建国祭に向けて②
どうにか本日中に更新できました。
遅くなり、すみません。
建国祭まで残り三週間。
ボードの書き方を渡した男子生徒は、無事に完成させたと教えてくれた。
みんな着々と建国祭に向けて準備を進めている。
私も恐ろしく高そうなドレスのフィッティングをした。
高級ドレスは、何度着ても慣れない。着なくて済むことなら、着たくない。
けれど、今回の建国祭は強制参加。
レフィトの隣を安物のドレスで歩くわけにはいかないということは、私も理解しているので、悲鳴を必死にのみ込んだ。
そんな高級ドレスに、私はすっかり着られてしまっている。
どうにかして、ドレスに釣り合えるようにならないと。頑張ろう!
建国祭に向けて、さらに決意を固めたんだけど……。
「カミレちゃん、目線をもっと遠くにしてくださいまし」
「お姉さまの言う通りですわ。今の歩き方だと五〇点でしてよ。もう少し歩幅を狭めて、もっと滑るように歩いてくださいませ」
「はい……」
うぅぅ……、五〇点かぁ。
美しい所作を習得すべく、学園がお休みの今日は、朝からアザレアとモネラちゃんが手伝ってくれて練習をしている。
ネイエ様からも学園でアドバイスをもらっていて、上達はしていると思う。だけど、積み重ねのない私は、まだまだモネラちゃんのなかの及第点である八〇点には届かない。
ただ歩くだけなのに、ヒールってつらい。
ちょっと重心がずれると、ふらつくんだよね。
「ヒールに慣れたら、ダンスもその靴で踊る練習をする必要がありますわね。こうなったら、学園に行っている時間をのぞいて、ヒールを履いて慣らすべきなのではないかしら。お姉さまは、どう思われます?」
「まぁ!! モネラったら、天才ね。それがいいですわ! 慣れないものは、どうにもできませんもの。あとは、姿勢ですわね。何か……、あっ!! そうですわ!!」
ひらめいた! という顔をしてアザレアが持ってきたのは、数冊の辞書並みに分厚い本。
何だかとっても嫌な予感がするんだけど……。
「これを頭に乗せて歩けばいいですわ!!」
自信満々の笑顔を向けてくれるけど、ちょっと待ってほしい。
それ、一冊でいいんじゃない? それに、ちょっと分厚過ぎるというか……。
まさか、全部とか言わないよね?
「私も昔、頭に本を乗せて歩く練習をしたのを思い出したんですの。これでやれば、きっと上達しますわ!!」
すべて善意で行っていると分かる笑みで、本を渡された。
うん。雰囲気的に全部乗せる感じかな? いや、まさかね…………。
「……全部乗せる感じですか?」
「えぇ。たくさんあった方が効果的だと思いますの!!」
首!! 私の首が駄目になっちゃうやつ!!
教えてもらっているから断りづらいけど、これ絶対に駄目なやつ! 怪我するから!!
「アザレアちゃん、申し訳ないんだけど──」
「お姉さま、そんなに重いものを乗せたら、カミレお姉さまの首が怪我をしますわ。それよりも、これがいいと思いますの。お姉さまの本からヒントをもらいましたわ!」
にっこりと天使のような笑みを私に向けながら、モネラちゃんが見せたもの。それは、ティーカップだ。
笑顔は天使なのに、モネラちゃんが悪魔に見える。
「中身は危険なので、もちろん淹れませんわ。これをトレイに乗せて、カミレお姉さまの頭に乗せましょう」
「いや、ティーカップはいらないんじゃないかな……」
「ティーカップに何の意味があるんですの?」
キョトンとした顔をしながらアザレアは言う。
これなら、首が危険でもアザレア案の方がマシだった。
「緊張感ですわ」
「緊張感?」
アザレアの疑問に待ってました! と言わんばかりに、モネラちゃんは目を輝かせた。
「そうですわ! 落としたら壊れるもの、しかも高級品を乗せられたら、カミレお姉さまなら絶対に壊さないと強く決意なさると思うんですの!! なぜなら、カミレお姉さまは調度品を避けるように歩いてましたもの。晩餐の食事を見て「これいくらなの……」と呟いているのを聞いて、私気づいちゃいましたわ! カミレお姉さまは、高級品が苦手なのですわ!!」
どうだ!! と言う視線を向けられ、アザレアは「さすがモネラですわ!」と拍手をしている。
「……モネラちゃん、私のことよく見てるね」
まさか、こんなところでその気付きを生かしてくるとは……。
でもね、絶対に頭にティーカップ作戦は避けたい。たしかに、何が何でも割れるのは防ぐよ?
でもね、その手にしてるティーカップ、いくらなの? 絶対に高いよね?
本当にやめてほしい。寿命が縮む。生きた心地しないって……。
「では、さっそくやりましょうか」
「いやいやいや!! ちょっと待ってよ! 弁償できないって!!」
「カミレお姉さま、割らなきゃ大丈夫ですわ」
「そうですわ。それに、弁償なんて言いませんわよ? カミレちゃん、安心して頑張ってくださいまし!」
いや、たしかに弁償って言ったけどね。
そういう問題だけじゃなくって……。
「時間は有限ですもの。さ、やりますわよ!!」
モネラちゃんの悪魔の提案が決行されてしまった。
私の頭の上にトレイを乗せ、今にもアザレアが手を離そうとしている。
「や、やめて。手を離さないで……」
「大丈夫ですわ。ファイトですわ!!」
無情にも離された手。私は、パシリとトレイを両手でおさえた。
「カミレお姉さま、それでは練習にもなりませんわよ」
「そうですわ。上手になりたいんじゃありませんの?」
「そ、そうなんだけど……」
ひーん。無理なものは、無理だって。
「ねぇ、本にしよう? そうすれば──」
「わかりましたわ」
「モネラちゃん!!」
良かった。分かってくれ……て?
な、何だろう。悪い顔してる?
「カミレお姉さまが、トレイを手で触ったら、その都度ティーカップをひとつ私が割りますわ」
「…………え?」
「そうすれば、カミレお姉さまは練習せざるを得ませんものね?」
な、何でそうなるの!? 普通に本でいいじゃん。
「はっきり言って、このままでは間に合いませんの。荒療治と参りましょう? 一回目の今回は見逃して差し上げますから、次トレイに触ったら……。分かりますわよね?」
「や、やめて!!」
いつの間にか侍女さんに運ばせていた十数個のティーカップ。
その一つに手をかけて、モネラちゃんは微笑んだ。
その笑みは、マリアンよりも悪役令嬢っぽかった。
個人的に最高に楽しく書けた話です。
少しでも楽しんでいただけましたら、嬉しいです。




