大魔女のヒトミは何を見る ~歓迎と洗礼~
学園の皆に見送られたのが朝の話。
現在は既に正午も過ぎ、夕方にはちょっと早い中途半端な時間。
既に私たちは王都に到着していた。
現在、我等は門の前。
関所となっている入国管理塔にて待機中。面倒な処理をハザマ君に丸投げして――私はエリカくんの腕の中でびにょーん! としていた。
やっぱり人間に抱っこさせて移動!
肉球とネコあんよの隙間に小石が詰まっちゃうと、ムズムズしてよくないし。
これがネコちゃんの愛らしい姿だよね!
「ケトス先生、先ほどの露店で購入した焼きそばと呼ばれる麵料理ですわ。お召し上がりになりますわよね?」
『おー! 気が利くね、転移で魔力を使ってしまったからね! もちろん頂くよ!』
王都では割り箸の文化もあるのか、パチっと割って。
ちゅるちゅるちゅる。
豚バラさんの脂を吸ったキャベツがなかなかどうして、美味である!
思わず哄笑を上げてしまうのだ!
『くははははははは! 良いぞ、良い! 我を崇めよ! 存分に奉るのじゃ! くはははははははははは!』
「まあケトス様ったら、お笑いになる姿まで素晴らしいだなんて。おほほほほほほほ! 美女とネコが優雅に食事を楽しむ。この光景は後の英雄譚、アタシと先生の物語にふさわしき名場面となりましょう!」
私とエリカ君は目線を合わせて、ニヒィ。
くははははははははははははははははははははははははははははは!
おほほほほほほほほほほほほほほほほほほおほほほほほほほほほほ!
門の前に、素晴らしい合唱がこだましていた。
……。
二人の笑い声に、通行人がささっと目線を逸らし――逃げるように散っていくが。
まあ気のせいだろう。
優雅に笑う私達を見てだろう。
生徒の一人体育会系の好青年ミシェイルくんが腕を組んで、怪訝そうな顔をする。
「先生! 目立たないようにするのではなかったのですか!」
『そうだよ。だから君もそんなに大きな声を上げてはいけないね。ほら、君も食べたまえ。食事はみんなで食べた方が美味しいからね』
むっちゅむっちゅと焼きそばを啜りながら、私は肉球をパチン!
分裂させた焼きそばパックを全員分顕現させる。
熱々焼きそばを受け取った――エルフっぽい耳のぼそぼそ姫騎士フローラ君が、やはりぼそぼそと言う。
「いや……先生……。そんな……分裂なんていう……人外の領域の魔術を使ったら、さすがに目立つ……し。まずいんじゃ」
王都の門を見上げて、クイっと甲殻マフラーで口元を隠しながら彼女はぼそり。
「それにしても、すごい……、ほんとに、ついちゃった。先生、短距離で、栄養補給しないと、駄目……とはいえ、こんな……移動魔術。半日で大陸の半分移動……なんて。やっぱり……大魔術師です、よね」
本来なら到着は一週間ぐらいかかるはずだったのだが――まあ私だからね。
転移魔術で道中にある町の食堂を軸とし、連続転移をしたのである。
まあ、本当は一瞬でここまで跳べたんだけど。
何をしたかったのかは……だいたい理解してもらえるとは思う。
じゅるりと青のりのついた猫口を舐めて、私は悪の顔を滾らせブニャハハハハハハハ!
言わなきゃバレないだろうし。
黙っておくけどね。
の、筈だったんだけど。
「あら? フローラさんお気づきにならなかったのですか? ケトス先生なら一瞬で王都に跳ぶことも可能でしたわよ?」
「え……? じゃあ……なんで、時間をかけて……連続、転移をしたの?」
甲殻マフラーでハテナマークを作り、首を横にコテン。
分からず悩む彼女に向かい、ミシェイルくんが言う。
「そりゃあ! ケトス先生の目的がグルメにあるからに決まっているだろう!」
「あら、ふふふふふ。ミシェイルさんはお気付きだったのですね。こちらも一方的にお世話になっているだけでは申し訳ないですしね、可能な限り先生にグルメを提供する。それがマダムサンディと聖女先生からの伝言でしたもの。先生はアタシ達に気を遣ってくださって、ちゃんと自分の目的も果たせているよと無言でアピールしてくださったのです」
あー……なるほど。
……。
その通り。
『ふふ、さすがに分かってしまったか。しかし、それを口にしちゃったら意味無いじゃないか。悪かったね、フローラ君。ちゃんと説明しておけばよかった』
い、いえ! ……とちょっとだけ声を張って、すぐにぼそぼそ姫騎士に戻って彼女は言う。
「先生……す……すみません……。てっきり……ただグルメ目当てに……無駄に転移をしていたものとばかり……。それにしても……あなたたち。エリカさんに、ミシェイルさん。脳まで筋肉か魔力のバ……少し、思慮が足りないって、前まで……言われてたのに、凄い」
フローラくんから尊敬のまなざしを受け。
二人は――おほほほほほほ! ハハハハハハハ!
「おほほほほほほ、当然ですわ! なにしろ先生が優秀ですから!」
「オレは何故先生が魔力を渋っているのか。ハンドさんに聞いただけだ!」
ハンドさんって――あ、本当だ。
ミシェイル君、いつのまにか護衛で、血塗られた栄光の手であるハンド君とけっこう仲良くなってるぽいな。
しかし、聞いたって……口がないけどどうやって……。
文字にしたって、異界出身だし……。
まあいいや。
ともあれ私も負けていられない。
笑う二人のついでに魔力を滾らせその横で、ニヒィ!
『くはははははははははは!』
「おほほほほほほほほほほ!」
「ハハハハハハハハハハハ!」
さすがはマダムサンディの選んだ生徒、私と相性が良い!
あわわわわとしながら、ざわつく周囲を見渡しフローラくんが混乱した様子で言う。
「え、えぇ……こ、これ……自分も、やらないと……いけないんですか?」
構わず我等三人。
焼きそばを食べながら、合唱。
「も、もぉ! め……めだたないって、話は……どうしたんですか!」
姫騎士なんていう気丈そうな職業なのに、フローラ君がかぁぁぁぁぁっと紅い顔をマフラーで隠して叫ぶが。
どうやら助け船がやってきたようだ。
戻ってきたハザマ君が通行証を片手に、ふふっと笑ってみせる。
「その必要はないよ――好きな奴だけ笑えばいいし……あたしも真似しろっていわれても無理だし……。さああんたたち! 楽しそうにしている所を悪いけど、出発だよ。許可が下りた、留学先――我らが王都の学園に入るよ」
『悪いね。私、入国チェックとか判子押しとか――そういう細かい仕事は好きじゃないんだよね~。ネコにそういうのをやらせるのは、うん、よくないと思うし……』
ぴょんとハザマ君の胸の中に飛び込んで。
こっそり。
『で、どうだい。私達の留学に対する入国管理塔の反応は――』
「どうだろうねえ。関所でバカみたいに笑う残念な生徒と食いしん坊な使い魔が、ただ遊びに来ているように見られているみたいだけど……少なくとも敵意はなかったさ。今のところはね――。どうする、魔術で洗脳しちまうかい?」
しばし考え――。
『いや、民間人だったら可哀そうだし。なにより洗脳魔術自体を感知される可能性もある。グルメ観光をする前に問題は起こしたくない』
「了解。じゃあとりあえず学園近郊に用意されているホテルにチェックインをしちまうかね」
ホテルにもグルメはあるだろうし。
……。
それになにより。もし戦闘となるならば――出入りの多いここは民間人を巻き込む可能性が高い。
私達は移動を開始した。
◇
ホテルへと続く大通りには何故か人の気配がない。
人払いがされている、という空気も無い。
周囲を見渡すと樹々のざわめきも止まっている。
後ろで歩いていた筈のハザマ君も、フローラ君もミシェイル君もまるで写真の一枚のように動かぬまま。凍り付いたように停止している。
どこからどうみても、何者かの干渉である。
ご丁寧に、空まで夜になっていて――周囲は暗く染まっていた。
私を腕に抱いて歩くエリカ君の足がコツリと止まる。
「あら、これは――お客さん、でしょうか」
『だろうね。どうやら王都に何かがあるって言うのはビンゴなんだろう』
他の三人と違いエリカ君がちゃんと動いているのは――私を腕に抱いている影響で時間系の魔術をレジストしたか。
または……時属性に適性があるのか。
どちらか判断はできないが、まあ動けるのなら庇う相手が減るので助かる。
『エリカ君、ここは私が対処する。君は三人のガードを。ハンド君がそれぞれ護衛しているけど、念のためにね』
「承りましたわ。どうか、ご存分に――」
空に魔力扇を顕現させたお嬢様は、妖精のような顔立ちを引き締め――すぅ……。
戦士の顔で魔力を纏う。
時間停止状態の三人。
それぞれの影の中で蠢くのは、四体の血塗られた栄光の手。
彼等は私のお願いに従い、時間停止状態の彼らを守るように意識し始めているのだろう。
がんばるぞー!
と、ピースサインを作って、拳を握って勝利宣言までしている。
まあ、並の強者程度でハンド君の結界を破れるとは思えないんだけど――。
この子達もたぶん私と一緒で手加減、苦手だろうしなあ……。
いや、なんつーか。
襲ってきた相手を、うっかり殺しちゃいそうなんだよね……。
よっと!
地面に降りて――私は空間と時間を止めている犯人に向かい声を上げる。
『時間停止の魔術なんて、そこそこ高度な事をしてくれたところを悪いんだけど――私には通用しないよ。殺したくなる前に出てきてくれないかな? こちらは仲間が三人固められているからね、ちょっとだけ――そう、ちょっとだけ殺気立っているんだ』
「ほぉ! すごいのう! ボクの時間停止魔術が効かない相手なんて始めてじゃ!」
ホテルの前。
明らかに待ち伏せするために作られたであろう施設――看板のないレストランから若い女の声が響く。
現れたのは――魔女姿の女性。
星屑を散らす箒を持ち、身長よりも巨大な三角帽子をかぶった子どもである。
もっとも。
その年齢が見た目通りに子どもなのかどうかは、かなり怪しいが。
レストランの中には、破裂式の魔道具の存在が確認できる。
本来なら時間を停止している間にこちらを運び、レストランという密閉空間に閉じ込め魔道具の破裂に巻き込むつもりだった――のかな。
そういうことをレストランでするなんて、外道なのだが――ともあれ私は口を開いた。
『ボクっ子かあ。で、魔女姿のお嬢ちゃん。戦いになる前に聞きたいんだが――君、何歳だい?』
「あー! キミ、失礼なヤツじゃのう! 初対面のレディにいきなり年を聞くなんて。デリカシーの欠片も無いと見える」
小っちゃい身体で腕を組んで。
ぶすっと頬を膨らませ小さき魔女は言う。
「まあ、よい。使い魔のネコ相手に本気で怒るのも大人げないからのぅ。さて、初めまして南の学園の留学生達、といっても、止まっちゃってるから聞こえんかな? ボクは学園の大魔女、キミたちが留学する筈だった中央学園の理事長じゃ」
『留学する筈だった?』
どうやらかなりのご年配のようだが。
ふーむと瞳を細め、私は理事長さんとやらに目をやる。
「ああ、何故ならば――キミたちはここで死んでしまうからのう」
言葉に反応したエリカ君が、スゥっと瞳を閉じて――私との授業の成果を見せるかのように四匹のフェニックスを同時に召喚。
守りを固め始める。
無鉄砲に飛び出さず、指示通りに守りに徹しているのはなかなかに高ポイント!
「ほぉ! フェニックスを同時に召喚とは! おぬし、聖女候補のエリカ嬢じゃな! ほんに残念じゃ、これほどの強者を消さなくてはならないとは。本当にのう――」
んー、敵さん宣言みたいだし。
このまま消しちゃってもいいんだけど。
……。
なーんか引っかかるんだよなあ。
『ねえ、一つ訊きたいんだけど。キミ、時間停止なんていう一般人相手に無双できる魔術を扱えるんだ、そこそこ強い筈だよね?』
「むろんじゃ」
『なら、どうして気が付かないんだい?』
巨大な魔女帽子をこてりと横に倒し、訝しんだ様子で魔女理事長は言う。
「何の話じゃ? 危ないから下がっておれ、レベル一桁の猫魔獣を殺めてしまう程、ボクも鬼ではなくてのぅ。見逃してやる、弱き者の命までは取らん――はよう去れ」
ん-む、生徒ですら一部の強者は反応していた。
私の底知れぬ素晴らしき力を除き見てしまい、身を震わせていた筈なのだが。
いっそ殺しちゃってネクロマンシーで従属させるか。
いや、それもどうなんだろ……。
でも生徒も守らないといけないし。
そもそもだ。
かよわき猫である私を見逃そうとする時点で、完全に悪者とは思えないし……。
事情が分からないと、なんとも言えそうにないか。
でも、襲ってきてるのも確かだし。
んー。
んー。
んー。
向こうからこっちの力に気が付いて、全面降伏してくれると楽なのだが。
『あっれー、なんで気付かないんだろ……変だな……』
ぶにゃーんと顎に肉球を当て。
ぷすぷすーっと頭上に疑問熱を浮かべる私に、エリカ君が言う。
「ケトス先生、たぶん……王都に入る前に――こっそりするためにと幻術を強化したからではありませんか? アタシは先生を愛しておりますから見えますが、おそらく……レベルや強さもかなりの深度で隠匿されてしまっているのかと」
ポンと肉球に肉球を当てて、猫のおめめをくわ!
『ああ、なるほど! 道理で! ははははは、ごめんね~。いや、一定以上の強者だと私の一端に触れて怯えたり、逃げたり、土下座対応してくるもんだからさ。時間停止状態ならちょっとだけ解いても、別に大丈夫かな』
言って私は幻術を一部解除して、いつもの状態に戻す。
まあただレベル隠匿を止めただけだし。
並以上の存在ではないと私のレベルを見破れないのは、普段と変わらないのだが。
当然、時間停止魔術を行使できるレベルの魔女が気付かない筈もなく。
空気が、変わった。
世界が揺れる。
止まる世界で――音が、微動する。
「……――え?」
カタン……と小さな手から箒が落ちる。
追う魔女の瞳は、揺れていた。
魔女の瞳には何が見えているのだろうか?
おそらくそれは――私という闇の一端。
「な……っ、なんじゃ――これは……――、手が、動かん……っ」
目を見開き呆然とする魔女の顔を見て。
静かに私は猫口だけを蠢かす。
『へえ、良かったよ。ちゃんと見える領域にいて。無駄に殺さずに済みそうだ』
「おぬし、いったい何者じゃ……?」
尻尾をふぁさりと動かして、私は猫手をチペチペ。
ただの猫ですアピールをしながら、紅き瞳を――ギシリ!
『さあ、何者なんだろうね。まあともあれ……私の機嫌を損ねぬうちに、私の庇護下にいる者達の時を戻すといい。私は気まぐれでね、今はキミ「たち」を殺さないでいるけれど――五秒後にはどうなるか。うん、私自身にも分からないんだ。ごめんね、殺さないであげる保証ができない』
むろん。
ただのそれっぽい演出である。
さて、これで相手の反応次第で結果が変わるのだが。
誰よりも先に動いたのは、人でもネコでもなく魔道具だった。
大魔女の帽子に、亀裂が走り――目と口が生まれ始める。
《何者か? ぐはははははは! いいぞ、いいぜ。鑑定だな! イエス、マスター。――術式発動――! クールに決めるぜ!》
ぎひひひひひひ!
魔女の持つ独特な魔術形態。ハロウィンの懐かしさを感じる私の前で、魔道具である帽子が輝き出す。
魔女の帽子から魔法陣が展開。
すぐさまに理事長は犬歯を覗かせる程に口を開き、手を伸ばしていた。
「バ、バカモノ! この超やっべえ魔力が見えんのか! 待てい! 鑑定、強制解除――!」
しかし、もはや魔道具は私の魔力を浴びて異常をきたしていたのだろう。
魔女の帽子は語りだす。
《ひゃーははっはっは! 俺の魔術は止まらねえぜ! 鑑定術式――レベル10発動――!》
「たわけが! 解除じゃと言うとろうが!」
主人の命に従わず。
大きな口が――くわぁぁぁぁぁぁ。
牙が。
魔力が。
早口で語りだした。
《本名――消失。暫定名――大魔帝ケトス。種族――猫魔獣。あわ、あれ……レベル判定不能。属性、獣。神。魔。人。測定不能。あばばばばばばば。特技。ネコパンチ測定不能領域。盗み食い。測定不能領域。やば、取り込まれ……憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。勇者。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。ぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうおぞうお――――》
あ、バグっちゃった。
帽子に宿っている鑑定術式と魂が、ぎゃあああああああ!
止まれ止まれ止まれ!
叫んで泣いて、自らの口を止めようと手を形成。
口を抑えようと抗うが――その牙と口は、憎悪、憎悪とうわごとのように繰り返し続けている。
『やっぱり鑑定レベルが高すぎると私の憎悪まで鑑定しちゃうようだね。いつかの鑑定娘はオーバーフローを起こして気絶しちゃったが、帽子君、キミ、魔道具みたいだしね――たぶん一生そのままなんだろうけど……仕方ない』
可哀そうになったから、パチン。
肉球を鳴らし鑑定術式を妨害してやる。
紅き瞳を輝かせ、魔法陣をぐーるぐる。
時間逆行魔術を続けて発動。
帽子くんが鑑定魔術を使う前の状態にまで、置換。
『まあ、こんなもんかな。どうだい帽子君、気分は』
《おい、理事長! この黒猫やべえぜ! 絶対に――逆らうなよ! ひゃーっははっはは! 選択肢を間違えると皆殺しだ!》
皆殺しぃ! それ、皆殺しぃ!
妙に嬉しそうに手を叩いて連呼しているが……なかなかどうして性格の悪い魔道具である。
喋る帽子って、はたで見てる分にはコミカルで嫌いじゃないが。
自分の頭の上で喋られるのって、けっこううざったいかもね……。
「じゃから、やめろと言うたじゃろうが――! それにしても、とんでもない魔術師じゃな……こんな美しい魔術式は初めて目にするぞ。すごい、すごいのじゃ!」
魔術式を読み解く魔女の瞳が青く光る。
きっと。
感動すらしているのだろう。
『さて、なぜこんな事をしたのか。話してくれるね?』
「あ、ああ……もちろんじゃ」
大魔女は、ごくりと息を呑み――。
慎重に動き出す。
「その、なんじゃ。勘違いはしないで欲しいのじゃが。悪意はなかったのじゃ。ちぃと見てくれるかの?」
天を指さし、私に見ろと促した。
罠であったとしても関係ない。
そうだったとしたら今度こそ容赦なく殺すだけなのだから――私もエリカ君も上を向き。
……あれ?
星空に書かれた言葉に眉を顰める。
そこには異界の文字でこう書かれていた。
なーんてな、びっくりドッキリしたかのう! ようこそ、我が学園へ! マダムサンディ、我が愛弟子の弟子たちよ、いついかなる時も油断する事なかれ。感謝するがいい! これはボクからの最初の授業でもあるのだぞ!
と。
レストランの方をよく見てみると――中には歓迎パーティの準備ができている。
破裂魔道具は……ぱんぱかぱーんって鳴るクラッカーか。
あーこれ。
あれだ。
留学生を歓迎するための、アレだ。
私とエリカ君は顔を見合わせて、真顔で頬をヒクヒク。
呼ばれたフェニックスも、チッ――と舌打ちをする。
きっと彼女達もこう思っているだろう。
こんな糞面倒な状態の時に、ドッキリなんてしかけてくるんじゃねえよ。
と。
お嬢様とニャンコがじぃぃぃぃぃぃぃっと理事長魔女を睨む。
帽子の方が、ぎひゃははははははは!
《だから俺様はなんか嫌な予感がするから止めようって言ったんだぜ? 皆殺しか! 皆殺しか! 俺様は帽子だからセーフだよな! ケトスさま、あんたの役に立つからセーフだよな!》
「あは……はははははは! と、まあサンディちゃんの弟子たちをちょっと脅かすつもりじゃったのだが……その、あれじゃ……す、すみません」
この後。
帽子と大魔女。二人していきなり、土下座をした。
◇
ええ、どうしよう……なんかキャラが濃いし……。
帽子まで喋るし。
生徒達もぶっ飛んでるし。
私、三つより数が増えるとネコちゃん頭脳な思考容量が埋まっちゃって。
こう。
ぶすぶすーっと頭が過熱されて暴走してしまいそうになるんで。
無駄に増えないで欲しいのだが……。
んーみゅ。
猫の頭がパンクしそうかも……。
常々思うのだが、なんで私みたいにまともな存在って少ないんだろうね?




