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悪役令嬢にざまぁされないように、勝ってくれたのですか?④

更新日ではないですが、第二章の最終話、投稿です。

 

 レフィトの優勝で幕を閉じた剣術大会。

 あのあと、マリアンにからまれると思ったけれど、意外にもそんなことはなかった。


 すぐに帰ることもできたけど、何となく帰りたくなくて、まだ一緒に……ふたりでいたくて、自然と足は屋上へと向かった。

 屋上から見える空は、だいだい色で、もうすぐ夕闇を映し始めるだろう。

 

「レフィト、本当におめでとう」

 

 何度目かのお祝いの言葉。何度言っても足りなくて、ついつい言葉に出てしまう。

 その度に、レフィトの琥珀色の瞳は嬉しそうに細まってくれるから、もっと言いたくなるのだ。

 

「ありがとぉ。ちゃんと一撃必殺だったでしょぉ? ログロスは違くなっちゃったけど」

「もしかして、私が一撃必殺って書いたから?」

「うん、そうだよ。やっぱり、ログロスも一撃必殺にした方が良かったぁ?」

 

 へらりと笑ったレフィトに、大きく首を横に振る。

 

「ずっと、すごくかっこよかった」

「へへっ。一番?」

「うん。一番かっこいいよ。剣を握ってても、握ってなくても、いつでも一番だよ」

「そっかぁ」

 

 へにゃりと笑うレフィトに、あれ? と、心の中で首を傾げる。

 とてもすんなりと、私の言葉がレフィトに届いた気がしたのだ。

  

「ねぇ、カミレ。これ、受け取ってくれる?」

 

 そう言ってレフィトが差し出したのは、小さなネイビーブルーの宝石がついたブローチ。剣術大会で優勝した証だ。

 ゲームでは、愛する者に贈っていた。

 

 ころりと小さく可愛いそれを、本当に私が受け取ってもいいの? という気持ちがないわけじゃない。

 私は、まだまだレフィトの隣にいるのに、相応しい令嬢になれていない。きっとこのブローチにも、見合わない。

 それでも、レフィトが他の誰かにこのブローチを贈るところは見たくない。想像するのも嫌だ。

 

「ありがとう」

 

 絶対にレフィトにも、このブローチにも相応しくなってやる!! そう決意して、レフィトの瞳を真っすぐと見つめてお礼を言えば、レフィトは少しだけホッとしたように笑う。

 

「お礼を言うのは、オレの方だよぉ。受け取ってくれて、ありがとぉ」

 

 その言葉を聞いて、レフィトが緊張していたのだと気が付いた。

 そういえば、私はレフィトからの贈り物を素直に受け取ったことがなかった気がする。いつも値段や、何も返せないことばかりを気にしていた。

 もしかしたら、私のそんな態度がレフィトを傷つけていたのかもしれない。

 気付いたところで、やっぱり高級品は素直に受け取れないし、身の丈にあったもの以外は欲しくないのだけれど。

 

「オレがつけてもいーい?」

 

 こくりと頷けば、レフィトはブローチの留め具を外して、制服につけてくれた。

 

「できたよぉ」

 

 そう言って、私の方を見た琥珀色の瞳は、とても近い。

 更にレフィトの顔が近づき、互いの前髪が重なり合う。

 

「カミレは、オレの勝利の女神なんだぁ」

 

 近すぎて、もうレフィトの顔はハッキリとは見えない。

 それでも、熱のこもった声に、瞳に囚われてしまいそうだ。

 

 ドキドキし過ぎて、見つめ返すことができなくなって、思わず(まぶた)を閉じた。

 そうすれば、くすりと笑う声が鼓膜を揺する。

 

「そんなに可愛い反応すると、キスしちゃうよぉ?」

 

 からかい交じりの、それでも熱が引かない声。

 私の顔はきっと赤く染まっているだろう。けれど、その赤も、今なら夕焼けが隠してくれる。

 

「いいよ」

「…………え?」

 

 勇気を出して、もう一度レフィトを瞳に映す。

 そうすれば、レフィトはぴしりと固まり、その顔は夕焼け空に照らされていた。

 

「いいよ。キス……したい」

 

 私の言葉に、ぎしりとレフィトは動いた。

 少し距離が開き、レフィトの顔がハッキリと見える。

 

「キス……しないの?」

 

 私の言葉に、琥珀色の瞳は見開かれ、そこには緊張した私が映っている。

 

「ロマンチックじゃないけど、いいの?」

「ロマンチックでも、ロマンチックじゃなくても、レフィトとならどっちでもいいよ」

 

 誰かに見られるのは嫌だけど。

 今、ここにいるのは私たちだけだから。

 

「そっかぁ」

「うん」

 

 小さく震えるレフィトの指が私の頬に触れる。

 そこに手を重ねて瞳を閉じれば、唇に柔らかいものがそっと触れ、離れていった。

 

「ありがとぉ」

「え?」

「オレのこと好きになってくれて、ありがとぉ」

 

 私よりも大きな体に包まれる。

 その背中に腕を回して、抱きしめ返せば、レフィトは小さく笑う。

 

「大好きだよぉ」

「うん。私も、大好きだよ」

 

 それから、ふたりで手を繋いで、しばらく夕焼けを眺めていた。

 少しずつ、空がだいだい色から濃紺へと移り変わり始め、私たちは屋上を後にした。


 

 何となく気恥ずかしくて、互いに言葉を発することはない。それでも繋いだ手は離さないまま、馬車へと乗り込んだ。

 甘く、やわらかな空気に、幸せ過ぎて顔がにやけてしまいそうだ。

 隣りにいるのが心地よくて、話すのも楽しいけれど、無言も気にならない。


 そんな静寂を破ったのは、少し楽しそうなレフィトの声だった。

 

「もうすぐ建国祭のドレスが完成するんだぁ。大丈夫だとは思うけど、念のため試着しようねぇ」

「え?」

「建国祭のドレスだよぉ。必要でしょ?」

 

 キョトンとしたレフィトの顔に、私も首を傾げる。

 今まで、建国祭の話をしたことあったっけ?

 

「私、建国祭は街の方に行こうと思ってたんだけど……」

「…………そっちの方が楽しそうだけど、パーティーは強制だよぉ?」

 

 ん? 強制?

 レフィトの婚約者として……ではないよね。それなら、事前に言ってくれるだろうし。

 

「学園の生徒は全員参加なんだぁ」

 

 その言葉に、ネイエ様との会話を思い出す。

 あの時アナウンスで聞き取れなかったのって、もしかして、このことだったの!?

 

 建国祭が行われるのは、十二月。あと一月(ひとつき)ちょっとしかない。

 きっと貴族令嬢としての立ち振る舞いが必要となる。

 もしかしなくても、時間がない。

 

「まさかダンスって……」

「必須だねぇ」

 

 少し言いづらそうにレフィトが教えてくれる。

 

「だよね……」

 

 どうにかそう返したけれど、心の中は大騒ぎだ。

 間に合う気がしない。いや、それでも間に合わせないと。

 レフィトの婚約者として、レフィトに恥をかかせるわけにはいかない。何より、レフィトの隣に堂々と立ちたい。

 

「大丈夫だよぉ。まだ時間もあるし、オレも協力するからぁ」

「ありがとう! お願いします!!」

 

 あまい雰囲気に浸っている場合ではない。これから一分一秒も無駄にはできない。

 ネイエ様とアザレアちゃんにも力を借りられないか、お願いしよう。

 きっとふたりなら協力してくれる。

 

「少しでも直した方がいいところがあったら教えてね!!」

 

 私の気迫が伝わったのか、レフィトは頷いてくれた。

 

「カミレって、切り替え早いよねぇ」

「私だって、もうちょっとイチャイチャしてたかったよ! だけど、レフィトの婚約者として、少しでも恥ずかしくない自分でいたいの!!」

 

 私の言葉にレフィトは何回か瞬きを繰り返すと、へにゃりと笑う。

 

「オレは今のままで十分だと思うけど、カミレは違うんだもんねぇ。カミレのためにも、オレも頑張るねぇ」

「ありがとう。頼りにしてるね!」

 

 間に合うとか、間に合わないじゃない。間に合わすのだ。

 これからの算段を立て始めた私の隣で、まさかレフィトも同じようにパーティーに向けての計画を立てているなんて、私はちっとも気が付かないのであった。

 

 

 

 

 

 第二章END

 

第二章、完結になります。

いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。

また、誤字報告も非常に助かっています。


いいね、評価、ブックマーク、いつもありがとうございます✧◝(⁰▿⁰)◜✧

頂けますと、とても嬉しいです╰(*´︶`*)╯


第三章に向け、1〜2周間ほど『ざまされ』はお休みします。

また第三章でお会いできますように……。


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