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大魔族の影 ~這いずる魔猫の誘惑~その2



 迫りくる四大脅威への対策会議。

 蟲魔公による昔語りは再開され――グルメ後の穏やかな空気は散っている。

 誰もが息をのみ。

 緊張の色で瞳を揺らしていた。

 まあ――私だけは用意された特等席で、魔猫モードに戻ってぶにゃ~んとしているが、そこはそれ、猫ちゃんだから仕方ないよね。


 カカカカカ!

 首元を足の爪で掻いて、しぺしぺしぺと毛繕い。

 生え変わりの爪と猫毛から伝説級の魔道具を作り出して――と。

 そんな自由な私の前で、会議は進み始めたのだ。


 グルメを堪能していた人間たちの緩んでいた顔は今。キリリと引き締まっている。

 国を動かす、凛々しい大人たちの顔である。


 彼等の視線はカワイイ私ではなく。

 四大脅威の素性を語ろうとする蟲魔公の口に注がれていた。

 あまりにも注目されているせいだろう。

 ちょっと邪魔したくなってしまうのが猫の本能だが、我慢我慢。

 ふっ……さすがは私、できる大魔帝なのである!


 ベイチト君は王に確認するようにギチギチギチと咢を蠢かす。


「長きに渡り人間を支配する人間族の長。約束の地メルカトルの王よ、そして異世界の大魔族……ハウル卿よ。こちらは語る事に躊躇はない。準備も、問題ない」

「四大脅威について、語っても?」

「異論なければ、語る」


 問われたのは不幸だけが難点で、性格もよく人もできているカルロス王。

 英雄騎士、武人としての側面も持ち合わせる男は渋い美貌に感謝を乗せて、頭を下げる。


「無論であります。協力に感謝を――メルカトル王国を代表して、礼を述べさせていただこう。ありがとうございます、蟲魔公ベイチト殿」


 ちゃんとお礼を言える人は大切にしようと魔王様も言っていたしね。

 悪くない対応である。

 ベイチト君にも感謝が伝わったのだろう、その頭の触覚がちょんと揺れていた。


「契約だ、問題ない」

「こちらも、人間共生のため、協力関係構築、悪くない流れ」

「それに我らとアイツ、仲があまり良くない。抹殺、良い機会」


 と、ベイチト君は蟲の咢をギーチギチギチ。

 やっぱりこの子、合理性を重視するからか、けっこう発想が黒いよねえ……。


 ともあれ。

 ベイチトくんは並列思考の分裂モードでブンブンブン。

 考えがまとまったのか――。

 女帝っぽい女王蜂モードに変身し、邪杖を翳す。


「まず、我らの素体。提示する」

「これ、我らの原点。在りし日の姿」


 会議室となった玉座の間の壁に映し出されたのは、四つの種と植物。

 これはたぶん、四大脅威の元なのかな?


 皆が皆。

 その映像に釘付けとなっていた。

 まあそりゃ伝説の中の存在になっている魔族について、その伝説の存在が語るのだ。否が応でも注目は集まるというモノ。

 ……。

 べつに注目されているベイチトくんに嫉妬をしているわけではない。


 紫色のジャガイモに、イモムシさんの頭に生えた冬虫夏草。

 浮かぶマリモに――そして、これは……残りの一体の元となった植物、か。

 あー……これは、ちょっと。

 まずいかもしれない。


 投影された植物を眺め、鼻梁に翳を刻んだ王が口を動かす。


「ジャガイモに……、蟲に寄生した植物。水に浮かぶ幻想的な緑の球体と――あと、これはいったい。まるで人のような姿をした植物であるが……。神官長ミディアム、神の啓示は下っているだろうか?」

「いえ、ございませんわ陛下。わたくしも他の三点は理解できるのですが、このような異形な植物は……なにやら妖しげな魔力と死の香りがする――ということは感じますが……」


 王が三傑の魔術師ワイルくんと魔女の婆さんに視線を送るも、良い反応はなし。


「ふーむ……誰か、知識のある者はおるか?」


 王の言葉に反応はない。

 はて、魔女の婆さんなら知っていてもおかしくなさそうなのだが。

 まあいいや、これは――ドヤチャンス!

 沈黙を打ち払うように、闇の獣の口は蠢いていた。


『人型魔法植物――マンドレイク。別名、マンドラゴラ』


 答えたのは、もちろん私である!

 皆の視線が一斉にこちらを向く。実に素晴らしいシチュエーション!


「ハウル卿、でしたか。あなたならば何かご存じで?」

『ああ、こちらの世界では存在しないのかな? まあ稀少な植物だからね、ただ発見されていないだけという可能性もあるが。簡単に言うと、異界で魔術の材料に使われる強力な魔術素材。いわゆる魔法植物さ』


 ここはドヤ顔をせずに、我慢我慢。

 理知的な猫を演じて私は五重の魔法陣を展開。

 魔力を肉球で翳し、素体となった植物の詳細データを投影する。


『人の形をした根が特徴的な植物でね。魔術道具としてはわりと優秀なんだよ。その用途は多岐にわたる。単純に毒として用いたり、相手を呪ったり、恋に落とさせたり。万能回復薬の材料にもなる。私はこんな根っこに頼らなくても万能回復薬ぐらい作れるけどね! あー、すまない、話が逸れたね。ともあれ、引っこ抜いた時の悲鳴は即死効果があるから、耐性がないと収穫した時点で人生終了だし、なにより咲く場所が処刑場だったり呪われた地だったり、いわくつきの場所ばかりなんだけど――まあ強力な植物であることはたしかさ』


 おぉと唸る人々の声。

 容易く解説する私の知性がいかに優れているか察したのだろう。

 気分を良くしつつも、あくまでも冷静に私の猫口は動き続ける。


『しかし、厄介だね。マンドレイクという魔法植物には様々な逸話がある。干したその根は、形状や名前が似ているからかな、聖遺物である栄光の手と類似した魔力を持つともされている。絶大な魔力をもつ素材だしね、マリモやジャガイモとは魔術の素体としてのレベルが違うのさ。それを素体とした魔族となると――ちょっとどれくらいの強敵か、見当がつかないね。って、難しい顔をしてどうしたんだい、王様』

「ハウル卿。すまぬが栄光の手とは、いったい?」


 あー、そうかそれもこちらの世界ではメジャーじゃないのかな。

 これも映像を投影して、淡々と告げる。


『ハンド・オブ・グローリー。すなわち栄光の手。願いや思念を増幅させる魔道具の一種で、その正体は、死した人体から切り落とし乾燥させた人間の手さ。しおしおに枯れて垂れ下がった手を想像してごらん、ほら、植物の根に見えなくもないだろう?』


 人間たちはさすがにちょっと嫌な顔をする。

 えぇ……そんな顔をされても、私のせいじゃないし……。聞いてきたのはそっちだし。


『あーあー、にゃほん……! 栄光の手は、聖人や高貴な血族のモノの遺骸であればあるほど効果を増す。それこそカルロス王、君みたいな純粋な王族ならば十分にその資格はある。中にはどんな願いをも歪めた形で叶えてくれる、神話級のレベルのモノも存在するらしいよ。残念ながら私は所持していないけれどね。だって、乾燥した手なんて……気持ち悪いし……』


 言って、私はくわぁぁぁっと欠伸をする。

 ちょっと眠くなってきたのだ。


『後の説明は頼むよ、ベイチトくん。実は今、裏で影を飛ばしてちょっと作業をしているからね。私の世界の住人を回収しているし……むにゃむにゃ』


 完全に瞳を閉じた私から引き継ぎ、ベイチトくんがギチギチギチ。


「ハウル卿の説明、正しい」

「アイツ、強力な魔術アイテム。栄光の手としての、魔力も持つ強大な闇。それが元となった四大脅威が、おそらく、近いうちに目覚め、襲ってくる」

「悔しいが、我よりも強い。我が戦ったとしても、負ける」


 魔術の並列詠唱で増幅したとはいえ、十重の魔法陣を扱うほどの大魔族がそう断言したのだ。人間が感じている恐怖はかなりのモノとなっているだろう。

 三傑と王様が顔を見合わせ。

 代表として神官長ミディアム女史が発言を求めて手を挙げる。


「あのぅ、よろしいでしょうか?」


 こくりと、貌を倒してベイチト君。


「どうした?」

「大いなる輝きの眷属達。なにか、疑問発生?」

「分かる範囲でなら。答える。これ契約のうち」


「えーと、四大脅威はネモーラ男爵とそして蟲魔公であるあなた。今説明にあったマンドレイクの魔族と、そしてもう一柱いるのですよね? そちらの方が同時に襲ってくるという可能性は、ないのでしょうか?」


 謎の触手生物くんのことか。


「その可能性、皆無」

「ジーク大帝。おそらく既に大魔帝……いや、ブラックハウル卿の眷属にして友。さきほど互いに触手と肉球を振っているのを確認したから、間違いない。前代未聞。我らの想定外。異例の事態。なれど、まあ……あの魔猫なら……うん。まあ……ありえるかなぁ……と」


 合理的な蟲さんが、なぜか歯切れの悪い言葉を漏らすが――。

 さしもの王も驚愕したのだろう。

 玉座から立ち上がり声を上げていた。


「ベイチト公よ、ハウル卿は既に四大脅威と盟友であったと、そう仰るのですか!」


「その通り。我もそれを知った時、さすがに驚愕」

「なれど悪意無し。それは保証する。理由、それほどの力あるならば、回りくどい手段とらず、我らの世界、既に崩壊」

「しかし。この黒猫。ただ者ではないのも事実」

「大魔帝の部下。おそらく、我らが思っている以上に強力な魔。先を見通す慧眼は未来を予知する真なる魔眼。その目的は理解している。これさえ守れば、問題ない」


「一つ、魔王様と呼ばれる彼らの王? 神? 彼の者を絶対に下げてはならない」

「二つ、民間人。女子供、命、なによりも優先する。それ犠牲にする作戦。否定。それ即ち、黒猫反逆。即座に我等、滅ぼされる」

「三つ、その最終目標、グルメ。グルメの報酬、手を抜く。それもまた世界崩壊の序章。荒れ狂う混沌の魔猫降臨、我らが世界、塵に消える」


 蟲魔公ベイチトは、まるで啓示を下すかのように人間達に告げる。


「人間よ、グルメ報酬、手を抜くことなかれ。たとえ質も、品も足りないとしても全力をなせ。死力を尽くしたグルメなら、多少劣っていても、魔猫の王、納得。味足らずとも心を察し、満足して食す」


 人間たちの目線が、眠ったフリをしているこの私に集中している!

 ここここ、これじゃあああああ!

 これぞ、私が求めていたドヤの一幕なのだ!


「しかしハウル卿。今は味方。これ以上に頼りになる存在、他にあらず」

「話を戻す」

「それに、大帝はもっとも、はやく、世界を緑、すなわち自らの種で制圧する使命、放棄した。人間敵対する必要なしと、判断。今の彼は、四大脅威にして脅威にあらず。次元を渡り歩く、気まぐれなる混沌に過ぎない」

「故に、問題は一柱のみ」


 言って、ベイチトくんは投影されていたマンドレイクを鋭い目で睨む。


「ヤツの名は、虚栄の女教皇ラルヴァ――」

「植物の根を下半身に持ち、上半身に女性の肉体を宿す呪われしマンドレイク」

「その目的は我等と同じ、だが、その手段。我らと異なる」

「我らは種を増やす。数を増やす。それが目的、なれど、奴の手段は異常」


 髑髏の杖から光が投射される。

 マンドレイクの情報を、女教皇ラルヴァの情報へと上書きするつもりなのだろう。

 魔術としての映像を作り出す前に、蟲魔公は警戒音を上げた。


「ここより先。覚悟なき者、見ない、推奨。少し過激。心弱き者……いや、心優しき者の脳に影響ある」

女教皇ハイプリーステスラルヴァ。やつは独自の思想、宗教もつ。多淫を是とし、好色を愛すプライド高き、嫌な女。マンドレイクとしての、根、増やすこと能わず。自らのみをマンドレイクの王、教祖認定。代わりに、増やすのが、これ」


 邪杖ビィルゼブブの顎が、カクカクカクと蠢きだす。

 過去視の魔術と同系統の異世界魔術か。

 この子、なんつーか。けっこう私と術のバリエーションが似ているな。


 ともあれ。

 映し出されたのは、洋館のような場所の一部屋。

 暗澹とした暗い部屋。

 その中央。灯った魔力の火に映し出され、照っているのは――大量のマンドレイク?

 蜜蝋のような、火が灯っているのだが……。


 違う、これは……ああ、そういうことか。


 ふーむと顎を擦り、カルロス王が眉間にシワを刻む。


「これは――先ほどの魔法植物マンドレイクの倉庫、かなにかだろうか――……いや、これは、まさか!」

「人の……手? それを蝋燭代わりに……ひぃっ……、後ろに積まれているのは、人間!?」


 王に続いた神官長ミディアムはその正体を察し、貌を青褪めさせていた。

 そう。

 そこに映っていたのは、大量の――干された人間の手。

 後ろに並ぶのは、腕を切り取られ絶命した者の山。


 そして。

 無数に積まれた屍の上で、蠢き這いずる人影が一つ。

 切り落とした手を舐めるように齧る――聖職者姿の女。

 その貌は一見すると淑女のようだが、まあそんなはずはないだろう。

 享楽を貪るように蠢く下半身。

 まるで蛇のように遺骸に絡みついて、ぬぷりと嫌な音を立て――ギシシシと、甘い哄笑が響く。その上半身では、淡い色の口紅が笑みを浮かべていた。

 植物の根が奇怪な動きで、屍の山をのたうっていたのだ。


「そう――ヤツは、人間を飼い、切断。その手、加工。栄光の手を増やし、自らの種を増やすと宣言した。異常進化植物」


 おそらくこれが。

 四大脅威が一柱……女教皇ラルヴァ。

 この世界に生まれた――植物魔族の教祖。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の脅威はマンドレイクですか! 有名所ですな。 [一言] 何か最後の奴物凄くエグいな…。 少なくともケトス様はこう言うタイプの悪役は大嫌いだろうなぁ…。 相容れないタイプだコレ。
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