香りを放つ存在なのだが。
はて。
どこか見覚えのあるサメ牙である。
んー、と悩んでも思い出せない!
モヤモヤしながら私は金赤女帝さんに問う。
『こんな夜更けにここまでくるなんて、無礼な男だね。女帝さん、一応質問だけど君の部下か恋人かい?』
「ふふ――戯言を。このような男は知らぬ」
言い放ちながらも立ち上がり、赤い瞳に魔力を輝かせ始める金赤女帝さん。
戦闘準備なのか。
研ぎ澄まされた爪の先にまで、魔力が満ち始めている。
「知らぬが――だいたいの見当はつく。この気配と、この魔力。報告にあった導きの女神教の幹部神父、殺戮のヴァルスであろう」
んーむ。
この名もどこかで聞いたことがあるような。
しかし。
殺戮って、私と被ってるじゃん……なんか、生意気だね。
じぃぃぃっと見るが。
女帝さんが私と敵さんの間に、すっと立ちふさがり。
手を翳し。
ゴォォォォゥウウゥゥゥン――!
足元に、雷属性の魔法陣を展開させている。
女帝は微笑し、サメ牙神父に言う。
「さて、ここまで侵入してきたその手腕は褒めてやるが何用じゃ? 今宵は気分が良いからな――許す、申してみよ。もっとも、不粋なそなたを生かして帰してやる気はないのじゃがな」
ちなみに、私はというと――解呪で消費した魔力も回復。
万全ではないが既に戦える状態になっている。
そもそもだ。
いざとなったら、一度わざと死んでリポップしちゃえば全回復なんだけどね!
一粒で全回復できるような治療アイテムも、山のように持ってるんだけどね!
どうしてくれようかと魔導書の表紙を撫でる私と、戦いの構えに入る女帝さん。
二人の相手を前にしても怯むことなく。
殺戮のヴァルスとやらは――ぎしり!
月光に牙をギラつかせる。
「グチャグチャごちゃごちゃとうるせえな! ええ!? 女帝さんよ! これから同衾男と仲良く生首と内臓を晒すっていうのに、まあ随分と余裕じゃねえか!? それともなにか? もうスッキリしちまって未練はねえってか! ヒャーハハハハハハハハ!」
「下賤な揶揄だな。品位を疑うぞ……まあよい。戦うのなら、こちらの神父は見逃すことを推奨するぞ殺戮の神父よ。妾はこう見えても誇り高き王族、並の戦士以上には戦えるからな。よそ見する間など――与えんよ」
言って、金赤女帝さんは黄金の剣を召喚。
男装の麗人騎士を思わせる仕草で優雅に装備、紅い瞳に強い闘志を灯らせ――ゴゥ!
六重の魔法陣を展開。
螺旋状の魔力風が吹き荒ぶ。
靡くガウンの下、生足が覗いていてちょっぴしセクシー。
まあ私ネコだからね、ガウンの裾のモフモフひらひらの方が気になるわけだが。
ともあれ。
ヴァルスとやらも構えを変え、戦闘スタイルへとその身を切り替え始める。
「この覇気、そうか――てめえ、金赤! マジで戦えるのか! 動かない獲物を嬲るだけじゃつまらねえからな!」
「弱い犬ほどよく吠える――雷鳴の錆にしてくれる!」
二人の瞳が、険しく尖る。
膨らむ互いの戦意と殺意。
「それが噂の王家の剣か! いいねえ、すげえそそるじゃねえか! やるかやるか、やっちまうか! 抉って嬲って犯し殺してやるよ!」
「客人よ、下がっておれ。賊は妾自らが片付けるとしよう」
金赤女帝とサメ牙男。
視線がぶつかりあう。
肌を刺すほどの殺意が、室内を満たしていた。
が。
この私は!
あえて空気を読まずに、ぼそり。
『あれ? もしかして私、君に庇われてる?』
二人の目が点になり。
タイミングをずらされた女帝さんが、困り顔でこちらに言う。
「隠密としての技、神父としての浄化の力は確かなものであったが――これは相手が悪い。妾がそなたを責任をもって守ろうではないか、恩人であるからな。ふふ、案ずるな、妾が口だけの女ではないと証明してやるよ」
あーなるほど。
まだ回復していないと思われてるのかな。
実際、この私がダメージを受ける程の大儀式だったわけだし。
ふむ、守られるのは嫌いじゃないが――たぶん、これ。
相手の方が強いな。
私は魔王軍最高幹部の目で、両者の力量を観察。
単純な魔力量なら女帝さんの方が圧倒的に上だが――殺し合いとなると決着は見えている。
女神教の仲間で幹部なら、不死の存在だろうしね。
仕切り直して。
ギッと神父を睨み金赤女帝は女傑の顔で、濡れた唇をペロリ。
「殺戮の神父よ、覚悟は良いだろうな――再生できぬほどに燃やし尽くしてくれようぞ!」
ザン――ッ!
初撃は――金赤女帝か。
足元の魔法陣で加速し――黄金の剣に雷撃の魔力を纏わせ跳んだ必中の一撃である。
刀で受けたサメ牙男は、ギヒヒヒヒヒ!
顔立ちを精悍に歪め、戦闘狂がよく使う自己支援スキルで狂戦士化していく。
「おぉ、怖ぇえ怖えぇ! ハハ! なかなか早えぇじゃねえか! 滾る! 滾る! ああ! たまんねえな!」
「うおおおおおおぉぉぉりゃぁぁぁぁぁあ――っ!」
達人の領域同士の剣撃。
教範になりそうな程の戦いではあるのだが。
うーむ……。
金赤さんの踊るような剣舞が、撃ち合うサメ牙神父の三日月刀を通じ――雷鳴の魔力を送っているのだろう。
バチバチバチと、サメ牙男の皮膚が光り焦げだしている。
本来なら徐々にダメージを受け、女帝さんの勝ち。
なんだけど。
やっぱりこの敵さんも不死っぽいね。ダメージを受けてもすぐに再生している。
それにしてもだ。
異界の王様も金赤さんと似た技を使っていたけど――神に選定された王族って、雷撃の魔術と剣術の組み合わせ、好きだよねえ……。
金赤女帝の澄んだ闘志を眺め、すぅ――!
三白眼を見開いたサメ牙神父は、興奮したように長い舌を覗かせる。
「へえぇぇぇぇぇ! なかなか面白いじゃねえか! まさか女が! しかも女帝が! 優男を守るためにここまでやるなんてな! 俺様じゃなかったら、今頃黒焦げだ!」
「やはり、こやつも不死か――ならば、再生できなくなるまで殺すだけの事!」
唸る女帝の魔力と剣。
王剣に雷の魔力を這わせ、ぎしん!
額をぶつけ合うような鍔迫り合い。
互いに隙を窺い、狭い室内を駆け続ける。
「そういうこった! せいぜい頑張りな! ぐひゃひゃ! っと、それに比べて――おいてめえ、そこの神父ぅう。女ばっかりに戦わせて、情けなくねえのか!? ああん? てめえ、支援魔術とか使ってやったらどうなんだ!?」
侮蔑と挑発の言葉を受けても、私はふーむと悩んだまま。
メロンをモグモグ。
ハムをむっちょむっちょ、しながらぼそぼそぼそ。
『いや、どれくらい戦えるのか見たかったし。ねえ、そんなことより君。どこかで出逢った事あったっけ? なーんか見覚えというか――既視感があるんだけど……』
「はぁ!? てめえ男のくせに気色悪いこといってんじゃねえよ、先に殺すぞ! と、イイてえ所だが。ふーん、ははーん! まあ、たしかに悪くねえ顔立ちだ。良く泣きそうじゃねえか! ウォールスの野郎の再生が終わってりゃ、挟んでヤッてやったんだがな!? げひゃひゃ!」
ウォールス?
ヴァアアアルスと、ウォールス。
ここで賢い私は思い出した!
『ああ! 君! どこかで見た覚えがあると思ったら、魔女レストランに襲撃してきた抜刀軍服男じゃない方のイカレ頭君か!』
あの時の狂犬馬鹿セットじゃないし、殺したばかりだから完全に忘れていた。普通、死んだらしばらく会わないもんね。
そうかそうか。
リポップ式なんだから、即再会ってこともあるんだね。
「ああん!? てめえ、あの場に居やがったのか!」
『ああ、いたよ。特等席で見ていたさ。君が無様に殺されるところをね。君――泣いていたよね?』
嘘は言っていない。
挑発魔術に弱いのか、サメ牙男はカァァァァァァァァッと全身を赤く染め。
唸るように歯ぎしりをし、憤怒の魔力を放ち始めた。
「クソクソクソォオオオオオオオォォッォォ! このヴァルス様を殺しやがって、あの糞ネコ糞ネコ糞ネコ! 今度会った時は、必ずヤッテやる! 油断してなかったら、負けねえ!」
負け惜しみだ。
きっと、本人も分かっている。
残虐な本能を持つ私の猫の部分が、ニヤリ。
人間神父の姿のまま、私は立ち上がる。
『そうか――君があのつまらない男なら話は別だ。悪いけど金赤くん、ここは私に任せてくれないかな』
「え? いや、このまま妾が戦う華麗なる女帝姿をアピールするつもりなのだが?」
このまま戦う気満々だったらしい女帝さんは、剣を握ってくわっと訴えているが。
私、ネコだし。
気分次第でやりたいようにやるのが性分だし。
『さすがに寝間着の女性に戦わせてしまうっていうのは、ねえ? そういうわけで、ハムでも切り分けて待っていておくれ』
言って私は指をぱちん!
強制入れ替えの魔術で、金赤女帝さんと私の座標を置換。
「強制空間転移だと――っ!」
『ふふ、悪いね。これは私の獲物なんだ――』
殺戮のヴァルスさんことサメ牙神父の前に顕現。
からかいを継続しようと口を開く。
が。
相手もそれなりの使い手なのだろう。
転移のラグを見逃さずに跳んできたようで――。
「はは、隙だらけなんだよ!」
ザザザザザザ――ッ!
魔力で強化した健脚が、ちょこまか動くハエやネズミの如くダッシュ!
むろん。
私にはモグラがのそのそ動いているような速度でみえているわけで。
ひょいひょい、ひょいのひょい!
体捌きで全ていなして、ニヒィ!
口元を嫌味っぽく蠢かす。
『おや、当たらないね?』
一瞬、目を見開くもサメ牙男は感嘆の息を漏らし。
「おもしれえ、おもしれええ、おもしれええぇぇぇぇぇ! 雑魚のくせして、女のためにやるってか! その自尊心、そのお綺麗な顔! 両方まとめて抉って嬲って、ぐっちゃぐちゃのミートパイにしてやるよおおおぉぉぉ!」
三白眼が輝き。
ギヒヒ!
暴風の魔術が私の神父服を、ぐうぉおんと揺らす。
『おや、風纏いか』
「バーカ! 魔術を警戒しないで避けたところで無駄無駄! 雑魚が、調子に乗った結末がこれなんだよ!」
突進と合わせた風魔術での行動妨害。
まあ並の相手なら、効果はあっただろう。
「大魔帝殿――っ!」
「雑魚、雑魚、ざーこ! ぶわははははは! 終わりだよ――! 雑魚雑魚ざっこっこ! はーっはっははっは! 生首、まずは一つ目!」
錆鉄の香り放つ三日月刀が月明かりを浴びて――シュン!
嗤うように輝き。
一閃。
一瞬、私の首が刎ねられた幻影が二人の視界には映っていただろう。
まあ、残像なんですけどね。
実際に起こっていたのは――斬撃のぶつかり合い。
向かってくるサメ牙神父の三日月刀を、私はとある金属で真正面から受けていたのだ。
キン、キンキンキン!
挑発するように、顔をギシっと近づけた私の吐息が――サメ牙神父の前髪を揺らす。
『残念、やっぱり君の攻撃……当たってないね?』
「ああん?」
受けられたと悟ったサメ牙神父の動きは速かった。
即座に身体を回転させ、遠心力を加えた斬撃の連打が私を襲う。
ぎしん――!
響くのは、金属と金属がぶつかり合う音。
さすがにここまでくれば、私が武術でまともに戦える存在なのだと理解できたようで。
サメ牙神父は後退。
強化魔術の紋様を指で刻みながら吠える。
「どういうことだ――っ! てめえ、雑魚じゃなかったのか!?」
『まあ全世界の中で数えるのなら、私を雑魚と呼ぶ方もどこかには存在するのだろうね』
飛んでくる唾を避けながら、私はニヤリ。
私は使用していた武器をさりげなく、見せてやる。
「なっ……!」
「フォーク……だと。はぁ? おい、ありえねえだろ……」
女帝も、サメ牙男も――ぞっと息を呑み込み。
私の指の上で回されるフォークに、その視線を奪われていた。
そう。
私が使っていたのは、正真正銘。
ただのフォーク。
『だって君――弱いだろう?』
メロンの果肉に刺さっていたフォーク。
さきほどからの連撃を受け止めていた、果肉がついたままのフォークを――片手でピョコピョコ。
『ハンデが必要だと思ったんだけど、気に障ったかな?』
告げられたサメ牙男の毛が逆立つ。
わなわなと揺れる心を楽しむ私に目線を合わせ、犬歯を尖らせ敵は吠えた。
「クソッたれがぁあああああああああぁぁぁぁっぁ! 調子に乗ってるんじゃねえぞ、三下ぁぁぁあああああああああぁぁぁぁ!」
繰り出される殺戮のなんちゃら君の刀撃を全て軽くいなして、受け流し――くくくくく!
片手だけで。
フォークだけで――戦ってやる。
むろん、ただの嫌がらせである。
焦り、汗を滴らせ――サメ牙神父ヴァルスくんはぐぎぎぎぎと歯を食いしばり。
純粋な破壊力のみを追求した魔力弾を放ってくる。
が!
『威力も低い、速度もダメ。不合格さ』
指導者の声で私はフォークの先にちょっぴりと魔力を這わせ、ササササ♪
魔弾を切り裂き蝶の形にしてみせて――ひ~らひら♪
魔力の蝶が月に向かって跳んで、サァっと消えていく……。
むろん。
これも何の意味もない、なんとなくイイ感じの演出である!
「な、ありえねえ……っ――、ありえねえ、ありえねえぇぇぇぇぇええええ!」
「つ、強い……なんて領域ではないな。大魔帝殿、そなた……っよもや、これほどの使い手だったとは」
称賛を浴びて、ドヤァアァアアっと猫の私ならドヤ顔をしていたんだろうけどね。
今は神父だから――ふっと微笑。
目の前のサメ牙を震わせる敗者を見下しながら。
そっと嗤ってやる。
『言わなかったっけ。私、これでも結構強いんだよ』
最強ではないけれどね、と。
魔王様の尊顔を思い出しながら、苦笑してみせる。
フォークだけで三日月刀を打ち払い。
相手の急所――喉や、瞳。肺や心臓。致命傷となる静脈などを――チクチクチクチク。
回避してえ。
チークチクチクチクチク!
また避けてえ!
チークチクチクチクチクチク!
「くそ、いて、いて……え、クソクソクソクソ――ッ! なんで、なんでこっちの攻撃があたらねえ!」
むろん。
ただの嫌がらせである!
別に猫状態の時におデブと言われたことを、いまだに根に持っているわけではない。
「な……っ! ありえねえ! ありえねえだろ! 卑怯だぞ! どんなインチキをしてやがる! ただのフォークで俺様の技を防げるわけがねえだろう!」
『さて、どうしてだろうね』
これが力量の差。
単純な武術鍛錬と技量の差である。
しばし男は考え、ピカーンとなにやら思いついたのか。
ビシっと私を指さし、にひぃ!
「ははーん、わかったぞ! そのフォーク、さてはなんかウルトラやべえ魔力が込められた伝説のフォークだな!」
え、えぇぇぇ……。
その発想はなかった。
んーむ。
このヴァルスとかいう、どっかでみたようなサメ牙神父。
ちょっと頭が残念なのかもしれない。
『まあ伝説のフォークでもなんでもいいけど。しまったな、騒ぎが大きくなりすぎてる――これじゃあ音を聞きつけた衛兵が巻き込まれて殺されちゃうかな』
遊びの時間は終わりという事だ。
なら次にやるべきことは――というと。
答えは簡単。
指を鳴らした私はフォークを魔力で溶かし、チクチク攻撃で呻くサメ牙男に向かい解き放つ。
金属の散弾が、サメ牙神父を襲う。
『君って何度でも蘇るんだよね?』
「ああん? そうだぜ!? こええか!? こええだろ!」
身を貫かれても余裕を保ったまま、男はギヒリと嗤い続ける。
きっと、まだ。
不死の怖さを知らないのだろう。
そろそろ種明かしをするべく、私は質量保存の法則を無視した魔術を一つ。
増殖の魔術でフォークの金属を培養。
座標を計算して転移。
一瞬だった。
私の意思に従い、かつてフォークだった金属波の戒めが――サメ牙神父の身体を覆っていた。
タイミングよく、廊下から無数の気配がやってきて。
野太い衛兵の声が響く。
「こ――これは……ッ、陛下! ご無事ですか!」
「妾は無事だ! 皆のもの控えよ! 覆われしこの者こそが我等の敵、あの殺戮のヴァルスである! 黒髪の神父は味方だ、けして手を出すでない! いいか――っ、絶対に敵にするな! 手を出そうものなら妾の雷霆が下ると知れ!」
強制力のある命令魔術か。
やっぱり、職業が女帝なだけはある。
「おお、おお! 裂き甲斐のある肉がいっぱいじゃねえかぁ!」
と、ヴァルスくん。
こいつ、ぶれないなあ……。
上擦ったゲスの声を聞き、私は指を更に鳴らす。
四肢と首に、鎖を絡みつけ更に拘束。
拘束された男は、血走らせた目で周囲を見渡しターゲットを探すが――それはすぐに私を捉え始めた。
挑発の魔術にかかったまま。
男は私を狙い続けるのだろう。
私が術を解かない限りは――。
永遠に。
「バーカ! 無駄だって言ってるだろうが! 死なねーんだから! 殺されたってなあ、無駄なんだよおおぉぉぉ、うひゃひゃ! 明日にはまたてめえの首を刎ねに来てやる!」
『それは重畳。何度でも遊べる壊してもいい玩具だなんて、君はああ、そうか。神様がイイ子の私に与えてくれたプレゼントなのかもしれないね』
私の身体が闇に溶けて――月明かりを浴びて、黒猫の姿で再臨していく。
大魔帝ケトス。
猫魔獣としての私を目にした、サメ牙神父ヴァルスの顔が歪む。
「てめえは……っ」
恐怖が、男の手足の末端を震わせているのだろう。
歯をがたがたとさせている自分に気が付き。
サメ牙神父は、弱々しく息を漏らす。
「な……んだよ、これ――あれ、俺様が、ブルってるってのか」
喉を震わせ、ぞくりぞくりと貌を青褪めさせていく男を見て。
私はニヒィ!
『久しぶり、っていうほどの時間じゃなかったね。けれど、またさようならだ。そうだね、でもさあ――このままお別れだとつまらないだろう? しばらく君に付きまとってあげるよ。君が許しを乞うて、犠牲者に詫びて、全ての機密を泣きじゃくりながら話したくなってしまう程に――何度も何度も、殺してあげようじゃないか。それってそうだね、喜びたまえよ。君、キミはただつまらなかった男から、玩具に格上げされたってことなんだ。それって、うん、きっと名誉な事だろうね。だって、この私に遊んでもらえるんだから。ああ、そろそろ時間切れかな。衛兵がもっと来ちゃうね。じゃあ、また殺してあげるから。次のリポップを楽しみにしておいておくれ。私は影という影、闇という闇のどこからでも現れる。気をつけたまえよ――リポップポイントを私に知られたら、君の負け。そこが終わりさ。ゲームを知らない君には分からない概念だろうけど、リスポーン狩り、っていうのかな? 意味が理解できたら――きっと、ゾクゾクすると思うよ』
ネコは時に残酷だ。
獲物を嬲り、喰らう前に弄ぶ。
私はネコ。
魔王様のネコ。
節度も秩序も知っている。
けれど。
それはあくまでも理解した上で我慢しているだけ。
そう、外道相手でもない限りは――私は紳士として行動しているだけ。
ウズウズ、ぶわっと私のモフ毛は膨らんで。
にひぃ!
『ぷぷぷー! 君――弱いね』
「クソ猫がぁああああああああぁぁぁっぁぁあああああぁぁぁ――ッ!」
わなわなと呻くそのサメ牙を眺め。
ぶにゃはははははと嗤った私は肉球をパチン!
「あがぁ……っ、いぎ……ぁ――っ!」
魔力で鎖を引き絞り。
ぶちん。
無様な男の四肢と首を――刎ねた。
◇
再生できずに消滅し、どこかでリポップしている魂を眺め。
私は猫口をうにゃーん♪
ククク、クハハハハハハハハハハ!
さあて!
しばらく粘着してやるか!
これは正義のため。
これ以上、不死の男が悪さをしないために必要な案件!
別に!
私の冬毛の麗しボディをデブと言った事を、いまだに、ネチネチ!
根に持っているわけではないのである!
悪意のある。
と前提付きではあるが――。
女神教徒狩りじゃあぁぁあああああああああぁぁぁぁぁぁ!




