滅びの鐘が鳴るギルド ~追放されし魔猫~
カランカランと鐘が鳴る。
ここはオークとの戦に負けたばかりの西帝国。暴君ピサロ帝が住まう首都からだいぶ離れた田舎町、その片隅にある冒険者ギルドである。
魔王様一番の臣。
魔王軍最高幹部の私がなぜこんなド田舎に来ているかというと、それにはもちろん重大な理由がある。
ギルド備え付けの酒場、夕張亭にある名物料理。
とろとろタルタルソースたっぷりフィッシュアンドチップス。
しかも。プチトマトのサラダつきである。
ふぃぃぃぃぃっしゅ、あぁぁぁぁぁんど、ちぃぃぃっぃいぃっぷす!
食べたいのじゃ!
というわけで。
ちょっとまた魔王城から抜け出してお散歩しに来たのだが……。
んーむ、今回はどうだ!
ここは死と隣り合わせの冒険者たちが集うギルド。
魔族である私がそう簡単に近づくことはできなかったのだ。
堂々と入り口から鐘を鳴らして入ったのに、
「あ、こらぁぁぁぁ! また勝手に入ってきて! お食事するところに猫ちゃんは入ってきちゃダメだっていってるでしょう!」
もにゅっと、受け付けのおねえさんの腕の中に抱っこされ、
「はいはいはーい、はいはいはい、かわいいぃおデブ猫ちゃんは出ていきましょうねえ」
バン!
と、ギルドの外に出されてしまう。
心なしか、頬のもっふもふな猫毛を叩く風もほんのり冷たい。
「ぶぶぶぶ、ぶにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!」
まさかこんな強敵が待っていたとは。
人間、あなどれんな。
ガリガリガリとかわいらしい猫を演じてギルドの扉を爪で削ってやる。
中の冒険者たちが、ちらちらとみてくる。
ガーリガリガリガリガリ!
追い出された所をみてたんだから、空気を読まんか!
ほら、かわいい仕草してやってるんだから、早くふぃぃぃぃっしゅ、あぁぁぁぁんど、ちぃぃぃぃぃぃっぷすを持ってこい!
我を誰だと心得る!
天下の大魔帝ケトスさまなるぞ!
しかし反応はない。
憧れのフィッシュアンドチップスを、むしゃむしゃ幸せそうな顔で噛み締めて。
かわいいぃぃとしか言ってくれない。
そんな当然な言葉ではなく、私が欲しいのは食欲を満たす贄なのである。
お召し上がりになりたいのである。
人間のお金さえあれば、人型に変身すればいいだけなのだが……。
財布を確認するまでもなく無一文。
所持品を売るという手もないこともないのだが。そういうことをすると、そのアイテムが原因で、いつも国一つが軽く傾くほどの事件が起こるんだよね。
あまりにも効果があり過ぎて、気軽に売買できないのである。
だから猫でおねだりしているのに。
ガーリガリガリガリガリ!
おい、こらー! 無視するなー!
ちょっと滅ぼしたくなってきたが。
んー。前回の脱走……じゃなかったおさんぽで勝手に行動しないでくださいってサバスに泣かれちゃったからなあ。
それに。
滅びると言えば。
考え事をしながらギルドの扉で爪を研ぐ。
がりがりがりがり!
いやはや、なんでこんなに急いでいるかというとそれにはもちろん理由がある。
実はこの街。
数日中に滅びるっぽいんだよね。
占星術。
カード占い。魔族花占い。未来通しの魔眼。
どれを使っても結果はこの街の滅亡。
古参幹部の一人で魔術を極めし爺さんにも占ってもらったが、結果は同じ、まず間違いなく手を打たなければこの街は滅んでしまうだろう。
だから。
ふぃぃぃぃぃっしゅ、あぁぁぁぁんど、ちぃぃぃっぃいぃっぷす! を今のうちに食べておかないと駄目なのだ。
人間の街なんてどうでもいいけど、名物料理を一度も食べないまま滅んでもらっては困るのだ。滅ぶなら私が美味しくたっぷりいただいてから滅んでくれないと。
まったく、空気が読めない街である。
いや、待てよ。
ふと賢い私は考える。
いざとなったら、材料と料理人だけ暗黒空間にご案内すればいいだけじゃないか?
どうせ滅ぶ瞬間なら、料理人をちょっと拉致っても救出しただけっていいわけできるし。助けてやったお礼に調理を要求すれば何の問題もない。
あれ。
むしろ滅んだ方が楽だね、これ。
……。
にゃふふふふふ、我を追い出したおぬしらの過ちを悔いるがいい!
これはギルドを追放された復讐なのじゃあああああああ!
にゃーっはっはっは!
ビシっとポーズを決めて。
さて。
じゃあ気分を切り替えて。
あったかスポットでも探すか!
滅びる前にたっぷりポッカポカなベストお昼寝スペースを制覇じゃ!
と。
そう、この街を諦めてホクホク顔で歩き出した時だった。
ギルドの中がなにやら騒がしくなり、
「みんな、聞いてちょうだい! この街は、数日中に滅んでしまうわ!」
そんな、今更ながらな声が私の耳をぴんと揺らした。




