亡国の地下監獄ダンジョン ~ネイペリオンの秘密~その1
ネイペリオン王城の地下に広がる監獄ダンジョン。
死の香りが濃い仄暗い道。
迷宮化した影響で襲ってくる魔物を薙ぎ払いながら進むのは我らがアイドル黒猫魔族――偉大で愛らしい大魔帝ケトスと王国軍御一行。
四大脅威が一柱。蟲魔公ベイチトくんの助力も得て、にゃんこと王様たちは道を突き進む!
目的地は狂ったマンドレイク、女教皇ラルヴァ!
その封印された場所へと向かっているのである!
蘇生を試みる必要のない魔物たちに遠慮する必要などなく。
敵と遭遇しても私の魔力で一撃粉砕。
既に無双状態で突き進んでいるのだ。
武器を構えていた王の忠臣、三傑。
宮廷魔術師と神官のワイルくんとミディアムくんが、展開する魔法陣をキャンセルして困り顔。
「なんというか……つ、つよすぎませんか……?」
「圧倒的、ですわね……レベルの桁が違うなんて次元の話ではないのでしょう」
騎士団や魔術師団。聖職者の支援部隊もそれに続く。
「これだけ強くてかわいいだなんて。魔王様と呼ばれる御方が羨ましいですわ」
「まったくでありますなあ。きっとケトス様のご主人様は幸せ者なのでありましょう」
「然り、なれど我らにも偉大なるカルロス王がおられる。素晴らしき御方、魔王陛下には劣るでありましょうが立派な御仁であるぞ」
と、三人の部隊長の魔王様を褒め称える言葉である。
なんか、王様の指示で露骨な魔王様上げが行われているような気もしなくもないのだが。
……。
これ、私が魔王様を褒められると、にゃひー! って、大喜びで皆に強化の祝福を施してるのがバレちゃってるのかな?
まあいいや!
事実なんだし!
人間たちの感嘆の声が実に心地良い!
まあ実際強いんだから、仕方ないけどね~♪
ちなみに。
マッピングは既に私のダンジョン魔術でコンプリート済みである。
もちろん便利過ぎる魔術にみんな驚いてくれたのである!
先導してくれる眷属蜂の道案内に連れられて、漆黒の猫毛を靡かせ私はトテトテトテ。
『しっかし、広いねえ……ここ』
「囚人を閉じ込めておく牢獄ならばこれほどまでの広さは必要ないでしょうし、少し、異常ですわね――」
なーんか……地下の監獄だけあって、暗い。
ものすっごく辛気臭いし、ちらほらと見える景色はあまり教育上宜しくないモノばかり。
寒いわ暗いわ、なんか嫌な気配はするわ。
あまり長居はしたくない場所である。
血塗られた監獄の壁を見ながら、私は、んー……とちょっとキレの悪い息を吐いた。
『この国。ろくに調べずにこんな場所を選んで滅んだのかと思っていたけど。こりゃもしかしたら……ネイペリオンの始祖は、地脈を調査せずに建国したのではなくリスクを理解した上でここに住み付いたのかもしれないね』
肉球で地下空間をぺちぺち。
ダンジョン構造を把握しながら歩く私の言葉に、宮廷魔術師ワイル君が首を横に倒し。
「と――、仰いますと?」
『城を立てるには地脈を利用する――つまり、魔力の流れを掴んだ上で、最適な魔力スポットに結界を張るのが基本だろう?』
「ええ、まあ。我らがメルカトル王宮も聖なる力の流れが溜まった場所に建国したとされていますしね」
『その逆なのさ。彼等は魔力の流れを調査した結果、この地の邪悪な力を発見して建国を決めた。絶大な魔力が眠っているこの場所、魔力金脈ともいえる封印の地を選び、わざわざ城を立てた可能性が高いってことだよ』
「んー……見るからに邪悪な魔力ですけれど、普通そこに立てますかねえ。わたくしならば遠慮したいのですが」
おーい、ワイル君。
君、魔術師だろうに……本当に、魔術の腕だけは長けているが色々と常識が抜けているようである。
『邪悪な魔力ほど、使いやすい力は他にないだろう? 世界征服とかしたいなら、光や高潔に近い属性の魔力だと反作用を起こすだろうし。悪い事をしたい王族なら、こういう力を求めるモノなのさ。まあ、そのせいでラルヴァの眷属に滅ぼされたのなら、自業自得なんだけどね』
推論を漏らしながら、私は猫の魔眼で周囲を見渡す。
この監獄は魔術の実験場ともなっていたのだろう。
四大脅威についての研究資料とおもわれる書類が積まれた部屋――研究室も併設されているようである。
監獄に研究所か。
このパターンはダークエルフの隠れ里でもあったんだよなあ……。
人間って、異世界であっても考える事は似ているのかもしれないね。
言葉を濁しながらも、私はそれを伝える事にした。
『実際。この地下監獄には、それなりの悪さをしていた形跡がちらほらと見受けられる。どうやらラルヴァの邪の力を引き出し、国家のために悪用していたようだね……。呪術や邪術。それらに類する邪悪な儀式。ラルヴァを大魔族として崇め、その力を借りた魔術の研究なんかもしていたようだ』
「えーと……つまり、この帝国そのものがラルヴァを神と崇める宗教国家のようなものだったのでしょうか」
と――不安そうにごつごつとしたチェーンフレイルを握るミディアムくん。
まあ動揺する乙女の顔のまま。
分厚い聖書の角でドドドドド! デデデデデ! 飛んできた影の戦士を連続攻撃で沈黙させているが……。
『いや、おそらく王族や国の重鎮。いわゆる権力者だけでの話じゃないかな。その証拠に、帝都にはちゃんと大いなる輝きを崇める教会が残っていただろう? 他が崩壊していたのにほとんど無傷だったって事は、最後まで教会を守ろうと戦っていた聖職者たちがいたんだろうし……。それに、異次元で待機をしているニュー黒マナティ達に聞いてみても知らないって言ってるし……てか、王族はそんなことやっていたのかってけっこう怒ってるけど……』
んーむ。
ラルヴァとか四大脅威とか、そういう世界の危機的なこととは関係のない……恨み持つ魂でいっぱいだしね……ここ。
これ、この国。
滅びるべくして、滅びたのかもね……。
私たちはそれぞれに想いを抱きつつも、先を急いだ。
◇
あれから奥へと進んでいたのだが。
邪神としての女教皇ラルヴァを信仰していた証拠が、出るわ出るわ。
完全に真っ黒だね、ここ。
もしかして、王様に呪いをかけていたのもこの国の仕業だったのかな?
まあ、断定はしない方がいいんだろうけど。
剣の切っ先に魔術照明を浮かべるカルロス王。
彼は眉間に濃い皺を刻み、複雑で広大な地下空間の地図を見渡しながら呟く。
「このような地下監獄。ネイペリオンはやはり、ネモーラ男爵との戦いを静観し――全てが終わった後に行動を開始。女教皇ラルヴァの力を行使し、弱った他国に攻め入るつもりだったのやもしれぬな」
『だろうね。植物魔族を監獄に閉じ込めておく必要なんてないだろうし。どう見てもここは人間用の監獄だ。それも、大隊単位で収容できるほどの――ね。まったく、世界の危機だって言うのになにをやっているんだか』
そういう噂ぐらいはあったのだろう。
騎士団も魔術師団も苦い顔をして歩みを進める。
『漁夫の利を狙ってわざと孤立していたもんだから、まっさきに滅び、数ヵ月も気づかれていなかっただなんて――皮肉な話だね』
「いやはや、なんとも……面目ない話で申し訳ない」
ますます苦い顔をしてしまう人間達。
あー……魔族の私がこういうことをいうのは、あんまりよくないか。
くははははは、人間などには愛想が尽きたのである。我はもう知らん……! と、捨てセリフと共に消えられても困るんだろうし。
ちょっと反省気分で歩く私のモフ耳を揺らすのは、痛みをこらえるようなミディアムくんの硬い声だった。
「陛下――あちらを」
「これは――監獄に閉じ込められたまま朽ちた者たちの……骨のようであるな」
王国軍は複雑そうな顔で、地下監獄に転がる死者の骨に目をやっている。
むろん、ここまでの状態になった者の蘇生は不可能である。
『とりあえず――成仏させておくとしよう。このまま、彷徨い続けるのは可哀そうだろうからね』
「それでは、わたくしが――」
神官長ミディアムくんが、祈りを捧げ浄化の儀式を執り行う。
簡素な儀式であるが、彼女自身が高潔な聖人だからだろう――迷える魂が、彼女の祈りに従い天に昇って消えていく。
ホタルの光のように淡く輝き浮かび上がる魂は、やはり人間たちのモノだ。
おそらく、ここで死んでいるのは人間同士の争いで捕まった者達なのだろう。
それが他国の人間なのか。
それとも内部の人間か。
判断はできない。
まあ転がるスケルトンさん達に死霊召喚魔術を使えば、その辺も探れたりするのだろうが。
私はあえて、そういう話を出すつもりはなかった。
人間同士の戦いは、人間同士で決着をつけるべきだと思っていたからである。
異世界よりきた私は異邦人。
部外者が国同士の話に首を突っ込むのは、良い事ばかりではないと判断していたのだ。
ま、依頼されたら話は別だけどね。
ともあれ、こうした瘴気があったからこその帝都滅亡。信仰と憎悪の気配に惹かれ、ラルヴァの眷属達は目を覚ましてしまったのかもしれない。
こいつらが悪さを企んでいなければ、ラルヴァの眷属は目覚めることなく簡単に討伐できたのだ。
むしろ、その力を引き出していたのなら栄光の手を蘇らせたのも、この国の王族達だったという可能性もある。
本来の栄光の手って、願いを叶える魔道具だしね。
まあちょっと歪んだ形で、だけど。
その辺りは、猿の手っていう話にちょっと似ているのだが、アレってこっちの世界の魔道具が何の因果か、あっちに流れていったのかもね。
しっかし……私はこの国の秘密を探りながら、ふと考えていた。
……。
わりと諸悪の根源でやんの、この国。
巻き込まれた民間人たちは可哀そうなので、なんとも罵詈雑言を上げにくいのだが。
ラルヴァ滅ぼしたら……埋めちゃっていいよね、こんな国……。
祈りを終えたミディアムくんが残された骨たちに黙礼をし。
その後に皆を見渡し、救いを告げるように唇を動かした。
「陛下。ここに彷徨っていた方々の魂は、安らかな眠りにつくことが出来ました。御煎餅を齧っていた大いなる光様が急に神聖な貌をなされて……魂を受け入れてくれましたの。異世界の主神として、他の主神がいる世界の輪廻転生に手を貸すのは規則に反するかもしれないそうなのですが……彼らの魂を修復して、転生できるように取り計らってくれるそうです」
『あの大いなる光がねえ……まあ、こういうときには真っ当な主神になるんだろうね』
前回の事件で神としての自覚や志を思い出したのかな。
ホワイトハウルも休暇が終わったら、問題なく帰れそうで安心なのだ。
浄化の終わりを確認した王がいつものように剣を抜き放ち――告げる。
「さて、皆の者。気を引き締めて行くとしよう」
あ、こっそり照明の魔術を唱え直してる。
そりゃ、一度剣を鞘に納めちゃったら照明魔術も消えちゃうよね。
私だけがそれに気付いているようだが――王様は内緒にしてくれと言わんばかりの顔で、私の猫鼻の先をじぃぃぃぃっと眺めていた。




