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移動要塞ゴエティア編 ~潜入、死と破壊の神その4~



 蟲人が巣くう移動要塞ゴエティア。

 人間を捨てた外道どもが支配していた炎熱国家の本部に、今――魔力の火花が吹き荒ぶ!


 ズゴーン、スドドドドーン。スビスバーン!

 暴れているのは、私こと大魔帝ケトスではない。

 私の魔力供給と、ちょっとしたアドバイスを受けて、メキメキと成長している人間の女の子。


『そう――魔術式を心で描く前に、力を借りる相手の情報を思い浮かべ式に組み込んでご覧。そう、いいね。じゃあやってみようか』

「おぉおおお! わらわの妖艶なるスラっとした身が、魔力で満ち溢れておる――! 今まで理論上は発動できるも魔力が足りず、発動できなかった古の術さえ発動できるではないか!」


 と――チンチクリンな幼女体型を紅き魔力で溢れさせ。

 幼女シャーマン・コプティヌスくんが、無双し続けていた!


 私の指導により、今まで届かなかった七重の魔法陣を展開できて嬉しいのだろう。

 次々と、人間を解放しながらの快進撃。


「なーっはっはっは! 借りモノの力に過ぎぬとはいえ――今の妾は、最強なのじゃ!」


 幼女、目を輝かせてのドヤポーズ!

 超広範囲の殺戮魔術を唱え始めているが、その術も私が手本を見せ伝授したモノ。


 これで移動要塞の八割ぐらいは制圧できただろうか。

 奥に行けば行くほど、蟲人も強力な存在が多いのか――私による重圧魔術の影響をほとんど受けていないローカスターが増えていく。

 さすがに効果範囲と対象を広くしたせいで、完全弱体というわけにはいかなかったのだろう。


『気をつけたまえ。この辺のローカスターは上位種だ。私の魔術での弱体をあまり受けていない、突然跳ねてくるかもしれないからね』

「分かっておるわ! 動かぬ標的には飽き飽きしていたのでな!」


 渋くダンディな甘いマスクで魔導書に目を通す私の横。

 幼女の顔は、向かってくる敵を次々と薙ぎ倒すたびにドヤ度を増していく。


「どりゃりゃりゃりゃ! 呪殺、爆殺! 大鮮血じゃ!」


 こんな感じで、出会う蟲人をその場で瞬殺。

 我等は更に進んで、囚われの人間達を解放していく。


 ローカスターの巣になっている要塞を中の蟲人ごと破壊しつくして、完全なる種の根絶を目指しているのだが。

 元は飛蝗なんだし、飛んで逃げているんじゃないの?

 と、思われるかもしれない。


 だが。


 にゃふふふふふふ!

 そこは抜かりなく。ちゃーんと策を講じてある。


 今、この外の空間ではとある魔術が発動しているのだ。

 私が単身突入する直前。

 黒マナティがなにやら魔術を発動させていたと思うが、それこそがこの移動要塞を覆う結界魔術。


 蟻んこ一匹通さない、マナティシールドで覆われているのである。

 いやあ、素晴らしい!

 本当は私が暴走しまくっても大丈夫なように、破壊と混沌のエネルギーを漏らさないための結界だったのだが――流用しても、問題ないよね?


「どーしたのじゃ? せっかくの涼やかで凛々しき端整をニヤつかせおって。というか――おぬし。無駄に顔立ちがいいのう。このような美貌、様々な人や霊魂と会う経験が多い妾ですら初めて目にするぞ」

『そりゃどうも。魔王様の部下なんだ、少しぐらいは見目麗しくないと面目が立たないからね』


 幼女の眼からしても端整とは。

 ふ……っ、罪な魔族である!


 それにしても、とコプティヌスくんは前置きし――。

 蟲人達を狩りながら、一言。


「蟲と同化などという、とんでもない話を聞いても――そちはあまり驚かなかったのじゃな」


 もっと驚かれると思っておったのに、と複雑そうな顔をしている。


『まあ――亜人種の始まりとしては稀にある話さ。同化によって生まれた種というのも、いないわけじゃない。世界には無数の種がいる。獣人や、リザードマン、マーマンにマーメイド。レプティリアンに、鳥人間、枚挙にいとまがないほどにね。多種多様にいるわけさ。元からそういう形で生まれた者やそうあるべくして作られた者もいるだろうが――全部が全部そうというわけじゃない。魔術による合成キメラや、異種族による交配や、背徳的な儀式で後天的に生み出されるモノもいるだろう』


 まあ合成獣となると、また倫理観の問題が生まれてしまうので難しい話なのだが。

 中には望まず魔物と合成された人間の話も、耳にすることがある。


 きょとん――と。

 祭司長コプティヌス殿は、幼い顔のままで問いかける。


「交配? なんじゃそれは。妾の知らぬ魔導技術であるか?」

『……あー、そういうのはまあ、置いとくとして』


 あー、この子。

 大人びているけど、そういう知識はないのか……。


 これ、幼女と素敵ダンディおじ様のコンビは色々と絵的にまずいな。

 ジャハル君とか、現在離れ離れになってしまったレイヴァンお兄さんに見られると変な誤解をされるかもしれない。


『ちょっと失礼――』


 私はよっと、闇の霧を発生させ。

 ズジャ!

 霧の中で再臨するのは、モフモフ獣の猫魔獣。


『くはははははは! 我、真実の姿で再登場である!』


 どうせ人間との会話はコプティヌスくんに任せるんだし、地味に疲れる人間モードを維持する必要もない。

 ネコちゃんモードに戻ったのだ。


 ◇


 いやぁぁぁぁぁ、やっぱり猫の姿だよねえ!

 どうも人間の魂というか心というか、思考パターンって辛気臭くなっちゃうからウニャウニャしてしまうのだ。


 そんな――素敵な黒猫に戻った私を見て。

 じぃぃぃぃぃいぃぃぃぃ。

 コプティヌスくんが瞳をギラッギラにして唸りを上げる。


「おぉぉぉぉおおおおおおおぉぉぉ、なななな、なんと! ネネネ、ネコちゃんではないか!」

『ぶ、ぶにゃにゃにゃ! いきなり、な、なにをするんだい!』


 猛ダッシュをしてきた幼女は、短い手足をパタパタ高速移動。

 私を脇から抱きあげると、にんまりと微笑み。


 頬をすりすり。

 もっふもふもふもふ。

 モフモフモフフフフフフフフフフフ――!


 熱烈な歓迎である。


「ネーコちゃんじゃ、ネコちゃんじゃ! ほんに、猫はかわいいのう! 大魔獣ケトスよ! そちを妾の愛猫にしてやってもよいぞ!」

『いや、私……魔王様の愛猫だし』


 やっぱり、幼女。

 苦手かも……。


「モーフモフじゃ! もーふもふ!」


 まあ、疑ってしまった分ぐらいは……モフモフさせてやるか……。


『ほら、モフモフはそれくらいにして――敵、来てるよ?』

「おー! そうじゃな、ではモフモフパワーを摂取した妾の魔術を披露してやろう!」


 言って。

 彼女は続けざまにぷっくりとした唇を、ニヒィ。

 新たな魔術を展開するコプティヌスくんの宣言が、魔術効果となって要塞を揺らす。


「邪術――解放! 怠惰なりしも慈悲深き者――彼の王の従者よ、来たれ! 影に眠りし猫の国。我、魔猫の王の信徒なり!」


 広がる魔術波動。

 黒と赤。

 二種類の魔術閃光が、幼女の褐色の肌と黒衣を揺らす。


 かっ! と、目を見開き、彼女は魔術を発動した。


「――蟲人殺しのニャンコ部隊――!」


 それは影の国。

 すなわち、影の中に潜む私の眷属猫を魔獣として使役する、大魔帝ケトスの力を借りた新しき魔術だった。


 その効果はお馴染みの幻影猫による、即死魔術。

 対象は蟲人に限られるが、効果は一撃必殺。


 くはははは!

 くははははは!


 幼女の影から這い出てきたのは、ガスマスクを身に着けた眷属猫達。

 彼等は猫笑いをしながら――ヨイショヨイショ!

 影の中から群れをなしてやってきて相手の影に向かい、肉球で掴んだ殺虫剤をぶしゅ~っ――。


「ギギ……――ッ!」

「ギ……」

「……」


 それだけでジエンド。

 蟲の魂は、蟲駆除業者に扮した幻影猫に駆除されて一撃死。

 むろん。

 こんなピンポイントな魔術が作られていた筈もなく。

 今のこの場で――即死魔術が得意な彼女用に作り出した、オリジナル大魔帝魔術である。


 ぴかぴかーっと目を輝かせて幼女は跳ねる。


「あはははは! すごい、すごいのである! さすがはあの伝説の大魔獣の力を借りた邪術じゃ。すごい! 凄すぎるのじゃ! ……と、たしかにすごいが……」


 ふと途中で冷静になったのだろう。

 小さな手のひらの上で輝かせる魔法陣を眺め、呟く。


「これ、魔術の構成を変えれば、人間を殺戮できるような気がするのじゃが……、こんなもん、出会ったばかりの人間に伝授してしまって……大丈夫なのかのぅ」

『んー……まあいいんじゃないかなあ。私、人間同士の争いにはそんなに興味ないし。君は民間人を襲うタイプには見えないからね』


 完全にネコちゃんモードになって生返事をする私に。


「妾が無垢なる幼女だから良かったものの……もうすこし、そちの強すぎる魔術の伝授相手は、選んだ方が良いと思うぞ……」


 この魔術、国一つ滅ぼす事とて容易じゃぞ……と。

 妙にまともな発想で、私をジト目で見る幼女。


 その視線を受けながしながら――。

 魔導技術に目がない私は、入手したばかりの魔導書の虫。齧りつくように目を通していた。

 新たな知識の入手にウキウキわくわく!


『ふーん、にゃるほどね――そういう、事だったのか』


 毛先をウズウズ。

 目をギンギラギンとさせて……一ページ、また一ページと書物を捲ってしまう。


『永遠なる死の皇子。大魔族であり魔王軍最高幹部である私ですら知らない――古き神々の一人、か。これは、驚いたね。大物じゃないか』


 名も無き冥府の王。


 死人たちの眠る国――。

 冥府や奈落といった死した者が住まう世界を実力で支配する君主。

 太古の神らしいのだが。


 はてさて。

 恐らく、死神や冥府王ハーデスに分類される神、または神に類似する存在なのだろう。

 彼について記されたこの魔導書の力は本物。


 死を扱う魔導書としては、最上級の魔道具といっても過言ではない。

 伝説上だけの、存在ではなく。

 伝承の擬人化などでもない実体のある存在。


 この世界のどこか。

 または、この世界の近くに隣接するような異界に、ソレが存在しているのは確かなのだろう。


 その証拠に――。

 皇子の巫女たる幼女。現在、敵と交戦中のコプティヌスくん。彼女から蟲人駆逐の報酬として譲り受けた写本を開き、魔術師としての私がニヒィっと口角をつり上げる。


『交代だコプティヌスくん、少し魔術を試したい――我の作り出したロイヤルでスイートな大魔帝風ホットサンドがあるから、それでも食べて見物していたまえ』

「おー! なんじゃ! 妾に貢物とな!」


 くふふふふ、と口元に置いた手で高笑いする仕草を見せて。

 幼女、再び偉そうなドヤポーズである。


「良いぞ、良い! 実に良い! お腹も空いておるしなあ! せっかくなので受け取ってやるとしよう!」

『はいはい、子どもの頃からそういう悪の女幹部みたいなポーズしてると、変な大人になっちゃうから……やめようね』


 古参幹部の一人、色狂いと呼ばれる女幹部を思い出し。

 ジト目をしながら告げる私の言葉。


 それを受けて――なぜだか幼女は少し寂しそうな表情を浮かべ。

 ぎゅっと胸の前で手を握る。


「そう――じゃな。さて、子どもは子供らしく――お言葉に甘えて少し食事をするとしよう」


 あれ、なんだろう?

 魂の質からすると、実は長年生きているちびっこ老女! なんて、パターンではないと思うのだが。


 ともあれ。

 選手交代を素直に聞き入れた幼女は、ちんまりとした手で大魔帝風ホットサンドが封印されたランチバスケットを受け取り、にんまり。


 その中身を確認し――硬直する。


「な……っ」


 目を点にして。

 口を三角にしながら、しばしの間。


 だらだらだらーっと、全身に汗を滲ませて、呆れたように呟いた。


「――っ……ななななな、なんじゃ! この阿呆みたいな魔力回復効果を持つホットサンドとやらは! このような高価なもの、魔力全快状態の妾が食したら罰があたるぞい!」


 実に魔術師的な発想ではある。


『大丈夫だよ。それ、回復アイテムの効果は副産物で本来の用途はふつーに食事用なんだ。そんなに費用も掛からず作れるし――なにより私の手作りだ。子供にお腹を空かせて戦わせているってなったら私が魔王様に怒られるし。せっかく作ったんだから、食べて貰えると助かるよ』


 幼女はごくりと唾を呑み込み。

 

「そ、そうか? たしかにどこからどうみても、美味であろうと分かるが――その、なんじゃ……食べたあとに、お金とか、請求せんじゃろうな?」

『それは詐欺だろう……いいから、そんなに涎を垂らしていないで食べ給え』


 苦労してるんだなあ……この娘。


「そうか! ではさっそく――んぅぅぅぅぅんん! うまい、うまいのじゃ! いやあ、追放されてからはこそこそと行動しておったし、食料はなるべく囚われのあやつらに分けるようにしておったからのう。イモの皮より栄養が取れそうで、助かるぞ!」


 ふ、不憫すぎるな……この娘。

 まあ拾われたみたいな事を言っていたし。

 ……。

 事件が終わったらどこか安全な場所を提供して、居場所を作ってあげた方がいいのかなあ……。


『ゆっくりと食べたまえ。それじゃあ、私は今のうちに。魔術の実験なのにゃ!』


 宙に浮く魔導書が、イイ感じにバサササササササ!

 やっぱ、これだよねえ!

 魔力で、勝手に開いていくページって魔術師としてのロマンで満ちていると私は思うのだ!


 ともあれ。

 永遠なる死の皇子の逸話を読み解き、魔術式として再演算――その力を辿り、大魔帝ケトスこと私は新たな魔術を構築する。

 モフモフの黒毛が、魔術波動でモハモハモハ。

 膨らみ、ぶわっとカッコイイイ!


『魔力――解放。この世を憎悪し嘲りし神よ、全ての命を喰らいし死の王よ。汝の友らの力を我に――。安らかなる永遠の眠り(ヒュプノス・ヴェイン)!』


 やはり魔術は発動した。

 これこそが存在証明。

 今現在も、力ある存在として冥府の王は君臨しているという事だ。


 魔王様でもなく、私でもない強力な邪神……か。


 ともあれ、ちゃんと発動した魔術。

 そのターゲットは、現在移動要塞ゴエティアを占拠中の元人間で元バッタな合成人種ローカスター。

 私をブチ切れさせた、抹殺対象の枯れ木のような蟲人間である。


 ようするに、大量にいる動く実験台だ。

 残酷とは言うなかれ、相手はそれだけの事をした滅ぶべき存在であるし――なによりもだ。


 私――自由に生きるネコちゃんで、魔族だもの。

 そんなわけで。

 ネコちゃんモードの私は黒き猫毛を靡かせて――好奇心に鼻梁も黒く染めて、牙を覗かせる猫口を蠢かす。


『さあ――眠りたまえ。永遠に……』


 詠唱により呼び起こされた神の力が、魔術効果となって発動する。

 その効果は――永遠の眠り。

 すなわち、死。


 これは冥府の王の直接的な能力ではない。


 かの異神に刻まれた逸話。

 堕天し死した冥府の国、そこで歩んだ血塗られた道程。様々な試練の中で彼が巡り合った、友や敵――多種多様な神や魔の力を間接的に引き出せる能力。


 すなわち。

 アダムスヴェインと類似する魔術。


 魔王様の兄。

 レイヴァンお兄さんが得意とする魔術と酷似している。


 そしてこの魔導書には、こう書かれていた。

 彼の者こそが救世主。

 人を憎み、嘲りながらも――滅びの蝗害を喰らい尽くす者、と。


 百年間隔で飛蝗の湧く土地。

 百年間隔でそれを退治していた、レイヴァンお兄さん。

 そして――この地の祭司長で巫女である強者、コプティヌスくんが神と崇める存在、永遠なる死の皇子。


 おそらくはまあ――そういうことなのだろう。


 魔王様の兄、レイヴァンこそが死の皇子。

 冥府と奈落を支配する邪神――。

 死せる者たち、全てを喰らい掌握する君主。


 奈落の王レイヴァン。


 死者ならば善も悪も問わず喰らい尽くす存在――死者を迎え入れる冥府とは、いわばどんな魂すらも喰らってしまう世界なのだ。

 死者たち全てを喰らう世界を持つ男。


 それ故に悪食の魔性、か。


 うーみゅ……。

 なんつーか、めっちゃ大物でやんの……。


 いや、まあ。

 魔王様の兄なんだから、その時点で凄い存在なんだけどにゃ!



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― 新着の感想 ―
[一言] 麗しおじ様魔族と幼女の図は、ちょっと……… その……… おじ様が ロ リ コ ン に見えてしまうので控えたいところではある。
2023/12/27 22:28 退会済み
管理
[良い点] やはりレイヴァンさんが死の皇子でしたか。 [一言] 新たな猫魔法が生まれましたね。 後、レイヴァンさんが悪食の魔性ってのも今回の事で納得できました。 しかし死の皇子、冥府の王とはさすが…
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