救え、魔猫と王国軍! 帝都攻城戦 ~首都制圧~
栄光の手による死人部隊。
彼らを救おうと励む人間達――王国軍の善戦により不死者の数は着実に減っている。
しかし問題は山積していた。
なにしろ相手を破壊しないように戦うのだ。
まだ蘇生の可能性を残すネイペリオンの市民。彼らを支配する禍々しい手を剥がすには、やはり時間がかかる。
既に一時間も経過していたが、まだ栄光の手による死人部隊は四方八方に残っていた。
王国軍が遅いのではない。
彼らはよくやっている。
答えは単純だ。それだけ多くの人々がこの帝都で――死んだのだ。
できる事ならば大魔帝ケトスこと私も直接、肉球を伸ばし手助けしたいのだが。
んーむ……。
回収されたゾンビさんの黒マナティ化保存処理と、人間たちの強化及び回復支援で手が空かず。
なにより、直接私が手を下すと――。
ゾンビさん。
消滅しちゃうからね……。
かつて、人間たちの世界に干渉し始めの頃。
どこぞの国の死霊使いのお姫様を相手に、手加減をしたことがあったのだが。
まあ、あれは危なかった。
指先でちょんと魔術を放っただけで魔弾の射手による魔術雨が発動。相手のお姫様が実は人間界屈指の英雄で聖女でなかったら、串刺しにしちゃってたんだよね。
あの時に比べれば手加減も上手くなったが、それでもやはり限度がある。
だから人間達に頼るしかないのだが――。
『いけー、いけー! フレー、フレー♪ 頑張れー、頑張れー、ニ・ン・ゲ・ン!』
こうして支援の猫ダンスで、能力を大幅に上昇させてあげるのが精いっぱいなのである。
ちょっと、地味なのが玉に瑕だが。
ともあれ。
キィィィンと、栄光の手による魔力刃の不意打ちを、聖杖による魔術障壁で受け止めながら――ワイルくんが歯を食いしばる。
「くぅ……っ――やぁ! はぁ……っ、はぁ……っ、これでは、キリがありませんね――」
『だが、確実に数は減っている。大変だろうけど、君達に頼むしかないんだ』
「ワイルさん! 泣き言を漏らしている場合じゃありませんわよ!」
叱咤する神官長ミディアム女史がフレイルと聖書の二刀流で構え、魔力を蓄積。
栄光の手による不規則高出力攻撃を防ぎながら駆ける。
ザザザザ――ッ!
ゾンビさんの群れの中を突撃。
全ての攻撃を受け流し聖印を設置――聖書を掲げる!
「主よ。偉大なる異神、大いなる光よ――どうか我が願いをお聞き届けください! 祈りによる光の聖域!」
不死者や邪悪な者の能力を低下させる聖なるフィールドを展開。
続いたのは――凛々しき騎士姿の壮年王だった。
妙に禍々しい王家の剣を翳したカルロス王が、滾る覇気で空気を揺らしながら宣言する。
「唸れ魔剣よ! 王家に仇なす敵を戒めよ!」
生まれる雷電の魔力波動。
魔剣から発生した闇の手が雷を纏い、聖なる領域で弱体化したゾンビさん達の身体を傷つけないように戒める。
そこにすかさず駆けるのは騎士団たち。
「騎士の誇りを見せよ!」
「我等も続けー!」
「いざ、いざいざいざ!」
大魔帝の応援バフ。
一国の王による号令支援スキルによるバフ。
聖と魔。三傑のうち二人が掛けた魔術と祝福のバフ。
様々な支援効果を受けて強化された騎士達が、ゾンビさんの額から栄光の手を引きはがし――そうしたら後は簡単だ。
控える兵士たちが、わっせわっせ!
そのまま魔術ロープで傷つけないように縛って、私のもとへと運んでくる。
なかなか見事な連携である。
「頼みます、ケトス殿!」
「よろしくお願いしますわ……!」
「どうかこの方たちを、あなたのお力でお救いください!」
皆の視線が実に心地良い。
兵士たちに囃し立てられて、私はモフ毛を悠々と揺らし――ズジャ!
魔風乱れる戦地の中。
一際強く黒毛を輝かせ、仁王立ち。
『くはははは! 良いぞ、良い。実によい喝采である! この大魔帝たる我に全て任せるのである!』
よーし、私も負けてはいられない!
肉球で握った猫目石の魔杖を翳し――瞳をかっこうよく見開いた私は、くわぁ!
バリバリズゴゴン!
十重の魔法陣を展開し、魔力波動で周囲の大気を揺らす。
『我はケトス。大魔帝ケトス――異世界より降臨せし憎悪の魔性也!』
名乗り上げが詠唱そのものとして作用し、大魔術が発動する。
ぎゅぎゅーーーーんと魔の風が吹き荒ぶ。
効果は単純。
栄光の手に封印の札を貼りつつ、ゾンビさんの額に私の肉球を優しくペチペチするだけ。
今回のみに有効な特殊魔術である。
剥がされた栄光の手の甲に、ペータペタペタ!
封印の札を貼り。
肉球でソフトにペーチペチペチ。
解放された人間たちの遺骸を闇の霧の中で回収、自動眷族化魔術ルーチンを組み込んだ魔法陣で魔力を送り込み。
タッチルームへと転送!
『カモン! 黒マナティ!』
状態異常黒マナティ化で肉体と魂の情報を保存!
私を含んだ見事な連携である。
この流れ作業で回収効率は飛躍的に上昇した。
人間との連携なので、魔族としてどうかと思われるかもしれないが。
まあ効率化した結果がこれなのだ。
それに――。
人間があーだとか、魔族のプライドがどーだとか、そういうのは別に今更……ねえ?
ニャニャニャ♪ ニャーニャーニャンニャニャ~♪
戦闘終了後に流れそうな、勝利のファンファーレを自分で鳴らした私は、王様の肩の上に着地!
偉そうにドヤってやったのである!
『よーし、これでこの一画は全部回収完了だね。念のため、チェックを頼むよワイルくん!』
「承知いたしました――」
聖杖から浮かぶ五重の魔法陣が、索敵の輝きを放ち始める。
安堵する人間達とは裏腹。
王様の肩の上で、私ははぁ……と息を吐く。
疲れで乱れたモフ毛も、ぐったりニャフンと揺れている。
んーむ。
よーく考えたら、皆の魔力も体力も気力も回復できるけど――私自身は消耗する一方なんだよね。
周囲に残党がいないかを魔術でチェックしながら、案外に強い青年宮廷魔術師のワイルくんが皆に向かって呟く。
「この近辺には魔力の乱れや、ケトス様と黒マナティ殿を除く邪の気配はありませんね。これで帝都全体の七割、といったところでしょう――カルロス陛下、いかがいたしましょうか」
「んーむ。あと一時間弱で残りの三割を救う、ということであるな。単純に時間を考えると間に合うだろうが……民家の中や、目につかない場所にいる犠牲者達を捜索するとなると、ギリギリであろうな――」
弱音ともとれるカルロス王の言葉。
ほんの僅かなザワめきの後――武人としての顔を覗かせた王は力強く剣を抜き放ち。
「なれど――それは、我らが奮い立てば間に合うという事でもある! 皆の者! いましばらくの辛抱だ。どうか、余のために力を貸してくれ!」
勝どきが、魔力となって周囲に広がる。
軍全体に支援の号令をかけ続けるカルロス王が疲れを見せぬ表情で、凛と告げたのだ。
その姿が様になっているから問題ないし。
誰も気づいていないみたいだからいいけど。
これ。
カッコウイイ演出のためとはいえ。毎回、一度抜いた筈の剣を鞘に納めている事に気付いてしまうと……ちょっとアレだよね。
ちょこんと王様の肩から降りて、ついついジトーっと王家の剣を見てしまう私。
視線を逸らす王様。
誤魔化すように咳ばらいをし、カルロス王が言う。
「ケトス殿は大丈夫でありますかな? だいぶ魔力をお使いになられているようですが」
『まあ、この場所なら魔力の補充は簡単だからね』
苦く笑って見せる私に、ワイルくんだけが頭の上にハテナを浮かべている。
「あのー。それは一体どういう意味で? この地は魔力を補填できる構造になっているのですか?」
んーむ、純朴だなあ。本当に。
人間にしては強大な魔術を操る事から、まあ疑いたくはなかったが――王様に呪いをかけていた人物の候補でもあったのだが。こりゃ、この青年はないな。
『私の魔力の源は憎悪。呪われたこの地には――まあ、無限ともいえる量の憎悪が溢れているからね』
「あ……なるほど……、すみません」
こんな彼だが、そのうちに全てを割り切って戦場を駆ける事になるのだろうか。
ちょっと未来を覗いてみてもいいが。
まあ、そんなに興味ないかなあ……。
未来視の魔術を発動することなく、私はワイル君に向かってドヤって見せる。
『それじゃあ次の区画に急ごう。時間を停止しているとはいえ油断は禁物だ。もうこちらの世界の魔力にも慣れているから問題ないだろうけど、ネモーラ男爵の配下のマリモは私の停止魔術を破ってみせたからね。ラルヴァの仲間が時間停止を解除してくる可能性もゼロじゃないだろう』
もはやルーチンワークとなってしまった回復の祝福。
頭上に掲げた聖者ケトスの書を開き。
バサササササササ!
王国軍全員に完全回復と疲労回復を施して――さあ、どんどん救出なのじゃ!
蘇生に成功すれば人命救助。
失敗しても、悲しい事ではあるが栄光の手から支配を取り戻し私の眷族化。
我が行く道に、損はないのだ。
肉球でニャハニャハと駆ける私に、人間達も続いた。
◇
あの後、同じ作業を繰り返し……一時間が経過していた。
制限時間内に回収できた魂は全て黒マナティ化。
徘徊する栄光の手も全て封印済み。
まあ、やれることはやれたということだ。
制圧が完了した地。
ネイペリオン帝国の首都は静寂で満ちていた。屯していた不死者の影は無くなり、生きていた者達もいなくなり、ただしんみりとした静けさだけが広がっていたのである。
このまま滅んだ帝都を見ているのは精神衛生上あまりよろしくない。
気分が落ち込んでしまうだろう。
『さーて、そろそろ時間停止の魔術も完全に解ける。あの時の選択、この地を焦土と化して先を急ぐことを選んだ場合と、似た状態になっている筈だ』
蟲魔公ベイチトくんも動きだした時の中で、こちらに干渉してきたのだろう。
一匹の蜂が、ブンブンブンと道を示すように現れだした。
魔術感知に長けた宮廷魔術師ワイル君がベイチト君の眷属を目で追って、呟く。
「ついてこい、という事でしょうかねえ」
『だろうね。おそらくラルヴァを封印した地……過去視の映像にあった、あの屋敷がある場所に案内してくれるんじゃないかな』
「まあ、いくしかあるまいな――」
カルロス王の言葉に従い、王国軍は制圧した首都の先へと進んだ。
◇
蜂を追って辿り着いたのは――ネイペリオン帝国の王城。
人のいなくなった豪奢な城の中には、永続的に発動しつづける魔力トーチの灯りだけが揺らめき続けていた。
物悲しく滅んだファンタジー王城なイメージ。
そんな情緒をぶち壊す表現で恐縮だが。
オレンジ色と闇の目立つ城内は、まるで人の気配のなくなった放課後の学校みたいな不気味な雰囲気を醸し出している。
よーするに、お化けが出そうな場所なのだ。
誘導する蜂に連れられ、黒猫と王国軍は冷たい床を進んでいく。
ここでも自立して動く栄光の手と、人間との戦いがあったのだろう。
等間隔に並ぶ魔力トーチ。
主を失っても輝き続ける灯りが埋め込まれた壁には、魔術による焦げ跡が無数に刻まれている。
帝国軍はラルヴァの眷属、ハンド・オブ・グローリーに負けたのだろう。
聖職者である神官長ミディアムくんが手を握り、祈りを捧げ――静かにかぶりを振る。
「残念ですけれど、城内には既に生命の反応は……ありませんわ」
「そうか――ネイペリオンの王族も既に……絶えたという事であろうな」
カルロス王はちょっと複雑そうである。
まあ、送り出した使者をおそらく殺されていたのだ。色々と思う所はあるのだろう。
王国軍も喪に服すように、僅かな時だが瞳を閉じる。
聖杖を翳すワイルくんが蜂の往く道を照らし呟いた。
「隠し通路の反応がありますね。この魔術パターンはおそらく地下監獄……ラルヴァが封印されている場所はこの奥かと――」
「行くしかあるまいな」
と、カルロス王が促す。
――はて、先ほども同じ言葉を漏らしていたが。
おっちゃん……強き王として出す時の声がまったく同じである。
これ、何度も練習して威厳のある声を出せるようになった感じなのかな。
今でこそ凛々しく軍を率いる賢王であるが……おそらく、けっこう無理をしているのだろう。
本来の性格は猫を庇ってしまうほどに温厚で優しく。
戦いよりも、もっと別な事をしていた方が似合っていたのかもしれない。
んーむ、無駄に好感度を上げてくる王様である。
ともあれ。
カルロス王の言葉に従い、ワイル君が道を開こうと魔術を展開する――が。
『とりゃ! やあ! とりゃああ!』
それより先に、私が肉球でべちべち。
魔術を暴かれた隠し通路が、その全容を曝け出す。
手のひらに浮かぶ五重の魔法陣をチラチラと見るワイル君に向かい、私はニヒィとネコの笑み。
くはははははは!
我の方が先に解いてやったのだ!
そんな私の勝ち誇りを見てくすりと笑うミディアム女史が、チェーンフレイルで隠し通路の扉を破壊し――中から飛び出してきたそれなりのレベルの石像守護者も鈍器で破壊。
一撃で粉砕しちゃったよ。
あれ。
なんか、彼女の方が目立ってるし……。
やっぱり、人間としてはかなりの高レベルなのね、この人たち。
「さあ、みなさま。参りましょうか。大いなる光様も早く中を見たいから急いでよーと、さきほどから、なにか御煎餅? と呼ばれる物をバリバリと齧りながら啓示を送ってきているので――……」
『あの、ぐーたら主神。まーた、寝ながらお菓子くってるのか』
んーむ。
しかし、大いなる光のやつ、高レベルの聖職者であるミディアムくんをカメラ代わりにしてこっちを見ているようだ。
どうやら神官長殿。
完全に大いなる光にマーキングされてるな、これ。
まあ、ちょっと鈍器は凄まじいが……人格も良さそうで腕も立つ聖人なのだ。今の大いなる光からしたら喉から手が出るほどに欲しい人材なのだろう。
まあ別にいいけどね……。
私たちは地下通路の階段を進み。
地下深くへと、カツカツカツ。
いかにもアンデッドが出そうな、いやーな空間。地下監獄ダンジョンと化した場所へと足を踏み入れた。




