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魔女と外道とドヤ顔にゃんこ ~滅びの焼豚鍋~前編



 グーーーースピピピピ、ジュビジュバアアア……。

 とっくに飽きて寝ているロックウェル卿のいびきが、ポカポカ魔術太陽の陽ざしの眩しい草原に鳴り響く。


 卿の涎を回収したファリアル君は、ロックウェル卿の顔を穏やかに眺めるとそのお腹にお昼寝用の薄い布をかけていた。

 んーむ、鶏にも優しいのか。

 というか、味方には優しくなるタイプなのかな。


 私は女に代わり、ファリアル君に問う。


『んー、ねえねえファリアル君。なんかすっごい関係者っぽい空気で偉そうにでてきたけど。君の知り合いじゃないのかい?』

「ええ、知りませんよ。氷雪国家にこんな薄着で来る変な女の人……純粋に怖いですって」


 不精ひげを擦りながら、彼はきっぱりと告げた。

 あ、呪いと絶命の魔女さん、なんか泣きそうな顔になってる。

 てか、雪国でこの格好は本当にちょっと……きつい。


『なるほど。なるほどね……ねえ、オバさん、ファリアル君も嫌がってるし、ストーカー行為はほどほどにしといた方が良いんじゃない?』

「お、オバさんですって! さっきから挑発に乗らない様に我慢してみれば――まあ! なんて失礼なクソ猫なのかしら! こんな暴走猫、放し飼いにしてるバカ飼い主はどこのだれよ!」


 ぶち。


『はぁぁぁあああ? そんな脆弱な魔力しかもたない雑魚が、ま、魔王様に愛されし猫魔獣である私を、ク、クソ猫だって! よーし、決めた。最初に仕掛けてきたのはそっちからなんだし、女の人だからといって敵対するのなら容赦しないしい! なんか知らんが敵みたいだし、このまま私が消し炭にしてくれるわ!』


 爪と牙でキシャーキシャーと威嚇して、私は紅蓮のマントを纏い直す。

 魔王様を愚弄するものは、どんなやつでも許さんのじゃ!


「え? 魔王様に愛されし……猫魔獣? そ、それって……」

「おや、まさかケトス様だと知らずに喧嘩を売っていたのですか? なるほど、どうりで私の生み出した自動殺戮石人形の使い方も下手なわけです。こんな無計画な人、知っている筈がありませんね」


 血染めのファリアルくんは、ふん……と鼻で笑って鼻梁に濃い闇を刻む。

 いわゆる蔑みの目だろう。

 オバさんの全身に、濃い汗が滴る。

 失礼にも人のことを指さして、固まり……。

 紅い唇を戦慄かせて、言った。


「ひ……っ! ままっまま、まま、まさか……殺戮の魔猫、大魔帝……ケトス! 本物!」

『ああ、そうさ。私こそが天下の猫魔獣にして、大魔帝。魔王様に愛されし美しき魔猫、絶命をもたらす破壊の牙、大魔獣ケトスとは私の事なのだ!』


 デデーン!

 ぶぁさっと紅蓮のマントを翻し、猫目石の魔杖をくるりと回しながら決めポーズ!


 後ろでファリアル君が、鼻梁の闇を完全に投げ捨てて……デレー……と顔を崩し、か、かわいいと感嘆の息を漏らしている。

 オバさんの魅了の魔術は効かないようだが、私の魅了のポーズにはバッチリと効果がでているようだ。

 ふ……っ、決まったニャ!

 人間のオスすらも誘惑してしまう我は、やはり魔王様に愛されし大魔帝。

 とおおおぉぉぉっても偉いのである。

 会心の出来だった私のポーズで目を覚ましたのか、ロックウェル卿がパチっと鳥目を開いてコケケケケと近寄ってくる。


『ん……何事だケトスよ。この妙齢の女は……敵であるか?』

『ああ、どうやらそうらしい。私もファリアルくんも見覚えがないんだけど……呪いと……絶命? の魔女エイルっていうらしいんだけど、知ってるかい?』


 ニワトリ卿は首をコケっと傾げながら、怪訝な瞳で女を見る。

 しばし真剣に嘴に翼を当て……一言。


『さあ、そんな二つ名も名前も聞いたことがないぞ。というか、寒くないのかその格好は。魔力もそこそこあるようだが、そこそこ止まりであるし。余は少し品というモノが足りん女は好かん。唐揚げでも持参し、出直してまいれ』


 一言じゃ、足りなかったんだね……。

 あ、魔女さん。

 またプルプル震えだしてるし。

 それでもなんとかロックウェル卿を、じっと見て……さらにぷるぷると身体を揺らす。

 あーあー、胸の谷間に浮かべていた呪印がべっちょり溶けて落ちちゃってるよ……。


「え。嘘? 話の流れからもしやとは思っていたけれど……まさか……あなた……大魔帝ケトスと並ぶほどの大物、魔帝ロック、神鶏ロックウェル卿!?」


『おお、そうであるが……、ケトスと並ぶと称するとは、なかなか良い目を持つ女であるな』

「意味わからない! なんでよりによって二大、大魔族がアタシの縄張りで人間世界に干渉しているのよ!?」


 ま、そりゃ嘆くわな。

 一応私達、たぶん世界最強クラスだし。


『しかし――お主、本当に何者だ? ぜーんぜん、見覚えがないのだが。余が知らんとなると、その破廉恥で下品な姿やその通り名は伝わっておらず……別の存在や姿として語られている可能性もあるが……。ケトスよ、お前こそ何か知らんのか?』

『まあ、いいじゃんこんな変な人。魔王様を侮辱したのは確かだし。それじゃあ、なんか知らないけどストーカーなオバさんにはここで消えて貰うよ!』


 言って、私が殺戮の魔法陣を展開しようとする――。

 その直前。

 魔女はやっと本来の用事を思い出したようで、キリっと冷たい微笑を浮かべた。

 マニキュアの目立つ手のひらの上。

 七重の魔法陣を生み出した魔導書が、バササササとイイ感じに開き始める。

 おー! やっぱりこういうの、いいよなー!


「我が手に叡智を! 確かに、アタシはあなた達には敵わない。けれど、今襲うのはやめておいた方が良いんじゃないかしら? アタシが死ねば、この大陸にいた人々は永遠に城の中で眠り続けることになるわよ!」

『この大陸の人々だと?』


 ロックウェル卿の問いかけに応えるように、魔導書を開きそのまま魔術を展開。

 オバさんは天に向かい映像を流し始める。

 どうやらどこかのお城の映像。

 城下町に並ぶ、氷漬けにした人間たちのようだが。


「ええ、そうよ! 氷雪国家シグルデンに生きていた魂は全て私の手中にある。大魔帝ほどの鑑定眼があれば、真実だって分かる。そうでしょう?」

『あ……そう。人質ねえ……ま、関係ない、ね!』


 構わず私は十重の魔法陣を展開。

 敵の身体を雷鳴の轟きで貫こうとするが。

 呪いと絶命の魔女は、妖艶な笑みを浮かべてこちらをちらり。


「強がらない方が良いわ、大魔帝ケトス。あなたが降臨していることには驚いたけれど、問題ないわ。だってアタシ、知っているもの――あなたの弱点を」


 魔女は勝利を確信しているのだろう。

 まあこの場合の勝利というのは、大魔帝ケトスから逃げる――という、しょうもない勝利条件だろうが。

 実際、大魔帝から逃げるなどそうそう簡単にできる事ではない。


『へえ、弱点ねえ』

「とある強大な魔竜から聞いたことがあるのよ。大魔帝ケトスは人に憧れ、もがいている……その心も案外に温い……その証拠に、民間人の命は何よりも優先する。うふふふ、その十重の魔法陣もハッタリだわ!」


 ビシっと私の魔法陣を指さし、ドヤ顔を浮かべる魔女。

 またこのパターンだが。

 今回はちょっと例外だ。

 構わず私は、魔術による雷鳴の槍で攻撃を仕掛ける。


『丸焦げになっちゃいなよ!』

「だから、そんなハッタ……リ……え、ちょっと!?」


 槍は確かに女の身体を貫いているが――。

 ズシャン!

 ズザ、ズザザザザザ!

 次々と身代わりになって人形が消えていく。


「きゃ! やめ! ちょっと……ん、痛いじゃない! やめなさいよ! あん! こら、服を裂かないで! これ、高いんだから!」


 んーむ。

 これで純粋な男魔族やら人間やらがいたら、ちょっとエッチな光景に鼻の下を伸ばしていたのかもしれないが。

 猫とニワトリと女よりも内臓が好きそうな外道錬金術師だからなあ……。

 みんな、興味がなさそうである。

 むしろ興味があるのは、その不死といえるほどの耐久力か。

 何度刺されても死なない女に、ロックウェル卿が声を上げる。


『こやつ、自らの命を人形とつなげてダメージを全て逸らしているのか。んーむ、面倒であるな。人形をすべて破壊するまではたぶん攻撃が通らんぞ』

「あー、それ。百年前にワタシが開発した魔術ですね。敵とも接続できるので――外道過ぎるからと人間軍でも禁止になってしまいましたが……いやあ、懐かしい。それを使えるとなると、本当に知り合いなのかもしれませんね」


 こんな物騒な魔術、誰が考えたのかと思ったら……お前かい。

 ファリアル君……本当に邪悪だなあ。

 まあ実は私も同じような術を使えるけど……外道扱いされそうだし、黙っておこう。


 ロックウェル卿は片目だけでジロリとファリアル君を目にし、存外に淡々とした声で呟いた。


『その冷徹。やはり血染めのファリアル本人のようだな。この集落でお主を見た時は全く気付かなかったが……今のそなたならば、余もすぐに気付いたであろうな』


「ケトス様とロックウェル卿様のおかげで……昔の自分を取り戻せたんですよ。集落を救っていただき、ワタシに新たな道を示していただき……本当に感謝しております」


 忠義を示すように瞳を伏し。

 ファリアルくんは、恭しく頭を下げていた。


『ふん、そうか。まあケトスに感謝するのだな。余はそなたたちを見捨てようと提案した側であるからな』

「それでも……助けて頂いた。人を殺す手段しか得意でなかったワタシにはできない御業で……我らに救いの手を差し伸べてくれた。この御恩はけして――忘れませんよ」


 本当に心の底から感謝しているのだろう。


『勝手にすればよかろう――まあそなたの作る焼豚は美味であった。助けてよかったと――ほんの少しだけは思ってやってもいいぞ』


 なーんか、良い感じの話になっているが。

 目の前では絶賛、雷の槍による串刺しショーの進行中である。


 ま、根を上げるまで雷槍で刺し続けるのも――ありか。

 人形の残機が消えるか、そのうち魔術神経が焼けて終わるだろう。


「ちょ、待ちなさいよ! こっちには人質がいるのよ! この大陸の人々すべてと、王族もいるんだから! 殺せるわけないわよね!?」

『そういう面倒な事は君を消し炭にしてから考えるよ』


「うそ! 話が違うじゃない! こうなったら、実力行使よ! 退け、雷鳴! 我が手に集うは反転の鏡」


 反射魔術だろう。

 彼女は魔導書から取り出した手鏡で雷の槍の雨から抜け出し始めていた。


 魔女は私の雷鳴の一撃を手に張った魔力で受け流し、常に一定の距離を保っている。

 事前に、素肌にルージュの紋様を塗っていたからだろうが。動きが適確で、隙がない。

 なるほど。

 並の使い手ではない。

 やはりこいつが、間違いなく黒幕だ。


 たぶん――とんでもない高レベルな存在。

 この私の魔術を既に見切って、回避しているのだ。

 ギャグや偶然などで回避できるような次元ではないのである。


 まあ私と卿に比べると次元が数段、落ちるのも事実だが――。

 大魔帝クラスと比べちゃうのは、ねえ?

 人間の国ぐらいなら、軽く支配や征服できる実力なのは確かだ。


 一見するとネタキャラだけど……。

 このストーカーオバさん、かなりやる!



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