表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
236/701

魔猫は神をも噛み殺す ~編成準備、前編~



 王国軍の精鋭が待機している王宮の中庭。

 神殺しの準備は着々と進んでいた。

 既に一度、ネイペリオン帝国への遠征を経験しているおかげだろう。編成は迅速に行われている。


 今回は私の配下の猫魔獣たちも遠征準備をしていて、それぞれが自らの装備を入念にチェック中。

 彼らは私側の世界から出張してきたニャンコたちだ。

 

 大魔帝であり、猫の王ともいえる私こと魔猫王ケトス。

 猫魔獣の間で英雄扱いされている私の前で、活躍してみせると張り切っているようである。

 人間達は――。

 まあ! なんて愛らしいネコちゃんたちなんでしょう!

 と、頬を緩めて喜んでいるが……あのニャンコたちも、相当に極悪性能な猫魔獣なんだよね。


 なにしろ魔王様の御城に棲んでいる猫魔獣なのだ。

 いわばラストダンジョンに出てくる高速系の魔獣。二回行動で、攻撃に麻痺やら毒やらの付属効果があって、すばやいので攻撃も当たらず、道具や装備を盗んでくる上に、常に仲間を呼び続ける。

 そんな。

 嫌がらせの塊のようなニャンコたちなのである。


 連れてきた理由は単純。

 待ち構えているだろう大いなる輝き、その配下の眷属達と戦ってもらうため!

 ってのもあるが……まあ正直に話すと、こいつら……私の作る大魔帝風ホットサンドをどこかで耳にしたらしく、遠征の報酬に貰えるのではないかとモフ耳を立て出陣。

 次元の隙間を自力で通り抜けて。

 こっちの世界に、やって……きちゃったみたいなんだよね。


 前から薄々思っていたのだが。

 猫たち、レベル上がり過ぎじゃない?


 私の力が増すたびに魔王城にいる猫魔獣はもちろん、世界に存在する猫魔獣全体の基礎レベルが大幅に向上しているのは前から知っていた。

 魔猫の王たる私には猫種族全体の強化とか加護とか――そういう自動発動の恩寵スキルがあるからだ。

 しかし。

 それがちょっと、最近……強力過ぎる効果になっているような気がする。

 集団で力を合わせたとはいえ、次元渡りまでできるようになっているのは……どう、なんだろうね。


『まあ、いっか! ネコちゃんが強くなれば、魔王様も喜ぶだろうし!』

「ケトスさま? どうかなさいましたか?」


 開き直る私に声をかけてきたのは、魔猫王城に仕えてくれている黒猫執事。

 最初、メルカトル王国と連合軍の前に出てくれた紳士な彼である。


『にゃははは、ごめんごめん。ちょっと考え事をね。それよりも――そっちの進行具合はどうだい?』

「はい、我が君よ。順調でございます――猫魔獣大隊、いつでも出発が可能となっております」


 編成内容を示す書類を手渡され、確認する。

 各部隊に盾となる職業の猫魔獣と補助役。ヒーラーと攻撃担当の黒魔術系のニャンコや、狩人や砲撃士、この世界では珍しいガンナーの職業にある猫魔獣が配置されている。

 盾、回復、補助、アタッカーと隙の無い構成だ。


 満足いく内容に頷き。

 モフっとした私は猫口を和らげ、毛をふんわりと動かした。


『ありがとう、助かるよ。やっぱり君を最初に召喚しておいて正解だったね。いやあ、猫魔獣ってけっこう適当な性格な個体が多いし、君みたいにキッチリしてる猫って珍しいんだよね』

「お褒めにあずかり光栄でございます」


 尻尾を優雅にくるりとくねらせ、恭しく礼をする黒猫執事君はとても嬉しそうである。

 全身の毛が歓喜に震えている。

 にゃふふふふ! これでも私、本当に猫たちには尊敬されているからね!


「それでは我が君、ケトス様。彼らの扱う魔道具を再確認してきますので、これにて」

『ああ、頼んだよ』


 黒猫執事は猫部隊の編成と最終確認で大忙し。

 朝の見回りをしている王国の兵士達に会釈と挨拶をして、わっせわっせ!

 尻尾を立てて状況や作戦説明に奔走中。

 どうやら王国を守っているうちに懐かれてしまったのだろう。尻尾を奮わせ大忙しな黒猫執事の後ろには、メルカトル王国の子供たちが、カルガモのヒナのように続いている。


 人間の子供たちを振り返る彼の瞳には、複雑な感情が含まれている。

 あー……そういや、彼も人間になにやら恨みがあるんだっけか。

 それでも。

 どうやら私がいない間に感情の変化でもあったのか。

 表情はだいぶ柔らかいものになっている。


 女子供に甘くなってしまうのは、私が王として君臨する猫魔獣の性質なのかもしれない。

 私の力が猫魔獣全体の能力に影響を与えているように、その理念や性質にも多少の変化を与えているのだろう。

 ようするに。

 王が女子供と民間人には優しくするようにしているから、それに倣おう!

 と、猫たちも思っているわけである。

 もっとも。

 甘いといっても、今回の相手――分類すると女神らしい、大いなる輝きに対して慈悲を見せるつもりは皆無だが。


 静かに瞳を閉じる私のモフ毛が、ぶわりと揺れる。

 人にも魔族にも、そして神にも。

 超えてはいけないラインというモノがあるのだ。

 アレはそれを超えてしまった――だから、私はアレを消滅させよう。


 と、思わず殺気を放ってしまった私のせいで空気が揺れる。

 格闘ゲームで必殺技のゲージが溜まり、オーラがじりじりと出ているように私の周囲が揺らいでいたのだ。

 そんな剥き出しの力に反応したのだろう、強力な聖なる気を放つ集団がザザっと前にでてきた。


 防御陣形を組んでいた猫魔獣の正体は、騎士の姿をした神々しい猫魔獣の武人。

 聖なる猫騎士パニャディン

 前の事件で勧誘した、私の新たな眷属である。


「とてつもにゃい殺意の波動を感じて慌てて飛んできてみれば、にゃるほど……ケトス様であられましたか」

『やあご苦労様。驚かせてしまってすまなかったね、君達』


 責任感と仲間意識の強い彼らは、異界渡りをする猫魔獣たちを守り連れ戻そうと、こっそり後をついてきていたのだ。

 もちろん、魔王城を守る魔帝、炎帝ジャハルくんの許可は貰っていたようである。


 こちらの世界で正義を為して、民を救った報酬にこちらの通貨を手に入れて。

 ニャッハー! ニャッハーー!

 と、グルメを貪りながら私の帰りを待っていたらしいのだが……状況は一変した。

 今回の事件と大いなる輝きの名を聞き、彼らは奮起――神討伐軍への参加許可を求めてきたのだ。


 神話レベルの戦いにもついていける彼らは、冗談抜きで即戦力。

 理性的で守りにも長け、人間達にもわりと好意的な彼らに欠点はなし。神殺しに向かう我らと王国軍にとってもありがたい存在となる。

 断る理由もなかったので、参加して貰ったというわけだ。


 神話の時代から存在する強力なる騎士猫。

 聖なる猫騎士パニャディン達は今回の敵である大いなる輝きとも面識があるらしく。

 古代の聖剣の柄を肉球でぎゅぅぅぅぅぅううっと握り、その険しい顔を尖らせている。


「偉大にゃる我らが王、魔猫の君。素晴らしき御方、魔王陛下にお使いにゃされるケトス様。あの輝きの悪魔を滅ぼす機会を与えてくださり、感謝いたしますニャ」


『そういえば君達は神話魔術から顕現しているんだったね。まさか、大いなる輝きと知り合いだったとは……あいつ、いったい何をやってこっちの世界にまで逃げてきたんだい』


 私の問いかけに、ブゥゥゥッゥウワワワワワ!

 全身の毛を逆立てて、神聖な魔力を大放出させながら彼らは猫の唸りを上げる。


「口にするのも憚れるほどの――大罪!」

「あやつは神族の裏切り者!」

「同じ時代に生きた存在として、我等パニャディンは彼奴きゃつを、輝きを落とし断罪せしめる剣とにゃりましょうニャ!」


 騎士の誓いの剣を、ギラーンと輝かせ。

 爪と牙も滾らせて、騎士ネコ達は唸り猛る。


 ……。

 いや、まじでなにしたんだ、あの糞女神。

 普段は穏やかで、聖騎士として凛と佇み過ごす聖騎士猫たちにこんな極悪貌をさせるって、よっぽどだよ……。


 ちょっとその心を覗いてみると――。

 あー……あの糞女神。

 こっちに逃げる時に、聖猫たちの里の食糧庫を漁って食べ物を根こそぎ盗んでいったのか。

 そりゃ、猫様から食料を盗んだら、こうなるか。


 まあ、おそらくそれ以外にもやらかしていたんだろうけど。

 ともあれ。


『ま、まあ君達がそこまで荒れ狂うほどのことをやらかしてたってのは……よく分かったよ。じゃあ君達とメルカトル王国軍の目的は一緒なわけだ。今日はよろしく頼んだよ』

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。そう、人間達にお伝えいただけると助かります。我らが直接挨拶に行ってもよいのですが――そのぅ……気が荒ぶっております故。驚かせてしまうでしょうしニャ」


 全身の毛をぶるぶると震わせ、神聖な魔力を纏いながら彼らは言う。


『まあそれでも君達はネコちゃんだし、可愛いといってくれるとは思うけれど……了解したよ。ちゃんと伝えておく。人間達は蘇生できる状態にしてあるけれど、なるべくなら死なせたくない。うまい事、様子を見てやってくれ。あいつら、そんなに強くないくせに私を守ろうとしたくらい、お人好しで――無鉄砲だからさ』


 パニャディン達が顔を見合わせて、頷く。


「なんと、あのような脆弱な身でケトスさまを御守りしようと――なるほど、彼等にも騎士の心があるのでしょう。承知いたしましたにゃ」


 とりあえず、猫魔獣部隊の編成は信頼のできる黒猫執事君に任せる事にして。

 打ち合わせ通り――。

 私は王国軍の皆に、強化の魔術を掛けに行くことにした。


 ◇


 編成が終われば、いよいよ出発だ。

 はてさて。

 主神クラスの神落としとなると、さすがに世界を揺るがす大イベントなのだが。

 どうなることやら。


 まあ、この私が協力するのだ。

 いざとなったら全部吹っ飛ばして、神以外を蘇生させるという裏技さえもできてしまう。

 負けはしないが、どれほどに被害を出さずに討伐できるか。

 それが今回の注目ポイントになるだろう。


 だって、ねえ?

 まさか全てを破壊して解決した魔猫王として、歴史に名を残したくないしね。


 せっかくならば、超格好よく活躍をした伝説をこの世界に残したいのである!

 そして!

 その偉大なる猫魔獣ケトスを自在に操る御方こそが、全ての頂点に君臨する魔王様!

 そう。

 全ては魔王様の名声のため、今回の作戦はかならず穏便に成功させるのである!


 ……。

 べつに、変なフラグじゃないよ?

 本当だよ……たぶん。

 死者を出さずに神をふっ飛ばせば良いだけだし。


 ちょっと大陸とか次元が割れる程度の被害はでるかもしれないが。

 まあ、それくらいなら。

 うん。

 必要経費みたいなもんだよね。


 あの大いなる輝きがぜーんぶ悪いんだし。

 もし多少の被害が世界に残っても、うん。

 問題ないのじゃ!

 全部神のせいってことにしちゃおう♪



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 何か眷族猫ちゃんがホットサンド目当てに現れていてかわいい! [一言] 大いなる輝き…。大罪ってパニャディン逹に一体何をやらかしたんだろ…。 とにかくろくな奴ではないのは間違いなさそうです…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ