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エピローグ編 最上位クエスト達成! ~グルメ報酬とセクハラお兄さん後編~



 魔王様の兄レイヴァンお兄さんの世界、死者たちが住む冥界から一転。

 現在、我等大魔帝ケトスとそのお連れさん達は、私の世界。

 影の中にある夢の国。

 猫たちの楽園、ドリームランドに場所を移していた。


 理由はさまざまにあるのだが。

 一番の理由は単純明快、「安全」を確保したかったからである。


 死者の宮殿という場所は冥界神との謁見の場でもあり比較的、生者でも入りやすい場所。

 とはいえ――やはり、冥界に生者が入り込むことは本来、御法度なのだ。

 生者側にも死者たち側にも悪影響があるからね。


 それにだ。

 冥界で人肌を恋しがっているレイヴァンお兄さんがついうっかり、傷心な詩人ケントくんを死の世界に誘ってしまう。

 なーんて可能性もあり、急遽場所を移したのである。


 ドリームランドには今、どこか別の異世界にある夢の国を模した遊園地風施設が顕現していて。

 眷族猫達の案内のもと、人間達は折角来たからと観光をしている真っ最中。


 幼女シャーマン・コプティヌスくんも年相応にはしゃいでワキャワキャ!

 多数のモフ猫を引き連れて、夢の国を楽しんでいるご様子である。


「おー! なんじゃこれは! 巨大なコーヒーカップが勝手に回っておるぞ!」


 ぶにゃぶにゃ、なはははは!

 猫と幼女がぞろぞろぞろ。


「コプティヌス様! お待ちください! 転んでしまいますよ!」

「なにをノロノロしておる! 参るぞ! ついてくるのだ、音痴詩人よ! そなたにはわらわのエスコートという大切な使命を授けたのじゃ! ちゃんと使命を果たすが良かろう!」


 ついでにケントくんも引きつれて歩いているのだが、まあたぶん、幼女が傷心詩人なケントくんに気分転換させようと――気を遣っているのだろう。


 そんな二人を眺め、私は猫目をじぃぃぃぃぃぃぃ。


 この子、レイヴァンお兄さんの所の巫女を卒業して……魔王城にきてくれないかなあ……。

 絶対、将来有望で。

 魔王軍の力になってくれると思うのだが。


 まあ、そういうのはもう少し大きくなってからでもいいか。


 影の国の猫達も、久々のお客さんという事もあり大喜び。

 自分たちの世界を自慢するように、オヒゲをぴんぴん!


 うにゃうにゃぶにゃにゃ!

 立派な観光ガイドになって嬉しそうに練り歩いている。

 久々な、おきゃくさんだ。

 本当に楽しいのだろう。


 そう――本当に、久々で。

 ……。

 ともあれ!


 他の人間も、じゃあ折角だからとアトラクションを楽しんでいるようだ。


 ちなみに、私はというと。

 フードコーナーに座って、肉球あんよをクイクイ。

 ギルドマスタージャスミンさんが作ってくれているハンバーガーとフライドポテトをむしゃむしゃむしゃ。


『くははははははは! やはり遊園地にはジャンクフードよのう。うまい、実にうまいのである!』

「おや、そうかい? こんな調理スキルのレシピは初めて見たからね、こりゃ全部を覚えて、ウチのギルドのメニューに加えないと損だってもんさね」


 ケラケラケラと笑って、更に追加のハンバーガーを私の前に出してくれるジャスミンさんの顔を見て。

 ジュースに刺したストローをじゅじゅじゅじゅじゅっとしながら、私は言う。


『悪いね、君も遊びたいだろうに。私の世話をさせてしまって』

「いいんだよ。というかねえ、ケトスさま。アンタ様にはどれほど返しても、返し切れない程の恩ができちまったからね。これくらい、させておくれよ」


 化粧をしていない貫禄さえ滲んでいる顔で、ウインクをしてくるジャスミンさん。

 そんな彼女に、私に動きを封じられながら煙草をぷかぷかスースー……ぶつぶつ言うのはレイヴァンお兄さん。


「マスターよぉ……あんまり無理して作ることはねえからな? ぶっ倒れるまで作り過ぎるんじゃねえぞ? こいつ……どんだけ食べても腹減り状態、一生、食い続けるからな」

「おやまあ、ずっとお腹が空いているのかい。そりゃ、作り甲斐があるってもんさね。まだまだ作らせて貰うけれど、さてその前に――」


 言って、ジャスミンさんは顔を引き締め。

 ギルドマスターの顔となり、改めて私とレイヴァンお兄さんに頭を下げる。


「本当に、ありがとう。感謝しても、しきれない。そしてすまなかったね――人間同士の争いにも巻き込んじまったようで」

『まあ本部の連中の暴走。その因となった一つに、女神による介入があったのも事実だ。人間を電池にしていたりしたのは、残念ながら人間自身の考えのようだったけれど……君が深く悔やむことでもないさ。……人間全部が今回の件をまったく反省しないってのも、困るけれどね』


 フォローする私にマスターはありがとう、と再度頭を下げる。

 んーむ。

 外道も目立つ種族の人間。けれど、こうやって――ちゃんとお礼を言える人もいるのだから、人間と言う生き物は実に不思議な存在である。


「依頼の報酬にあった勇者の件。もし何か分かったら真っ先に連絡をすると約束するよ。ウチもこれからゴタゴタで大変だろうけど、ギルドだからね、依頼もたくさん舞い込んでくる。そのうち、何かひとつくらいはお役に立てる情報でも入ってくるだろうさ」

『ありがとう、助かるよ。でも、まあ――次の勇者降臨はいつになるか分からないからね。アンテナを増やして気長に待つさ』


 ハンバーガーのケチャップを拭き拭きしながら、私はドヤって決めポーズ!

 おっと、いかんいかん。

 あまりにも美味しくて変なテンションになっていたのである。


 そんな私たちのやりとりに、翼をパタパタ。


「あいつすらも眠りにつかせた勇者ねえ。どんな化け物なのかは知らねえが……そんな強者の魂、百年前に俺様んところには来なかったがなあ」


 と。

 ぺちぺち、銜えたタバコを口であそばせながらお兄さん。


『そりゃそうさ。世界と運命に縛られていたあの者は元の世界に帰りたがっていた。その願いを感じ取った魔王様と、そして私の手により……こっちで転生したりしないように、元の世界に強制帰還させたからね』


 告げる私に、ジャスミンさんは、へぇ……百年前のおとぎ話にはそんな裏がねえ……と、相槌をうち。

 レイヴァンお兄さんはというと。


「ふーん……って、待てよ。てめえら、俺様の所にくるはずの英雄を、勝手に魂干渉をして逃がしやがったのか!?」

『ぶにゃはははは! 死んだからといって、冥界神が全ての魂を自由にはできないわけだね』


 ふふん、とポテトをがじがじしながら私はモフ毛を輝かせる。


「まあ……規格外なてめえらだから、それくらいはできちまうんだろうけど……ったく、おまえさんは本当にあいつの愛弟子だよ。嫌な所や、抜け目ねえ所までそっくりでいやがる」


『それは嬉しい共通点だね。けれど、私から言わせて貰えば、君の方が魔王様に似ている部分が多くて驚いてしまうよ。なんだかんだで人間に優しい部分や、素直になれない部分なんて特にね。百年ごとにちゃーんと人間を蝗害から救っていたし。今回だって君、結局最後まで手伝ってくれたじゃないか』


 ニヤニヤしながら言ってやると、お兄さんはフンと照れたように横を向いてしまう。

 翼がぴょこぴょこ揺れている。

 ジャスミンさんに出して貰ったワインカップをぐぐぐと呷って、男は言う。


「ったく、調子に乗りやがってこの駄猫が。いいか、勘違いはするんじゃねえぞ! その辺の飛蝗がうんぬんはぜーんぶ、俺様の意志じゃねえんだよ! あくまでもこの世界の魔王である、我が弟に頼まれていたからだ。いいか? わかったか? わかったなら、そのしたり顔はやめろ」

『別にいいけどね~。で、そろそろちゃんとした理由を教えてくれないかな? どうして、人間を助ける気になんてなったんだい。一応、理由は気になるからね』


 ちょっと真面目モードになって私はお兄さんを正面から眺め、うにゃん。

 空気を読んだのだろう。

 ジャスミンさんが、んーっと身体を伸ばし、微笑みながら言う。


「さて、じゃあちょっと追加の分を作ってこようかね」


 もう一度、深い礼をしてフードコーナーの厨房に戻るマスター。

 その気づかいの背中を目で送り、しばらく。

 二人きりになって。


 タバコの煙を空に散らして――。

 ようやく、お兄さんは口を開き始めた。


「弟は……あいつは、責任を感じていた。なにしろあいつは、永遠に続き繁栄すると謳われていた神々の楽園を滅ぼしちまったからな。その影響ですげえ恨まれている、今でもな、実際、女神はいまでも人間を陥れようとしていただろ――? やつが人間に一時期肩入れしていたって理由だけでな。その責任を、つよく……感じていたんだろうな。弟に真剣に頭を下げられて、応えない兄なんてそうそういねえだろ? つーまーりー。なにも俺は、好きこのんで助けようとしていたわけじゃねえんだよ。分かったか?」

『ふーん……』


 生返事をして、先を促す私に。

 お見通しかよと。

 重い息をはき、お兄さんは続ける。


「まあ、俺様にもその責任の一端はあったからな」

『責任? どういうことだい』


 ネコ眉をひん曲げる私に、冥界神たる彼は整えた髪をガシガシガシ。

 凹凸の目立つ筋張った大きな手で掻きながら、気まずそうに言う。


「魔王――我が弟が楽園を滅ぼした理由、それがまあ……なんつーかな。俺様が楽園のやつらに殺されたからなんだよ」

『ああ、そういえば……永遠なる死の皇子の魔導書にもあったね、仲間に殺されたみたいな記述が。その事か』


 人間に魔術を授けた魔王様が、楽園を追放されたその後の話だろう。

 魔導書に記されていた逸話にはこうあった。


 死の皇子は生前。

 掟を破り追放されてしまった弟を助けるため。その重すぎる処分を取り消させるため行動していた――その最中、無防備に一人行動をしていた所を急襲され。

 堕天。

 すなわち死んでしまったのだ――と記載されていた。


 まあ魔導書の逸話はあくまでも逸話。

 全てが正しいわけではないのだろうが、似たような事件が起こったのは確かなのだろう。


 魔王様を楽園に戻すため。

 兄として必死になって行動している最中に、不意をつかれ殺されたわけだ。

 おそらく、魔王様への見せしめのために。


 なるほどね。

 たしかに、魔王様がその後に取りそうな行動は……。


 報復。


『つまり、君を殺されたことに腹を立てた魔王様が復讐のために、その……楽園を、こう……なんというか、壊滅。させちゃったわけだね……』

「ま! 俺様もその時は死んでて、よく知らねえんだけどな。まさか殺された腹いせに冥界を支配している裏側で、そんな大惨事になっていたとはなあ。なはははははは! まあ、ざまあみろなんだが――さすがに、なあ。まさか俺のためにそんなことまでやっていたとは、後で知った時は驚いたけどな」


 と、お兄さんは少し遠くを見ながら。

 嬉しいような、しかし複雑そうな――端整な顔立ちに濃い微笑を浮かべて見せる。


 前に魔兄レイヴァンは言っていた。

 楽園の連中は魔王様を本気で怒らせて、滅ぼされたと。

 その理由が、身内の死。


 兄の謀殺だったわけだ。


 魔王様は、きっと悔いたのだろうと思う。

 同情から掟を破り人間達に魔術を授けてしまった――そのせいで最愛の兄を殺されてしまったのだから。

 嘆き、悲しみ、故郷であるはずの楽園を憎悪したのだろう。


 その結果が――楽園の崩壊。


 自身が追放されても抗わなかった。自身が何を蔑まれても苦笑しながら聞き流していた。だから、楽園の連中は勘違いしてしまったのだろう。

 魔王様がただ受け身なだけの、弱き存在ではないのだろうか――と。


 しかし、そうはならなかった。

 飄々として掴みどころのない魔王様にも一つだけ。どうしても許せないことがあったのだ。


 あの方は優しい。

 故に、残酷だ。


 きっと、壮絶な滅びだったのだろうと思う。

 まあ。

 虎の尾を踏んでしまった愚かなる神々など、滅ぼされて当然だろうと私は感じていたが。


 もちろん、大いなる光のような、比較的にまだまともな神々も巻き込まれてしまったのだろうが。

 魔王様だし。

 いいのである、うん。


 しかし。なんてことはない。楽園崩壊は古き神々の自業自得だったというわけだ。

 真相を知ってしまったら、拍子抜けしてしまった。

 そして同時に……魔王様のお気持ちを想うと、少し胸が痛んだ。


 きっと。

 あの方も泣いたのだろう。

 私のように、世界を憎悪し。

 さぞやお嘆きになられたのだろう。


 それこそ、楽園と呼ばれた神々の世界を滅ぼしてしまう程に。


 ああ、やはり私があの方を癒して差し上げなければ。

 ずっとそばで支えて差し上げなければ。

 あの方が大好きなモフモフもこもこで、あの方の嘆きを和らげて差し上げることが私の使命なのだろう。


 つまり。

 にゃふふふふふ、そのためにはもっと我は己が身を磨かなくてはならないのである!


 それにしても、平和になりつつあった世に――新たな問題が浮かんでしまった訳だ。

 古き神々。

 楽園からの生き残り。


 どんなに高尚な存在かと思っていたら、随分とまあ……人間と変わらぬ矮小な存在であったが。

 自らの失態で滅んだ楽園。その時の事をまだ根に持ち。いまだにこの世界や人間に対し、嫌がらせを続けているのは事実なのだ。

 魔王様がいる、ただそれだけの理由で――。


 まだ、女神リールラケーの他にもそういった存在はこの世界に隠れ住んでいるのだろう。

 新たなる勇者を探すついでに、そいつらを狩って回るのも悪くないか。


 私が新たな暇つぶし……ではなく、崇高な目標と決意を誓う中。

 ふとお兄さんは周囲を見渡し、片眉を曲げながら言う。


「それにしても、なんだあこの世界は。ドリームランドっていったら、猫が全てを支配する影と夢の中に存在する世界だろ? こんな変な施設がある場所だったとは聞いたことねえぞ」

『まあせっかく魔王様から貰ったんだし。場所もあるんだし。眷属猫達が退屈しないように色々と用意したんだけど、駄目かい?』


 と、猫達と仲良く遊ぶ人間達を見ながら私は静かに語る。


 次から次へとやってくる影猫達が、モフモフな猫毛をるんるんさせて人間達を持て成し歌う。


 さあさあ、どうぞこちらへ。

 人間さん達。ここは楽しい世界でしょう?

 ぶにゃっはぶにゃっは、どうぞどうぞお寛ぎ下さい。

 ケーキをどうぞ。

 紅茶をどうぞ。

 ここは良い国でしょう。さあさ、何も考えずどうぞどうぞ、遊んでいましょうよ。


 人間達も十分、この世界に馴染んできたのだろう。

 終わらない夢の国で、見慣れぬ場所への観光に浮かれて遊んでいる。


 厨房から帰ってきたジャスミンさんが、私の前に匠の生み出すステーキバーガーをことり。


 分厚い牛のステーキさんが、バンズとキャベツで挟まれていて――。

 まだ熱々なのだろう、肉汁がじゅわじゅわパチパチ。

 私を誘う香ばしいステーキソースの香りを放っている。


 おー!

 こういうの、一度食べてみたかったんだよね~!


「いや、駄目じゃねえけどよぉ。人間達、大丈夫なのか?」


 人間とネコとの楽しい世界を眺めて、レイヴァンお兄さんは何故か不審そうな顔で言っているのだが。

 その怪訝そうな貌を訝しんだのか、ジャスミンさんが不思議そうな顔で問う。


「おや。大丈夫って、何の話だい。冥界神様。ふつうに楽しく遊んでいるように見えるけど」

「いや、この国は文字通り猫の国。猫達が絶対的な支配者なんだよ。何人たりとも猫に逆らう事叶わずって、掟があるほどにな。あそこのモフモフ達もただのネコに見えるが、全部が全部、伝説の魔竜並に強い傑物たちばかり。それも人懐っこくて、悪戯好きな気まぐれ毛玉どもだ。俺様は神だからまあ大丈夫だが……普通の人間のあいつらはどうだろうな。下手すると魅了されて、一生ここで猫の遊び相手にされちまうんじゃねえか?」


 冥王の魔眼をじぃぃぃっと輝かせ、レイヴァンお兄さんは心配そうに言うが。

 ジャスミンさんは手をパタパタと振って大笑い。


「あははははは! いやだよ、冥界神様。そんなご冗談を。ねえケトスさま?」

『んー……どうだろうねえ。私ネコだし、ちょっとわかんにゃいにゃー』


 言われた私は、お澄まし貌のままハンバーグをむしゃむしゃむしゃ。

 あまり聞こえなかったフリをして、モフ耳をぱたぱたぱた。

 尻尾をぶにゃーんと垂らし、しぺしぺしぺと誤魔化すように毛繕い。


 猫達が、次から次へとやってきて。

 人間達を囲んで、ぶにゃっはぶにゃっは!


 さあさ、どうぞお寛ぎ下さい。

 ここにはなんでもあります、なんだって揃っています。

 現世に戻る必要ニャンてありますか?

 ほら、よくお考えなさい。

 ないでしょう、ないでしょう。ええ、まったくないでしょう。


 だからこの国で、我等がドリームランドで。

 遊んでいってくださいにゃ?

 我等と共に。

 永遠に。


 ぶにゃっは、ぶにゃっは!


 眷属猫達が、仲間を増やす同化の儀式を行い始め――そこでようやく気が付いたのだろう。

 レイヴァンお兄さんが血相を変えて、私に問う。


「おまえ……っ、死者の宮殿から人間達を守るためにここに来たんじゃなかったのか!?」

『いや、守るためだよ? だって、考えてごらんよ。ここはどこよりも「安全」な猫の国。ネコの仲間になってしまえば、ほら――、もっと安全じゃないか』


 闇の微笑を浮かべながら、私は食事をむっしゃむっしゃむっしゃ。

 魔猫への進化儀式の準備を進める、猫達が、わっせわっせ!


 仲間をふやせ!

 ともだちふやせ!

 祭りじゃ! 宴じゃ! わっしょい、わっしょい!


 ぶにゃはははは! ぶにゃははははは!


『君が死による安寧と慈悲を与えようとしたように、私は別の道を提供しているに過ぎない。ああ、そうだ。そんなに寂しいのなら君も立派な猫になってみるかい? 君は強力な魔族だ、歓迎するよ』


 全てを察したレイヴァンお兄さんが、ガバっと立ち上がり。

 慌てて人間達をかき集め、現世に戻る魔法陣を展開し始める。


 遊び相手を欲していた私の眷属魔猫に捕まるその前に、大慌てで飛び回る。

 私はただそれを眺めたまま。

 ぶにゃーっはっはとジャンクフードをむしゃむしゃむしゃ。


 ほら、やっぱり。

 いざとなったら人間を救うんじゃないかと、こっそり笑って。


 人間達を庇い守って。

 猫の国からなんとか逃げ切る、冥界神の姿を見守るのであった。


 ◇


 こうしてやはりレイヴァンお兄さんは、ツンデレ優しい冥界神さまだと証明されたわけである。

 いやあ。

 ほんと、素直じゃないというかなんというか。

 まあ、そういう人も嫌いじゃないけどね。


 私に寄越したあの紅き手紙も、もしかしたら――眠る魔王様に心を痛めていた私を慰めるための、優しさだったのかもしれない。


 あるいは、永遠に続く冷たい冥界暮らしが寂しくて――モフモフあったかな私を、自分の宮殿に招き入れたかったという可能性もある。

 お兄さん、隠してるつもりみたいだけど。

 猫好きだしね。


 私は自由に冥界に足を踏み入れる能力、冥界下りができる。

 かつてそれで肉体を回復させた死者を連れ帰った事もあったしね。


 だから、まあ。

 たまにはお兄さんの宮殿に顔をだしてやろうかなと、そう思う優しいニャンコな私なのであった。








 ▽▽▽









 ▽▽







 ▽







 そうそう。

 もし、レイヴァンお兄さんが血相を変えて優しい本性を出し、人間達を救わなかったら――どうするつもりだったかって?

 ……。


 そりゃあまあ。

 私、猫だし。

 人間を恨む猫魔獣だし。


 そういう、残酷な一面だってあるということだ。


 ここは賑やかな楽園。

 私の影の中にある夢の楽園、ドリームランド。


 大魔帝の心の中に浮かぶ、泡沫の楽園。


 もし、我等猫の国に足を踏み入れ。

 万が一にでも魅了をされてしまったら――永遠に。








 第十章 不機嫌ニャンコとお兄さん

 ――終わり――

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― 新着の感想 ―
[一言] ドリームランド…… 猫の国…… まさか魔王様、 宇宙的恐怖な眠り続ける神様とか…… ……まさかね
[良い点] うん、猫様に囲まれてたのしそうだなぁ~♪ 私も行ってみたいです。 [一言] なるほどね♪魔王様はお兄様に手を出されてぶちギレして楽園を滅ぼしたわけですか。 比較的マシな神には悪いですけ…
[良い点] ケトス様のせいで最後の最後まで締まらない兄様ほんと好き…w [一言] ドリームランド行って猫になりてぇ…
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