レフィトの婚約者として、前に進みたい⑤
「オレの家族について、何が知りたいのぉ?」
「えっと……」
「誰かに、何か言われたぁ?」
言い淀んだのがいけなかったのか、いきなり核心をつかれてしまった。
だけど、門外不出の本を見せてくれたのだ。正直に話すわけにはいかない。
「もうすぐ、建国祭でしょ? パーティーにレフィトの家族も来るだろうから、会話を広げるためにも、もっと知っていた方がいいと思って」
「そうなんだぁ? でも、大丈夫だよぉ。話すことはないから」
「え?」
話すことはない?
それって、私が婚約者として認められていないから?
それとも、……レフィトに興味がないから?
「親父は騎士団長としての仕事が多くて、ゆっくり誰かと挨拶をする時間なんてないし」
「レフィトは、騎士のお仕事は大丈夫なの?」
「うん。学生は免除なんだよぉ。何かあっても、相手が大人だと分が悪いことも多いしねぇ」
「そうなんだ」
「そのおかげで、休みの争奪戦に参加しなくて済むけどねぇ」
「休みの争奪戦?」
みんなパーティーに行きたいってことなのかな。
そうだよね。建国祭って言ったら、国で一番のお祭りだし、家族や友だち、恋人と行きたいよね。
「けっこう熾烈な争いなんだよねぇ。お祭りを一緒に行けなかったことが原因で、婚約者に浮気されたとかもあるらしいし」
「そんなことで浮気するの!?」
「騎士って、イベントごとはだいたい警備で駆り出されるからさぁ。家族や婚約者とそういう思い出が作れないんだよねぇ。特に仕事一筋だったりして、相手を顧みないと、浮気や不倫されやすいねぇ。まぁ、それは騎士に限らずだろうけど」
「だから、必死なんだ」
「うん。でも、休みとは言っても、近くで何かあればすぐに駆り出されるから、実際は休めなかった……なんてことも多いんだよねぇ」
そうなんだ……。
休みでも、のんびりパーティーは楽しめないのか。
国を、人を守るって、やっぱりすごく大変なんだ……。そのために、自分のプライベートを犠牲にして、騎士の人たちは働いてくれている。
そのおかげで、私たちは安心して生活ができている。
「いつも、ありがとう」
「え?」
「レフィトたちが、私たちの平和を守ってくれるから、毎日、安心して生活ができてるよ。だから、ありがとう」
「……みんながカミレみたいだったら、いいのにねぇ。そうしたら、みんな幸せになれるのに」
「そうかな……」
「そうだよぉ。だから、オレは幸せ者なんだぁ」
レフィトの瞳の中にある闇は薄れている。
琥珀色はキラキラ光り、柔らかく細まっている。
また、家族の話を出したら、レフィトの瞳は影を帯びると思う。それでも今聞かなければ、きっとこの先、聞けることはない。……そんな予感がする。
「お義父さんとご挨拶は無理でも、お義母さんは来るでしょ? あと、弟さんも」
「来るよぉ。でも、あの人たちとは、関わらなくていいからぁ」
あぁ、やっぱりだ。
へらりと笑っているのに、拒絶の色が見える。
キラキラ光っていた瞳は、その光を一切失っている。
「それは、レフィトが関わってほしくないの? それとも、お義母さんと弟さんが、私との関わりを嫌がっているの?」
「オレが関わってほしくない。あの人たちは、オレのことなんかどうでもいいし、関わったところで嫌な思いをするだけだから」
「わかった。じゃあ、話しかけられたら、全力で逃げることにする」
「…………え?」
「あっ、でも一言、言いたいから、それを言ったらダッシュすることにするよ」
うん。そうしよう。
レフィトを大切にしない人は、いくらレフィトの家族でも、私にとっては敵だ。
何か事情があるのかもしれないけど、そんなことはどうでもいい。
レフィトを大切にしなかった。それが事実だ。
「何を、言うの?」
「お義母さんなら、レフィトがこの世に生まれてきてくれたことのお礼だよ。弟さんなら……」
「フィラフなら?」
「顔を見て、考える」
だって、会ったこともなくて、話したこともない、ある情報は女の敵ということのみ。そんな相手に何を言うかなんて、思いつかない。
でも、こんなにもレフィトを傷つけたんだ。ただ逃げるだなんて、悔しい。
「何か言ってやりたいじゃない」
「何それ……」
くしゃりと顔を歪ませて、レフィトは笑う。
「カミレはさ、本当にどこまで行っても、オレの味方なんだねぇ」
「当たり前でしょ」
「そうだよねぇ。カミレは、相手が誰かなんて、関係ないんだもんね」
「時と場合によっては、言わないこともあるよ?」
言えばいい、というわけじゃないしね。
それで、レフィトの立場が悪くなる可能性があるなら、言わない方がいい。
「そうかなぁ。お人好しで、無鉄砲だからなぁ。だからこそ、あの人たちに会ったら、すぐに逃げて。特にフィラフとは話さないで。オレもカミレのそばを離れないけど、絶対について行っちゃ駄目だよ」
「え?」
どうしたんだろう、急に。
さっきまでは、話したくなさそうだったのに……。
それに、絶対について行っちゃ駄目って、やっぱり女の敵だから?
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
先日、ざまされのキャラデザを見せていただきました。
控えめに言って、最高すぎました!!!!
書籍化に向け、順調に進んでます(*´︶`*)




