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移動要塞ゴエティア編 ~まんまる夜空の殲滅散歩・前編~



 蟲人の情報を求めて、さあ出陣!

 ついでに無事なら人間達も救出だ!

 いざ行け、さあ行け!

 我等魔王軍の代表こと私、大魔帝ケトスは空を行く!


 ――と、月夜の空を突き進むのは私と魔王様の兄、レイヴァンお兄さん。

 更に人間二名が同行している。


 魔導地図の案内に従って、炎熱国家連盟エンドランドの本部・移動要塞ゴエティアを探してふよふよしているのである!

 後ろに続くレイヴァンお兄さんが、翼をパタパタ。

 魔術で編まれた空飛ぶ鳥籠を、スーパーのレジ袋みたいに掴んで持ち運んでいる。


 荒野と火山ばかりが見える大地。

 私たちは空を飛びながら、蟲人ローカスターの群れを発見する度。

 殲滅。


 移動要塞を探しつつ、生意気なムシどもを駆逐して回っていた。

 蟲人退治も依頼の内だからね。

 目指せ! 辺境伯の屋敷でのグルメ報酬なのじゃ!


 辺境伯というと、ワインを使った料理やワイン自体が有名だと猫耳に挟んだことがあるのだが。

 どんなグルメがあるのかな~。

 トロトロに溶けた牛肉のワイン煮込みとか、そういうのを期待していいんだろうか。


 未来のグルメにモフ毛をウキウキとさせている私を見て、レイヴァンお兄さんが銜えタバコの煙を後ろに流しながら問いかける。


「なあー! ケトスっちよー。なんでー、こんな危険な場所にー、こいつらをー! 連れていく必要があるんだー!?」

『あー! ケントくんとー! お付きの女性魔術師君のことかいー?』


 言われて私は、魔術鳥籠の中でブルブル震えている依頼主。

 どこぞの貴族こと辺境伯のぼんぼん息子、音痴な吟遊詩人ケントくんとそのお連れで、共に駆け落ちをしたという女性魔術師に目をやる。


『そりゃ、仕方ないだろうー! 王として話ができそうなジャハル君はガイランの街の守りに残って貰ったしー、私と君だけじゃあ魔族で信用されないだろうしー。本部の人間の仲介役をしてくれるー、人間の連れが必要なんだよー!』

「なるほどなー! でも、いいのかー! こいつら、なんか寒さで震えまくってやがるんだが!」


 言われてみれば、まん丸お月様が綺麗なこんな夜空を、高速で移動しているのだ。

 あれ。

 体感温度、ってどれくらいになるんだろう……。

 ……。

 慌てて私はギュギュギュギューっと急ブレーキ。


 肉球の表面が、魔力による摩擦で熱くなってしまう。


 魔術鳥籠の中を見てみると……。

 あ、まだ生きてるけど……固まってる。


『ま、まあ私、ロックウェル卿ほどじゃないけど回復魔術もケッコー使えるし。後で解凍すればいい……かな?』

「おまえさんなぁ……とりあえず、暖房魔術を掛けておくが――……なあ、ケトス。人間ってどれくらいの熱までなら平気なんだ? 熱湯ぐらいじゃ温いよな?」


 片手に召喚した溶岩をメラメラさせているお兄さんを、私は慌てて制止する。


『ぶにゃにゃにゃ! 駄目だよ、人間ってもっと脆いんだ! それ、たぶん拷問とかそういうレベルになっちゃうから!』

「そ、そーだよなあ。いやあ、分かってたぞ俺様は。うん、そうだよなあ、溶岩じゃあ、不味かったよなあ」


 いや。

 これ、私が止めてなかったら。

 親切心による溶岩シャワーで、ケントくんと魔術師君、溶岩流に埋もれて溶けていたんじゃ……。


 レイヴァンお兄さんも、どっか魔王様と似てる所があるんだよなあ……。

 古き神々って、どんな連中がいたんだろ。

 私が知りうる限りだと、魔王様にレイヴァンお兄さん。

 大いなる光に、大いなる輝き――。ざっと思いつくのはこれくらいなのだが。


 大いなる光も輝きも人間を管理する側の存在みたいだし。魔王様も人間に魔術を授けた的な事を言っていたし、レイヴァンお兄さんも人間に関わる仕事でもしてるのかな?


「どーする、こいつら? 死なれると面倒だし、やっぱりマグマで……」


 駄目だこりゃ。

 人間の耐久度とか、平均とか基準とか。

 そういう情報に疎いのだろう。

 どうしてこう、上位存在的な連中って感覚がずれているのだろうか……。


『んー、とりあえず――温めようか』


 慌てて私が紅蓮のマントを取り出し、ゴォォォォォっと暖房風を送る。

 徐々に体温も戻ってきたのか、その頬に赤みが戻っていく。

 ……。

 んー、減速するのも面倒だし、どうしようかなあ……。


『そうだ! お兄さんの翼亜空間に一時的に入ってもらうのはどうかな?』

「生きた人間を吸うと腹が痛くなるから却下だ」


 目を三角につり上げて、断固として拒否である。


『そうなの?』

「ああ、お前さんも魂の一部に人間を含んでいるんだろう? あんときゃ、憎悪の魔力のせいだと思っていたが。お前さんの前世を聞いて納得したわ。救助や隔離目的のためであってもだ、人間はまずい、あの時みたいに腹が痛くなるんだよ」


 んーむ。

 確かに私は人間と猫魔獣と魔族の魂と心を持つ存在だが。

 人間カテゴリーにされちゃうのは、なんか嫌だなあ……。


 まあ、実際。


 人間に特効効果のある人狩りナイフや、猿退治の魔槍――猿殺しといった武器の影響を受けて、通常よりダメージを受けてしまうっぽいのだが。

 私、魔獣殺しの武器やスキルにも大ダメージを喰らうし。神殺し属性の武器やスキルの影響も受けるし。

 当然、魔族殺しのスキルや魔術の影響も受ける。


 絶大な魔力とレベル差で無理やりダメージをカットしてるけど、意外に弱点多いんだよね。

 同じ実力やランク同士の戦いとなると、無視できないぐらいの欠点ではあるのだ。


 なにはともあれ。

 私は移動用鳥籠の中にいるケントくんに声をかける。


『おーい、ケントくーん、生きてるかーい?』

「は……はい、なんとか。ボ、ボクたちは大丈夫なんで……ギルドの仲間達の救出と捜索を、優先してください……」


 と、貴族の矜持を振り絞って彼は言う。

 私は腕を組んで、うーんとネコの唸りを上げる。


『まあ、君達が大丈夫だって言うなら――急がないといけないのも事実だし、このまま行っちゃうけど……本当に大丈夫かい? 私、人間がどれくらいの体力があるかとか、そういうの測るの苦手なんだよね』


 いつものたとえで申し訳ないが――庭の蟻んこが、どれくらいの暑さや寒さで倒れてしまうか分からないのと、同じである。

 まさか罪のない人間で実験するわけにも、ねえ?


 問う私に、彼らはぎゅっと手を握り合って。


「ええ、ボクたちも冒険者ですので防御結界ぐらいは張れますし。それになにより、こうして二人で寄り添っていれば……どれだけ冷えても心は常に、温かいんですよ」


 はぁ……と、かじかんだ手に温かい息をかけ、にっこり。

 身を寄せ合って、互いの目を見つめ。


「まあケントさま……ったら」

「デリーカくん……」


 こ、これは――!

 天然記念物ともなりつつある、何かと理由をつけて人前ですら手を繋ごうとする、熱々カップルというやつではないだろうか!?

 女性魔術師君の名がデリーカくんだって初めて知ったとかそう言う事は、まったく気にせず私の眼がギンギラギン!


 へえー!

 めずらしい!

 こういう生物、まだ存在したのか!?


 猫の好奇心でニャハニャハしてしまう私とは裏腹。

 何故かレイヴァンお兄さんは二人を眺めて、ジト目を尖らせ、フンと息をはき。


「なあ、こいつらなんかラブラブでむかつくから、溶岩流していいか?」

『いや……ガイランの街の人間であるこの人たちがいないと、本部についた時に困るから。やめてね』


 私が言うのもなんだけど。

 お兄さん。

 悪意はないが、だからこそ――けっこう、危険人物じゃない?


 と、猫のジト目で。

 溶岩を構えようとするお兄さんを見てしまうのであった。


 ◇


 魔導地図に記された移動要塞に近づく度、ローカスターとの遭遇の回数が増えていく。

 ゲンナリした様子で髪をガシガシ。

 レイヴァンお兄さんがジト目で呟く。


「まーた、でたぞ。こいつら」

『そりゃあ、まあ……元は億単位で湧いていたんだから……何度も遭遇戦になっちゃうよね』


 少し気になるのは、このローカスターが向かってくる方向だ。

 あくまでも鋭い猫の勘なのだが。


「何か気が付いたのか?」

『まあね。どうもこいつら――本部とされている移動要塞から、それぞれ広がって進軍しているような気がするんだよね。ほら、ちょっと見てみてよ』


 魔導地図に遭遇した場所を反応させ、レイヴァンお兄さんに見せてやる。


「あー、たしかに……そのゴエティア? とかいう移動要塞に近づくたびに、ぶつかってるな」

『こりゃ――……ローカスターの主か、それとも黒幕と言える存在なのかは分からないけど――、知恵ある何者かに本部が乗っ取られてるのかな』


 肉球を顎に当てながら、私は、んーと考え込む。


 相手がもし、本部を乗っ取る程の知識のある存在だったとしたら。

 無事とは言えないが――人間は生かされていると考えるべきか。


 人間は彼らにとっての食料なのだ。

 わざわざ殺すよりも、言い方は悪いが、家畜化させて管理した方がおいしく召し上がることが出来るわけで。

 そもそもだ。

 蟲人に移動要塞を操作できるとは思えないし、人間を生かしておいて、それこそ人質や労働力として使う可能性は高い。


 そこが問題で、厄介なのである。


「これじゃあ、生存しているかどうかは怪しいな。救助に入る前から悲観的なことをいうのもアレだが、あんまり救出に期待しない方がいいだろ、これ」

『まあ最悪、蘇生ができる状態だったら問題はないさ。冷たいようだが変に生きていられると人質にされたり――面倒な問題も発生してしまうからね。死んでしまった者は可哀そうだとは思うけど、そこまでは私たちの責任じゃないし』


 淡々と呟く私を見て、お兄さんがキシシシシ。


「そうやって割り切った考え方をできるところが、おまえさんが憎悪の魔性で魔族のボス猫たる証なんだろうな。嫌いじゃないぞ、そういう心の線引きは」

『そりゃどうも。こういう外道な場面で褒められても、あんまり嬉しくないけどね』


 もし人質に使われた場合、一番手っ取り早いのは人質ごとドカーン!

 私の魔力で吹き飛ばした者なら、魔力を辿っての蘇生も不可能じゃないし――最適解だとは思うのだが……。

 さすがに。

 人間であるケントくんとデリーカくんの前でそういう行動をしたら、信用を失ってしまうだろう。


 だから唸ってしまうのである。


 たぶん、蟲人達。

 人質作戦、使ってくるだろうなあ……。


 地味に頭がいいみたいだし……。


 その証拠に――。

 彼らが目指す先にあるのは、闇夜を照らす魔術照明の灯り。

 魔術照明のあるところには人間の集落あり、そう判断できるほどの頭脳もあるのだろう。


『これ。どーみても、行く先は……人間の街だよね』

「だろうな。これが百年ごとに湧くアイツラの進化系だっていうなら、やろうとしてることは、まあ一緒。人間そのものと、街や文化を喰う事にしか興味がねえんだろ」


 タバコをプカプカさせながらキシシシと嗤うお兄さん。


『ふーん、やっぱり。人間が標的なんだ、こいつら』

「まあ、そのために湧いているみてえだからな」


 黒い太陽みたいに突き進む蝗害もしょーじき、気持ち悪かったが。

 これはこれで、けっこう気持ち悪いかも……。

 やっぱり人型の蟲人になっても、人間を喰らおうと進む魔力飛蝗の習性は残っているようである。


「このままほっとくと明日の朝にゃ、この先にある小さな村が平野になるな。俺様は別にそれでもかまわねーんだが……お前さんにとっては問題になるんだろ?」


 問われて私は猫毛を震わせ、クワッ!


『その通り! まだガイランの街のグルメしか堪能していないんだ! 実はそんなに期待してなかったんだけど、実際食べてみたらけっこう美味しかったし、それを滅ぼすなんてとんでもない! 君だって、美味しいお酒や変わった地方のタバコを味わう前に人間の街が滅んでしまうのは、嫌だろう?』

「そりゃまあ、そうだが――」


 ゴゴゴゴゴ!

 と、使命に燃える私は猫毛を膨らませ魔力を、ぶわっ!


『なにはともあれ、じゃあやっちゃおうか』


 十重の魔法陣を夜空に輝かせ、


『あー! あー! ただいま音声魔術のテスト中! 通じたかな? あー、にゃほん! これは義務による警告です! 今から三十秒後にこの辺り一帯を吹き飛ばします! もし降伏を望んでいたり、この辺で生きている人間がいるなら、その間に返事をしておくれー! 回収するからー!』

「つっても、人間の生命反応も、死んでいる人間の反応もねえな」


 問いかける私の音声を聞いて答えるのは、レイヴァンお兄さんのみ。


『へー、珍しいね。お兄さん、死んでる人間の反応も分かるのかい?』

「ん? あ、あぁ……まあな」


 と、結構凄いのに生返事である。


 死霊化していない死した人間の反応が分かるなんて、私でもできないのだが。

 さすが魔王様の兄、といったところか。

 人が死んだ後に向かう場所、冥府や虚無。奈落や地獄、煉獄などといった場所と相性がいい存在なのだろう。


 まあ同じ古き神々であるらしい大いなる光も、人間の転生を操る能力があったしね。

 なんか、ちょっと負けた気分である。


 別に、ぶにゃにゃにゃにゃ、この我が負けた……!? と、過度に唸ったりとか。地味に悔しいとか。

 そういうことはない……と、思う。

 たぶん。


「三十秒経ったが、反応はねえな。こりゃ」

『そだね』


 蟲人どもはというと――。

 砂煙を上げて枯れ木のような身体を軋ませ。

 ただまっすぐに進んで、進んで――道を邪魔する山すら喰らい、平野にしながら進んでいる。


 一応、交渉の意志をこっちは見せているのだが……彼らは喰う事に忙しいのか、私の声には反応せずに、次の獲物を求めてワシャワシャワシャ。


 ま、初めから期待はしてなかったんだけどね。


『じゃあ警告もしたしやっちゃっていいよね! あのムシども、もう何度も民間人を襲ってるみたいだし――遠慮せずに、と』


 私はスゥっと前に翳した肉球をクイクイ。

 ぶにゃん、ぶにゃんで、ぶにゃにゃにゃ!

 空から地に向かい大きな魔法陣を描く。


 刻まれていく紅き波動。

 丸い魔法陣の輪。

 皆既日食にも似た輪っかから、垂れる魔力が零れ落ち――涙のように大地を濡らす。


『ぶにゃはははははは! 蟲退治なのニャ!』


 まん丸お月様が明るい夜。

 麗しき魔猫が一匹。

 その手綱に従い――紅き魔力の波動が、縦横無尽に暴れ始めた。



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