異種族の結束 ~ネコちゃんが集めた英傑達、腐っても主神編~
他拠点制圧を完了した皆が帰ってきてから数時間が経っていた。
草木が眠るにはまだ早い。
けれど、こどもが寝るにはもう十分な時刻か。
これから主要メンバーを揃えた魔猫要塞で、会議が行われるのだが――。
現在。
大魔帝ケトスこと賢いニャンコな私は、皆から受け取った報告書と格闘中。
私が情報整理をしている最中、皆はいま会議テントで顔合わせをしている。
なにやら困惑の空気が流れているが、はて?
まあ。先に報告書を読むべきだろう。
そうそう!
大魔帝ケトスの肉球鉄槌による主神消滅の危機があったりしたのだが――、すでにあの事件も解決済み。
二柱はちゃんと協力して、あの危機を乗り切ったのだ。
鳩に身を窶した主神様、大いなる光がチーズスティックをカツカツ啄みながら翼を広げ。
「あ~あ~、アンタのせいでモフモフちゃんに怒られちゃったじゃないの。神、悪くないのにな~。悪いのはぜーんぶ、どっかのくらーい場所に巣を作っている陰険野郎のせいなんだけどな~」
「あーあ、ったく、糞女神のせいでケトスっちにマジギレされちまったじゃねえか。はぁ……天界、滅びねえかなあ。死者たちはこっちでも暮らせるんだ、要らねえだろ、あんな詐欺師みたいな連中が、ほわほわ浮かんでる場所なんてよお」
酒のグラスを傾け、冥界神レイヴァンお兄さんが応じ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
解決済みといった直後にこれである。
今現在もテントの奥。
こっそりバチバチと喧嘩腰に目線を合わせて、ぐぬぬぬと唸っているので――どうやら、根本的な部分で相性が悪いようである。
さて。
私はともかく、弱き他種族が存在している状態で暴れられたら問題だ。
報告書ごしにニョキっと顔を出した私は、魔王軍最高幹部、大魔帝ケトスとしてのダンディ幹部ボイスでゆったりと口を開く。
『君達、ちょっといいかな? 親交を深める事が悪いとは言わないけれど。いいかい。一度だけ注意させて貰うよ。悪いけれど、少し静かにしたまえ――どうか、あまり私を怒らせないでおくれ』
いつもの、くははははは! モードではなく、普段この二人には見せない紳士たる口調で静かに忠告したからだろう。
ごくりと息を呑んだ主神二人は顔を見合わせて、すごすごと退散。
自らが領地と決めた場所へと戻っていく。
喧嘩をしていたのは主神クラスの神。
冥界神レイヴァン。
天界の主にして主神、大いなる光。
両者ともに多少の軽い怪我はしたものの、既に回復済みである。
いやあ!
よく考えたらさあ!
主神を消滅させていたら、とんでもないことになってただろうね!
でも、ちゃんと協力するって私に言ってくれたし、結果オーライだよね?
はい! 何の問題もなかったという事で、この件は終わり!
ともあれ。
もふもふニャンコの獣毛ですら、ちょっと寒さを感じるぐらいの気温。
お団子でも用意したいほどの、まん丸お月様の輝く秋夜の出来事であった。
私は報告書に意識を集中させる――。
報告書の意義はもちろん、魔竜神及び宣教師魔竜。
黒幕と思わしき存在についての情報交換である。
そろそろぶっ倒したいしね。
『にゃるほどね~、けっこうやるじゃん。みんな』
エウリュケくんからの拠点制圧の報告書をペラペラ捲り――感嘆とした声が漏れてしまう。
私はいつもの玉座にでっぷりとネコ座り。
足をピョコピョコ。
肉球をうにゅにゅとしながら報告書を確認したのだが、要約するとこうだ。
パパのかつやくで大成功です!
とのこと。
まあ、内容はちゃんとむつかしい文章で書いてあるんだけどね。
オーク神と巨人族長の連携!
エウリュケくんとケントくんの広範囲バフ!
ニャンコと巨人とアンデッド部隊の猛進撃!
報告書によると――制圧する度に仲間が増えて、なかなか順調に進軍が成功したらしい。
仲間になったのは、敵側にいた人材。
狂戦士化による洗脳を受けていた巨人族は既に狂戦士化が解け始めていて、族長さんの女傑ゲンコツで改心。
狩った魔竜はネクロマンサーのリベル伯父さんが死霊化し――使役。
まさに破竹の勢いだったらしい。
全ての拠点を勢いのままに制圧したのだが――問題が一つ。
肝心の黒幕候補。
宣教師魔竜の姿がどこにもなかったのだ。
魔竜神がいない理由はまあ分かる。
召喚や降臨の儀式を受ける前なのだから、いなくて当然ではあるのだ……。
んーむ。
ちなみに。
制圧済みの拠点には現在、魔王軍が駐留中。魔帝豚神オーキストの直属の部下オークたちが、数匹の猫魔獣大隊を連れて監視塔を建設。
拠点を取り返されないように、現地を死守するべく残っているとのことだ。
◇
報告書を読み終わり。
夕食をマグロ丼十杯で軽く済ませた私は、会議テントに揃っている皆の顔を見て――。
げぷぅ……、ちょっと磯の香りの猫吐息。
祝福の光でモフ毛を清めて、長い猫舌で――てちてちてち。
よし!
完璧なのだ!
『招集されたメンバーは……揃っているようだね。皆に集めて貰った情報をまとめて、黒幕っぽい宣教師魔竜をぶっ倒そうと思うんだけど――って、どうしたんだい? そんな顔をして。もしかして、私のモフ毛にごはんつぶでも付いてる?』
会議の参加者は皆、目くばせをしあっている。
ここにいるのは――ネフィリム巨人族に、黒龍達に数名の護衛猫魔獣大隊。
一時的に猫化している冒険者と騎士の元人間魔猫。
魔帝豚神オーキストにその娘の女騎士エウリュケ君。
嘆きの魔性化しつつある吟遊詩人のケントくんに、ネクロマンサーで料理人の残念伯父さんリベル。
そして。
冥界神と主神の分霊白鳩である。
ちゃんと揃っている、かな?
私、猫の頭だからあんまり数が増えすぎると混乱しちゃうんだよね。
代表としてオーク神の娘、女騎士のエウリュケくんが私に向かいスッと手を上げる。
「えーと……いつのまにか人物が増えているので混乱しているんですよ。というか――こちらの黒衣の大魔族っぽい方とそちらの鳩さんは、どちら様ですか? かなり高位な存在だというのは分かるのですが」
顔合わせはしてあったのだが。
『そういやちゃんとした紹介はしてなかったね。そこで芋焼酎を大事そうに抱えて、眠そうな顔をしている男の方が冥界神、永遠なる死の皇子レイヴァンお兄さんで。こっちの後光を放って偉そうに無い鳩胸を膨らませているのが、この世界の主神の大いなる光さ』
告げた言葉に、なぜか沈黙が走る。
そりゃこういう反応であろうな……と、奥の方で、紅茶をズズズと嗜む朕さんが、おじゃるおじゃると部下達と談笑している。
『あれ? やっぱり君達も朕龍さんみたいに、驚いちゃってる感じなのかな。大丈夫だって。二人とも、だいぶ性格がアレだけど暴れたりしないし。強さも身元も保証するよ? まあさっきみたいに少し世界が揺らぐほどの喧嘩をするかもしれないけど』
「えーと、ちょっと待ってくださいね。頭の整理が追い付かないので――」
頭痛を抑えるように眉間に手を当てるエウリュケさん。
元人間魔猫達も、動揺したまま主神たちをジロジロジロ。
猫魔獣大隊はにゃんだ、いつものことニャ――とテントの外で焚火を起こし、囲んで夕食のマグロ丼を仲良く食べている。
あ……元人間魔猫の数匹が、なんかものすごい猫っぽい顔でモフしっぽを立てて焚火に向かったな。マグロ丼を食べるつもりなのだろうが……。
あれ?
もしかして、全員じゃないが一部の人間の精神が、完全な猫化しはじめてる?
……。
ま、いっか。
後で強制解除すればたぶん精神も元に戻るだろう。
そもそも出逢ったあの時に、彼らは滅ぼされても仕方がない行為を私にしたわけだし。
うん。
そんな魔導実験感覚で人間を見る私を見て、部下の精神が猫化しはじめてると知らないエウリュケさんが呟く。
「マジですか? マジであの死の皇子様に大いなる光なんですか? 本物の主神ですよね?」
問われて白き翼をふぁさっと開き。
祝福による輝きでテント内を照らして――謡うように鳩は告げる。
「人の子らよ。安心なさい……わたくしは大いなる光。いつでも正しき者の味方。本来なら下界の事件への介入はあまりしないのですが……今回は特例といたしましょう。どうかしましたか、ミス、エウリュケ。浮かない顔をしておりますが。何か不安があるのでしょうか?」
大いなる光、営業モードの声である。
「えーと女神様。あの、不安ではないのですが。こちらには魔族も軍勢に含まれております――天界の女神さまにご助力頂いて、本当に……大丈夫なのですか? そのぅ、倫理観というか。異界から入ってきた言葉で、コンプライアンスとかいうんでしたっけ」
まあ、つい最近まで天界は魔族と直接的な関わりを、意図的に避けていたみたいだからね。
エウリュケさんが疑問を持つこともおかしくはない。
たぶん、魔王様との対決を避ける意図もあったのだろうが――。
ともあれ、大いなる光が鳩目を細めて慈愛のオーラをペカー!
「喜びなさい、人の子らよ。大魔帝ケトスが関わっていたとしても、神はあなた方を見捨てたりはしません。ひとつひとつ、丁寧に、厳正に審査をしているのです。天界会議の結果――神は此度の戦いに手を貸すことを決めました。魔竜の行いは、神に反するものばかりです。そしてなにより、大魔帝ケトスを野放しにしていたら世界が終わる。倒すこともできないし、そもそもワンコの次にモフモフでかわいい猫という種を滅ぼすのには絶対反対! 此度の事件が解決するまで近くで見守るべきではないか? そう――判断したのです。神はいつでも、あなた方、地上の命を全て見ているのですよ」
ここまでは、まあイイ感じの女神様なのだが。
ふっ……と微笑み鳩目を細め、彼女は言う。
「だから、私怨ではまったくありませんが……あんな辛気臭い冥界神信仰など、やめて――この光と慈愛に満ちた大いなる光を信仰するとよいでしょう。ささ、今なら入会金も無料で入れますのでご遠慮なく――事件を解決したら、すぐにでも、近隣の教会へおいでなさい。あなた方を歓迎いたします」
これ、ただの信者の横取りだよね……。神様も色々と信仰を集めようと大変なのだろう。
ちなみに。
白き鳩の後ろでは、レイヴァンお兄さんがキシシシシと鳩の猫かぶりを揶揄っている。
二人とも、さっきは必死になって協力して、私の重力肉球スタンプによる消滅魔術を受け流したんだけどね。
……。
そういやあの受け流された肉球魔術、どこ行っちゃったんだろう。
ふと、私はモフモフな毛繕いをしながら考えるが、すぐにやめた。
どうせ主神クラスの存在にしか効果のない魔術だし。
そのうち、自然に消滅するだろうし面倒なので放置……じゃなかった、問題ないと冷静に判断したのだ。
ともあれ。
大いなる光の言葉を受けたエウリュケさんは、眉間に手を当てたまま。
少し考え込みながらも振り向いて――。
キリっとした声で皆にも告げるように言う。
「なにがどうなると主神クラスの神が二人も揃うのか、理解はできませんが。ま、まあ現実なのだということは分かりました。ええ、大丈夫です! ええ……混乱しているだけなので! とにかく、みなさん! 冥界神様と主神様が御力を貸してくださるのです、勝利の女神は我等に微笑むという事なのでしょう! 人も巨人も東洋魔龍も魔族も、そして魔猫も。皆が協力して戦っている、それはとても素晴らしい事だと、あたしは考えます。我等には勝利の女神も王もネコもついているのです! 油断をする気はありませんが、圧倒的に優位に立っている事は間違いないでしょう!」
たしかに。
こちらは前代未聞の異種族混成軍なのだが、エウリュケさんはそれらを束ねて既にリーダーの顔。
統率スキルを用いた彼女は手をかかげ。
「我等に勝利を!」
さながら部隊を率いる聖女の顔で、凛々しく鼓舞する女騎士。
男装の麗人のような姿なので、神秘的な印象も得ているのだろう。
かなり様になっていた。
そんな。
成長した娘さんを見て。
隆起させた腕を組んだオーキストは、うんうんうんと感無量のようである。
パパ、あたし頑張るからね。ああ、わかっているよ、娘よ。
と。
二人は互いに、目くばせだけでやりとりをしたみたいだが――。
なんか、この二人も……大概だよね。
夜がもっと深くなる前に話を進めたいのだが。
女傑風の顔を仰天させた巨人族の長が、紅葉色の髪を震わせドレスも揺らし私に言う。
「へえ、アタシらが信仰していた冥界神様がご降臨くださって――って、……いやいやいや……なんで降臨してるんだい? アタシも長く生き、長く信仰しているけれど、初めてお会いしたぐらいだよ。ケトスさま、アンタどうやってお呼びしたんだい」
巨人族にとって、レイヴァンお兄さんはかなり重要な神だったのだろう。
モフ耳を女傑風巨人族長さんに向けた私は――にゃほん。
簡潔に説明を開始。
『――とまあ、こんな手段で召喚したんだよ。魔竜神について聞きたかったからね。ちなみに、そっちの大いなる光も同じ理由で召喚したってわけさ。呼べるんだったら呼んだ方がいいだろう? 一応世界崩壊の危機らしいし』
「召喚って……で、できちゃうのかい? いや、まあアンタなら……できちまうんだろうが」
門番巨人くん達も、自らの一族が長年に渡って信仰していた神の登場に困惑したままであるが。
話を聞いていたのは、ケントくんにお酒を注がせていた張本人。
冥界神レイヴァンお兄さん。
「ほぅ? こっちの巨人達とそこの女騎士は俺様の信徒だな。なーるほどなあ」
冥界神様は魔性としての紅き瞳を光らせ――じっくり。
族長さんの瞳を覗き込む。
「ネフィリム巨人族……古き神の子ら。かつて神だった者――グリゴリの末裔、か。禁忌と知りながらも強く生きる人間に魅入られし者。楽園と永遠なる神性……即ち不死を捨てた者。人の子らと愛を育み、愛ゆえにその生涯を終えた者。グリゴリ……かつて我が友だった者たち。そうか――汝らはまだ我を信仰していたのだな」
かつて、遠くに置いてきた昔を懐かしむように。
男は瞳をゆったりと閉じる。
懐かしむように、けれど少し寂しそうに……冥界神は語る。
「懐かしい――ああ、懐かしいな。全てが遠い昔にあった、もはや時すら思いだせぬ歴史たち。堕天するグリゴリ達。考え直せと伸ばす我が手を振り払い、人に魅入られ落ちていった彼らの事は今でも覚えている。反逆者となった彼等を密かに祝福し……その子らである汝らが地上で無事に生きられるよう、この大陸を作り出したのは確かに我だ。そうか、お前達の先祖はあの時の恩を、忘れていなかったのか。信仰という形にし残すとは、ふふ……そうか、なかなかどうして感慨深いものがある。ふむ、ともあれ――その忠義、その献身。大義であった。お前達の心には、いつか――汝らが死した先の世界で必ずや手厚く報いると約束しよう」
静かなる冥王微笑である。
まともな口調と顔をすると、かなり威厳があるようで。
この辺は大いなる光と似ているんだよね。彼女も異世界の事件でその片鱗を見せていた。本当に魂を憂う時に覗かせる表情は、美しく儚く……人々の心を動かしていた。
というか。
このエンドランド大陸を作ったの、お兄さんだったんだね。
こいつら、やっぱり腐っても主神だということか。
「んでさあ。信仰してくれるのはありがたいが、供物は酒とタバコにしてくれよな? いやあ、やっぱりせっかく貰うんなら好物が良いしな! って? なんだ? さっきの威厳はどうしたかって? んな怖え顔すんなよ。俺様が冥界神でなんか悪いのか? ええ、おい。可愛い顔をした族長さんよ」
「か、かわいいって! 何言ってるんだい、からかわないでくださいよ! って、ケトスさま! なんでこんな大物が二人もここに揃っているんだい! 世界征服でもしようっていうのかい!?」
問われた私は、リベル伯父さんからの報告書を受け取りながら横目でブニャン。
『まあやろうと思えばできちゃうだろうけど――そういうのは興味ないんだよね。で、何をするかって言うと……みんなが持ってきてくれた情報を用いての占術。今回の制圧戦でも入手できなかった黒幕の敵さんの、場所やら正体やら弱みやらを、ドドーンと突き止めようっていう私の作戦を披露するのさ!』
言って、私は奥の方に目線をやり。
美味しそうに紅茶を味わってホクホク顔をしている天子黒龍神を呼ぶ。
『朕さーん! さっき君の見せてくれた占術道具をだしてよー! 今から手に入れた情報全部を入力した未来予知で犯人を暴いちゃおうと思うんだけどー!』
「おー、左様か! 左様か! 朕の出番でおじゃるか!」
情報は出揃っている。
私は皆が用意してくれた様々な報告書をネコ手で抱えて、にんまり。
そう、今回の鍵は朕龍さんが見せたあの占術。
実はあの秘術。
結構、優秀なのだ。
条件指定が誤っていた場合は、まったく意味がないのだが。逆に言えば――これから進むであろう未来の方向性さえ把握して正確に指定してやれば、かなりの効果を発揮する占い魔術。
文字通り、情報が武器となるのである。
くくく、くはははははは!
待っているといい、宣教師魔竜とかいうグルメ冒涜者よ!
こちらは戦力も、情報も揃っている。
正面からぶつかっても、後方から襲われても問題なし!
貴様の所在と正体はもうすぐ暴かれる!
その首。
呪われしサツマイモさんへの詫びと弔いのため、刎ね飛ばしてくれるのニャ!




