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隣町は魔物ひしめく廃墟。俺は彼女のヒーローになる  作者: 立川ありす
第3章 SACRIFICE ~蛮勇の代償

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俺と仲間たちの結末

 執行人(エージェント)スパークとスティールは、高等部のクラスメートだった。

 2人は退屈な日常から逃れるために、まじないじみた超能力実験を行った。

 その結果、異能力に目覚め、【機関】にスカウトされた。


 スティールは支部で出会ったグラマーなロシア美女にぞっこん惚れこんだ。

 なので、彼女にいいところを見せようと今回の作戦に志願した。


 対してアトラスは、復讐のために【機関】の一員になった。


 その昔、幼かった弟とサッカーの練習をしていた彼は、屍虫に襲われた。

 くわえ煙草の男が突然に化け物に変わり、兄弟に襲いかかったのだ。

 弟は彼の目の前で引き裂かれ、彼はそのショックを引き金に異能力に目覚め、襲撃者を倒し、駆けつけた執行人(エージェント)の勧めで彼らの仲間となった。


 その後に人間と脂虫、屍虫の関係を知った彼は、できるだけ多くの脂虫を苦しめて殺すことに生涯を捧げた。

 弟を失った空虚さに耐える手段が、それしかなかったからだ。

 夜道を歩く脂虫を意味もなく殺して始末書を書いたことも何度もあった。


 彼はたくさんの屍虫と戦うと聞いて今回の作戦に志願した。


 そしてソードが脂虫であることにも気づいていた。

 脂虫を屠って魔法を使う魔道士(メイジ)デスメーカーが参加することを知った彼は、作戦の最中にソードの正体を暴露し、贄にするよう進言するつもりでいた。


 だがソードが少数の先発隊だけで突入しようと言ったときに、彼を自分の手で殺すチャンスだと思った。

 だから彼の計画にあえて乗った。


 駅前で煙草に火をつけた脂虫を尾行し、人気のない道に入った途端に襲いかかった。

 鍛え抜かれた筋肉に異能力を上乗せした至高の肉体を駆使して拘束した。

 叩きのめして喉をつぶした。

 脂虫がどれだけ罪深い存在かを語って聞かせながら、四肢をへし折って痛めつけた。

 楽しかった。

 おそらくソードを後ろから殺すときは一瞬で終わるので、それが残念だと思った。


 だが仲間たちが次々に屠られる中、彼はソードを殺しそこなった。

 それが心残りだった。


 瑞葉は姉たちのヒーローになりたかった。


 実は瑞葉の上の姉は、両親と折り合いが悪かった。

 姉は放任主義的な親を快く思っておらず、両親は姉の夢を認めなかったからだ。


 過保護を疎ましく思いながらも憧れだった彼の姉は、彼が見ていないところで苦しんでいた。けど彼はそれを知っていた。


 だから瑞葉は、そんな姉たちのヒーローになろうとした。

 成績優秀な上の姉とスポーツ万能な下の姉から知恵と技を受け継ぎつつ、姉にはない異能力を鍛えあげて怪異たちと戦った。

 戦う自分の小さな背中が、姉たちを勇気づけられると信じて……。


 色も形もない、だが全てが存在する不思議な場所で、俺は彼らの心を読んでいた。


 ――否、彼らの心と同じように何処からかもたらされた知識が、死して肉体を離れた魂が混ざり合いつつあるのだと語った。


 過去に死んだあらゆる生き物たちの魂が溶けあい、ひとつに還る。

 そして、そこから新たな命が生まれる。


 まるで、粘土の塊から千切りとった欠片で粘土細工を作るように。

 飽きたら潰して塊に戻すように。


 まるで、池からひとすくいした水で遊んだ後に、池へと戻すように。


 そんな場所に、俺の魂も混ざろうとしているのだ。


 その証拠に、俺の意識も徐々に形を失い、世界に溶けようとしている。

 俺はゆっくりと、俺ではなくなりつつある。


 もうすぐ俺は世界とひとつになる。

 全知全能だけど個としての意思はない世界そのものになる。


 そして、ふと、ポークの魂の記憶を感じられないことに気づいた。


 彼が生きているからだ。


 彼はキムと5人の男たちに、異能力を持っていないと思われていた。

 だから異能力を奪うための儀式によって殺されることはなく捨て置かれ、駆けつけた本隊に保護された。


 この無謀な作戦に参加した者たちのうち、彼だけが妹を悲しませずに済んだ。


 ソードの魂の記憶も感じとることができない。

 俺の目の前で屍虫と化した彼は、まだ生きているのだろうか?


 ――否。混ざりようがないのだ。


 脂虫には魂がない。

 悪臭をまき散らす薬物を摂取することによって、自ら魂を捨て去ったからだ。

 死した後に還る部位がないから、脂虫を生贄にして魔力を得ると効率がいい。


 彼らは死した後に残るものが何もない。

 燃やす以外に使い道のない、再利用不可能なゴミだ。

 だから本能のままに攻撃し、奪い、自分の持っているものに満足せずに妬み、争う。


 いわば人間の抜け殻だ。

 死した後に虚しく蠢くゾンビのようなものだ。


 だから、生きながら死んでいる彼らを贄として屠ることに罪はない。


 その事実を小夜子に伝えられたらいいのにと思った。

 そうすれば小夜子も気兼ねせず魔法を使えるのに。


 けど、生命も肉体も失った俺にはもうできないのが歯がゆかった。


 心残りは他にもたくさんある。


 舞奈と虹を見る約束を、守ることができなかった。


 千佳にシロネンのケーキを買ってあげるという約束も、結局、守れなかった。

 朝起きたらそこにいるという不問律を、俺のほうが破ることになってしまった。

 両親が留守がちなあの家で、千佳はこれからひとりで朝食をとるのだろうか?


 そして、幼い頃から自分を慕ってくれていた小夜子を残して逝くのが辛かった。

 魔法を使いこなす魔道士(メイジ)なのに気弱な小夜子が、この先ひとりでやっていけるのかが心配だった。

 彼女がアトラスのような復讐者になるかもしれないと思うと、悲しかった。


 だから俺は、他の誰かの意識と混ざって形をなくそうとしている魂を喚起する。


 そして世界に刻みつけるように、言葉を紡いだ。


 ――泣かないで、小夜子!


 声にならない声で、叫んだ。


 ……その言葉を最後に、俺は世界に溶けて消えた。


 こうして俺の――日比野陽介の物語は終わった。


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