異種族の結束 ~ネコちゃんが集めた英傑達、黒幕占い編~
様々な種族が揃った魔猫要塞の会議テント。
まん丸お月様と焚火を囲む猫魔獣が、ウニャウニャと歌う秋の夜。
宣教師魔竜をぶっ倒すため!
大魔帝ケトスこと最強で最恐ニャンコな私は今日も行く!
ビシ――ッ!
出揃った情報を東洋占術の魔道具に入力。
エウリュケさんらが調べていた、魔竜神信仰を広げる宣教師魔竜。
巨人達が出会った宣教師魔竜。
リベル伯父さんがみた、呪いのサツマイモさんを売りに来た行商人のフード男。
そして。
新たな情報が三つ。
冥界神レイヴァンが冥府から覗いていた現世の動きと、死者たちから聞こえてくる宣教師魔竜らしき存在への陰口。
大いなる光が天界から観察したという、魔竜の群れのボス――やはり宣教師のような魔竜。
更に――。
私とリベル伯父さんの結託の末、狩った魔竜たちを死霊化洗脳し得られた情報。
それら全てを宝玉の魔道具として受け取ったのは、協力者となった水神様。
宣教師魔竜に人間相手に臆したか!
と、たきつけられてやってきた、おじゃるおじゃるな東洋龍である。
朕龍さんこと水の神、天子黒龍神が自慢げにヒゲをうねうねさせながらコホン。
「むむむ? 何かの祈祷の舞でおじゃるか? それとも、猫魔獣の本能で変なポーズをとっておるだけであるか? ともあれウニャウニャ踊っている所を悪いのであるが、準備ができたでおじゃる。合図さえ貰えればいつでも占術を発動できるのである。ふむ、さすがは朕よ。さて――準備は如何か?」
『あー、そっか。文化が違うもんね。東洋魔龍には私のイケてるポーズが分からないのかな。まあいいや。んじゃ、とっとと倒しに行きたいし頼むよ、朕さん。みんな、念のため各自、自分の身を守る結界を――もし宣教師魔竜がそれなりの存在なら、占い映像越しに攻撃をしてくる可能性があるからね』
言われて皆は頷き。
それぞれが魔法陣を展開――精鋭が揃っているだけあって、それなり以上の防御結界が生まれようとしているのだが。
どっかの二人は、なぜか競い合うようにバチバチと睨み合い。
冥界神レイヴァンお兄さんが吹かすタバコの煙で、周囲を守り回避能力を大幅向上させる強靭な暗黒結界を張り。
白鳩の大いなる光が祝福によるオーラで、三回までどんな攻撃でも防ぐ絶対防御結界と、状態異常完全耐性付与の結界を味方全員に張る。
さすがに主神たちの張る防御結界。
皆は結界を張る前に超強力な防御状態を付与されて、それぞれ行き場を失った自分の結界を眺めて複雑そうな顔をしている。
なんとなく私も対抗して。
聖者ケトスの書を開き、バサササササササササ!
ここにいる全員に、一度までなら死んでも自動蘇生できる最上級のオリジナル祝福を付与。
ドドドドドド、ドヤァァァァァァァァァ!
レイヴァンお兄さんも、大いなる光も私のドヤ顔を見てぐぬぬぬぬぬ!
更に防御結界を張ろうと、二人とも十重の魔法陣を床に広げ始める――が。
朕龍さんが黒き鱗を輝かせ――くわッ。
「水神ごときの朕が言うのは恐縮なのであるが、敢えて言わせて貰うでおじゃるよ主神クラスの御三人。なーにを遊んでおるのか! いつまでも占術発動の保留はできないのでおじゃるよ! 遊んでいられると困るのでおじゃるが!」
さすがに川を作り出せる程の水の神。
お説教モードの顔はけっこう怖い。
ギャグキャラよりの相手にまともな説教をされた我等三人は皆。
なはははははははは!
『た、たしかに! いやあ、ごめんねえー! なんかそれなりに強い存在がいると対抗意識が出ちゃってさあ。普段、ここまで高みの領域にいる存在と戦う事もないし。本気を出せるチャンスかなあ、とかそういう強者なりの悩みがあるというか』
「そ――そうなのよねえ。ついつい本気を出したくなっちゃうというか」
「ま――まあ、でもたしかに大人げなかったな!」
更に、なははははは!
と、笑う主神クラス三柱に一同はジト目を向けている。
朕がしっかりせねば……と、朕龍さんがまとめ役になりキリっと龍目を光らせる。
「まあ、喧嘩はともかく――これで守りの術も完璧であろう。術を発動するが如何か?」
『オッケー! 今度こそ頼むよ!』
他のモノも準備は問題ないようで。
一同、こくりと頷く。
それを見届けた天子黒龍神の周囲に、煙が広がっていく。
漂う五行の魔術文字。
宝玉が輝きを放ち始めた――。
魔術を発動するべく、水神は身とヒゲをうねらせ。
宣告。
「では――いくでおじゃる!」
そして。
占術は発動した。
◇
そこに映し出されたのは、何処かの街の風景。
未来を見る筈の占術を少しアレンジして、現在の宣教師魔竜の居場所を投影している魔術ヴィジョンなのだが。
映るのは、どこか豪奢な屋敷の中にいる人間サイズの男の姿。
目深なフードを被る、どこか陰気な空気を含んだ存在なのだが――。
フードの向きが変わり。
それはギシシと振りむいた。
「おや? おやおやおやおやおやおや!? その占術は天子黒龍神の珍妙な占い術ではありませんか! はてはてはて? なぜ、なにゆえに、隠れている筈のワタクシを映しているのでしょう」
気付かれている、か。
どうやら占術による探査が成功したのだろう。
引き締まる空気の中、占術で敵の場所を視る朕龍さんが言う。
「知れた事であろう、宣教師の魔竜よ。そなた、朕を謀っておったな?」
言葉を受け、フードの奥から瞳をギラギラギラ。
宣教師魔竜はまるで殺人ピエロのような湿った空気を醸しだしながら、おどけてみせる。
「謀るだなんてとんでもない! 誤解でございます! だってワタクシは言いましたでありましょう? 東洋魔龍の長、かつて人間と共に歩んだ水神であり――人に裏切られ泣いたあなたともあろう方が、人間相手に臆すのかと! はて、ワタクシなに一つ間違ったことなど言っておりませんよ」
「戯けた事を! よくよく聞いてみればそなた、巨人族達にも同じように人間相手の戦争だと謀り、狂戦士化の呪いまでかけ戦争に巻き込みおって! 命を、魂をなんだと思っておるのじゃ!」
水神としての怒りが、映像の先に見える周囲の川をバシャバシャさせているようである。
瞬時に動いたのは大いなる光。
どうやら天界に残す本体に連絡し、揺れる川を探りだしたようだ。
探られているとは知らないのか、宣教師魔竜はニヒィと口角をつり上げ。
「命や魂など、所詮は魔竜神さまへの供物。すべてがあの方のモノでございましょう? それをあの方の一番の信徒であるワタクシがどう扱おうと、自由というモノではありませんか?」
「なんたる不遜! 貴様は竜族の恥さらしぞ!」
典型的な狂信者か。
「おや? 天子殿、怒っていらっしゃるのですか? いやはや、困りましたねえ。けど、けどけどけど? ワタクシ、間違ったことは言っていないのですよ。何故なら今回の計画、我が神の復活計画にはこの世で最も強き人間が相手になると分かっていたのですから。人間相手の戦争といっても、いいのです。ええ、いいのですいいのです」
ぎょろり、と。
フードの奥の眼が、まるで人間のように黒く揺れている。
「そうでしょう? 大魔帝ケトス閣下」
え? なんかこっちに振ってきたよ。この人。
こういうタイプ、嫌いなんだけどなあ。
『どうして私を知っているんだい、君。どこかで会った事あったかい?』
「いえ――それでもワタクシは知っております。一方的なファン、と申し上げておきましょうか。ケトス殿……かつて異界にて人間だった哀れなる猫魔獣さま。幾度の死、幾度の絶望の中、魔王陛下に拾われた憎悪の魔性! 世界を破滅させし殺戮の魔猫! 三つに揺れる閣下の魂にはいまだ、人間が含まれている。今のこの世界、騒動があれば必ずあなたが現われる。まるで世界を救う勇者のように――かならず、かならず、かならず降臨されるとワタクシには分かっておりました。そしてあなたは、ワタクシの予想通り降臨なされた。ありがとうございます、ああ、ありがとうございますケトス閣下! 御方を相手に戦争をするのですから――ええ、もうお分かりですね。それすなわち、最も強き人間との戦争――ほら、嘘ではない。嘘ではないでしょう? 天子黒龍神殿」
随分とまあ、無理のある詭弁である。
私がかつて人間だった転生者だと知らないものは、それなりに驚愕したようだが。
朕龍さんは涼やかに告げる。
「暴走とんでもぶっ飛び大魔帝殿をお呼びして、きさま、何を企んでおる――。この方に本気で逆らったら最後、どうなるか――そこまでこの方を承知しているそなたなら理解しておるのだろう? なにゆえ、この無邪気なる暴食破壊神を呼んだのか。答えよ、答えよ!」
なんかシリアスな顔でさりげなく、とんでもない悪口を言われていたような気もするが。
話の腰を折る程、私も短気ではない。
「理由ですか? ふふふふ、ふふふふふふふふふ。聞いて、しまわれますか。いや、困った困った。何を企むか。まあいいでしょう。魔竜と魔龍のよしみです。計画の一つを晒してご覧に入れましょう」
なぜか男は私を見て。
「ワタクシの狙いは大魔帝ケトス、あなたにあります。ワタクシはあなたの秘密を知りました。あな悲しや大魔帝ケトス! 苦しいでしょう、憎いでしょう、憎悪しているのでしょう! あなた様は、この世界の人間達による身勝手な勇者召喚を受けた、犠牲者! 不完全な儀式故に世界と世界の狭間に取り込まれ、漂い続けた混沌なる魂! 勇者になる筈だった者の、なれのはて。それがブレイブソウルの王、大魔帝ケトス! そして、あなたは剣を手にした。あの御方の剣を――ええ、そう。もう、おわかりでしょう。いえ、分からないかもしれません。どちらでもいいでしょうね、ワタクシとあなたが分かればいいのですから」
スゥっと手を伸ばし。
宣教師魔竜は言った。
「大魔帝ケトス様。いえ、こう言った方が正しいでしょうか。二度と戻られぬあの方の代わりに選ばれた新たな勇者――ケトス様と。さあ――勇者様。この世は悪で満ちている。人も魔も神も竜も全てが悪! もはや存在する価値などないでしょう? そうでしょう? あなたがそれを一番知っている筈。だからあなたは剣に選ばれた。そうでしょう? さあ、主よ! 我が主君である魔竜神様を降臨させ――ワタクシと共に世界を滅ぼしましょうぞ。あなたにはその権利がある」
戯言で空気を揺らす不愉快な魔竜に――。
私は言った。
『君――勇者の関係者だね』
指摘されたのが嬉しかったのだろう。
ギヒヒヒヒヒと魔力持つ哄笑を上げ、蠢くフードの男は言った。
「ええ――たしかに! この身。かつてあの方の供をしておりました――! 魔竜であったワタクシを認めてくださったあの方と共に、世界を救ったこともございました。何度も何度も救いました。おかしいですね、おもしろいですね。魔竜の魂をもちながら、人の身であるワタクシを唯一受け入れてくださったあの方。勇者様。ああ、ワタクシの勇者さま。居なくなってしまったあなたのために、ワタクシ、必ずやこの世界の平和を守って見せますと。微力ながら尽力したのでございます」
けれど――と、まるで舞台に立つピエロのように大袈裟な仕草で肩を落とし。
「あの方がいなくなってしまった世界は――ワタクシに冷とうございました。人間の世でも、魔竜の世でもワタクシは疎まれ追放されました。あの方々はワタクシが怖かったのでしょう。人間の顔をしているが、心は魔竜。魔竜の心を持ちながらも、顔は人間。いつ裏切るか分からぬ爆弾。信用などするものか――勇者亡き後、だれがきさまのような狂った道化を制御できようか! そう、ワタクシに冷たく言い放つ者もおりました」
落とす肩が揺れる。
その背後から、魔竜の影がゆらりゆらりと浮かび上がってくる。
影の魔竜と共に、男の口が蠢き続けた。
「心外でございました。あんまりでございました。ワタクシ、勇者様がいたあの日々だけはたしかに……英雄だったのでございます。たしかに人を救い続けたのでございます。それを否定することは誰だって、許さない。ワタクシと勇者様との思い出だけは誰にも穢させない。おっと! 熱くなってしまいました、失礼。ともあれ――かつて世界を救った勇者の仲間が、平和になった世で疎まれ迫害される――よくある歴史の一ページ。英雄譚ですら語られなくなった、使い古された喜劇がそこにあったのです。ええ、よくある話。本当にごくありふれた物語で御座います。けれど――やはり面白くありません。お前達を救ってやったのは、ワタクシと勇者様であった筈だろう――と。そこでワタクシ、理解したのです。あの方がいないこの世界など――間違っていると。ねえ? そうでしょう? 新しき勇者様」
こいつ。
魔竜から人間へ生まれ変わった、つまり――転生者か。
宣教師魔竜は、ぎしりと肯定するように口角をつり上げた。
「ワタクシ、こう思うのです。勇者様が戻らぬこの世界など、滅ぼすべき悪そのものではないのか――と」
その瞳は、かつて戦い私が滅したとある女神の末裔に似ていた。
勇者に恋い焦がれ。
勇者に全てを捧げ。
勇者を盲目的に愛していた――哀れで悲しき女性。
たしかに、私は――あの時、勇者の剣を入手した。
けれどそれは偶然であり、私が勇者というわけではないのだが。
目の前の狂信者に言っても無駄だろう。おそらく、話は通用しそうにない。
魔竜神とは、あの勇者の事を指した方便だったのか。
それとも別に存在しているのか、それも現状だと分からないが――。
ともあれ。
ものすっごいシリアスな空気の中。
私一人、えぇ……と呆れたジト目でモフ頬をぽりぽり。
様々な事実や憶測が、この宣教師魔竜の口から語られたからだろう。
皆が皆。
私に注目をしている。
かつて人間だった者。勇者になるべく呼ばれた魂であったこと。
そして。
戻らぬ勇者の代わりに生まれた、今の勇者なのではないかという妄想。
皆の心中は知らないが。
ともあれ私はこう思っていた。
うわぁ……と。
勇者の関係者って、話、聞かないタイプしかいないんだよね……。
つまりは――。
まーた、めんどうな相手だって事でやんの……。




