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滅びの定めとネコキック ~猫は気配を察知する~



 遅い朝食も終わった昼下がり。

 氷雪国家に築かれた猫の砦に、虚無の力を纏った火花がド派手になり続ける。

 ドドーン、スドゴゴズドゴゴゴ、ジュババババババ!


 あれから数時間。

 敵の増援はもはや欠伸が出るほどに続いていた。


 もうとっくに焼豚さんも完成し、ダンジョン猫である雪猫精霊にも協力して貰ってお菓子ハウスにお届けも完了している。

 炊き立てご飯と焼豚さんと、醤油ベースのワンタンスープのデリバリーである。

 集落のみんなの意識もはっきりとしてきているので、敵襲さえ終われば挨拶やらドヤやらしたい所なのであるが――。


 んーむ。


『あっち、いって、こっち、いって。ドカーン!』


 新たな魔力球を生み出した私は欠伸をしながらポイ!

 自動殺戮魔導球を空に浮かべる。

 ドヤるのもさすがに飽きた私は自動迎撃の魔術を即興で編み出し、全自動無双状態でダラーンと日向ぼっこをしていたのだ。


 魔術太陽の光を浴びたモフ毛は艶々に仕上がっている。

 エビのテンプラが入ったおにぎりさん、いわゆる天むすを口いっぱいに頬張って――ぶにゃぶにゃん。

 衣のサクサクとエビのぷりぷりがご飯粒に良く合っていた。

 エビ天のタレで、ちょっと色が付いたご飯って超お美味しいよね!

 ちなみに。

 この魔力球は。魔女マチルダとダークエルフのギルマスくん、彼等の魔術と自動殺戮石人形の技術を組み合わせて作り出したモノである。

 むろん。

 ファリアルくんはめっちゃ目を輝かせて喜んだので、もう既に何度もドヤった後である。


 ズゴゴゴゴン、ズゴゴゴゴ!


 結界に侵入してきた人形を破壊する魔力球の音が背後に響く中。

 ごちそう、満腹、大満足♪ で、愛らしく膨らんだネコっ腹を撫でた私は、なにやら難しい顔をしているファリアルくんに言った。


『ぷふぁ~、いやあ君の作るトロットロ焼豚も天むすも最高だったね! 料理は技術と計算が影響するし、錬金術が得意だとこういうこともできちゃうんだねえ』

「ええ……これだけ続けざまの増援となると――敵の狙いはおそらく、魔力の枯渇でしょうね」


 戦闘錬金術師であるファリアルくんは真剣な表情のまま、結界の外の大部隊を見ながら、そう呟く。

 会話がかみ合ってないのは、気のせいである。


 血に染まった彼の手に握られた……何の生物の臓器か分からない謎の物体エックスが、何の詠唱もなく高速転移し、消える。

 刹那。

 結界の外に現れ――大爆発。

 物体エックスの中に埋め込まれていた謎の爆発物が一緒に弾け、周囲の人形を巻き込みながら更に大爆発。

 連鎖爆発で生まれた雪崩が後続の人形を薙ぎ倒していた。

 素人が見ればただの奇跡的な偶然に見えるだろうが……全て事前に計算していたのを私は確認している。


 猫のジト目がただの人間ファリアルくんを見つめてしまう。


 これ、人間の器の限界超えまくってるだろ。

 勇者とは全く違ったタイプの超越者である。

 どちらかというと、魔に落ちるタイプだ。

 ともあれ、そんなファリアルくんの奇行にも慣れた私は既に仲間意識を持っていた。

 魔導を極めた者って、なんか一緒に居ると居心地がいいんだよね。

 魔王様を思い出すせいもあるんだろうけど。

 ちょっとだけ……寂しくなくなるのである。


 彼の牡鹿骨兜の上に乗って。

 ぐぐーっと身体を伸ばす。

 お腹いっぱいになって、満足な私は魔術太陽に向かって手足を伸ばしヌクヌクなのである。

 牡鹿の角を肉球で握って、グイグイグイと遊んでしまう。


 血塗られてない方の彼の手は、ズリ落ちる私の身体を自然に支えていた。


『やっぱり口の中で脂が溶ける瞬間? あれが、すっごくいいね! ごはんに乗せて食べると丁度いい感じで蕩けるんだよ。くははははは! あれこそまさに我の贄に相応しい一品であったのじゃ!』

「しかし、おかしいですね。この国のバカ王族連中なら自らの地位と権力を名乗り上げて、堂々と傍若無人な振る舞いをするはずなのですが――いっそこちらも強化済み全自動殺戮人形を送り込んで、王家惨殺を目論むべきなのでしょうか」


 なんか物騒な事を言っているが。

 スルーしとこう。

 このファリアル君。

 常勝無敗の名は伊達じゃなく、氷雪国家に築かれた猫砦にはいつのまにか色んなタイプのホムンクルスが護衛にあたっていた。

 ホムンクルスとは錬金術によって作り出された使役兵。

 見た目は二足歩行のモフモフ猫ちゃんなのだが……今回、彼が材料として使っていたのはたぶん魔竜とかの……いや、口に出すのはやめておこう。

 とりあえずハラワタとか、臓器とか、そういうモノを魔力炉として利用するのがうまいのは確からしい。


 私はニャンコ砦となった集落をちらり。

 大魔帝クラスが二匹に、人間としては最高峰の外道錬金術師が一人。そして私と卿と彼が生み出した眷族が守りを固めている。

 ダンジョン雪猫たちも既にここを住処と定めたようで、氷の魔術で人形を固めて首を転がし遊んでいる。


 これ絶対に攻め落とされないんだから、諦めればいいのに……。

 消耗が目的だとしてもこっちは既にホムンクルス達が錬金術の工房まで作り始めているから、減るどころか増えるよきっと。

 工房が作られていく草原の横。

 状態異常による自動迎撃をしていたロックウェル卿たちも退屈しだしているようで、満腹になったお腹を魔術太陽に向けてグッスリ、クケークケーと高いびきである。


 蛇神ヤトノカミの睨みは魔術映像でも効果があるらしく転移の鏡(マジカルミラー)で、空に映しっぱなしにしているようだ。

 今は――。

 焼豚さんの端のトロトロ部分を、うっまうっまと齧りついている蛇神さんのニコニコ顔がドアップになっている。さながら動物園のモニター映像だけど、無差別状態異常まき散らし装置だから実際はかなり危険である。

 人間たちに見ないように言っておかないと、あぶないかも……。


 ともあれ。

 私は真剣な表情を作り、ファリアルくんの牡鹿骨兜の上から、にょこっと下を向いた。

 ペチペチと肉球でその額をタッチする。

 これからの事を話し合う必要があるからだ。


『さて、そろそろお昼のメニューを考えようか』

「ええ、もしかしたら王族は既に何者かに洗脳されているのではないか。三年前に起きた吹雪の宝珠の暴走もあるいは……ワタシはそう考えているのですが――って、真面目にやってくださいよお二人とも!」


 手の血を拭き取り、頭の上から私を下ろしたファリアル君はちょっと困った様に眉を下げる。

 ニャフフフ、私は知っているぞ!

 この男、私の鑑定スキル、ニャンズアイによると猫好きなのだ!

 ホムンクルスの造形が猫ちゃんなのも、その趣味が反映されているのだろう。


『まあ、君のいう事も分からないでもないけどね。敵の狙いが戦力の消耗や精神的な疲れを目的としているのなら、向こうのペースに乗ってやる必要もないって事さ』

「なるほど――それは確かに……」


 これは別にお昼のメニューを考えたいから、適当な理由をつけているわけではない。

 いや、まあ半分ぐらいはそうだけど。

 そもそも戦いというモノは自分のペースを崩すと不利になりやすいのだ。最近、人間を先に攻撃されるというパターンをされまくっているせいで、その辺は嫌というほど感じている。

 しかし。

 そろそろ動きがあってもいい頃か……。

 実際、今もなにか気配が動いて……。

 猫目センサーに異物が引っ掛かる。

 おそらく、愛らしい私の猫目がキュキュキュとレンズを絞っている事だろう。

 新たな魔力だ。


「どうかなさいましたか?」

『ふむ――、なるほど君ほどの使い手からも潜伏できる敵、か』


 猫毛がぶわぁぁぁっと広がる。


 私は――魔術太陽に目をやり……ふむ。

 魔力球の数を増やし、殲滅速度をあげながら私は続ける。


『先ほどの話の続きだが。それに――消耗という意味では彼らの戦力は限界が近づいている筈。私という偉大なる殲滅者がいた事は想定外だろうしね? そろそろ焦れて直接指揮者がでてくるんじゃないか――な!』


 言って。

 跳ねた私はファリアルくんの座標に生じた揺らぎに向かい、肉球を鳴らす。

 ついでに、彼に向かってスーパー猫ちゃんキィィィック!


 ファリアル君の身体がまともに宙を飛ぶ。


「ケ、ケトスさま! 愛らしい肉球がぷにぷにで心地良いですが、な、なにを……!」

『お出ましだよ、こいつらどうも変だと思っていたんだが――どうやらファリアルくん。君を狙っているね』

「ワタシを!?」

『ああ、間違いないね』


 猫キックで蹴飛ばしたファリアル君のいた場所に生まれていたのは、転移陣。

 吹き飛ばされたファリアル君は空中でズジャッと、意味わからん動きの軌道修正。

 そのまま天に足をつけ空中に着地、転移陣に目を移す。


「これは――人間捕獲用の転移罠!」


 逆さで宙に浮かんだまま怪訝そうな顔で叫ぶファリアル君。

 いや。

 なに普通の顔をして空中に自分の座標を固定してるんだろう、この人。

 錬金術を極めた事による戦闘応用だろう。

 指についていた私の猫毛を触媒に――、一瞬にして世界の法則を書き換えているのだろうが……。

 これくらい私ならば、いつもの朝飯前だが人間がやるとなるとちょっと話が違う。

 おそらく……いや確実に。

 私やロックウェル卿みたいな例外相手を除いたら、たぶんマジで常勝無敗だわ。

 まあいちいち気にしていても仕方がない。


 別に対抗するわけではないが、肉球でトテトテトテと空を歩くのは素敵な私。

 座標固定歩きをしながら私は問う。

 別に対抗しているわけじゃにゃい!


『知っているのかい?』

「ええ、何十年か前になりますが――集落の冬の備えと引きかえにワタシが企画、開発してシグルデンの軍に提出したものですから。陣に触れた相手を強制的に指定場所にワープさせる転移の粉を用いた錬金術の一種です。この国ではないですが、ワタシも王族相手の暗殺にはよく使用したので間違いないかと」


 おい。

 またしれっと何か言い出したよ。

 私の猫目はじとぉぉぉぉおおおっと半目になっていく。


『お……王族の暗殺?』

「はい。王族は人間に分類されながらも、神や魔神といった大物の血脈を受け継いでいる一族が多いですからね、貴重な素材になるんです。王族を失った国は崩れていきやすいですし、素材にもなって一石二鳥。人間同士の戦時下においてはもっとも有効な手段でしたから」


 言って、冷たい微笑をその端正な顔立ちに乗せるファリアル君。

 牡鹿の骨兜の下。

 昏く淀んだ魔力が彼のつり上がる口角に反応し、氷雪国家の空に広がっていく。

 なんか。

 すっごい悪の幹部っぽいよ。

 智略とか陰謀とかを武器に戦う冷徹な四天王みたいだよ。

 たぶん漫画とか特撮ドラマとかだと、一部のコアな女子に人気が出るイケメンサイコパスみたいなんですけど……。

 

 またしても亜空間から蠢くグロイなにかを取り出し、彼は既に戦闘態勢。

 私の涎を触媒に、空になんか意味わからん触手生物を召喚生成している。

 ……。

 王族の暗殺、素材目的の遺骸の回収。

 そして謎のグロ錬金術生物。

 どうみてもカオスサイドの人間だ。


『えーと、ファリアルくん……その触手生物、なに? 私、けっこう長く生きてるからその手のモンスターには詳しいんだけど……初めて見たよ?』

「異界の神が擁する眷族、魔王種と呼ばれているらしいですが――ワタシも詳しくは……。ただケトス様のような偉大な魔力の持ち主の素材……今回でしたら唾液ですね。そういう伝説級の依り代さえあれば、波長が合うようなので使役できるんですよ」


 魔王種とは――此処とは違う場所、異世界に君臨する強大な魔が生み出した植物魔族だと、私の魔王様から聞いたことがある。

 ちなみに、魔王様からは絶対に遊び半分で召喚するなと言われている。

 それ、呼んじゃったの?

 しかも……。


『魔王種を使役?』

「ええ、あくまでも理論上は可能というだけだったのですが――伝説の大魔獣でいらっしゃるあなたとお会いして、魔術を直接見せていただき……ワタシも新たな悟りを開きましたから……。全てケトスさまのおかげです。ありがとうございます」


 ピカーっとイケメンスマイルが私の猫顔を突き刺す。

 王に仕える騎士のように跪いちゃったよ。

 かつて血染めと呼ばれていたファリアル君は、端整な顔立ちに心酔の色を浮かべて私に平伏し、それはもう穏やかに、困惑する私の猫顔を眺めていた。

 クッキリと浮かぶ笑窪がちょっぴりセクシー……。

 あ、そっと肉球を手に取って騎士の誓いを立て始めている。

 君、錬金術師だろうが……。


 ともあれだ。ふと賢い私は考える。


 あっれー……これ、もしかして。

 また私、やらかした?

 うん、たぶん。

 やらかしてるよね、きっと。

 やっぱりとんでもない存在を覚醒……というか、当時の全盛期の彼を蘇らせてしまったのではないだろうか。

 いや、ファリアルくん、これさあ……。

 追放されたの絶対に自業自得だろ。


 そこでふと私は思い出す。

 そういえば――私とロックウェル卿は因果律を捻じ曲げてこの集落を救ったのだと。

 つまり。

 神や世界からは死ぬべきだと判断されたファリアル君を、何も知らない世界最恐のネコちゃんコケちゃんの二人が、世界を捻じ曲げる程の力業で助けてしまったのである。

 たぶん、勇者の関係者とか大いなる光とか、世界を維持したがっている連中がみていたら、奇声を上げて発狂しているだろう。

 まあ、ここは吹雪の宝珠の結界で守られているので、そういう面倒な連中には見られていないだろうが。

 バレなきゃ、別にいいか。


 おそらく世界は別の方向へと分岐する。

 良い方向か悪い方向かはたぶん神にすら分からないだろう。

 が。

 ま、こっちも別にいいか。

 人助けには違いないし。

 私、ぜんぜん悪くないよね?



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