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命なき人形たち ~死守せよ! 焼豚さん!~


 戦いの前の糧を食し――モキュモキュごっくん。


『――来るみたいだよ』


 宣言し。

 唐揚げを飲み込んだ私は猫目石の魔杖をぶわっと翳す。

 魔術構成は外の景色の拡大。

 猛吹雪の外界に、無数の人影が写っている。

 いつの間にか敵との距離は、あと僅か。

 まあ人影といっても人形だが。


『なるほどね。結界の接続を諦め――転移を繰り返して進軍速度を上げたか。こりゃ、もうすぐ始まるね』


 焼豚さんの鍋を魔力で支えるファリアルくんが、眉をピンと跳ねさせた。

 気配を察知したのだろう。


「時空の揺らぎ……みなさん!」

『分かっている、君はちゃーんと焼豚さんの調理鍋を守っていておくれよ――っと、何体かが同時に来るね』


 更に連続の跳躍で、一瞬にして間を詰めたのだろう。

 ブォウン!

 その揺らぎは突然、群れとなって現れた。

 蟲の羽音を想わせる嘶きが耳を刺す。


『ぎぎ、うぎぎぎぎぃぃ!』


 何かが宙に生まれる。

 ナイフで切られたような天の隙間から、ズズズズと、その身を無理やりに通し落ちてきた。

 自動殺戮石人形。

 複雑な魔術紋様が刻まれたデッサン人形もどきである。

 草原に足を落としたオートマタ達はまるでダンサーのような身のこなしで、前傾姿勢を保ち。

 駆けた!


『ギギギ、ギギィィィィ!』


 カタカタと歪な音を鳴らしながら、一斉に人間たちのいるお菓子の家を目指し一直線。

 だが。

 バァサっ! と羽ばたいたニワトリの翼が空間を支配する。


『甘いわ、愚鈍な人形どもよ――!』


 チャリン、と。

 ロックウェル卿の宝杖が音を鳴らした、次の瞬間。


 ゾォォォゾゾゾゾゾ!

 無数の蛇の眼光が、魔力持つ波動となって空に花開く。

 ロックウェル卿の生み出した蛇神達が、邪眼で速度低下の呪いを付与してくれているのだが……んーむ、相変わらずえっぐいな。

 そりゃ神クラスの眷属による一斉デバフだもんね。

 うっわ、一気に状態異常の数が半端ないことになってる。


 状態異常を完全に無効化する私にはまったく脅威じゃないけど、普通の使い手ならこれだけで終わりだろうな。


『んー……私の活躍の場面がないなあ……ねえ! ロックウェル卿! 偉大なる私の活躍の場面も欲しいんだけど!』


「ケトスさま、待ってください! まだ終わってはいません! 人形たちが既に弱った人形を盾にして――突っ込んできます!」

『へー、本当だ。あー、よかった。まだちゃんと私の獲物も残っているんだね』


 ファリアルくんの指摘通りだ。

 石化しはじめた人形を腕に抱き、列となってお菓子ハウスに向かっている。


 人形たちは家の前で、動きを止め――。

 転移!

 ファリアルくんが、血相を変えて叫びをあげる。


「しまった転移で家の中に――みんなが……あぶな……いっ」


 魔術太陽に照らされた彼の端整な顔立ちに、濃い翳が生まれる――。

 が。

 ドゴォォォオオオン!


 ロックウェル卿が強化した大鴉の結界陣に弾かれ、草原に倒れ込む人形たち。

 敵はお菓子ハウスの中には転移できなかったのだ。


「って、あれ……人形が全部壊れて――全然だいじょうぶですね……」

『そりゃまあ、大魔帝クラスの結界に高速転移で突っ込んだら――そうなるよね……。自動で動くからあんまり賢くはないのかな』


 結界を張った主。

 ロックウェル卿の眷属である三本足の大鴉が、クワーックワクワと一斉に笑い出す。

 バーカ、バーカ!

 オロカモノー!

 そういやカラスの口って、やろうと思えば人間の言葉も発声できるのか。


 彼等は敵を挑発するように踊り出したが――。

 乗ってくる気配はない。

 さて。

 残った人形君にはとっととご退場願おうと思うが、その前に。


 私はモフ耳を立てて、遠くで鍋を守る製作者に確認した。


『ねえ! ファリアル君! これ、人間から作られた生体兵器ってパターンはないよね!? 消し炭にした後に人間でしたってなったら、さすがに困るんだけど!』

「はい、これは違います。この型は無から生み出すナンバーですので。人体を用いたナンバーは別のモノになります!」


 にこやかで爽やかな笑顔を私に向けるファリアル君。

 ……ん?


『人体を使ったって、どういう個体なんだい!』

「相手の脳に取り付けて、筋肉組織を全てオートマタの魔術繊維に置き換えるんです! 簡単に敵の戦力を奪えて、味方を増強できるので便利なんですよ!」


 ちゃんと人体を使った非道バージョンもあるんだ……。

 外道、外道いってたが……このファリアルくん、なんか本当に結構外道な研究してそうだよね。

 なんか吹っ切れたのか、物凄い笑顔なのがちょっぴり怖い。

 そのまま彼は手を翳し。

 鍋を守るためだろう、七重の魔法陣を大地に巡らせ――術を紡いだ。


「膨らみ、弾け――我らを守り給え。巨肉障壁フレッシュ・シールド!」


 モゲモゲモゲゲエ!


 あれ、なんか……。

 魔族でさえ使わない禁術。生きた巨人から取り出した心臓に魔術を掛けて、無限増殖する肉壁を作り出す錬金邪術を使いだしてるよ……この人。


 もしかして……。

 いや、大丈夫。杞憂だとは思うが……。

 私っていう外道な手段を扱う魔術師と出逢ってしまったせいで、かかっていたブレーキとかをぶっ壊してしまったのではないだろうか。

 私も魔王様を守るためには結構ムチャしたし……。

 暴走、しないといいけど。


 更に彼は亜空間収納から竜の生き胆を取り出し――。

 ……。


『ね、ねえファリアルくん。もしよかったらなんだけど、君の亜空間収納の中、ちょっと見せて貰ってもいい?』

「え? 構いませんけど――集落の維持のために殆ど使ってしまったので、もうあまり普通なモノしか残っていませんよ」


 トテトテトテと草原を歩く私。

 それはとっても可愛らしいけれど彼の足元にいき。

 にょきっと猫の上体を亜空間の中に突っ込んで――。

 バタン。

 私は……何も見なかったことにした。


「どうかなさいましたか?」

『な、なんでもないよ?』


 トテトテトテと元来た道を、ギギギと歩く私の全身は結構濃い汗を垂らしていた。


 やっべ、こいつ。マジやっばいわ。

 こりゃ確かに、常勝無敗の魔術師の名と血染めのファリアルって名前は伊達じゃない。

 ってか、もしかして……。

 彼への評価って……結構妥当なモノだったんじゃ……。


 彼の亜空間収納の中だが、その……なんというか、具体的に言うと吐き気とか精神汚染とか、そういう状態になってしまうので口にはできないが……。

 この私がドン引きするぐらいヤバイ。

 これを平然と見せてしまうその神経が既にやばい。

 なんか目覚めさせてはいけない闇を覚醒させてしまった気もするが――ま、いいか。

 私のせいじゃないよね。


 ともあれ。

 私は完全に見なかったことにして、ロックウェル卿に目をやる。

 ニワトリ卿が周囲を探りながら呟く。


『ケトスよ、この者らを操っている者が隠れているやもしれん。余と眷族たちが完璧に守っておる内に、そなたは人形の排除と指揮者の捕獲を頼んだぞ』

『了解。ま、鴉たちの挑発にも乗ってこない所を見るとこの近くにはいないようだけどね』


 ふむ。

 私は魔力を込めた声を上げることにした。

 いつもの魔力ある挑発である。


『うっわ、なんだいこの雑魚たちは。こんなので私達に挑んでくるなんて、ぷぷぷー! きっとこいつらを操っているのは、ものすっごい頭の悪い雑魚雑魚君なんだろうね!』


 反応はない。

 人形たちは動き出したが、挑発する私や大鴉には無反応だ。

 精神系の攻撃は意味がなさそうである。

 やはりまっすぐ向かう先はお菓子ハウス。

 人間の鹵獲が目的か。

 捕まえてどうするつもりなのかが、いまいち分からないが。


『挑発も効かないか。焼豚さんの完成を待ちたかったけど仕方ないね』


 言って、私は肉球をペチリと鳴らす。

 八重の魔法陣が断続的に周囲に形成され――魔性の霧が発生する。

 魔力を帯びた闇の霧が敵の足元に生まれたのだ。


『それじゃあ、消えちゃいなよ――!』


 告げた私は、猫パンチで霧を次々と変異させる。


 ザザアアアアアアアアアアアアアアア!

 蠢く霧は、先行してきたオートマタ達の足を包み――無数の手の形を取り絡みつく。

 足に纏わりつき。

 そして。

 サァアアアアアァアア……。

 敵を抱いたまま、粉チーズのように空に散って溶けていく。

 霧と共に灰塵と化したのである。


 先行部隊は全滅だ。


『まずは一網打尽かな』


 まあ、地味だけど……二次災害が起きないように調整したのだから仕方がない。

 やっぱり派手な魔術の方が好きなんだけどなあ。

 そろそろ次の部隊がくるだろう。

 どんな魔術を使おうか悩む私の耳を、ファリアルくんの驚愕の息が揺らす。


「灰塵の焦土……しかもこんな高純度を、一瞬で……す、すごいなんてものじゃない! こ、これが大魔帝の魔術!」

『うにゃ!』


 私の猫耳がぶにゃっと揺れた。

 そういや私のこの魔術。

 いつか出会った鑑定娘もそういう名前で呼んでたな。人間たちの間でも使われているスキルなのだろうか。

 しかしだ。


 こ、これは!

 ドヤチャンスなのではないか!


 期待しながら目を輝かせた私が振り向くと、ファリアル君も目を輝かせて私の魔術構成を読み取っていた。


「さすがは……魔術の祖、魔王陛下に魔術を習ったと謳われる伝説の魔獣ケトス様……。ああ、なんと素晴らしき魔術理論」


 恍惚とした吐息が、男の口から零れていた。

 なんかファリアル君……反応が賢者の爺さんに似てるな……。

 ともあれ、ドヤだ!


『にゃっふふふ、我の魔術なのだから当然なのである!』

「大魔帝の魔術がまさか、これほどのものだとは……戦場でも、桁が違うとは噂されていましたが――。もしあなたがワタシのいた戦場に降臨していたら……自分など一瞬で消されていた。血染めの名も生まれることなく散っていたでしょうね」


 呆然と、しかし目を輝かせて語るファリアル君。

 やっぱり魔術をある程度極めている人間って、ちょっと変わっているところがあるよね。

 魔術マニアって変わり者が多いのだろうか。

 私はまともだから、全員がそうというわけじゃないだろうが。


 ともあれ、敵はまた転移を開始していた。

 上か!

 ぶにゃんとドヤ顔で草原を駆けた私は、肉球の先に込めた魔術閃光で――。

 ズドーン!


『まあ、そういう――ことさ! 弾けろ、我が魔力!』


 上空から転移してくる人形を貫き破壊する。

 ぷにぷに肉球から伸びた一条の閃光が、四散し、オートマタの魔力コアを正確に貫いたのだ。


『あっち、いって、こっち、いって。轟け!』


 轟音と操作性を重視した閃光をラジコンのように操って、次々と撃ち落としていく。

 気分はシューティングゲーム。

 おー、無双じゃああああ!


『ぶにゃはははは! 見よ! これぞ大魔帝の力、これこそが魔王様に認められし猫魔獣の力なのじゃあああああああ!』


 私はもっとドヤるために色んな魔術を披露してみせる。


『ここは私で間に合っているから、早くその錬金鍋の時間干渉魔術を進めて完成させておくれ。とろとろ焼豚だからね、とろとろ!』

「は、はい……! え、でも……ワタシも戦いに」


 私は美味しいタレの香りにスンスンと鼻腔を揺らし。

 焼豚さんの鍋を猫目でくわぁぁぁっと見つめた後、戦士としてのドヤ猫顔でファリアルくんに告げた。


『必要になった時は頼むよ。ちょっと数が多いからね――何回増援が来るかも分からないし、体力の消費は分散した方が良いだろう。真面目な話、お腹が空いちゃったら私――暴れちゃいそうだから、世界を壊さないためにも美味しい焼豚さんをお願いしたい、な――っと!』


 ネコヒゲを揺らしながら、猫爪で何もない空を掻く。

 ズジャ!

 空間が切り裂かれ、転移の途中だったオートマタ達が崩れて消えていく。

 ドヤァァァア!

 普通の人間が見たらただ敵を薙ぎ払っただけだろうが。


「転移空間に物理干渉なんて……めちゃくちゃが、過ぎますね……」

『まあねえ! 大したことじゃないけど! まあねええええええ!』


 おー!

 やっぱりそこそこ強い人が見てる前だとドヤも捗るな!


 そんなうにゃうにゃ無双な私に目をやり、ロックウェル卿が嘴を揺らす。


『こやつ、これでも実力の片鱗すらも見せてないからのう。手加減が上達してくれたのは大変助かるが――まったく、余の友ながら恐ろしい猫だ』

「え……!? これで手加減なさっているのですか?」


 ロックウェル卿は鳥目を細めて、嘴を天に掲げ。

 ドヤァァァァアアアアアア!


『当たり前であろう! 魔猫は正真正銘、この世界で比類なき憎悪の魔力を持つ大魔帝。この世界など、こやつが本気を出してしまえば容易く滅んでしまうわ。今この世が無事なのも、魔猫の気まぐれによるモノとしれ!』


 くわっと、両翼を広げ凄んで見せるロックウェル卿だが。


「そ、そうなのですね。氷雪国家に籠っていたので、知りませんでした」

『うむ、よくよく心に刻むがよかろう!』


 いや、なんで君がドヤってるのさ。

 まあなんかすごい嬉しそうにしているから、あんまり言えないけど。

 こいつ。

 私が褒められているのが嬉しいのかな?


 とりあえず、増援がいなくなるまではドヤって無双するか。


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