表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
311/701

要塞防衛戦 ~魔帝 対 魔龍。そうぜつなるたたかい~中編



 秋風薫る、猫砦。

 モフ猫達がモミジの道を歩きながら、わっせわっせ!

 狩った魔竜肉を担いで、わっせわっせ! 冷凍保存するため、わっせわっせ!

 そんな。

 かわいいネコちゃん達の拠点となった、要塞砦。


 猫の楽園ともいえる地を襲ったのは、東洋の龍を彷彿とさせる――古風でみやびなドラゴン軍団。


 ちなみに。

 安心安全な結界の中、眺めるニャンコな私は大魔帝ケトス。

 現在、ブドウジュースをちゅるちゅる啜って、殺戮の本能を抑えている真っ最中。


 いやあ、これ以上私が単独で殲滅しまくると色々と弊害があるからね。

 殺戮のオーラが全開になっちゃうし。

 部下たちの出番も奪っちゃうし。

 なによりも反動で、ついうっかり世界をそのままやっちゃうかもしれないしで、休ませて貰っているのである。


 ともあれ!


 敵さん側の代表。

 リーダーと思わしき朕龍が頭に被る烏帽子をピョンと跳ねさせ。

 フフンと長い龍ヒゲを、うねうねうね。

 斧を構え、転移空間を妨害するオーキストの顔を見て――くわ!


「無礼者! 不敬であるぞ! なにゆえにちんの邪魔をするか! 朕が悪かったと頭を下げているのだぞ? いや、下げてなかったかもしれぬが。それ、そこはおぬし、へへー、あなたさまが全て正しゅうございます。ささ、どうぞ、お好きなように転移魔法陣をお作り下さいまし――と言うべきであろうが!」


 便乗して他の魔龍どもがウネウネウネ。


「お館様がそうおっしゃっているのに、ほんに魔族は、気が利きませんのでありまする!」

「おやおや、お里が知れますなあ」

「である! である!」


 とおせー! あけろー! じゃまするなー!

 と、雅な大合唱。

 なーんか、この魔龍ども。

 ズレてるよなあ……。


 どっかの田舎に隠れ住んでいた所を、黒幕の宣教師魔竜に引っ張り出されてきた、といったところか。

 まあ、情報は持ってるだろうから。

 オーキストには確保して貰うんだけど……。


 私はこちらの戦力をチラリ。


 対するのは、魔帝豚神。

 オーク族の長で神、魔王軍幹部オーキストが、気迫のこもった顔で魔龍どもを睨んでいる。


「笑止! 笑止笑止笑止、笑止である魔龍どもよ! 貴殿らは既に我等が魔王軍の敵! 魔猫の君、ケトス様は一匹たりとも逃すことなく、生きたまま標本にせよとお仰せだ!」


 いやいやいや、そこまで言ってないって。

 女傑風族長巨人さんが、こちらに向けるのは――うわぁ……っという恐怖の視線。ぶんぶんぶん、とモフ顔を横に振って否定する私。


 構わず空では魔帝と朕龍のやり取りが続く。


「ケトスさまこそが魔王様の意志を継ぐもの! 御方こそが世界を征服し、魔王様に献上する英傑! その覇道のためならば、このオーキスト! 世界全土を血の海に沈める事とて厭わん! さあ、抗うモノは前に出よ! 逆らうというのなら容赦はせん! 我が主君の方々の前に、首を差し出せ! 御方のお望みのとおり、魔猫砦と魔猫要塞の柱一面に、きさまらの薄汚い龍首を並べてくれるわぁああああああぁぁぁっぁ!」


 ごごごご、うおうおうおうおごごごごごご!


 あれ?

 オーキストがなんか……ゲームで集団になって倒すレイドボスみたいに巨大化してるし。

 邪悪なオーラを放って、空と大地一面に八重の魔法陣を展開してるし。


 ぶわ! っと、鼻息だけでまーた、向こうの山が壊れちゃったよ……。

 えぇ……だいじょうぶかなぁ……。

 できることなら殺さないで捕らえて欲しいんだけど、ネクロマンシーで操る手間が増えちゃうし。


 魔龍のリーダー朕龍が、龍目を尖らせ唸りを上げる。


「話を聞かぬブタじゃのう――この、ちんが帰ると言うておるのだぞ! ほれ、そこな豚神よ。はよう道を開けい! あーけーよ! あーけーよ! 道を、あけーよ!」


 ビシ!

 っと、胴から伸びるちょこっとお手々で偉そうに宣言。


 烏帽子を魔風に揺らし――巨大魔龍は龍目を見開いたまま。

 ぎらぎらぎら~ッ!

 無駄に偉そうな後光を発している。


「道を開けぬというのなら! 朕も本気を出さねばならなくなる。よいのかぁ? 朕、本気を出してしまうのだぞよ?」


 言われたオーク神が道を開けなかったので。

 再度、龍ヒゲをくねくねくね。

 虎っぽい爬虫類顔を尖らせ、眉間をクイクイ。


「ふーむ、退かぬな。朕らは既に魔竜どもへの義理を果たした。竜と龍。同じドラゴン属だからと手を貸してやったが、これでは話が違う。はて、この圧倒的な魔力。あそこにおわすは本物の殺戮の魔猫。のう、爺よ! よもや朕らは、あの口ばかり達者な宣教師魔竜にていよく利用されたのではなかろうか?」


 朕龍に問われ、お連れの魔龍どもがワイワイと吠える。


「はは! どうやらそのようで!」

「人間どもが相手だから大丈夫ですよとは――よくもまあ、我等を騙してくれたものですなあ!」

「然り! 然り!」


 うむ、と満足げに頷いて。

 にひぃ!


「つまり、朕は悪くないな? 悪くないであろう? そこな巨大ブタよ! 聞こえておったであろう――まさか、なーんも悪くない朕らを追い詰めるようなことは、するまいな? うむ、平気そうじゃな。では霊峰に帰るぞよ――オーク神よ魔猫神よ、さらばじゃ」


 天候すらも操る宝珠をピカー!

 日本の昔話にでてきそうな雲を顕現させ。


「空間転移魔術:転移夢想の舞である!」


 いやあ、とんだ災難でしたなぁ――と、わいわいガヤガヤ。どさくさにまぎれてウネウネウネ。

 空に生まれた階段状の転移亜空間を渡り。

 逃げ出そうとするが――。


 むろん、一度降伏勧告を断った奴らに魔帝オーキストが容赦する筈もなく。


「告げたであろう! この先、一歩たりとも通しはせん!」


 巨大な戦斧。

 狂乱の斧をぶんぶんぶんと回して自己強化の舞を披露し、鼻息を荒くし――フン!


「我が名はオーキスト。大森林にてオークの神として崇められる、種族名ジェネラルゴッドオーキスト! 魔王陛下に仕える武人にして、大魔帝ケトス様の剣なり! 今より、貴様らを蹂躙する者の名をその能天気な脳裏に刻み、地に落ちるが良い!」


 それは、さながら大魔族の登場シーン。

 天に広がる輝きは、魔帝豚神の持つ武人たる魔力。


 それなりにカッコウイイ名乗り上げなのだが。

 それを台無しにするのは、やはり――烏帽子をかぶった朕龍。

 首をこてんと横に傾げ。


「大魔帝の剣とな? はて、朕の目には斧に見えるのであるが? 間違っておらぬか? もしや剣と斧の区別もつかぬか! なんと哀れな。後で魔王城とやらに学習セットでも着魔力払いで送りつけてやるかのう――ほれ、魔王城とやらの空間座標をこれへ。朕のサイン入りで送ってやるでな」


 言われた巨大オーキストは耳をばったばった。

 しっぽを憤怒でぐねんぐねん。

 あ、気にしたんだ。

 カッコウイイ名乗り上げだったのに、潰されてちょっと怒ってるんだ。


 ニャンニャン楽園な結界の中で、私は空の戦いをじぃぃぃぃぃ!

 魔力持つ猫の瞳を輝かせ。

 いつまでもちゃんと始まらぬ戦いを把握し――確信した。


 この遅延。

 うざったらしい演出の数々。


 おそらくだが――この朕龍……厄介なことで有名な、あの属性を持っているのは間違いない。

 かつて私が戦った魔狐フォックスエイルも持っていた、特殊な属性。

 以前にも語ったことがあると思うが。


 その名もギャグ属性。


 ピンチ時に自動発動し、世界の運命を改変し上書き――危機的状況をギャグという特殊空間に誘い昇華。

 本来なら大けがを負っていた状況を受け流したり、敗戦になる筈だった戦闘を仕切り直したり。

 まあ、ギャグという特殊なフィルターで世界を改変し、状況を有利に働かせる強力無比な能力の一つである。


 とても強大な能力なのだが先天的な能力とされ、持っている者は極わずか。

 この能力を例えば魔帝クラスのモノが持っていると、非情に厄介。ただでさえ強いのにギャグで攻撃の無効化まで行ってくるようになるのだ。

 明確な欠点は二つ。

 傍から見てると、なんというか……空気の読めないギャグキャラにしか見えないところ。


 そして、所持者本人がこの能力の習得に気が付いていない所である。

 つまり。

 自らの意思で、力のコントロールはできないということだ。


 ちなみにこれ。

 私にも習得できない、数少ない属性に該当する能力属性の一つである。

 もし、私が持っていたらそれこそ無敵に近いのだろうが。

 残念ながら私はギャグキャラじゃないからね、こればっかりは仕方がない。


 ホワイトハウルにロックウェル卿はおそらく、これに近い能力をもっているのだが。

 ともあれ。


 オーキストがぐぬぬと、唸り。

 狂乱の斧をブオォォン!


「斧でも剣でも、どうでもよいわ! きさまらの空気に付き合ってやる義理はなし。轟き唸れ狂乱の斧よ! 狂乱、狂乱――大狂乱!」


 黒龍の鱗で黒く染まる空に、超音波状の魔力が飛ぶ!

 覆うオーク神の魔法陣。

 威圧の言葉に込めた詠唱で、九重の魔法陣を展開したのだろう。


 ざわざわざわっ。

 魔龍達が、あれ? っと、汗を滴らせ始める。


「なんと! あの豚、本気ぞ! ええーい、ならば朕たちも本気じゃ! 防衛魔術を展開じゃ!」


 魔龍達が並行詠唱で八重の魔法陣をくみ上げる中。

 豚の眼を細めるオーキストが――武人の貌で手を翳す!


「スキル――発動! 転移妨害衝!」


 放たれた衝撃が、どらを鳴らすように空間を、どぉぉぉぉん!


 オーク狂戦士としての戦斧スキル。

 そして、魔帝としての魔導技術の複合技か。


 びしびし、びきーん!

 相手の陣に生まれていた、転移空間がまたしても途切れてしまう。


 効果は単純に魔術の妨害だろう。

 その範囲がとてつもなく広いところが、オーキストが放った技の特徴か。

 ……。

 後で教えて貰おう。

 なんかどらを鳴らすような音が、格好良かったし。


 続けざまにオーキストが巨大な体躯でバっと両手を広げ。

 八重の魔法陣を更に展開。


「降り注げ斧、荒れ狂え魂! 切り裂き妨害せよ! 戦乱舞斧ジェヴォーダンの獣よ!」


 空に顕現させた魔法陣から、ザザザザザザ!

 ジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャッジャジャジャ!

 シュン! シュン! シュン! シュシュシュシュン!


 降り注ぐのは斧の嵐。

 無数の魔力斧の雨を降らし、周囲の魔力を裂いて回る――超広範囲の攻撃スキルか。


 性質としては――召喚の儀式と戦斧スキルの複合だろう。

 魔力斧に異界の幻獣の魂を宿らせ解き放ち、攻撃と同時に呪いを蒔く、なかなかラスボスっぽいエフェクトの技である。

 ……。

 え、なにこの子。


 なんか技が全部ボスっぽい。

 いや、まあ本当に魔帝で大森林の支配者で、神オークで正真正銘のボスなんだけど。

 これも後で教えて貰おう。


 しかし敵もさるもの。


 魔力斧をなんとか弾きながら、やはり朕龍は瞳をくわっ!


「な――なんと! 野蛮! 下劣!」

「こ、これでは詠唱ができんではないか! 他人の詠唱を妨害してはならぬと、親に教わらなかったのか! たわけ!」

「こやつ! ひきょうものじゃ! ひきょうものじゃ!」


 わいわいガヤガヤ。

 低俗なヤジを放つ魔龍に向かい、オーキストが魔力を含んだ怒声で一喝!


「一度口火を切った戦いに、卑怯も下劣も存在せぬ! 主を守りたいと思うなら、我に全力を見せてみる事だ!」


 魔龍が逃走用転移魔法陣を作り出そうとする度に、魔力斧がズン!

 自動術妨害を働かせ交戦中。


 しかし。

 相手もなかなかやるな。ただのギャグ龍かと思ったら、あの朕龍、油断をしない方がいい気がするぞ。

 東洋タイプの細長い龍は、幸運を操作する神獣にも分類される種。

 仲間たちを並々ならぬ幸運値を活かしてカバー。

 ちゃんと意図して、部下を守っているのだ。


 なんだかんだと部下を守り続ける朕龍を見て。

 オーキストが感嘆の息を上げる。


「ほぉ! ふざけた輩であるが、正しく部下を守るか、その心意気だけは良し! なれど、なれどなれどなれどおおおぉぉぉ! 我はケトス様より、偉大なる御方より再度の起用をいただいた誇りと重責を担う身! 完全なる勝利を! 完膚なきまでの大勝利を御方に捧げる義務がある!」


 さながら、みんなでたおすレイドボスが超特大奥義を使うかの如く。

 獣の瞳をぎぃぃぃん!

 巨大オーキストの勝利への雄たけびが空を揺らす。


「我、スキルを――発動せん!!」


 言葉と共に、スキル名が魔術文字となって浮かんでくる。


 《我が主への揺らぎ無き忠義》


 それが、このスキルの名なのだろう。


 おー、なんかそれっぽい!

 ちゃんとスキルを使って戦う英雄譚みたいではニャいか!


 スキル発動による現象。

 オーキストの身体から、更なる魔力オーラがボスっぽい形になって顕現し――広がっていく。


「ぐぐぐぐぐ、ぐははははは! きたぞ! きたぞ! この力! きさまらの鮮血! 空に咲く紅き贓物! 全てを生きたまま掴み、くり抜き、捧げ! 我等が主、狂乱混沌ネコ神――ケトス様への供物としてくれるわ――ッ!」


 この荒ぶる口調。

 その原因はおそらく――戦意高揚の自己バフによる荒ぶり。戦闘能力向上の鼓舞が、オーキストの魔族としての本能を刺激しているのだろう。

 なんか、いにしえの魔族っぽい事を言い出しているし。


 つか、だれが狂乱混沌ネコ神じゃ!

 なんか、知らない間に変な祀り方されてるじゃん!


 しかも。

 私の横で。

 女傑風族長巨人さんが、こちらを怯えた瞳で見始めてるし。


「ね、ねえケトスさま? アンタ……巨人の心臓とか、食べたり、抜き出したりは……しないよね?」

『しないって……いや、まあ錬金術の素材には使ったことがあるけど』


 ……。

 あー、そういや。

 敵対する野良の巨人と出逢った時に、たしかに生きたままくり抜くという事もあったか。


 むやみに巨人を襲ったりはしないが、敵となった時には基本、容赦しないし。


 あれ?

 あながちオーキストの言っている事も、間違ってはいないのか。


「そ、そうだろうさね! はははは! アタシはなーんも心配しちゃいないよ! ちょ、ちょっと待ってておくれねえ。部下どもにハッキリともう一度、阿呆やらかすんじゃないよって言ってくるから」


 そそくさと去った後。


 絶対に機嫌を損ねるんじゃないよ……!

 と、釘を刺す豪胆女傑な声が私のモフ耳を揺らす。

 部下たちの贓物を守ろうと、結界魔術をこっそり張り出してるし……。


 私が、要求したんじゃないのに……。


 んーむ、オーキスト。

 正統派のボスっぽいけど――発言までもが魔族ボスっぽくて。

 私が誤解されちゃうな、これ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ