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我、超冷静なり ~鏡よ鏡、世界で一番かわいい猫は、私である!~


 上空の完璧な守りと、新設されていく結界を確認し。

 モフっと膨らむ猫毛を満足げに靡かせた私は、黒マナティに微笑んだ。


『さて、外郭結界の方はこれで問題なさそうかな。じゃあ私は地上部に行くから、頼んだよ~!』


 モキュモキュ、モッキュキュ!

 怪音波で行ってらっしゃいと空気を振動させる黒マナティ達に見送られる中。

 ふよふよと空を飛びながら私は一つ、大きく深呼吸。


 気を落ち着かせているのだ。

 強敵から部下を守る!

 そんな気迫が行き過ぎないように制御しているのである。

 暴走しちゃったら申し訳ないしね。

 しかし、これ。

 ちょっと私自身を弱体化する手段を考えないと不味いかもしれない。

 自分で言うのもなんだが、少し強大な存在になり過ぎているような気がするのだ。

 ところで。

 単純な疑問なのだが。

 私って……どうやったら弱体化するんだろ。

 ……。

 まあ、そーゆうのは魔王様が起きてからで、いいか。


 魔王様を守るためにはこの力が必要なんだし。


 そんな悩みに頭をフル回転させていた私が地上に着地すると、メキリ。

 なぜか大地が揺れてしまった。

 あ、奥の方で火山が割れたな、今。


 ズゴン、ズザドドドドド!


 冷静な魔力を内包しながら歩く私の肉球が、めきりめきりと音を立てる。

 外殻の魔力吸収タイルを破壊しながら歩く私を見る古参幹部達の顔が、ピキリと固まる。


 あれ?

 なんでそんなに驚いているんだろう。

 冷静になってる筈なんだけど。


 今の私、まだちょっと怖い顔をしているのかな?

 こほんと咳ばらいをし、


『遅れてすまないね君達。君たちのおかげで冷静になれているよ、私が来たからにはもう大丈夫だ。さあ――共に魔王様の御城を守ろうじゃないか!』


 ふっと最高幹部スマイルで私は言う。

 素敵ダンディな美貌魔族にゃんこを意識していたのだが……。


 挨拶をしただけなのに。

 なぜか数人が魔力の風に吹き飛ばされ、数名が気絶をし、更に数名が自ら張った結界の中で蹲っている。

 暴走、してない……よね? 私。

 いや。

 んー……と賢い私は考える。


 今までだったら、暴走なんてしてない! って言いきっていたが。

 最近になって私は常識とか、冷静さとか、自覚が足りないとか。そーいう、むつかしいことも学んだのだ。

 いつものパターンだと、暴走しまくってるんだろうなぁ……。


 魔王様関連の緊急事態で私の暴走スイッチが入るって、さすがに分かってきたし。パニックになってる時って、客観的に自分を見れないっていうしね。


 てちてちてちと肉球を舐めて、ネコのおててで顔を洗う。


 今、どんな顔してるんだろ。

 顔も綺麗にしたし、たぶんニャハっとかわいい太陽のような笑顔のネコちゃんがいるとは思うのだが――。

 魔術鏡を取り出して、こほんと深呼吸。

 大丈夫。私は超冷静だと自分に言い聞かせて――。


 じぃぃぃぃっと鏡の中を覗く。


 ……。

 あっれ。

 おかしいな。

 なんか凄まじい憎悪の魔力で猫モフ毛をボッファボッファに滾らせた猫が、ものすっごい無表情なまま、紅い瞳をギーラギラさせて鏡を睨んでいた。


 ボシューン、バリバリ、ビギィィィィイン!

 あ。

 自動攻撃魔眼モードになっていたのか、眺めていた鏡が虚無に溶けて消えちゃった……。

 可哀そうだから後で鏡は再生してあげるとして。


 私は鏡の中にいた黒い猫の顔を思い出す。


 あれ、私だよね?

 なんか、やばかったよね?

 すっごい無表情だった。

 ブスっとした顔ではなく。

 ただただ「無」って感じの顔をしていたのである。


 私、これでも結構表情豊かだって評判なネコちゃんなのだが……。

 それが無。

 冷静になって周囲を見ると、いつのまにか自動召喚していた影猫部隊が、これまた無表情のまま尋常ではない量の魔力を膨らませて待機している。


 ゴゴゴゴゴゴと、影猫の周囲が魔力渦で蠢き、その上空には魔力で生み出された幻影の蜃気楼が生み出され始めている。

 あ……幻影の筈の蜃気楼。その中から何か新しい幻影黒猫がニュニュニュと這い出てきた。


 たぶん、ちょっとうっかり。

 このまま世界を滅ぼすかって命令しちゃったら、最後。

 彼らは無表情のまま世界を駆け巡り、そのまま本当に滅ぼしちゃうかもしれない。

 ……。

 これ、頭の中でやっちゃおうかなって思ったら。

 やっちゃうのかな。

 ……。

 やるつもりはないが……なんか、思っちゃダメだと思うと……ついつい。


 そんな。

 暴走寸前な私の前に一つの転移陣が発生する。


「ケケケ、ケトスさま! ストップ、だめ、マジでそれはまずいっすよ!」


 魔炎纏う龍の渦が業火を巻き起こす。

 空間を別空間とつなげる魔術か、それなりに強い魔力が焔の魔円陣を描き出した。

 現れたのは、炎帝ジャハル君だった。


 私は冷静さをアピールするように、静かな魔王軍幹部っぽい声を意識して猫口を動かす。


『ジャハルくんか……状況はどうなっているんだい?』


 焔の大精霊、精霊族の王にして長。ランプの精を彷彿とさせる格好をした、男勝りだが中性的な美女である。

 身体が常に燃えているので湯たんぽとしても快適、猫好きなので結構ちょろい所もある魔王軍幹部なのだが――。

 彼は何重にも張った防御結界で私の瘴気をガードしながら、頬を掻く。


「えーと、ケトスさま。そのまえに……ちょっとその自動殺戮モードを解除して貰ってもいいっすか」


『んー、やっぱり。そうなってるかい?』

「はい、ばっちり……。ロックウェル卿とフォックスエイルが瞬時にアンタの暴走を察知して複合結界を張ってくれたからなんとかなりましたっすけど。けっこうマジで危なかったっすよ?」


 となると、今あの二人は私の暴走を防ぐ結界を維持して動けないでいるのかな。

 んーむ。

 本当に危なかったんだな、今回。


『すまない、迷惑を掛けたみたいだね。どうも私は魔王様の事に関すると……ね。悪い癖だとは分かっているんだが、こればかりはどうしようもないんだ』


 耳を掻きながら漏らす私のため息は、ズジャジャジャっと大地を抉るが。

 何故かジャハルくんはくすりと女帝の笑みを浮かべる。


「ロックウェル卿からケトス様ならそう仰るだろうけど、魔王様の事ならば仕方がない。あの魔猫に気にするなと伝えてくれ――って、伝言預かってますよ」

『ロックウェル卿がねえ……ま、借りができちゃったかな』


 今頃、勝ち誇ってるんだろうなあ。

 あとで新しいグルメでも御馳走しないと。


「あー……それで、魔狐の方なんすけど」

『どうせ後でなにか高いモノでも買いに来いって言っていたんだろう?』


 ジャハル君は肯定しながらも、僅かに眉を崩し穏やかに言う。


「心配、なさってましたよ。借りがあるから気にしないで頂戴とも――いったい、あの魔狐、なにやらかしてたんっすか?」

『ま、色々とね。もう済んだ話さ――今の彼女は、少なくとも私にとっては仲間さ』


 穏やかに仲間と語る私。

 ちょっと暴走が治まっていく。

 そんな猫ちゃんを眺め、ジャハルくんは妙に嬉しそうに頬を緩める。

 私があの二人と行動を共にしたりしていると、なんか保護者みたいな顔をしてみるときがあるんだよね、ジャハルくん。

 保護者面される事に反発はなく、むしろ猫的には少し嬉しかったりもするのだが。

 まあ、恥ずかしいからね。

 これは隠してちょっと斜に構えて見せるか。


『おや、ところで君は私の心配をしてくれないのかい?』


 炎帝はきょとんと瞳を見開いて、はぁ……とあからさまな息を吐く。


「お言葉っすけどね、ケトス様。オレ――いぃぃっぃいいいいっつもアンタの事で心配させられてますからね? わざわざ、もう一回、今回の件で改めて心配する必要あります?」

『それもそうだ。いつもすまないね。君にはどうも甘えてしまって――感謝しているよ』


 猫のウインクを送ってやると、ジャハル君はなぜかちょっと尖った耳先を紅く染めて頬をぽりぽり。

 炎の瞳を照れたように逸らし――口を尖らせ彼は言った。


「あー、まあそれはいいっすけど。マジでその自動殺戮モード解除できませんか? 今この場にいる魔王軍の精鋭達なら問題ないっすけど、下っ端魔族が来ちゃったら、たぶん、ケトス様に近づいただけで存在が消滅しちまいますよ」

『んー、ちょっと気を逸らしてみるか……』


 確かに、私の周囲にはかなり高出力の魔力が漏れ出ている。

 ジャハル君はこう見えても私達大魔帝クラスの存在に次ぐ強さの大物魔族だ。彼や、最強クラスの悪魔、サバス君レベルではないとかなり影響があるのだろう。

 実際、まともに立っていられるのは古参幹部クラスみたいだし。


 あ、いつか私に押しつぶされたオーク神がなんとか堪えて立ち上がってるな。

 ぷぷぷ、あれからだいぶレベルアップしてやんの。

 今はもう帝国とも東王国とも敵対していないから、両者の輸送を手伝ったりしてるらしいんだよね。唐揚げとヤキトリの交流も、悪くはないのだろうと私は思う。

 ま、これも私のおかげなんだけどね!

 と、自画自賛してみる。


 ……。

 駄目だ、意識を逸らしても自動殺戮モードが解除されない。

 やっぱり、一時的にでもいいから弱体化をまじめに考えないとまずいかも。


 現実的な手段としては力を分け与える儀式を行う事なのだが――。

 前にも述べた通り、大きな問題がある。

 私の憎悪の力が強すぎるのだ。

 力を譲渡し弱体化をしようにも……譲渡できる相手がいないのである。

 私の力を受け継いでも壊れず自我を維持できる強大な存在なんて、都合よくいないよね?


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