表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
294/701

神に寵愛されし詩人 ~約束されしニャンコ無双~その3



 ざざざ、ざぁぁぁあああああああああぁぁぁぁあああああああ!


 荒ぶる私こと大魔帝ケトスの魔力が放たれたのは、紅葉の中に隠された砦。

 その簡易的に用意された応接室の狭い空間内。


 縦横無尽に荒れ狂うのは、物理的な破壊力を一切持たない魔力風。

 対象は、ここの人間達。

 生意気にも私を二度も襲った恐れを知らぬ、たわけ者達である。


 命まではとるまいと、ちょっと手心を加えた結果。

 選んだ魔術がダメージを伴わない風魔術だったわけであるが――。

 まあもちろん、大魔帝たる私の使う風がただの風の筈もない。


 行使した魔術は、風属性のそよ風を起こす初級魔術にアレンジを加えた私のオリジナル技。

 行動妨害の暴風魔術である。


「き、きゃぁぁぁあああぁぁぁぁ!」

「な! 俺の財布が……風に!」

「ちょ!? 依頼料の前金、全部奪われてるじゃないのよ!」


 そう、実はこれ。猫魔獣お得意の窃盗スキルの効果も複合されているのだ。


 風が奪うのは動きだけではない。

 装備も、金も、所持品も。


『ぜーーんぶ、我のモノなのニャ! ぶにゃはっははははは!』


 両手を広げ、肉球をクイクイしながら、ニヒィ!

 風に靡くマントのなんと美しき事!

 浮かぶ猫目石の魔杖が、あ、それ! あ、それ! とグルグルグルグル。

 窃盗の風をまき散らし、金品財宝を回収して全自動で活動中!


『くははははは! 我に逆らった恐ろしさ、思い知ったか! これらの金品はぜーんぶ、我の夕ご飯代にしてやるのである! 他人の金で豪遊! なんたる甘美、なんたる素敵な響きであるか!』


 哄笑を上げる私に、猫目石の魔杖もカカカカと大笑いするように風を唸らせる。

 うにゃーっはっは!


『命を取らなかっただけ、ありがたいと思うのである!』


 ビシっとポーズを決めて、しっぽをくるり♪

 おー!

 イイ感じにアイテムが回収できる、できる!


 今夜は手に入れた金品を魔術変換させて、マグロ丼を作るのにゃ!


 マントを靡かせ。

 杖と共に玉座の上で、ぶにゃぶにゃ踊る私を見て。

 ギャグみたいな空気とは裏腹の反応を示す冒険者が、数人。


 全身から血の気を引かせた、上級冒険者たちが雪山で遭難した凍死寸前の犠牲者の顔で。

 声を、絞り出すように……歯をぎりりと噛み締め仲間に告げる。


「わかっているな……おまえたち、コレには、ぜったいに、手を出すな……っ」

「ああ、ギャグみたいな魔術に、低級魔獣みたいな外見だが……フェイクだっ。この黒猫……っ、とんでもないなんてレベルを超えている。じ――次元も桁も違いすぎる……!」


 私の強さの一端。

 深淵の中でニャハりと睨む黒猫の私を感じ取った前衛職が、後衛を守るように魔力盾を顕現。

 じりりと後退を開始する。


 自分の腕を抱きながら、僧侶達が全身を震わせ白い唇を揺らした。


「おねがい……っ、こ、これを……この黒猫をぜったいに、怒らせないで! こんな、おおきな闇……っ。いや、もう、みたくない……っ!」

「ネコの器に、世界の憎悪全てを無理やりに押し込めたような混沌! 人の身で、勝てるはずがないです……っ!」


 一人が怯え泣きじゃくり、もう一人が結界を張りながらも杖を震わせ。

 聖書を片手に祈祷する大神官が、絶望と共に告げる。


「おお、おおお、大いなる光様が……っ、全能たる主が言っております! ちょ! それ、本物だから! 本物の大魔帝ケトスだからね!? あんたたち…! なにやっちゃってくれてるのよ!? やらかしたらマジで世界終わるし、天界の神全部集めてもどうしようもないから、気をつけろ……。ていうか、あたし関係ないし……、み、見なかったことにするから……ごめんね~。ま、まあせめてもの情けに……転生だけはなんとかさせてあげるから……と」


 人間の冒険者としてはそれなり以上の職業になる、最高位神官ハイ・プリーステスのご神託を聞き。

 一部の人間達が恐怖で固まり……腰を抜かして絶望してしまう。


 いや、そんなラスボスを見たような反応はちょっと……。

 そういうのは、魔王様相手にやって欲しいのだが。


 ともあれ。

 なんとか正気を保っているが。

 強者ならば強者なほど、その視る力に比例し大きな恐怖を抱いているようだ。


 力ある人間達は、まあある意味――大魔帝の制裁がこの程度で済んで助かったと、安堵しているようだが……。

 どうやら脅しに怯まず……というか。

 こっちの本当の力に気付かない弱者が数名紛れ込んでいるようで。


 ぐぬぬと歯を食いしばって、暴風に向かってやってくる連中が数人。

 雇われ弱小冒険者と、新人騎士さんの皆さまである。


「ひ、ひるむな! たかが相手は猫が一匹とひ弱そうな吟遊詩人が一人」

「こいつらをとっちめて倒すか追い返すかすれば、報酬がたんまり貰えるんだ!」

「や、やるぞ! 俺達の財布を取り戻せ!」


 と。

 せっかく慈悲を与えて殺さないでいるのに、槍や剣を構えてギリリ!

 その貌はやはり正義の味方に憧れる、まだ若い青年たち。


 しかも、報酬が貰えるって暴露しちゃってるし。

 これじゃあ依頼人。おそらくはあの伯父さんがケントくんの首を狙っていたって、バレバレじゃん……。

 駄目だなあ、こいつら。


 でもせっかくだし。

 玉座から降りた私は肉球あんよで――てってけ、てけてけ♪


『ええ? 本当に私とやる気なのかい? 私、自慢になっちゃってほんとうに申し訳ないけど。たぶん、この世界で五本の指に入るぐらいには強いよ?』


 マントをパタパタさせて。

 床から顔を見上げて言ってやる。


 けれど。


「騙されるか! 本当に強い存在だったら、窃盗スキルなんてせせこましい魔術を使うわけないだろう!」

「そうよ! そうよ! わたしのお財布、返しなさい!」


 彼等は自らの武器を掴み、こちらをぎろり。

 おー、若いっていいねえ!

 怯まず襲ってくる、その勇気は嫌いじゃないかもしれない!


 それに全身を震わせるのは、上級冒険者の方々。


「バ、バカ野郎!? 新人共! みえねえのか!? こ、こいつが、いや、この御方が……どんだけヤベエ奴なのか! ちょっと魔力を見れば、わかるだろう!?」

「お……っ、お願いだから、やめてぇぇぇ。コレに、逆らわないで……っ、全てが破壊されるわ!」

「やめないというのなら――っ」


 あ、これまずいな。

 上級冒険者が下級冒険者の無礼を諫めようと、殺すつもりである。

 まあ、短気な大魔族だったら下級冒険者たちのワンワンキャンキャン子犬みたいな威嚇にムカついて、ポンと砦ごと消しちゃってただろうしね。


 だったら騒ぐ新人を殺してしまい、謝罪するのが手っ取り早いと行動するのが上級冒険者なのだろう。

 それが生死を常に意識する冒険者の矜持と、決意。

 生きるための残酷な正義なのだろうが。


 そういうシリアスは……うん、求めてないし。


 そこですかさず私は大活躍!


『ちょーっと静かにしててねえ』


 肉球を翳すだけで、シュシュシュシュン――ッ!

 上級冒険者の身体を、呪縛。

 上空から降らした闇の槍で命中させないスレスレを攻撃、地に刺さった闇槍魔法陣の効果で動きを封じたのである。


『さて、じゃあ次は君達だ。戦うとなる以上、装備を奪われる覚悟もあるってことで。オーケーだよね? んじゃ、悪いけど。ぜーんぶ、いただきチャーンス♪』


 下級冒険者と新人騎士君たちを、のほほーんと見つめて。

 じぃぃぃぃぃぃ。

 優雅に一睨みすると――あら不思議。


 ポン、ポポポポ、ポン!


「お、俺達の武器が!」

「な、なによこれぇ! カ、カツオブシ!? 西帝国で普及し始めたっていう、保存食じゃないの!」

「う……っ、うぎゃぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁ!? わ、我が家の家宝の魔剣、グラムスティンガーが!?」


 彼らの自慢の獲物が、カツオブシに変換されていた。

 原子配列を組み替える、錬金術の一種である。

 武器の値段が高ければ高いほど、高級なカツオブシに変換できるので。


『おー、この元魔剣グラムスティンガーから作られたカツオブシが一番おいしそうだね~! いやあ、誉めてあげるよ。そこの魔剣士くん。でも、ダメダメ。これはもう私のモノだしね~。ぶにゃははははは!』


 ようやく。

 武器を奪われた下級冒険者たちが、くわっと目を見開き動揺した声を上げる。


「な、なんて恐ろしい魔猫なの!?」

「き、気をつけろ! こいつ、容赦がないぞ!」

「なんと、なんとも恐ろしき闇の獣よ……っ、というか、わ、わがやの……グ、グラムスティンガーが……どどどど、どうしよう」


 ほぅ? これは!

 からかいチャンス!

 人間全てを絶望に招く、邪悪なる魔族の顔で――。


『くははははは! きさまのグラムスティンガーは我が、こうしてくれる!』


 ガージガジガジと元グラムスティンガーを喰らって、お腹をポン!

 闇の微笑を浮かべて、ニヤリ。


『汝の魔剣は既に我が腹の中。これからは、大魔帝ケトスの空腹を満たした元魔剣グラムスティンガーの逸話を家宝にするとよいのである。くははははは!』


 カツオブシの香りが漂う猫の息を漏らし、ゲプリ♪

 あー、食った食った!

 魔剣士はこの世の終わりのような顔で、膝を崩し。


「終わった……われらの、負けだ」


 他の仲間も勢いに流され負けた空気を出している。

 これで一応、大人しくなったかな。


 後ろの方で、上級冒険者が。

 いや、これで許されたのなら超、運がいいだろ俺達……とツッコミを入れているが。


 ともあれ。

 さて、どうしてこんな茶番を進めているのか。

 それにはもちろん理由がある。

 ケントくんの伯父。初老貴族の反応を窺っているのだ。


 かつてこの地には、古き神々の一人、女神リールラケーが潜伏していた。

 既に前例があるわけなのだ、潜伏していたのが彼女一人だったかどうか――それが問題なのである。


 実際、リールラケーの正体が発覚したのは本当に偶然で。

 私、気付いていなかったしね。


 つまり。

 これはちょっと暴れてみせて、相手の出方を待っている賢い作戦なわけなのだ。

 けっして、初心者冒険者をからかって遊んでいるわけではない。


 他の冒険者たちの武器も全てカツオブシに変換し、私は肉球をパチン。

 それも全部没収して、暗黒空間に収納♪


 これでしばらくはカツオブシに困る事は無くなるだろう。


『さて、まあこんなもんかな。この場にいる中で、どうしてもプライドが許さないからまだやる、って人がいるなら今度は本気でやるけど。どうする?』


 反応はない。


 ここまで暴れてやったのに、ケントくんの伯父さんの方も、反応はない。

 興味深げにこちらを魔術の瞳で眺めるだけで、動きを見せる気はないようだ。


 これは、考え過ぎだったかな。


 とりあえずこの場を治めたが。次は外だと――私は、十重の魔法陣を床に刻みながら。

 モフ毛を輝かせ、猫口をぎしり。


『とりあえず、この砦は貰っちゃうね。召喚サモン暗黒猫魔法陣ニャークネス


 魔術的宣言が、世界の法則を捻じ曲げる。


 ◇


 空間を捻じ曲げた先に発生した闇から顕現したのは、最上級モンスター。

 闇に生き、影に徘徊する殺戮者。

 猫魔獣大隊に所属する、私配下の最強戦力の数匹。


 にゃーーーーーん!

 まあ、ようするに、いつものニャンコ達である。


 応接室を取り囲んでいた敵襲の気配が、動かなくなる。

 召喚された猫達が彼らの影をそれぞれに肉球で踏み、呪縛したのだ。


「な、なんだこの猫達はっ」

「う、うごけない……!? だが……っ、な!? 魔術解除の札が効かない!?」


 影猫縛り。

 影を踏むことで魂を押さえつける、猫魔獣のスキルである。

 ……。

 ていうか、よくこいつら私を前にして反抗する気になるな。


 これ、今の私が温厚だから穏便に済んでるけど。

 昔だったら、オムライスにベチャっと零しちゃったケチャップみたいな、血みどろな鮮血が待っていただろうに。

 暴風魔術を止めて、私は長い尻尾をしならせ小さく息をはく。


『ま――これで実力の差は分かっただろう? お願いだからこれ以上は私を怒らせないでおくれ』


 玉座に戻って、上から周囲をうにょーんと見渡し。

 遠くで弓矢を構えている人間を魂ごと石化させて――もう一度、人間達を見る。


『話を戻すけど、ガイランでの出来事を信じる信じないは君たちの好きにすればいい。ケントくんの件も、とりあえずそちらの問題だ。ただ、まあわずかとはいえ共に旅をした彼にはそれなりに情を感じている。今みたいに法で裁かず命を狙うというのなら、百年ぐらいは石化して貰うから、その辺は覚悟をしてくれたまえ』


 言って、更に奥にいる射撃隊を全員石化させる。


 たぶんいまごろ、どこかの冥界で。

 冥界神と対話をして意気投合。酒を持ち込んで二度目の酒盛りをしている筈の神鶏が、自分の石化能力をコピーされて、くしゃみをしていることだろう。

 彼の石化能力を無断でちょっと拝借したのだ。


『それにもう一つ。私は君たちエンドランドの本部連中の非道を、この目で直接確認している。嘘だったと言い逃れはできないと思って貰って構わないし、私も見逃すつもりはない。炎熱国家連盟が一枚岩ではないとは承知している、そちらには先日のローカスター事件が伝わっていなかった事も理解はするよ。ただ――もし、知っていたうえで民間人を見捨て、その証拠を消すために私とケントくんを襲ったというのなら、私は君達を軽蔑するし遠慮もせずに消去する。それだけの話さ』


 宣言して、ふっと猫毛を膨らませた私は――玉座に深く座り直し。

 ごろーん。

 しぺしぺしぺ。

 紅茶の入った魔術ポットを魔力で浮かせてコトコトコト。


 ぶにゃっと顕現した猫魔獣たちへの労いに、用意したカツオブシとカップに注いだ紅茶を提供する。

 召喚された猫達も新しい遊び場にモフ毛を膨らませて、にゃは~♪

 カツオブシを受け取り、砦を占拠しに――わっせわっせ!


 進軍を開始していた。


 これ、本当はただ。

 たまには我等も一緒に遊びに行きたいですニャ~といっていた、この子たちの散歩も兼ねているだけなんだけどね。


 一見するとただの雑魚猫魔獣だ。

 けれど。

 実力者ならば、このニャンコ達の力を感じ取ることも出来るだろう。

 まあ、愚かにもネコちゃんに手を出しちゃったら、反撃されてその人はジエンドだけど。そればっかりは自己責任である。


 手すりに顎を乗せて、くわぁぁぁぁっと欠伸をしながら私は言う。


『で、この後の話の続きは誰がするんだい? いいよ、この際誰でも。怯まず会話ができる相手だったら、誰でもね』


 成り行きを冷静に見守っていた一人。

 女騎士エウリュケさんが、貌を青褪めさせた部下と冒険者たちを制止。

 魔術で拡声した音声を、砦全体に響き渡らせる。


「作戦中止! 此度の凶行、誰の命令かは追及はしない。なれど、この砦の責任者はこのエウリュケである! 作戦権はこちらに譲渡されたと思いなさい! いいですか、絶対にこの者達に手を出してはなりません! 原野に発生する雑魚の野良猫魔獣と同じと思っては死にます。この者達、見た目はただの愛らしい猫ですけど、ここにいる人間の誰よりも強い……っ」


 口早に。

 けれど、はっきりと告げる彼女はまあなかなかどうして、そこそこカッコウイイ。


 パチパチパチと肉球で拍手をしながら、私は言う。


『おや、賢明だね。まあ――彼らはただ散歩させているだけだから安心してくれたまえ。君達が私の隙をついてケントくんに何かをしようというのなら、話は変わってしまうけれど。それまでは、ただかわいいだけのニャンコさ。可愛がってくれて構わないよ』


 ただ散歩させてるだけなんだけど。

 こんな感じで、あの最強猫魔獣たちはケントくんの護衛だったという事にしよう。

 それっぽい嘘だったが、実際に護衛効果もあるだろうし。


 頷き、慎重に周囲を見渡す女騎士は――言葉を選ぶように私に言う。


「どうか度重なる無礼をお許しください。しかし彼等は正規軍。そして契約魔導書の依頼という形で行動を支配された冒険者。一定以上のレベルにあるものでないと、上司や依頼人からの命令には……っ、逆らえないのです」


 エウリュケさんの目線は、おもいっきし奥の貴族風初老男に向いている。

 暗に、あいつが命令しましたと伝えているのだろう。

 他のまともそうな上級冒険者たちも、じっとオッサンを睨んでいる。


 しかし狸も大したもの。


 目線を受けたオッサンは、それでも優雅に紅茶を啜っている。

 この余裕。

 よほど自信があるのか。


 油断はしない方がよさそうである。

 先ほどもすこし、懸念を抱いたと思うが。

 女神リールラケーが人間世界に入り込んでいたように、この男が古き神々の人間モードという可能性もありえるのだ。


『今の無礼については別に気にしていないから、安心しておくれ。けれど、こっちは別問題。確認をさせておくれ。マルドリッヒ領はあの人間電池の件には関与していなかった。それは事実かい?』


 女騎士エウリュケは毅然としたまま私の顔を見て宣言する。


「ええ、我等が土地を守り続けてくださっている冥界神。永遠なる死の皇子に誓って――」

『ふーん。レイヴァンお兄さん、マジでこの辺りでは崇拝されてるんだね』


 思わず漏れそうになってしまった猫笑いを抑える私に、女騎士は男装の麗人っぽい顔を顰める。


「レイヴァンお兄さん?」

『ああ、ごめんごめん。君達が永遠なる死の皇子と呼ぶ冥界神の本名さ。ま、これも信じる信じないは好きにして貰って構わないけれどね』


 ざわつきが起こるが、それを信じたかどうかは微妙な所かな。

 まあ、別にいいけど。

 緊張させていた空気を一気に解放し、私はふっと微笑する。


『ふむ――分かった。少なくとも騎士隊長である君が一連の非道に加担していないと、本心から思っているとは理解したよ』


 敵意を解除し、私は紅茶をズズズゥ。


『エウリュケくん。とりあえず君とそちらの上級冒険者の君達は信用に値するし、信じよう。それで、こちらの事情は説明した通りさ。女神により魅了されていたケントくんがもし、国家に反逆するような事をしていたのなら、まあ確かに君たちの言い分も理解できる。具体的には何をしたって言うのさ――そこのオジサン』


 後ろにいる、ケントくんの親類にずばり直球で問う。


 伯父さんが、ぎしりと硬い椅子から立ち上がり。

 カツリカツリ。

 こちらに向かって歩み寄る。


 少し皺が目立ち始めているが、まあ貴族風の初老色男である。

 キャバクラでお姉ちゃんにモテるためだけにジムに通っていそうな、二流会社の経営者っぽいイメージの男なのだが、はてさて。

 古き神々の関係者か否か。そこが問題だ。


 男は私に礼もせずに、淡々と言う。


「失礼した、大魔帝ケトスを名乗る猫よ。ワタシの名はリベル。リベル=フォン=マルドリッヒ。そこの裏切り者、ケント=フォン=マルドリッヒの伯父にあたる貴族だ」

『ご丁寧にどうも』


 嫌味で返した私は先を促すように、肉球をあげて見せる。


「その者。ケント=フォン=マルドリッヒは我が伴侶となる筈だった女性、デリーカを誘惑し、あまつさえ駆け落ちなどという凶行に走った。それはとても嘆かわしい事だよ。紛れもなくワタシへの反逆。すなわち、将来このエンドランドを治めるであろう初代皇帝となるワタシへの反逆となるだろう? つまり、国家反逆罪だ」


 ……ん?

 あれ? 聞き間違えかな。

 私は記録クリスタルを遠隔操作し、ちょっと前のセリフを確かめるが。


 ……言ってるね。

 おもいっきし、阿呆な事、抜かしてくださってますね。


『えーと、よく分からなかったんだけど。もしかして、甥っ子に狙ってた女を取られて、それを国家反逆罪だって言ってるのかな?』

「その通りだ。実に嘆かわしい甥だと、君もそう思うだろう?」


 リベル伯父さんは、それはもう。

 自分が正しいと疑わない顔で、鷹を彷彿とさせるキリリとしたイケおじ顔で――うんうんと頷いていらっしゃる。


 いやいやいや。

 これはおそらく、何かの罠。

 壮大な計画を誤魔化すためについた嘘だろう。


 私相手に嘘は通用しない。

 フンと腕を組んで、ケントくんを三角な目をして睨んでぐぬぬぬぬとなっているリベル伯父さんの心を盗み見て……。


 ……。

 そこには、デリーカくん(女神リールラケーの化け人間モード)をはじめ。若い女性を侍らせて、ワインを嗜む、どーしようもない妄想に浸る伯父さんがいるのみ。


 あ、これ。

 ガチのやつだ。

 女癖の悪い、小悪党だ。


 権力を利用し、ケントくんを消そうとしていたのは確からしいが。

 これ、想像していた方向と……なんか違うし。

 古き神々関係ないし。

 私怨だし。


「どうだね、大魔帝ケトス君。君も、ワタシの傘下に……と、どうしたのかな? 毛を逆立てて、腕をブンブン回してって、なんか急に、近づいて――」


 リベル伯父さんの顔が、恐怖で引き攣るその前に。

 黒き獣は大ジャンプ!


『あ、ああああ、あほかぁぁああああああああああああああ!』

「ぐぅぅぅふっ――!? パンチではなく、キックゥゥ!?」


 思わずぶっ放したネコちゃんキックが、リベル伯父さんの鳩尾に直撃。

 ずざぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっと背中から擦れて、服の焦げた匂いが充満するが構わず私はその気絶した腹の上に、肉球を乗っけて征服ポーズ。


 呆然とする人間達をボス猫の顔で睨んで、きしゃぁぁぁぁ!


『私の貴重な時間を、返せえええええ!』


 ここまで勿体ぶっておいて、スケールが小さい!

 どんだけ尺をとったと思っているんだ!

 古き神々の変装かと思って、変に警戒していた私がバカみたいじゃニャいか!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] うん、お金と装備とバカへの猫キック被害だけで済んで良かった良かった♪ [一言] 惨殺されても文句言えないレベルの無礼でしたが、お金の没収と武器を鰹節に変えられて食べられるのとバカが猫キック…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ