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【SIDE:エリート令嬢エリカ】神父教師とお嬢様 ~謎のトンデモ教師~その3



【SIDE:エリート令嬢エリカ】



 教師と聖女。

 エリカお嬢様の訓練という名の対決という名の、エンターテイメント。

 観客たちはこれから始まる魔術戦を期待し、熱気と興奮で湧きたっていた。


 舞台に立つ二人にも、その熱気は伝わっている。

 もはや、魔術戦の流れを断つことはできないだろう。

 勝負の流れを作った張本人、負けず嫌いな聖女候補エリカはムフフと黒いギャグ微笑を浮かべ。

 口元に手を当て、こっそりプププ。


 ――うふふふふ、かかった! 白兵戦では負けましたが魔術ならば――観客を味方にすればこの勝負、逃れることなどできませんわね!


 流れを掴んだ勝負師の顔で、お嬢様は謎の神父教師に向かいビシっと指を差す。


「どうなんですの! 皆さまは魔術授業も望んでいるように思えますが? ねえ、そうですわよね!」


 観客席にいる男子生徒達から、やっちまえー!

 その生意気な男教師をぶっ潰しちまえ、エリカさま!

 学生たちの軽いノリではあるが、魔術戦に賛同するような声が上がり始める。


『はは、これは――すごいね』

「それほど遊びに飢えているんですわ。あらあらー? もしかして、皆さんが声を上げ始めて緊張なさっているのですかー?」


 悪役令嬢スマイルのお嬢様の言葉。

 揶揄を受けて微笑し、扇を亜空間に収納する神父教師。

 男の言葉が続く。


『ふふ、どうだろうね』


 案外に注目を集める事になれているのか。

 神父教師はまるで皇帝を彷彿とさせるほど堂々と、高らかに宣言していた。


『生徒諸君! 君達も続きが見たいだろうか! 貸し切り状態になってしまって悪いが――この場でそのまま訓練を行いたいと思う! 賛同する者はどうか拍手をもって我等に応えておくれ!』


 キャーと黄色い声援が上がる。

 自信に満ちた美壮年教師。その色気に中てられた乙女たちが騒ぎ始めているのだ。

 武芸の達人と神父を尊敬し始めていた者達も、盛大な拍手を送っている。


 ついでにノリで拍手を送る生徒達も含め、闘技場は拍手と喝采で満ち溢れ始めた。


『君が仕掛けた勝負だ、グルメ報酬を追加しておくれよ?』

「魔導契約書に付け足しておきますわ。これでよろしくて」


 サラサラサラ――。

 空に浮かべた契約書に魔術文字を追記するお嬢様。その白く細い腕を確認し、神父は言う。


『じゃあどんな魔術が知りたいんだい? いいよ、君が望む形でなんでも、何度でも――教えてあげるよ』


 その方がグルメ報酬も倍増だし。

 と、妙な事を言っているが――自信満々だ。


 その鼻をへし折ってやりたい。

 エリカお嬢様の脳裏に、そんな――年上への下剋上にも似たサディスティックな感情が浮かび始める。


「そうですわね。では、アタシは同レベルの魔術量の相手との戦いをしたことがございませんの。先生、アタシと同程度の魔力で魔術弾の撃ち合いをお願いできますでしょうか? 制限時間内に受け切れたら先生の勝ち。打ち負かせなかったらアタシの負けとなります」

『構わないよ。つまり、私は君には傷をつけず反撃せず――ただ君の撃つ魔術弾を同程度の魔術弾で相殺すればいいのかな?』


 観客が、あちゃー……こりゃ先生の負けだと苦笑い。

 お嬢様の並外れた魔力量を知っているのだ。


「あら、先生の方から放っていただいても構いませんわよ?」

『こっちは臨時とはいえ教員だからね。生徒に傷をつけるとマダムに怒られる』


 おかしい。

 エリカは思った。

 相手が落ち着き過ぎている。


 けれども、魔術の弾丸――魔弾の射手に分類される分野の力は、単純な魔力量で威力が決まる。


 だから観客も、ハメたなエリカ様――と。

 こっそりと行おうとしていた賭けの対象にできないじゃないか! と、少しだけ残念そうにしていた。


 ――まあ、アタシの魔力量を知らないだけ、ですのね。けれど、自分が有利な状況を戦闘前から作り出す、これも立派な兵法。悪いけれど、勝たせていただきますわ。


 皆が皆。

 エリカお嬢様の勝ちを確信する中。


「それでは、よろしくお願いいたしますわ!」


 魔術戦は開始された。


 ◇


 訓練が始まり五分ほど。

 観客は皆、拍手を送りお嬢様と神父教師の訓練に賞賛を送っていた。


 魔術弾のぶつかり合いは一見すると地味だ――けれど、魔術式を見る事が出来る人間、ここにいる学生たちならば話は別。

 お嬢様が撃ち出す様々な魔術弾は華麗で優雅。

 洗練された輝きと威力を持っていたのである。


 実戦で起こりやすい遠距離での戦いを意識した、素晴らしい模擬戦。

 そのまま映像としたら教材に使えるのではないか。

 そう思えるほどの魔術練度。


 観客たちは熱狂する。

 退屈だが、いつ死ぬか分からない日々。そんな環境だからこそ、こんな撃ち合いでもエンターテイメント。

 もっとやれ、もっと見せろ!

 青春を楽しもうじゃないか!


 そして、観客はこうも思っていた。


 なんだ、エリカさま。ちゃんと先生を敬って手を抜いているじゃないか――と。


 そう、お嬢様の撃ち続ける魔弾の射手を、神父は受けきっていたのである。

 魔力量で劣る筈の神父教師が、ギリギリのラインで撃ち落としていたのだ。


 しかし、今度は魔術を得意とする一部の生徒が気がつき始めた。

 この神父は、エリカ嬢の魔術式とまったく同じ、全く同じ魔力量の魔弾の射手を打ち返しているのだと。

 そこで彼らは思い出す。

 エリカお嬢様は言っていた。


 アタシと同程度の魔力で魔術弾の打ち合いをお願いできますでしょうか?

 と。

 その言葉の通り、神父教師はリクエストの通りに再現してみせているのだ。


 他人が使った魔術式を一瞬で再現?

 天才と称される生徒の一部が、さらに気が付いた。


 それがどれほどの技量か。

 どれほどの研鑽を積めば、そこまでの芸当ができるのか。


 これはあくまでも教育。

 だからこそ、生徒の要望通りに披露してみせている。

 それはグルメを報酬とした一種の魔導契約。


 もしこれが、本気となったのなら?

 きっと、なんだって出来てしまうのだろう。

 それこそ世界を滅ぼせる程に。


 ぞぞぞぞ、ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ。


 一部の生徒はぞっとしていた。

 熱狂するギャラリー達を見て、なんで彼らは気付かないのだと――無知を羨んだ。

 気付いてしまったのだ。


 コレは明らかにおかしい存在だ――と。


 武芸の達人として黒の神父を見る者。

 男の異様さに気が付き始めた魔術の天才たち。

 なにもしらず、なにもきづかず。ただただエンターテイメントとして楽しむ生徒達。

 様々な視線が送られる中。


 まずいと、お嬢様は思った。


 ――押しきれない? っく……なんて卑怯なんですの!? この男、きっと魔術戦も得意だったんですわ!


 このまま撃ち続ければ受けきられる。

 そんな神託にも似た直感が、賢いエリカ嬢の頭にデデーンと走ったのだ。


 そう。

 お嬢様はこんなアレな性格をしていても、ちゃんと聖女候補なので未来視にも似た先見の直感能力を有しているのである!


「お待ちになって!」


 あくまでも自然な流れを意識し、お嬢様は続ける。


「あまりにもギャラリーが集まり過ぎておりますわね。魔術戦では流れ弾がギャラリーに飛んでしまう可能性がありましょう。普段ならば結界を張ってあるのですが――今回は急でしたから。どうでしょうか、戦いではなく競い合いに致しませんか?」


 もちろん。

 神託に従って魔術戦を避けます!

 などという筈もない。


『なんだっていいよ。君達が学び、これからを生きるための知識はなんだって必要だ。君は望むまま、思うがままに提案をするといい。教師として――私は君が選ぶ選択を尊重しようじゃないか』


 かかった!

 思わず、ぶわはははははは! と、令嬢では絶対しない悪役な哄笑を上げたくなる。

 けれど、ぐっと我慢しお嬢様は言う。


「では、そうですわね――召喚対決にいたしませんか? 呼び出した召喚獣同士を戦わせて優劣をハッキリさせるのです。無論、ルールに則って術者への攻撃も妨害も禁止となりますが――構いませんか?」

『いいよ、召喚だね。その方がうっかり殺しちゃうこともないからいいかもしれないね』


 なにをかくそう召喚は得意分野。

 お嬢様はやはり勝利を確信し、にやり!


「まあ嫌だ、うっかり殺してしまうなんて――神父様ですのに案外、冗談も好きなのですね。ふふふふふ」

『大丈夫。もしうっかりやってしまっても、ちゃんと蘇生してあげるからね』


 あら、意外、と。単純に感心したエリカ様は、きょとんとした少女の顔に戻っていた。

 死が間近な現在。

 教師はそういう物騒な冗談をあまり言わないからだ。


 ましてや蘇生など、神話の領域ですらもあまり耳にしない。

 そんな戯言を放つ教師の口の向かう先は、やはり観客全体――。


 教師の言葉を借りるなら生徒諸君、全員に宣言していた。

 バッと長い手を広げて、神父は朗々と語る。


『若者よ、君達は知りたい事や、やりたい事を貪欲に探すといい。足掻くといい。求めるといい。諦めるというのならそれでもいい。休むことも逃げる事も私は否定しない。それが本心からの決断なら、きっと結末を受け入れるだろうからね。故にこそ――思う存分に生きるといい。選択するといい! 好きなように生きるといい! 私は全てを肯定しよう!』


 エリカ嬢は眉を下げる。


 ――逃げてもいいだなんて、変な教師ですわね。


 聖女見習いとして過ごした幼き日々。

 時には怒声を浴び、時には死にかけて――いつか魔物と戦う戦士となるべく、聖女としての修業を強要されていた幼い日の記憶。

 辛く昏い幼少時代の思い出が、彼女の眉を下げさせたのだ。


「随分と甘い教育方針なのですわね」

『私にも先生――師と言える恩人がいてね。あの方はいつも私をそうして自由に育ててくれたんだ。だから私も生徒の自主性は尊重するべきだと、そう思っているんだよ』


 師を語るその表情だけは、何故か様子が違っていた。

 ぞくりとするほどの尊い顔。

 まるで神話時代の英雄のような顔立ちで、穏やかに、美しく唇を微笑させていたのだ。


 かぁぁぁあああああぁぁぁっと頬が赤くなっていたが。

 お嬢様は思っていた。

 あら、風邪でも引いたのかしらと。


「そう、なのですね。まあいいですわ! では召喚対決といたしましょう!」

『さて――今回、君はどれくらいの力を私に望むのかな? いいよ、選びたまえ。学びたいと思うものを、知りたいと思うものを自由に選択するといい』


 絶対に負けない自信のあったお嬢様は、ふふっと微笑する。


「では、少しだけ本気になっていただけますか? できたら、ここにいるギャラリーがあっと驚いて、腰を抜かし、息を呑むことすら忘れてしまう程の存在を召喚して――なーんて、召喚獣ではそんなこともむずかしいですけれどね。まあ、少し派手な召喚獣を呼んでいただけると皆も喜びますわ」

『ふむ、少しか――手加減って難しいんだけど。いいよ、やってみよう』


 言って神父は亜空間から謎の聖書を召喚。

 手のひらに乗せて、バサササササと開いて見せる。


 それを見ていたのは、この神父の異様さに既に気付いた者達。


 きっと。

 この黒の神父はその要望に応えるのだろう。


 では彼女は何と言った?

 少し本気になっていただけますか――だ。


 観客席にいた一部の生徒が、大声を上げ叫び出した。


「エリカ嬢! 待て! そのリクエストはいますぐに取り下げたまえ!」

「おやめなさい、エリカ!」


 少し乱暴な手を使ってでも舞台を止めなくてはならない。

 一部の天才たちが同時に跳んでいた。

 止めなくては、何かが起こる。


 師から授かった魔術を解き放ち。

 あるいは伝説の武器を抜き放ち。

 英雄候補と呼ばれる学園の要たちが、何の打ち合わせをする事もなく――独自に、それぞれがそれぞれで判断し。

 一斉に行動を開始したのだ。


 ザザザザザザザ――ッ!


 明らかな異常事態。

 明らかな混沌。


 その光景に、何も気づけなかったギャラリー達もようやく何事かと騒ぎ出す。

 何が起ころうとしているのか。

 それが分からない。


 当事者故に気付かぬ一人。

 聖女候補――エリカお嬢様は意識を集中させている。


 彼女は既に魔術扇を翳して魔法陣を描き出している。

 皆の制止など届いてはいない。


「それでは、魔術閃光の合図と同時に――いきますわよ!」


 宣言がそのまま合図となり――輝く魔術閃光が出現。

 英雄候補たちが止める間もなく。

 召喚対決が開始された――。


 少女は確信した。

 勝利を祝う歓声を、確信していたのだ。


 だって、それほどのモノを呼び出すんですもの。

 それは彼女が努力をしてきた結果。

 亡き母のために、死に物狂いで訓練を積み続けた果てに手に入れた力。


 複雑な魔術と契約。

 今まで得てきた知識と魔力を駆使して、召喚魔術を発動させる。


 ――アタシは、負けるわけにはいかないの! 本気となった大人相手にも、負けないと証明してみせますわ!


 少女はまっすぐ前を見た。

 呼び出した瞬間に、打ち負かす相手の顔を見た。


 神父教師は――嗤ってすらいなかった。

 ただ冷静に手を翳し。

 彼もまた、召喚魔術を発動させた。


 そして――。

 それは顕現した。



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― 新着の感想 ―
[一言] あれだ…昔ケトス様とホワイトハウル様…いえロックウェル卿でしたっけ?と召喚対決した時はお互いを召喚していた。つまりもう一人…分身という形でしょうかね?で自分と同じ…又は同程度のもの(ひと?)…
[良い点] 猫がちょっと本気で召喚? 鶏や狼が来ちゃうんじゃない?
[良い点] うわーこれぞまさに泥仕合! [一言] う~ん…。謎の神父?さん何召喚するんだろね。 ヤバイ感じはしちゃうな。((o(^∇^)o))
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