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巨人たちの隠れ里 ~交渉にゃんこケトス~後編



 門番巨人に喧嘩を売られたニャンコこと。

 魔王軍最高幹部で最強な大魔帝ケトスがいるのは、巨人たちの住まう隠れ里。

 霧と石の街。

 ストーンヘンジタウンと勝手に名付けた地で、魔力を滾らせた私は今、大勢の巨人たちの前で堂々たるモフ毛を靡かせていた。


 交渉に来たのだが。

 決裂しちゃったんだから仕方ないよね。


 囲む影はさながら――電信柱や工場の煙突。

 大きな山々がこちらを取り囲んでいるような――重い圧迫感がある。


 魔族と敵対する道を選ぶ事こそが巨人族の総意――と、受け取った私は、ふふん。

 目の前の巨大な貴婦人を見上げ、渾身の猫微笑。


『まあそういうわけだ。自己紹介は必要かな? レディジャイアント』


 見上げる相手は名も知らぬ女巨人。

 女盗賊のような豪胆な声を上げる、貴婦人の装いをした赤毛の特大女族長である。


「あ、ああ……ぜひ、最初にして貰いたかったね。ウチの馬鹿どもが粗相を起こしてしまう前に――」


 自らを鼓舞するように身震いさせる彼女は今。

 ――怯えていた。

 その切れ長だった瞳に映すのは、私という闇の獣。


 知っているのだろう、彼女は。

 この私が誰なのか。

 その力の一端も。


『で? どうする? 君は淑女で礼儀を知っていた。私をただの黒猫だと思いながらも無事、外に帰すつもりだったようだからね。その優しさに報いる事も、まあ選択肢にないわけじゃない』


 ドヤァァァァっとしたい場面なのだが。

 紳士な声で告げる私は静かに、悠然と猫顔で佇む。


 こういう時って、さあ。

 冷静キャラっぽくした方が凄さが際立つと、私はそう思うのだ。


 それに気付かず、無礼を働いた門番巨人が――何も知らずに私の頬と頭を、デカイ指先でグイグイしながら言う。


「族長? このクソ生意気でちっちゃく細っこい黒猫をご存じなんで?」

「あぁぁぁああああああぁぁぁ!? 恥の上塗りはよしとくれ! せっかく、この御方が慈悲を出してくれた途端にアンタ、そりゃもう犯罪だよ!?」


 ブスっとした顔で、デカイ指に押される私に。

 ひぃぃぃぃぃっと女巨人は顔を凍り付かせる。


 指に押されながらモフ毛をグイグイされる私は、門番巨人をジロリ。


 クソ生意気で?

 ちっちゃくて……。

 細っこい……ん? 細っこい? 細い、細い。細い。

 細っこい! イコール、スマートだよね!?


 ぶにゃ!


『へえ、君の所の門番はなかなか見所があるじゃないか。気に入ったよ!』


 まあ、色々と無礼はあったが。

 細っこい黒猫――と言う発言は、なかなかに好感触なので不問とするのである。

 うんうん。

 私、やっぱり小さくて細いよね~とニンマリする私を見て女族長巨人さんが、部下たち全員に問うように口を開く。


「グルメ魔獣の噂ぐらい、聞いたことがあるだろう?」


 女族長の言葉を受け。

 門番巨人が私の頭をなでなでモフモフしながら、んーと目線を上に向け。


「ええ、そりゃまあ……人間達の噂は、話好きな妖精シルフィードや大空を駆けるグリフォン。伝説の幻獣ヒッポグリフが笑いながら語っていますからね。こことは別の大陸で活動する新勢力、グルメ魔獣……なんでも近年、突如として人間界に現れたとされる謎の獣集団。人間世界をグルメ目当てに徘徊する、妙に膨大な魔力を持っている闇の獣達。でしたよね?」

「ああ、そうさ。そしてアタシはその先も知っている。彼らは邪悪なりしも、民間人と女子供の犠牲を嫌う監視者。全ての善と悪を見通す者達。名物料理がある限りは穏やかさを保つ三獣神――。……その正体が、あの方々であるという事も……っ」


 族長である彼女だけは既に気付いているようだが。


 他の巨人たちはそうではなかったようで。

 それぞれが訝しむように顔を見合わせ、頭にハテナを浮かべている。

 まあ、ただ食べ歩きをしているグルメ魔獣の一匹が、隠れ里に現れたからといってどうなることもない。大した問題ではないと思ったのだろう。


 普通、人間界で食べ歩きをしている魔獣が「あの」大魔獣だとは思わないもんね。


「いいかい……! アンタたち良くお聞き――! 直ちに……っ、武装を解除! 隠れているアンタたちも、すぐに術を解き頭を下げな! 一切の抵抗を示さず降伏の姿勢を――これは族長としての命令だよ!」


 恐怖による引き攣りを堪える乾いた女の声が、私のモフ耳を揺らす。

 相手が巨大だからだろう。

 その吐息で尻尾もゆらゆらゆらゆら――鯉のぼりのように風に流される。


 んーむ、なんか自分で自分の尻尾にジャレたくなってしまう。

 そんな。

 どっかのバカ犬みたいな事はさすがにしたくない。


 モフモフ尻尾への葛藤を知らず。

 女巨人は、牙を剥き出しに球の唾を飛ばしながら叫んでいた。


「はやくおしっ! まだ死にたくはないだろう!?」


 その怯えの気配を辿るように、ゆったり……。

 皮肉なネコ微笑を浮かべる私は、猫の鳴き声に魔力を乗せて語り掛ける。


『おや、どこかの帝国の皇帝さんの反応とそっくりだね。彼も同じことをして危機を回避したからね。ふーむ……ある程度の知恵者だと、だいたい同じ対応になるのかな? でも人間と巨人とは違う種族だろう? もしかしたらどこかに共通点があるのかもしれないが。ぶにゃはははは、ちょっと面白いね』


 肉球を見せながら気さくに笑う私に、ごくりと息を呑む女巨人。


 事態が分からないのだろう。

 門番巨人が、おずおずとした声を上げた。


「ぞ、族長? この小さく細い黒猫になにか秘密が? ただグルメを目当てに徘徊している小さき獣でありましょう?」

「そうですぜ、族長らしくもねえ――たかがグルメ魔獣が顕現したところで、いったい、どういうことか……我等にはさっぱり」


 続く声に、ついにブちぎれたのだろう。


「分からないのかい!? この悍ましくも狂おしい魔力の流れが……!? いいから、頭を下げるんだよ! 全員で!」


 ドレスから六重の魔法陣を展開させた女巨人の叫びが、魔力持つ咆哮となって里を襲う。


 ごごごごぉぉぉぉぉん!

 効果は――部下達に頭を下げさせること。

 これまたやはり、どこかで見たスキル。部下たちに強制的な命令を与える、族長や皇帝などのリーダーとなる職業クラスの専用スキルである。


 これじゃあ女族長さんが無駄にヒステリックを起こしているようで、可哀そうである。

 ま、一人だけ気付いてしまったのはある意味不幸だったか。

 私は、にゃほんと咳ばらいをし。


『ははは、ごめんね~。私、低級猫魔獣のまま強くなった特例だから、どうしても弱く見えちゃうからね。しょーがないなあ。んじゃ、少しだけ。魔力を解放するね』


 言って。

 闇の影を伸ばしながら私は魔力をほんの一部解放させる。


 ザザ。

 ざざざぁああああああああああぁぁぁぁぁぁ!


 それだけで、世界が震えた。

 ようやく族長以外の巨人も私の異常さに気が付いたのだろう。

 この私が、ただの黒猫ではなかったという事も。


 魔族幹部の声音と口調。

 いわゆるクールダンディ魔族ボイスで私は語りだす。


『部下を責めるのはやめてあげておくれ。鑑定妨害や認知偽証。常に様々な自動スキルが私には発動していてね。ある程度の実力がないと、私の力は伝わらないのさ。なまじ君達は巨大な種族だからね、小さくてスマート! な私が弱者に見えても、仕方がない事さ』


 そう。

 私は小さいからね!

 弱く見られてしまっても仕方ないよね!


 女族長が私の名を告げようとするが。

 言葉を肉球で遮り、私はフフンと斜に構えて見せる。


『ああ、いいよ。本当は名乗らず帰ろうと思っていたのだけれど。せっかくだからね。自己紹介をさせて貰うよ』


 言って、私は十重の魔法陣を瞬時に並行展開。


 ザァァァァアアアアアアアアアアアアアァァァッァァァァァッァア!

 霧の街。

 巨人の隠れ里を覆うのは――巨人よりも更に二回り大きな黒猫の影。


 無数の猫が。

 ぐーるぐる。


 ほっそい、ぞー! ほっそい、ぞー!

 偉大なわたしは、スマートにゃんこ~♪


 影の猫達が歌い出し、縦横無尽に走り出す。


 スマートにゃんこな私の影が、うにゃうにゃと喜ぶ私の魔力に反応しているのだ。

 むろん。

 喜びの感情すらも、憎悪の魔性である私にとっては荒ぶる魔力となってしまい。


 ぶにゃはははは! ぶにゃはははは!


 里を走り回る影猫の嗤い声が、周囲を取り囲み始めていた。


「な、なんだ……っ、この引き裂かれる程の、絶望と憎悪の魔力は……っ」

「こ、これは……!?」


 ギニャハハハハハハ!

 魔力の巨大猫影が嗤う中。


 亜空間から大魔帝セット一式を取り出し。

 玉座に腰かけ――紅き紅蓮のマントと、黒きモフ毛をデラデラデラと輝かせ――私はドヤァァァ。

 猫頭に輝きの王冠を乗せ。

 猫目石の魔杖を流星のように輝かせ。


 闇の中。

 私は咢をぎしりと蠢かせた。


『やあ初めまして。脆弱なる巨人族の戦士たちよ。私はケトス。大魔帝ケトス。君達が言う所の魔族。魔王軍が幹部が一人、今は最高幹部をさせて貰っている身だ。世間では私をこう呼んでいる、殺戮の魔猫――と』


 よろしく頼むよ、と――慇懃に礼をして見せて。

 愛らしく猫モフ耳をぴょこり。


 私はここに降臨した。


 ◇


 宣言と共に。

 里が闇の霧に覆い包まれていく。

 むろん、原因は私。


 強大すぎて漏れ出る、力。

 純然たる魔力そのものが霧となって世界を這い回っているのだ。


『礼儀正しい歓迎を感謝しよう。さて――巨人族の総意の通り、我等は敵対関係にある。私は話し合いに来ただけだったのだけれど、襲われるのなら仕方がない。こちらには弱き人間のツレもいるからね、油断はできないんだよ。悪いね。素直に帰してくれないというのなら、正当防衛は――させて貰うよ。じゃあ、始めようか』

「ま、待ってくれ――!」


 叫ぶ巨人達。

 答える魔猫。


『ならば、平伏したまえ――』


 言葉が詠唱すら不要な魔術となって――顕現する。


 輝く玉座の足元からギュィィィン!

 広がる十重の魔法陣。

 肉球で掴む猫目石の魔杖が、くわっと瞳を見開き。


 敢えて私は宣言した。


『魔力――解放。ドレインランス――さあ、君達の答えを聞かせておくれ』


 降り注ぐのは、闇の魔槍。

 じゃきじゃき、じゃきぃぃぃん――っ!

 いまだ武装解除をしていない数人の影を、闇の魔槍が戒め始める。


 術の対象範囲は、族長の命に従わず武装解除をしていない巨人達のみ。

 ……。

 ま、交渉を有利に運ぶためのちょっとした脅しなんだけどね。


「う、うごくんじゃないよ! アンタたち!」

『そう。君達は賢いね。死にたくなかったら、平伏し動かないことさ』


 この槍。

 実は直撃しても死なないのだ。


 いわゆるエナジードレイン。

 ステータスとレベルにダメージを与えて吸収。相手に永続デバフを与えてこちらの力とする、極悪ダンジョンの深層にいるモンスターなどが使用する、嫌がらせスキルである。

 あくまでもデバフなので命を削る事はない。


 ……

 ま、まあ――永続デバフなので、当たるとレベルが大幅に下がったままになるんだけど。

 それくらいは我慢して貰わないとね。


 族長の命や、私の言葉に従い動かなかったらそもそも当たらないのだから。

 それでも恐怖はそれなり以上のモノとなっている筈か。


「ぞ、ぞくちょう!」

「いいから! 動くんじゃないよ! アタシにも、この領域の魔術には一切干渉できない!」


 降り注ぐ闇の槍雨。


 族長の命に従い平伏しているモノは無事だった。

 その槍は素通りして、効果を発揮しない。


 問題は、命令に従わずに回避した数人の巨人。

 身軽に避けた、その背後。

 大地を突き刺した闇の魔槍がそのまま、キィィィィィィン!


「槍から魔法陣が、くそ……っ、いまのは全部、囮か!」


 槍の魔法陣が十重の魔法陣を生み出し。

 魔法陣から召喚された謎生物の触手が、巨人たちの数人をペチペチペチ。


 伸びるじゃがいもの根に、ぺーちぺちぺちと説教されるようにビンタされた巨人が。


「ぐ、ぐわぁぁああああああああぁぁぁぁ――っ!」


 叫びと共に、ノーダメージのぺーちぺちぺち。

 重なるエナジードレインと、装備を剥がされみるみるうちに弱体化されていく。


 この触手召喚魔術の効果は単純。

 闇魔槍の魔法陣から生まれたとある生物、とある異次元大魔族の触手のみが大暴れ。逃げる相手の装備と所持品を全て奪い取る。

 まあ、いつもの窃盗魔術である。


 巨人族の鎧なんて、私も人間も装備できないし……あんまり要らないけど。

 おー、ヤキイモがある!


『おや、抵抗しないのかい? 魔族と敵対するのが総意だって聞いたんだけど。違ったのかな』

「誰がそんなことを……っ、まさか。アンタたち!」


 本当なら、このまま全滅させたとしても。

 魔族的にも社会的にも問題ないのだ。

 なにしろ、勝手に侵入したこっちも悪いとはいえ――取り囲まれて脅されていたことは事実なのだ。


 だが、しかーし!

 私は膨らんだモフ尻尾をフフンと靡かせ、ニンマリネコちゃんスマイル!


『その反応からすると、門番くん達がその場のノリ……というか、闘争本能に惹かれたままに口走っちゃった感じかな。撤回してもいいよ? 私、スマートでちまっこいニャンコだけど、心は大きく余裕もあるのさ!』


 後ろの方で。

 細いと言われたのがよっぽど嬉しかったんですね……と、ケントくんの呟きが聞こえるが。

 気にしない。


 いやああああああぁぁぁ、暴れたから気分もスッキリ!


 満足感にモフ毛をふふん♪

 私は魔術をすべて解除し。

 玉座からおりて、とてとてとて。


 平伏する門番巨人君の手に乗って、スーリスリスリ。

 ごーろごろごろ♪


『にゃはははは! 私は細くスマートだからね! 今回の件は互いにタイミングが悪かったり、行き違いがあったという事で。交渉を最初からやり直そうと思うんだけど、どうかな?』


 提案する私に、女族長巨人はほっと胸をなでおろし。


「あ――ああ、そうしてくださると助かるよ。小さくも力強き、細くスマートでかつ、ゴージャスなモフ毛を持つ大魔帝様」

『えー、やっぱり。私のゴージャスなモフ毛も分かっちゃう? ぶにゃはははは! そう、この美しい毛並みも魔王様に褒められる自慢ポイントなんだよね~♪ そっかー。分かっちゃうよね~!』


 族長たる賢人はなにやら、悟ったのだろう。

 なるほど……この手が一番なのかと。

 私の輝くゴージャス毛並みを褒めながら、ジト目で私を見る女族長さん。


『くはははは! くはははは! そう! 我こそが魔王様に愛されし、モフモフ! 偉大なる大魔帝にゃんこなのである! 我を崇めよ、我がモフ毛を讃えよ! ぶにゃーっはははは!』


 他の巨人たちも、なるほど――と納得した後。

 考え込み。


 えぇ……これが伝説の大魔獣なのか?

 と、小躍りする私をジトォォォォォォ。


 そっかー。

 ここの巨人族はみんなデッカイからね。


 私がちゃんとスマートに見えるのか。

 そっかー……。

 そっか。


 うん。

 ここにしばらく住もうかな?



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