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メルカトル王国の受難 ~謎の黒猫紳士、ブラックハウル卿、登場!~その1



 一度、魔力による爆発の起こった王宮は騒然としていた。


 円卓で眠る王を守る形で待機した私は感知能力を最大に発動。

 周囲の状況を探る。


 騒然とした空気の中。

 上手く隠しているが――異形な魔力を持つ者の気配が複数、王宮内を渡り歩き始めている。

 そのうちの何割かは私の配下。

 眷族であり、私の命で動く黒猫執事の影だろう。

 しかし。

 蠢く気配はそれだけではない、他にも複数。

 蟲の様なワラワラとした嫌な気配が漂っているのだ。


 呪殺に関わっていた者と考えるのが妥当か。

 今は身を潜めているが。

 暗殺に失敗したとなると、そのうち何か動きがあるだろう。


 他の状況も把握する必要があるか――私は人間達に意識を移す。


 バタバタバタと響く兵士たちの足音が、獣人化した私のモフ耳を揺らす。

 聴覚感知を王宮全体にすると――。

 慌てふためく人間の声が聞こえてくるのである。


「報告せよ! 爆発があった箇所は、結界修復状況は!」


 これは、兵士隊長とかそういう立場の人の声かな?


「隊長! こちらは異常有りません! 報告によると崩れた壁が突然、元に戻ったと!」


「なにぃ!? 壊れたモノが突然戻るわけなかろう!」

「隊長! 魔導師団からの通達です、城内に何者かの影が大量に侵入していると」


「敵襲か!? ならば即座に撃退せよ! ここは陛下にご報告を……今、陛下はいずこへ!」

「隊長! その影ですが、どうやら大魔帝ケトスの使者と名乗る黒い猫執事……魔族の方のようでして。お救いした異界の方をお連れすると――ええ、そうです、突然、転移して現れてきました! どういたしましょうか!?」


「な、なにぃ!? 撃退命令を止めろ! 絶対に猫の影には手を出すなと伝えよ! 民間人については陛下の御判断を仰いでからだ!」


 んーむ、そうとう混乱しているようである。


 そういや爆発事件と並行して黒猫執事や私も動いているのだ。

 そりゃ、蠢く謎の気配や事件にバタバタしちゃうよね。


 まあ兵士たちが必死で被害状況を探ろうにも、私が瞬時に治しちゃったんですけどね。

 一瞬で、うにゃーん! と復元しちゃったんですけどね!

 

 今頃王宮の人たちは、溢れた魔力と比例しない正常な環境に頭を悩ませていることだろう。

 なんて。

 他人事みたいに考えている場合じゃないか。


 一瞬、顔を引き締めた私は念のために王様の周りを結界で覆う。


 蠢く気配の正体は分からないが。

 家臣の中に四大脅威が紛れ込んでいたら、このタイミングを狙い部屋ごとドカーンと大爆発。

 私に罪を押し付けトンズラ!

 なーんてせこい事をしてくる可能性もあるからね。


 厳重に防御結界を、ドン!


 まあ。

 なんというか……この色々と苦労しているオッちゃんにはこれ以上、可哀そうな事になって欲しくないのだ。


 まったく、卑怯な男だと――私は頬をポリポリ。


 王様で、偉くて、それなりに人望もあって、一応巨悪であるネモーラ男爵を追い詰めるほどの武人。

 そんな大事な立場なのに、黒猫一匹を庇って怪我をするなんて……脇が甘い。甘々が過ぎるのである。たかが猫を……身を挺して、庇うなんてさ?

 普通はしないってのに。

 はぁ……だからこそ卑怯なのだ。

 いっそ、私を盾にして。

 少しでも怪我をしないように冷徹な――しかし王としては正しく動いていたのなら、私はそのまま見捨てて帰っていたのだ。

 守ってやる必要がある。

 そう、思わせてしまうのは、一種、主君としての才能でもあるのだろう。


 もっとも、いきなり攻撃をぶちかましてきたこの世界の主神、大いなる輝きに対しては、なーんも後ろめたい気持ちなんてない。

 だいたいあの神が、ちゃんと話をしてくれたらこんな事態にはならなかったのだ。


 バーカ! バーカ!

 カミのバァァアァァァァッカ!

 ぐにゃははははは! お前が逃げているうちに、我がこの世界の闇を、脅威ごと祓ってしまうのである!


 まあ、ウチの主神もだいぶアレな性格だって、最近知ったけど……。

 さてさて。

 ともあれ。

 私はモフ耳を蠢かして城内に忍び込んでいる黒猫執事に魔術メッセージを送る。


『黒猫執事くん、聞こえているかい?』

「これは大魔帝ケトス様――ワタシはあなたさまの忠実なる僕。いついかなる時でも貴方様の声に耳を傾け、祈りを捧げておりますので――ええ、聞こえておりますとも」


 私の遠見の魔術に、人間の子ども達を連れた黒猫執事の姿が映る。

 私達の世界から誘拐された子どもか……幼いからと言って低能力とは限らない。この子達も生産系職業クリエイター・クラスの特殊技術か、専用スキルでも持っていたのだろう。

 つくづく非道なマリモである。

 まあ、ちょっと私のせいだったりするのだから少し反省するべきか。


 あー、黒猫執事君……子ども達に耳やら尻尾をモフモフーと引っ張られてちょっと困ってるな。


『それは重畳。では、いきなりで悪いがそちらの状況を頼むよ。どうやら保護には成功したように見えるけれど』

「はいケトス様、民間人の影にはワタシの影分身を配置しガードさせることに成功しました。これにて万が一と言う事もなくなるでしょう。それで、別件ではございますが――少しお耳に入れておきたい情報がございまして」


 黒猫執事は民間人たちを自然な動作で守りながら、周囲をちらり。

 彼も、気付いているのだろう。


『もしかして、この王宮の人間の中に変な気配が混じっていることかい?』


 全てを知っている、そんな空気を出して私は冷静に返す。

 ニャニャニャ! と尻尾と瞳をピーンとさせて、黒猫執事がうにゃうにゃ言う。


「ご存知でしたか! いやはや、さすがケトス様。我らが偉大なる猫の王! して、いかがいたしましょうか?」

『ふむ、先ほども連絡したが状況が変わっていてね。他愛のない事なのだが……少し借りが出来てしまったから……私はこの国を守ることにした。君はメルカトル王国の民も含めて、民間人の護衛を頼む。その変な気配に関しては私が対処するよ』


 黒猫執事はうにゃにゃにゃと瞳を上に向けて、んーと考え言う。


「城ごと爆発させるので?」

『……いや、ふつうに、ここに眠らせてある王様がいるからそれを囮にしてだよ。たぶん、城なんて狙う理由の大半は王様の首を狙うか、洗脳するかだろうし。たぶん私が王様を押さえておけば、向こうから挨拶に来るんじゃないかな?』


 ん……?

 あれ?

 口にしてみると結構外道かもしれない。


「なるほど――さすがはケトス様。生きる価値のない人間ども。猫に諂い、崇め、肉球に忠誠を誓う存在であるべき人族。貴方様を差し置いて生意気にも王を騙る、その卑しき君主にさえ役割を与え、敵をおびき寄せるエサに使われるのですね」


 んーむ、この黒猫執事君。

 なんつーか、けっこう過激だなあ……。

 たぶん私のように、黒猫魔族化する前に人間から酷い扱いでも受けていたのだろうが。

 彼の傍にいる子どもが、ちょっとドンびいているけれど……ちゃんとフォローしてくれると、うれしいな……。


『ま、まあとにかく頼んだよ。とりあえず子供だけは魔猫王城に先に送らせて貰おう。王宮にいる、この国の子供たちも一緒にね。おそらく、近いうちに戦闘が始まるから――危ないしね。いいかい、くれぐれも怪我をさせないようにね』

「ご心配なく。譬え憎き人間族といえど……子どもだけには、なんの罪はありませんから――」


 どこか物悲しい眼差しを浮かべ、黒猫執事は傍で守る子どもたちに目をやる。

 子どもたちも表情を変えた黒猫執事を目にして。


「猫さん、どうしたんですか?」

「いえ――少しだけ、昔を思い出していた。だけですよ。そう、それだけの事です――」


 もしかしたら、だが。

 まだ普通の猫だった頃の彼の飼い主は、子どもだったのかもしれない。

 そして。

 その時だけは、人間を恨むことなく――幸せな暮らしを送っていたのではないだろうか。


 あくまでも彼の魔力と雰囲気からの、疑似的な過去視。

 ようするに。

 実際に見た過去の景色ではなく、私の勘に過ぎない。

 けれど、たぶんこの勘はそう大きく外れてはいないのだろうと思う。

 彼の愁いを帯びた複雑な表情からは、そんな過去を匂わせる……切ない香りが漂っていた。


 あまりにも強大な私の中では、彼は多くいるダンジョン猫の中の一匹。優秀な眷族の一人という認識だったが――。

 彼の中にも彼の物語があるのだ。

 いつか、その物語を聞くこともあるのかもしれない。


 ともあれ、今はその時ではないだろう。

 これはプレゼントだと、私は黒猫執事の魔力と力を支援魔術で更に強化し――告げた。


『落ち着いたら今度、魔王様の偉大さを祝うホームパーティをしようと思っているんだ。君にも参加して欲しいのだけれど、大丈夫かい?』

「ま、魔王様のための宴に、わ、わわわわ、ワタシなどが、参加してもよろしいので?」


 おー!

 驚いて、喜んでる!

 さすがは魔王様、魔猫にとってのヒーローだ!

 だって私が毎日のように、魔王様の偉大さを全世界のネコに語っているからね!

 魔王様が御眠りになられた後の世代に生まれた猫にも、その偉大さを、熱く、かたぁぁぁぁく、何度も何度も、お伝えする義務が私にはあるのである!

 偶然それを耳にした炎帝ジャハルくんに「ね、猫ちゃんに魔王様教の布教っすか?」とちょっと引かれた事もあったけど、問題なし!


『もちろんだよ。それじゃあ、私も楽しみにしているから――今回の事件をサクっと解決してしまおう。今から私は不審者をおびき寄せ、消す、君も行動を開始しておくれ』


 私の言葉を合図に、黒猫執事は動き出す。

 さて――。

 これで魔力の波動に過敏な子供は、無事、この城からはいなくなった。

 私は猫の瞳を輝かせ、相手を威圧するように魔力を放つ。


『出てきたまえ、君達――私に用なのかな? それともカルロス王に用なのか、どちらにしてもそこで気配を隠しているなんて、随分と失礼じゃないか』


 動揺の気配が、魔力に乗って伝わってくる。

 気付かれていると気付いていなかったのだろう。

 部屋の片隅。

 天井の四隅に何かが――いる。


『答えよ、脆弱なる群れよ――』


 いつも私が発する魔霧にも似た闇の中から、ザワザワザワと蟲の羽音にも似た音が……響く。


「この魔力、こいつ、普通、じゃない」

「なに、やつ」

「オマエ、きさま、この世界、ちがう。異世界、敵?」


 闇の群れが発するのは、たどたどしい声――。

 こんなの、まず間違いなく人間ではないね。

 植物系、もしくは……それに類する昆虫族、かな。


 ともあれ、私はなにやつと聞かれたのなら答えなくてはならない。

 名乗り上げのチャンスなのだ!


『ほう、我を知らぬか?』


 これは新しい偽名のお披露目チャンスでもある!


 カルロス王を守るように、スゥっと前に出た私は――。

 闇に向かい、恭しく――わざと大袈裟な仕草でお辞儀をしてみせて、告げた。


『我が名はブラックハウル卿――偉大なる御方、大魔帝ケトス様の眷属さ』


 ドヤァァァァァ!

 ちょう、かっこういい!



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― 新着の感想 ―
[良い点] のちのち開かれる魔王様を称えるパーティーは さぞ豪華でしょうね。 [一言] ブラックハウル卿!侵入者退治頑張ってください!
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