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炎熱騒乱 ~ガイラン冒険者ギルドにて~その4



 ギルド食堂と中央ホールには人間と蟲人。

 そして。

 偉大なる魔族がそれぞれに互いの顔を眺めていた。


 グルメか死か――究極の二択を迫られた人間はごくり。何故か目を点にして……深く息を呑んでいたのだ。

 

 やはりグルメといえば生命の糧。

 そう容易く差し出すわけにはいかないのだろう。


 しかし、だからこそ助ける対価としては釣り合いの取れる大報酬。

 彼らは選択せねばならぬのだ!


 ふふん!

 我、やはり邪悪なる猫魔獣なり――!


 と、モフ毛を輝かせ玉座の上でドヤる私こと大魔帝ケトスの横で、魔王様の兄レイヴァンお兄さんは何故か腹を抱えて大爆笑。

 うわ、こいつマジで言ってるよと羽をバサバサ。

 笑っている。


 あまりにも大きな要求だからね。

 大魔族としての私の邪気を感じ、心を動かされているのだろう――たぶん。


 ともあれ。

 そんな大魔族二柱を前にして、助かる機会だと踏んだのだろう――人間が動き出した。

 貴族風の吟遊詩人が代表で叫ぶ。


「ボクの名はケント=フォン=マルドリッヒ! 炎熱国家連盟に名を連ねる辺境伯の長兄だ。貴族として正式に依頼する、我が権力の全てを使った最高のグルメを提供してみせると誓おう! だから、どうかボク達のギルドを守ってくれないだろうか……!」


 貴族という事を隠していたようで、ざわざわっと声が上がる。

 あのケント坊やが貴族?

 あの、クソ音痴でお世辞にも風情があるとは言えないド下手吟遊詩人が貴族!?


 騒動に乗じて、そんな素直な中傷が貴族詩人ケントくんの背中に突き刺さっている。


 あー……。

 たまにいる、ジャイア……。にゃほん……音感とかそういう部分が人とズレているのに吟遊詩人を職業に選んでしまった――己が道を貫くタイプの人間なのか。


 まあ。

 吟遊詩人の支援や呪歌の効果に、歌の良し悪しは影響しない。

 単純に込める魔力で変わるしね……。


 魔力で浮かぶ玉座をぐるりと回転させ――私はケントくんをギロリ。

 ふむ……貴族というのは本当らしい。


『いいよ、正式な依頼という事で契約だ――』

「あ、ありがとうございます――っ」


 喜びに表情を輝かせるその貌に釘をさすように、私はネコ髯を妖しく蠢かす。


『ただし、あらかじめ言っておこう。もし依頼を果たした後に、君がグルメ提供を放棄し逃げた場合――この地に住まう人類が滅ぶ。覚えておくといい』

「承知いたしました――マルドリッヒの名にかけて、必ず……必ずやグルメを提供してみせましょう」


 胸の前に手を置き、力強く宣言するケントくんを人間達が、おぉ……!

 と賞賛する。


 大魔帝を前にしても怯まず宣言しきったケントくんは、なぜか――火炎弾を連打していた女性魔術師をちらり。

 彼女もまた、小さく頷く。


「ケントさま……」

「大丈夫、ボクがマルドリッヒに連なる者だと知られても……ギルドの皆なら問題ないさ」


 こいつら、そういう関係か。

 身分違いの許されぬ恋をして駆け落ち、父の領土から出奔したのかな?

 そうかそうか。

 にゃるほど、にゃるほど~!


 にゃは~ん……!

 ついつい、若いカップルをみるオジサンの顔をしてしまいそうになり……いかんいかん!


 今はそんな状況ではないのだ!

 ……。

 あとでさんざんに揶揄ってやろう。


 ともあれ。

 貴族が相手ならグルメも期待できるだろう。

 にゃふふふふ。

 この勝負、我の勝ちである!


 いや、まあ誰と戦ってるわけでもないけど。


 ◇


『さて――』


 魔導契約書にサインをさせた私はくるりと回転。

 古き神々の嫌がらせ蟲人ローカスターに目をやって――。


『では警告だ。ローカスターの諸君。今から私は君達を殲滅する。完全なる殲滅だ――』


 玉座の上で、肉球を翳した私は闇の炎を浮かべてニヤり。

 ここ。

 悪の大幹部っぽいドヤポイントである!


『ただ、私は魔族だが無差別殺蟲犯というわけではない。故あって仕方なく参戦した者がいるのなら――今のうちに逃げたまえ。それくらいは私の裁量で許そう。民間人や女子供を襲わないと誓うなら、自由に逃げて貰って構わない』


 とりあえず、殺戮前のマイルールとしてお慈悲を与えたのだが。

 うーん。

 こいつら、ぜーんぜん聞いてないでやんの。


 タバコの煙結界で人間達を守りながら、レイヴァンお兄さんが茶々を入れてくる。


「おーい、ケトスっちよ。こいつら、言葉が通じてねえみたいだぞ? おまえさん、虫語は話せねえのか?」

『いや、無理だし……。そもそも魔力による強制会話だから伝わってはいる筈なんだけど……んー、駄目みたいだね』


 蟲人ローカスターは枯れ木みたいな身体をギシギシ鳴らして――じりじりじり。

 こちらに飛びかかるタイミングを見計らっている。


「ギギギ?」

「ギギ?」

「ギギギギッギギッギ?」


 翻訳してみると。


 ――ケトス?

 ――ネコ?

 ――どーこかっで、きいった?


 んー……やっぱり限定された関係……。

 仲間たちとの最低限の会話しかできないのかな。


『まだ私の恐ろしさをちゃんと認識できていないみたいだから、まあ――これはサービスだ』


 言って、私は。

 ザァァァァァァァアアァァァァァ!!

 憎悪の魔性としての力の一端を解き放ち、周囲を瘴気の渦で包んでいく。


「ひぃ……っ」


 人間達が口元を抑えて、足をガクガク。

 絶大なる魔力の一端に触れて、本能的な恐怖に身体を震わせているのだろう。


 いや、君達の方が怯んでどうする……。


 ケントくんなんてまともに顔色を青褪めさせて、ボクはなんてモノと契約してしまったんだって顔をして、女性魔術師君をちらっと見ているし。

 女性魔術師の方も、震える手をなんとか止めようとぎゅっと握って――お慕いするケント様のご判断を信じております……、的な顔をしているし。


 なんか――私、すっごい大悪人みたいじゃん……。


 ともあれちゃんと怯ませる効果は発動している。


 ローカスター達にも効いてくれて。

 怯んで、交渉を選択してくれればいいのだが。


「ギギ!」

「ギギギ!」

「ギギ、ギギ!」


 ――喰う!

 ――食べる!

 ――ネコ、くう!


 このローカスターども。

 原始的な欲求である食欲ばかりが先行しているのだろう。


『駄目だこりゃ。会話を成立させる以前の問題だね』


 キシシシと、魅了した女性冒険者の肩を抱き――セクハラしながら嗤うレイヴァンお兄さんが言う。


「どうやら交渉決裂のようだな。ったく、こんなムシどもにまで同情していないで、とっととやっちまえばいいのに」

『魔王様から軍を預かっているんだ。亜人種っぽい相手だったら、そういうわけにもいかないのさ。ていうか君、魔術を用いての過度なセクハラは、魔王軍の規則に引っかかるから程々にしておくれよ』


 お兄さんはニヤりと渋い決め顔を作り――。

 ドヤァァァァ!


「何言ってんだ。魔術なんて使っちゃいねえさ――こいつらは俺様に守られて至上の喜びを感じている。そうだろ……なあ、おい」


 女性冒険者たちの一団が、おっしゃらないで下さい……っと。

 頬を赤く染めちゃってるし……。


 さすが魔王様の兄。

 天然の魅了能力を持っているのだろう。


 まあ実際――煙草の煙から生み出された結界は、完全に人間を魔術的加護で覆い守っている。

 魔術に携わる者ならその強靭さが理解できるのだろう。


 明らかに異形。

 明らかに超越者。

 並の存在ではない。


 けれど、気安く話しやすい。

 そういう部分に惹かれるのかもしれない。


 高位の魔族は人間を魅了し虜にする一面もある。

 魔族に魅入られた人間の逸話が、こちらの世界にもチラホラ存在する。

 それは種族や性別の壁さえ関係なく――彼らの魂を甘く蝕み……捕えてしまうのだ。


 私の方が凄いけどね。


 まあ、いいや。

 魔王様の兄がセクハラで逮捕される前に、とっととローカスターどもを殲滅しよう。

 さて。

 殲滅するだけならそう念じるだけで全部この場で消し去れるのだが。


 それじゃああまり面白くない。

 私はドヤりたいのである。


『警告もしたし――もう遠慮しなくていいよね』


 言って私は、ズゴゴゴゴゴゴゴ!

 いきなし十重の魔法陣を展開!


 亜空間からとある異界の魔導書を取り出し――詠唱。


『我こそはケトス。大魔帝ケトス――世界を渡り歩きし殺戮の魔猫なり!』


 紅蓮のマントがパタパタパタ。

 浮かぶ私の玉座から、ローカスターの群れに向かって種子が飛ばされていく。


「ギギ――!」


 跳躍し、逃げる飛蝗軍団。

 加速の魔術を使っているのだろう、その脚は種子を避け跳ねまわるが。


『甘いね――ほら、捕まえた』


 パチン――!

 鳴らす私の肉球衝撃音に動きを制御され、その頭蓋に種子が突き刺さる。


『君達の情報は確保しておきたいからね、その命、その身体。全てをサンプルとさせて貰おう。さあ、私の命に従い給え』


 次の瞬間。

 種子から顔を覗かせた蜂の女王が、ローカスターの頭脳に針をブスり。

 思考回路を占拠――種を植え付け、じゅじゅじゅじゅ。

 寄生していく。


 ローカスターの一部が、ギギギと唸りを上げ仲間に向かい飛蝗キックを繰り出し始めた。


 女性冒険者の肩を抱き寄せ。

 しっぽりと酒を傾けていたレイヴァンお兄さんが、まともに顔色を変える。


「ほう! 傀儡の魔術――か?」

『異界の大魔族の力を借りた寄生植物召喚魔術――魅了も傀儡も効かない意思なき蟲を操る唯一の手段さ』


 レイヴァンお兄さんは魔術式を読み解き、しばし考え込む。

 黙り込んでしまった。

 見た事のない魔術式に驚愕しているのだろう。


 戯れを捨てた頬に脂汗を滴らせながら、やがて――低く唸りを上げた。


「冬虫夏草をベースとしたオリジナル魔術か。弟も意味の分からん魔術を多数持っていたが、こんな魔術みたことねえな。お前さんのオリジナルだろうが――。んな、稀少中の稀少魔術……どこで覚えてきやがったんだ……?」

『まあ、これでも私は大魔帝。魔術のストックは沢山あるのさ』


 虫を植物魔族の力で操るなんてピンポイントな魔術、ふつうは覚えないからね。

 ちなみに。

 これは以前の事件で知り合った異界の大魔族――冬虫夏草より生み出された強大なる魔、蟲魔公ベイチトくんの力を借りた魔術である。


 使う機会がこなくて実験できなかったのだが、ベストタイミングだったので魔導実験に使わせて貰っているのだ。


 植物に支配され――反逆。

 群れの輪から外れて暴れるローカスターを見て、女性冒険者がたどたどしい口調で呟く。


「すごい、魔術なのですか……?」

「すごいなんてもんじゃねえよ――魔術やスキルを生業として生きるモノ……冒険者たちなら、よく見ておく事だな。これは、魔術師としての頂点を極めし領域にある者のみが許される大魔術。おそらく、二度と拝めることはないだろうよ」


 どうやら、予想以上に効果があったようで。

 レイヴァンお兄さんのお眼鏡に適ったようである。

 そうだー! そうだー!

 もっと褒めよ! 讃えよ! 奉るのニャ――!


 ぶにゃははははは!


 内心では小躍りしながら転がりまわる私だが、それを表に出さず。

 ただ――静かにモフ毛を靡かせて。

 ニヤリ。


 そんなドヤ猫な私に目をやって、レイヴァンお兄さんが周囲に説明するように語りだす。


「遥か遠くの異界。かつて魔王の魂が生まれた地とされる青き星。勇者の魂さえも育つとされる伝説の地」


 魔王という単語に、人間達がざわつく。


 おー! さすが魔王様!

 偉大なるその名が出るだけで、人間達に動揺を走らせることが出来るなんて――愛猫としては誇らしい限りなのである!


 全てを見通すレベルの魔眼を発動させ、お兄さんは淡々と続ける。


「彼の地にてさえも稀少、高価な錬金素材として取引される伝説の植物――冬虫夏草。その身を長い年月をかけ召喚したのは古き神……大いなる輝き。彼の者の手により大魔族と化した存在、冬虫夏草の化身、蟲魔公ベイチト……。蜂の女王を眷族とし、更に信頼の証として得た魔導書、グリモワールを用いた魔術――か」


 セクハラの手を止めて――レイヴァンお兄さんは私を睨み言う。


「ケトスよ――おまえさん……実は、俺様が想像していた以上に――かなりヤベェとんでもない奴なんじゃねえか?」

『ぶにゃははははは! 我の偉大さ、思い知ったか!』


 てか、すごいな。

 お兄さん、異界の情報まで知っているのか……。

 まあ未来を見る能力があるみたいだし。

 大いなる輝きが古き神々であったのなら、その存在と異界を知っていても不思議ではないのだろうが。


 なんか貴族吟遊詩人のケントくんの貌がますます青褪めていく。

 この反応からすると……私の事を、ここまでの存在だとは思っていなかったのかな?


 しかーっし!

 今更ビビってももう遅い!

 グルメ報酬を受け取るまでは、ずっと付きまとってやるのである!


 さて。

 どうせなら分かる人がいる前で、自慢したいのが猫心というもので。


 更に魔導書を顕現させた私は、二冊の魔導書を開き。

 同時詠唱。


『異界の主たる神の樹よ――我が願いに耳を傾けたまえ!』


 異世界の主神の力を借りた世界樹魔術を発動。


 燃え尽きて壊れかけたギルドの損壊をなかったことにし、再生していく。

 見る見るうちに、崩れたギルド内部が元の状態に戻っているのだ。


「すごい……っ、わたしたちのギルドが、蘇っている」

「き、奇跡だ――」


 いや、まあ本当に奇跡なんだけどね。

 魔術的な意味で。


 もっと、もぉぉっと!

 褒めて貰えると思ったのだが、お兄さんはちょっと引き気味に言う。


「なあ……ちょっと聞きたいんだが……あの、大いなる輝きと知り合いなのか?」

『え、あー……うん。まあ』


 あれ、やりすぎたかな……。

 しかも、あの大神と知り合いっぽい? そういや女神みたいだったしなあ……あの腐れ外道。


 言葉を濁す私。

 問い詰めるレイヴァンお兄さん。


「なんだその貌は。なーにを隠していやがる」

『うーん、お兄さん。大いなる輝きと友達だったりとか、恋人だったりとかそういう関係じゃないよね?』


 げんなりした顔で、お兄さんは翼をバサリ。


「気色わりぃこというんじゃねえっての……で、大いなる輝き、あの糞アマは今どうしていやがるんだ。今の奇跡、ちょっと質が変わっていたが――異界の主神の力だろう?」


 大いなる輝きを罵倒している所を見ると、恋人とか、そういうセンシティブな関係ではないという事か。

 にゃは!

 なら問題ないね!


『あー、良かった! てっきり昔の深い知り合いだったりしたら、どう誤魔化そうかって思ってたから助かったよ。大いなる輝きね、うんうん! 異界で暴れてけっこうな事をしてたから――滅ぼしちゃったよ!』

「滅ぼした?」


 オウム返しに、私は元気よくドヤァァァァァ!


『うん!』


 しばし、沈黙。

 お兄さんは組んだ腕をそのままに、現代アートみたいな顔をして。

 ぶしゅーっと頭から湯気を吹き出し始めた。


 あ、理解が追い付いていないのかな。


「……は? 主神の器を滅ぼしただと!?」

『うん、だってアレ。なんかムカついたんだもん――早送りで見てみる?』


 言って、あの腐れ外道がやっていた悪行をまとめた記録クリスタルを投影する私。

 いわゆる、無実の証拠というやつだ。


 私、あの件に関してはまったく悪くないし―。

 流れる映像を理解し、ちゃんと噛み締めて――レイヴァンお兄さんは額に大きな手を当てて、天を仰ぐ。


「はー、マジかー。四百年前に見た未来と変わりまくっているとは思ってたんだが。まさか、ここまで変わってるとは……えぇ……いや、これ変わり過ぎだろ……。こりゃ、魔王もお前さんを気に入る筈だわ」

「あのぅ……この黒猫さんは、いったいなにをしたんですか?」


 と、枝垂れかかるようにレイヴァンお兄さんの大人の身体に身を任せ。

 既に望んで、手籠めにされかけている女性冒険者が言う。


 女性の髪を、まるで猫の背を撫でるように甘く撫でながらお兄さんは言う。


「まあ、簡単に言うと主神殺しだな。異世界のだが」

「主神?」

「あー、こっちの世界じゃ大いなる光が主神になってるんだろ? 異世界の類似する神をやっちまったって事だよ。まあ大いなる輝きはぶっちゃけ、悪神だったから……滅ぼすことは悪い事じゃねえんだが……そっかー、アレを滅ぼせる程の存在にまで成長してるってのか……」


 はははははっは!

 と、ひとしきり笑って――レイヴァンお兄さんは現実逃避するように酒をグイグイ。


「なあ、魔王の眠る今――お前さんを止められるヤツっていないんじゃねえか?」


 人間達が、ものすごい怯えた顔でこちらを見ているが。

 事実だから、まあいっか。


『えー、なんか引きながら言わないでおくれよ。私が、気ままに散歩する特大地雷みたいじゃないか!?』

「いや、実際その通りだろ――。他の魔性共がいっていた通り。世界を何度も滅ぼしかけたって言うのも――どうやらマジみてえでやがるな……。なあ、おい。ニャンコ……もう少し自重ってもんを覚えた方がいいぞ。わりと、マジで」


 ジト目が重い。

 やばい。

 これ魔王様が目覚めた後に、色々と告げ口をされてしまうかもしれない。


 どう、ごまかそうか。

 いっそ、記憶を消去してしまうかと猫頭を悩ませる私に――。


 操作されていないローカスターどもが、一斉に飛蝗キックで跳んでくる。

 勝負を仕掛けてきたのだろうが。

 ていうか、まだいたのか。


 今はそんな蟲に構っている場合じゃない!

 私は肉球を翳し、くわ!


『もー、ちょっと静かにしていておくれ! いま、どうやってお兄さんを黙らせようかと考えているんだから!』


 と。

 牽制の意味も込めて。

 覚えたての低級魔術。火炎弾をかるーくぶっ放したのだが。


 何故か、掲げる肉球は重く。

 浮かんだ魔法陣も八重のモノ。


 気付いた時にはもう遅く。


 ゴゴゴゴゴオ、ゴガガァァァァアアアアアアアァァァ――ッ!


 紅蓮の業火となって発動した火炎弾は――並みいる敵を全て呑み込み吹き荒び、ギルドの天井を突き抜けドガーン!

 そういや。

 魔力量によって威力が変わる魔術ってのも、あるんだよね。

 これ……そういう属性も含んでいたのか。


 レイヴァンお兄さんが、頭を抱えて、はぁ……と重い息を吐く。


 やばいね、これ。

 連打できちゃうんだ。


 しかし、もっとやばいのは。

 上に居たギルドマスターっぽい人を庇って、紅蓮のドレスを黒焦げにしていた大精霊の影。


 穴の開いた天井から、プスプスプスと少し燃えた髪を掻き上げ、こちらを凄い目で睨んでいるのは――鬼か般若かお母さんか。

 炎帝ジャハル君が、こっちを睨み。


 じぃぃぃぃっぃいいいいっとした目で見つめたまま。

 ゴゴゴゴゴゴゴ!


「ケートース様……っ、オレ……、大人しくしていてくださいって言いましたよね?」


 上でも戦闘が続いていたのだろう。

 それと、何やら炎の加護を与える治療を行っていたようだが――。

 燻る魔力の渦の名残を感じられる。


 ま、まずい。

 ジャハル君を怒らせると、おやつが減ってしまう!


『う……っ、これは人助けというか。なんというか……』

「暴れないでくださいって言ったじゃないっすか! 分かったって納得してましたっすよね! なんでこんなことになってるんすか!? どうせグルメに釣られてほいほい依頼を引き受けたんでしょうけど! 今の魔術、オレだったから服が焦げただけで無傷だったっすけど。もし人間にあたってたらどーするつもりだったんすか!」


 それは、まあごもっともで。

 実際。ジャハル君がギルドマスターっぽい人を守っていなかったら、蘇生ができない程に消滅してしまったわけで。


『ご、ごめん……』


 私はしょぼんとモフ毛を下げて。

 反省。


 私を止められる人、すぐ身近に居たね。


 この後。

 めちゃくちゃ怒られた……。


 ◇


 ちなみに。

 操った蟲以外は、肉球を鳴らし即座に消滅しておいたのである。


 自慢なんて考えずに……最初からこうすればよかったね……。



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― 新着の感想 ―
[一言] 今のはメ◯ゾーマではない。メ◯だ。 みたいなことになってる。
2023/12/24 23:04 退会済み
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