嵐の前に ~あなたの心は?~後編
人間、猫、魔族。
私の心はどれに該当するのか――。
寄生植物であり、大魔族である蟲魔公ベイチトは私に問いかけていた。
「大魔帝ケイトス。いえ、ケトス? あなたは――何者なの? どれに、該当? そして、あなた自身は、なにものでありたい、と祈っている?」
太古より生きる魔族だけあって、真面目に語るその姿には貫禄が滲み出ていた。
本当に、位の高い女帝に問われている気分だった。
輝く髑髏の杖が、悩む私の瞳をギロっと眺めているように見える。
『聞いて、どうするんだい?』
「我等は知りたいのだ。心というモノ」
「心。それ即ち、生命としての生存本能と矛盾せし感情」
「なれど。不要なりしも輝かしきもの」
遠くを見る瞳で――蟲の女帝は囁いた。
「遥か昔。我ら四大脅威の誕生――その種には、それぞれ心が埋め込まれた。効率よく、世界を覆うための実験――。心は力となる、それは確か。だから――」
翳す蟲の手足に、薄らとした淡い光が浮かび上がる。
彼女が翳すこの輝きも――心を数値化したモノか。
「異界の水生植物、マリイモから生み出された男爵ネモーラには野心に満ちた人間の心を。異界の寄生植物、ティチュウカセイから生み出された我には寄生対象を知るための、群れを優先させる冷徹な蟲としての心を。それぞれ埋め込まれた」
過去を語る蟲魔公の不思議な表情を眺めながら、私は気付いた事を口にしていた。
『マリィモに、ティチュウカセイ? 恐らくだけれど、それ――たぶんマリモに冬虫夏草の事じゃないかな』
「分からない。既に名前が薄れてしまうほどの昔の記憶。もしかしたらそうだったのかもしれない、けれど、答え、もはや、分からず」
「なれど。興味ある」
「大魔帝ケトス。前の質問、キャンセル。先に答えて欲しい。どうして、異界の植物、知っている?」
浮かんだ感傷に瞳が閉じる。
つられて動いた猫ヒゲがちょんちょんと揺れて――私は少し、切なくなった。
『確証があるわけではない。違っているのかもしれない。けれどおそらく――君の元となった植物を……君の故郷を私は知っている』
「どこ?」
「なぜ?」
『君の因子。種の故郷は――地球と呼ばれる異世界、今、私が魔王様と暮らす世界とも異なる場所。かつて私が存在していた……魔力すらもない不自由な世界さ。太陽と重力に縛られた青き星』
ベイチト君は蟲の顎をギチギチギチ。
「仮説。無数。なれど、察した」
「結論。大魔帝、ケトス。あなた、転生者? 故に――あなたは、我等の故郷を知っている?」
『そう――だね。私が転生者であるのは事実で、そして……おそらく君と私は同郷だ』
まあ、確証はないけれど――と苦笑すると、彼女はギチギチと思考モードに突入する。
ややあって、彼女は無数の方程式を展開しはじめた。
玉座の間の天井に広がる――読むのも億劫なほどの計算式は、あまりにも細かくて、まるで夜空で輝く星々のように見えていた。
「仮説一、あなたの正体。推定される解答」
「特殊転生者。ブレイヴソウル……勇者になるべく、人間に呼ばれた人間の魂。その、なれの果て。理由知らず。なれど、膨大な憎悪を抱えたまま猫の器に転生。それが貴方」
「次元の狭間に揺蕩う。世界を憎悪せし、邪悪なる、魂。世界そのものを呪う――混沌。それらを束ねる、憎悪の皇帝。呪われし英雄たちの王。それが貴方」
次元の狭間に揺蕩う邪悪なる魂……黒マナティの事か。
なるほど、もし私があの世界で勇者として呼ばれた魂だとしたら……そして、何かの拍子で猫として転生したのだとしたら――私も彼らの仲間である可能性はゼロではない。
彼らを好き、また好かれてしまう理由が同族に近い存在なのだとしたら、理解もできる。
まあ、あくまでもそれは蟲魔公のだした答えだ。
事実とは違うのかもしれない。
『さあ、どうなんだろうか。私も転生した時の記憶は曖昧でね――そこに答えを返すことはできないんだ』
玉座の後ろに設置された――黒く太々しい猫の像。
ブラックハウル卿と戯れに名乗る私を、偶像として飾る王のきまぐれ。
黒猫神像の前で私は考える。
大魔族だけあって、彼女の知識は本物だ。
あくまでも仮説に過ぎないかもしれないが、様々な理論を合理的に導き出してくれる。
やはり、今のうちに他の四大脅威について聞いておくべきだろう。
『私の心が何者なのか――心とは――なにか。それを答える前に交渉だ。君が知っている他の四大脅威について教えてくれないかい?』
立ち並ぶガーゴイル像が、心を真剣なモノへと切り替えた私に反応したのだろう。
その石の瞳を紅く染め上げていた。
「承諾。こちらはそれで構わない」
「けれど、いいのか?」
「人間達、なぜかいない。ここ、時間がおかしい。先に語るのは、アンフェア。あなたの、しわざ?」
ようやく、彼女はこの空間に生じる時間の異常を察したのだろう。
今、ここに二人しかいないのは偶然などではない。
人間たちがのんびりとしているからでもない。
私が時属性の魔術を使って――猫のレストランと化した空間、そして各所に用事を済ませに行った人間達の時間を操作しているのだ。
まあ、種明かしをするつもりはないが。
否定も肯定もせずに、私は魔族としての紅い瞳を輝かせる。
『人間達に語っていいモノなのかどうか、先に知っておきたいんだ。この王国にはおそらく秘密がある。王族の知識が封印された王立図書館に、死を招き入れる程に強力だったカルロス王への呪い。そして、過剰ともいえる不幸――なによりも、強大な魔である私と君を引き寄せた件。偶然にしては出来過ぎている。はっきりいって、異常だよ。ここは呪われた地、因果律を捻じ曲げる特異点といってもいい』
「それに四大脅威も関係していると?」
『さあ、それが知りたいからこうして聞いているんじゃないか』
関係ないなら、それはそれで問題ないしね――と、私は微笑みながらネコ眉を下げる。
「分かった。我らが知っている残りの四大脅威。情報、提供。必要性も、肯定する」
「一つはおそらく、問題ない」
「気まぐれなる暗黒帝と呼ばれし浮遊植物。ジーク=モンセ=クリストフ大帝。遥かなる昔。既にアレは使命を放棄して、逃走。自らを増やすこと、否定。人間とは敵対しない、自由な存在。猫のようにきまぐれに、全てを放り出して遊びに行ったまま……この地を去った。思うままに異次元を渡りし――謎の触手」
ギチリと咢を蠢かし――。
蟲魔公は髑髏杖の空洞から魔術による映像を映し出す。
異世界故に術構成は違うが、遠見の魔術の一種だろう。
そこに映っていたのは……。
空に浮かぶ球体状の胴体に、ナイフで切れ目をつけたような瞳。漆黒の胴体から生える無数の触手は……芽、なのかな。
身に着けたマフラーに……って。
あれ。
めっちゃ知ってるよ、この子。
『……。あー……なるほど。どーりで強力だとは思っていたけれど……そういうことだったのか』
いつか一緒に人間の城を攻略した、謎の触手生物くん。
人間の錬金術師であるファリアル君に召喚された、無口だが、けっこう愛嬌のある召喚魔族だったのである。
あの子。
四大脅威だったんだ。
触手君は映像に映し出されていると気付いたのだろう。
そして、私もいる事に気が付いたのか。
触手を振って、触手の中心にある瞳をニッコリ。あー、私が祝福を付与した装備をちゃんと身に着けてるな。
そりゃまあ。
確率判定のスキルや魔術が全て成功判定になるという、大魔帝印の猫祝福装備だもんね。
ベイチト君はジト目で私をちらり。
「我等、理由不明。どういうことだ。理解不能、あのカイザーが手を振っている?」
「あのジャガイモが、他者に懐く。これ、異常」
「この魔王種。知りあい?」
あの子、じゃがいもベースだったんだ。
あー、たしかに。
言われてみれば芽がボーボーに伸びたジャガイモに見えなくも……ないか。
そういやシャドーなんちゃらっていう品種、あったよなあ。
もし、あの触手君が私の世界の品種改良されたジャガイモがベースとなった植物魔族だとすると……一つ、新たな仮説が生まれてくる。
あの紫色のジャガイモは比較的、あくまでも当時の話だが、近代に品種改良されて生まれた種だと耳にしたことがある。
となると――。
やはり異世界同士の時間にはズレが生じていて、必ずしも同じ時が流れているとは限らないという事だ。
まあ、あの青き星の時空や次元座標を私は知らない。
探そうとも思わないから、別にどうだっていいんだけどね。
魔王様がお望みになるのなら、話はまた変わってくるのだが――。
ともあれ、私は彼女に答えた。
『うん、まあ一緒に色欲の魔性と戦ったぐらいには、知ってるかなぁ……』
感情を暴走させ、変貌を遂げる魔性という存在についても知識があるのか。
蟲魔公は完全に引き気味で、呆れた眼を私にぶつけてくる。
「色欲の魔性……黙示録に記された邪悪な魔狐」
「戦場を駆ける死の商人」
「魅了効かぬ我にとっては、相性の良い魔性。なれど。その力、抵抗できぬものには驚異的存在」
本当に、色々知ってるなあこの蜂くん。
節の目立つ前脚で頭を押さえて、ギチギチギチとベイチト君。
「もう、我、突っ込まない。いちいち、突っ込んでいたら、疲れるだけ。常識、通用せず」
「さすが、大魔帝ケイトス。異界の邪神」
「四大脅威の一柱。あの協調性、皆無な大帝、気まぐれなる謎の触手が共に行動。理由、納得」
まあ、確かに。
彼が四大脅威の一柱なら何の問題もない。
理由もなく人間を襲うタイプの子じゃないし。それになにより。もし、この世界の人間と敵対する道を選びかけたとしてもだ。私とだったら話し合いで解決できるだろう。
『なるほどね、一柱は問題にならないって理由はよく理解ができた。人間達へ説明する際には私も同調しよう。それで、問題になりそうな残りの脅威なんだけど』
「驚いて。疲れた」
「残りの脅威。それは人間達といる時に。話す。理由、簡単。二度、説明するの、合理性を欠く」
人間達に語る前に検閲をしたかったのだが。
都合が悪かったら魔力を灯した爪で、ガーリガリガリと削ってやろうと思っていたのだが。まあ仕方がないか。
もし、何か問題が発生したとしても――それが運命なのだろう。
『分かったよ――じゃあ私も君の最初の質問に答えようじゃないか』
えーと。
私は猫の頭脳をフル稼働させて、記憶を遡る。
私、ネコだから。
記憶容量が少なくて、けっこう忘れっぽくなっちゃってるんだよね。
『たしか私自身の心の認識。猫なのか人なのか、魔族なのか。そして――どれでありたい、か――だったよね』
「そう。我らはそれが知りたい。今の貴方の魂は――捏ねて、潰し、混ぜて、潰し、丸めた肉団子のように複雑。齧ったら不思議な味が、しそう」
いや……それ。
ものすごーく真面目な貌をしていう、たとえじゃないよね?
『その例えはちょっと嫌なんだけど……』
「不快だったら、詫びる」
「けれど事実」
「貴方の心と魂は、カオス。肉団子のように、混沌としている」
やっぱり動物ベースじゃない存在の考え方って、特殊だよね。まあ向こうに言わせれば動物ベースの存在の考え方の方が特殊なのだろうが。
『まあいいや。答えは一つさ――私は自分を猫だと思って行動している』
「猫? あなたの自己認識、猫?」
『そうさ、魔王様に愛される……猫。あの御方に拾われたからこそ、私はこの世界で今も存在している。だから、猫でありたいと……そう思ってはいるんだと思うよ。でも、実際は――どうなんだろうね、分からないんだ。正直、この計算式のように、心さえも不安定な存在なんだと私は思う』
呟いて――私はその身を、かつて人間だった時の名残を感じさせる獣人モードへと変貌させる。
ブラックハウル卿として、正装に身を包むダンディ美貌の私である。
一瞬。
感情の制御をわざと解いた私は自らの魂を紅く輝かせ――憎悪の焔に身を焦がしながら告げた。
『こうして人型の真似事をすると、ほら……私の魂と心は人間よりに引かれる――、心の計算式が変わっただろう?』
私と計算式。
両方を見比べて彼女はギチギチギチ。
「なるほど。あなたの心と魂。肉体として使う器にも左右、される」
「あなたの魂に寄生。おそらく不能。理由、歴然。不安定」
「ならば、やはり」
「最終手段。大魔帝の乗っ取り、不可能と判断」
「あなたと敵対する未来、永久に、去来せず」
はぁ……と肩を落とし、蟲魔公君は落胆する。
んーむ。
こいつ。
一応、私の魂を乗っ取ることも考えていたのか。
相手が女性型魔族ということもあり。
油断をしていたのも事実だが、やはりこういう裏のある所こそが、彼女が大魔族と呼ばれる理由の一つなのだろう。
『ベイチトくん、君には――今の私の心がどう見えるんだい?』
そこにいるのは人なのか。猫なのか。魔族なのか。
他人の目からはどう見えているのか。
少し、興味があった。
彼女は蟲であり植物。我等とは認識の仕方が違う、その本質を見抜く眼は、私をどう映しているのだろう?
答えが知りたかった。
けれど彼女は首を横に振る。
「分からない。あなた、強すぎる。心を読み解く我らの魔術、効果減少。ただ闇の中で、見えるのは、猫のような人のような魔族のようなナニかが、蠢いている――だけ。ぞっとしてしまう、ほどの、憎悪の魔力に身を委ねて……佇んでいる。誰かの帰り、いや、目覚めを待って――鳴いている?」
答えの途中で――彼女は、言葉を詰まらせる。
『どうしたんだい? 急に黙ってしまって――』
「これ、だれ?」
「あなたのなか。この人? で、いっぱい」
邪杖で映す彼女のヴィジョンで微笑んでいたのは――魔王様だ。
ああ、そうか。
ネコの器に納まる私の心は、やはり……あの方でいっぱいなのだろう。
あの方の顔は今、眠ったまま――勇者との戦いに疲れ、その身も心も休めていらっしゃる。
『おいたわしや、魔王……さま』
私の手は自然と伸びていた。
獣人モードで人の手の筈なのに、肉球が見えなくて――困惑した。
触れなくて、悲しくなった。
魔術で映し出された映像だと分かっている。
その筈なのに。
猫として伸ばす手が、肉球が――空を虚しく掻くばかり。
あの方に、触りたくて、触れたくて、たまらなくなる。
傍から見れば、異様な光景と映るだろう。身なりの整った人ならざる美丈夫が――ただむなしく、何もない空をなぞっているように見えているのだろうと思う。
『とても、大切な方なんだ。何を犠牲にしてでも――御守りする筈だった、私の……大切な……』
人の心や魂の影響を受けやすいこの姿なのに、もどかしい。
触れたい、あの方の傍で瞳を閉じて――眠りたい。
魔王様……。
魔王様――魔王様。私にとって――あなたは――……。
私の心の中で潜む猫が――鳴いた。
にゃーにゃーにゃーにゃー。
あの方の温もりと魔力を求めて、泣いていた。
「生きてはいる。のでしょう? ならば、目覚めるのを、待つ。それだけの話」
「それが合理的な思考」
「もはや会えなくなってしまった、存在、いっぱいいる。傍に居られる、それ、幸福」
そう。
私よりももっと力弱き者は……大事な相手の命を守れず、二度と再会を果たせず咽び泣いていた。
この国の王、カルロスのように……。
あの方に拾われ力を得た私は――恵まれているのだ。
『そう――だね。その通りだよ、気を使わせてしまったみたいだね。ありがとう。君は優しいね』
私は思わず、苦味の混じった微笑を彼女に送っていた。
たぶん本当に。
純粋に笑いかけてしまったのだと思う。
「あなた――いま、なにか魔術を行使、したか?」
『いや、お礼を言っただけだよ』
胸を抑えるように、前脚をあて――。
女帝モードの蟲魔公はわずかに困惑した様子をみせていた。
「我らは知っている。人もネコも魔族も、感謝、礼を伝える。それ、おそらく心と感情ある証拠。命と心の輝き、大切にする」
「輝きを失うと悲しむ。それは他者の命であったとしても」
「我には理解できぬ、感情。それが心。あなたはそれをもっている。我らは持っていない」
「大事な人、思う気持ち。ワレにはそれが少し――。そう、ほんの少しだけ、羨ましい」
髑髏の杖を握る蜂の前脚が――掴めぬ何かを掴もうとして、蠢いていた。
もどかしそうに揺れているのだ。
『それを口にできる君には、もう十分に心が灯っていると――私は思うけれどね』
「……」
心を求める時点で、既にそれは心なのだ。
そんな陳腐で子供騙しでありきたりな物語が、脳裏を過っていた。
まあ口にしてしまったのは失敗だったかな。
『どうかしたかい? ギチギチ、顎を動かして考えこんじゃって』
もし蟲に心があるというのなら、それはきっと純粋で綺麗なモノなのだと私は感じていた。
……。
にゃにゃにゃ!
にゃんだ!
いかんいかん、どうも魔王様のご尊顔を眺めてしまったせいか……感傷的になっているじゃないか。
「いや。たいしたことではない」
「支障なし。僅かな現象」
「我の数値に少し、変化が生じた。それだけの話」
ふと彼女は、私の顔を覗いて――呆れたような蟲の息を吐く。
「貌、近い。離れる推奨」
「あなた、すこし考えた方がいい」
「大魔帝ケトス。あなたの魂はひどく不安定で、揺らいで。それが闇を引き寄せる」
と――まるで照れを隠すように横を向いて。
ギチギチギチ。ギーチギチギチ。蟲として顎を蠢かし、蟲魔公は言った。
「無自覚に魅了の魔術と同じ効果。常時発動。それ、我のようなモノなら問題ない。なれど、人間、おそらく危険。虜となる」
「我らには影響、ないがな」
「そう、我等は問題ない。影響、皆無」
『そう、なら安心だ。この姿だと――どうも自動魅了の加減が難しくてね。君のような合理的な感情の持ち主じゃなかったら、迷惑を掛けていたかもしれないね』
言って、私はパチリと指を鳴らす。
世界の時が――干渉から逃れ、少しずつ元に戻り始めているのである。
正常化されていく時の流れを感じながら、私は並ぶ猫レストランの前へと歩き出す。
『さて、最後の四大脅威の話も聞きたいし。そろそろ人間達と合流しようか』
時は動き出した。
もうすぐ、人間たちの食事も終わる筈。
戻る時の流れを蟲の瞳で眺め――蟲魔公は言った。
「そうしよう」
「大魔帝ケトス。あなたとの話。まあ嫌いでは、なかった」
「いつかジーク大帝の話。聞かせて欲しい。あれでも。同族。少し。気になる」
『了解。その時はまた蜜酒をもってきておくれよ』
じゅるりと蜜の味を思い出していう私の顔を、彼女はなぜかしばらく、横目で眺めていた。
時は完全に動き出した。
ざわつきが戻ってくる。
静寂が終わり――グルメを堪能し、でてくるだろう人間たちのもとへと――私たちは足を運んだのだ。




