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腐敗 ~傷んだミカンはワンコも食べない~前編



 大いなる光回復作戦の舞台、神話級ダンジョン。

 その入り口前。

 準備をちんたらちんたら進める神の眷属たちを、内心、ものすっごいバカにしながらモフ耳をぴょこぴょこ。欠伸を噛み殺しながら待っている変装済みの獣人紳士こと、大魔帝ケトスを睨むのは一人の女性騎士。

 次元の狭間フィールドでは正確な時は分からないが。

 それは――まだ早い時間。

 始発待ちのファミリーレストランとかで蜜たっぷりのホットケーキなんぞを注文したくなる明け方の事だった。


 ホワイトハウルに声をかけていた女性騎士は、横目で私をじろりと睨んだまま。

 チラリチラリ。

 何度か、一瞬だけ敵意を向けて。

 また引っ込めて、また敵意の視線をあからさまにチラリ。


 挑発スキルである。


 これ……わざと当てつけるように見てるよね?

 私に喧嘩を売って、こちらからアクションを起こさせようとしてるよね?

 甘い、甘い、甘すぎるのだ!

 くはははは!

 このパターンは知っているぞ。絶対、反応しない方が面白いヤツなのである!


 状況に気が付き、眉間にものすっごい濃い皺を刻んだホワイトハウルが止めようと、手を伸ばすが――その直前に、私は魔術を彼にどーん!

 こっそりとメッセージを送ったのだ。

 揶揄いたいからちょっと黙ってみていてくれと打診したのである。

 ジト目で振り返った彼からの返事は……ため息まじりで程々なら、との事だった。

 ホワイトハウルが『すまぬが、話は後でな――』と女性騎士に言い残し、立ち去るのを確認すると――女性騎士は取り巻きの女騎士二人を従えて、こちらにやってくる。


 その行進はさながら権力をアピールするエリートオフィスレディ。

 なんで、ちょっと偉い身分の人って、後ろに部下を歩かせるんだろうね?

 わっかんないなあ……。

 偉いなら、部下に自分を抱っこさせて運ばせればいいのに……。

 コミュニケーションも取れるし、頭も撫でて貰えるし、一石二鳥だよね?

 私はいつもドヤ顔猫モードで、そうさせているのだが。

 もしかして神の眷属って猫化とか小型化とか、できないのかな?


「そこのあなた! ちょっとよろしいかしら?」


 鈍いフリをした私は、彼女からの嫌がらせに気付かない様子で、荷物を整理。

 必殺!

 無視ではなく本当に聞こえないふり攻撃である!

 静かに、ゆったりと――おだやかに。

 治療薬の在庫を無駄に数えたり。

 魔導地図を意味もなくのばして、シワを取り。

 目線が合うと、騎士は侮蔑の視線を投げつけてくるが――やはり柳のようにしなやかに、気付かないフリをして微笑みで返してやる。

 焦れた騎士は私の前にぐぐぐと身体を割り込ませ、キッとガンをつけてくる。

 が――、ふふふ、甘いのである!


「聞こえていませんでしたの? 失礼ですが、あなたは獣――っ」

『すみません、ちょっと先に荷物の整理をさせてください……ホワイトハウル様のご命令で、最終確認を厳重にせよとの事なので……。えーと、あれは、こちらでしたっけ……えーと、あー、こっちじゃないですねえ』


 必殺!

 上司の名前を出して牽制攻撃! である。

 何か嫌味を飛ばしてきそうな瞬間を先読みし、荷物の中身をガサガサゴソゴソ。

 わざとタイミングをずらして遊んでやる。

 これ。

 実は中々技術がいるんだよね~♪

 嫌がらせをしてきている相手に、天然を装った嫌がらせで返すのって最高なのである!

 あまりにも私が鈍いからだろう。

 取り巻きの騎士達も困惑顔である。

 あ、だんだん苛立ってきているようだ。

 つまり。

 私の勝ち!


 嫌がらせで私に勝とうなどとは、五百年早いのだ!


 種族は……何なんだろう。

 元、人間なのかな?

 甲冑兜の下を透視して見ると――。

 そこに浮かんできたのは、金髪碧眼のいかにも聖女騎士といった感じの、気丈そうな女性である。

 鑑定してみると職業もやはり聖女騎士。

 神の祝福や奇跡の行使を得意とする、近接戦闘も可能な万能職である。


 レベルとか強さは……あー、うん。

 しょーもない。


 並の人間相手には無双できるだろうが――ちょっと本気の強い存在や、英雄、超越者クラスの人間に遭えば、簡単に滅んでしまう中堅である。

 趣味は……弱い者虐めって。

 こいつ。

 というか、神の眷属って……けっこう、終わってんなあ……。

 私が絡まれていると気付いている筈なのに、誰も助けに来ないでやんの。


 揶揄いの高揚とは裏腹。

 魔族を束ねる大魔帝としての私の心と視線は冷え切っていた。真夏につける、せっかち猫ちゃん御用達の最強モードの冷房よりも冷えていたのだ。

 本当に。

 たぶん、このままだと大いなる光系列の神族は滅びるだろう。

 内部から腐って、崩壊する。

 近いうちに起こるそんな未来予知を、猫部分のモフ毛が感じ取っていたのだ。

 大いなる光や私以外にも主神候補はいるのだろうし、また新たな神が生まれるだろうから、私はそれでも構わないのだ。


 わりと真面目な話。

 神にとってもホワイトハウルにとっても、腐った部下――堕ちた聖者などいない方が、いいのではないか。

 とお節介ながらも、猫頭をフル回転させる私は考えていた。


 ホワイトハウルには伝えていないのだが、一つの仮説が浮かんでいたのだ。

 大いなる光が弱体化した原因は確かに私だった……。

 けれどだ。

 転生空間を妨害されただけで、あそこまでの弱体化をするとはやはり考えにくい。


 西帝国の教会が暴走していたのは私が活発に動き出すよりも前だ。

 つまり。

 私が大いなる光を虚無空間で干渉し弱体化の因を作るより前に、既に弱体化は始まっていたのではないか。

 そう考えているのである。

 人々の心と信仰は既に、神から離れ始めていたのだ。

 そして弱体化の根本的な理由だが――彼ら神の眷属の傲慢に原因があるのではないかと、私は推測している。


 考えても見て欲しい。

 協力者である獣人に、しょーもない嫌がらせをするような神の眷属を崇める気になるだろうか?

 私ならごめんである。

 たとえ大いなる光自身がまともな主神だったとしても、人間たちが直接かかわるのは部下にあたる神の眷属たちなのだ。その彼らが腐ってしまっていたら――信仰が腐ってしまうのも無理はない。


 それを知らずに、今も。

 こうして神の使徒は、何も気づかず傲慢を振りかざす。

 ある程度隠しているとはいえ、並の人間よりも遥かに強い今の状態の私に嫌がらせをするほどなのだ。脆弱なる人間たちに対する彼らの普段の対応は――まあ、酷いモノなのだろうと容易に想像ができる。


 ま、これはあくまでも私の勝手な予想。

 妄想に過ぎない可能性も結構高いから、ホワイトハウルに告げる気はないけれどね。


 ともあれ。

 傲慢すぎる神をいつまでも崇める必要がない。

 そう考える人間が急増した理由には、ちょっと心当たりがあったりもするのだ。

 なんというか……。

 大いなる光しか神がいなければ話が別なのだが、今、この世界には他にも大いなる猫神が現れ始めているからね。

 そう。

 グルメあるところに現れ、気まぐれな奇跡を与えると世間で評判な私である。

 大いなる光にはもうついていけない。だったら大魔帝ケトスを神として崇めようではないか、そう考える人間が徐々に増えていたのだと思う。

 ……。

 うん、やっぱり結局は私のせいって事になるんだよね。

 だから、ホワイトハウルに義理もあるし、協力しているわけだが。

 そんな私に嫌がらせか。

 繰り返しになるが――神サイド、終末を迎えるほどに腐ってるなあ……。


 あ、しまった。

 思考の海で泳いでいたのと。

 あまりにもお粗末なステータスに気を取られていたせいだろう、腐った聖女様と目線を合わせてしまった。


「整理は終わったのでしょう? ちょっとよろしいかしら!」

『えーと、なんでしょうか?』


 さすがに今回は誤魔化せないので、無難な返答をしてやる。

 聖女騎士はやっと尻尾を掴んだとばかりのしたり顔で、私の顔をじろじろ。

 これが可愛い猫ちゃんや、素敵なオジ様を堪能する視線だったらやぶさかでもなかったのだが。

 そういうのとは真逆。

 嫌な感じである。

 彼女はまるで、会社のお局様のようなジトーっとした、湿り気とトゲのある声音で私の猫耳を揺らした。


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