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悪役令嬢にざまぁされないように、手を組んだ方がいいですか?③

 

「カミレを巻き込むのやめてくれないかなぁ?」

「いきなりそんなことを言われてもカミレちゃんが困ってしまいますよ」

 

 私が内心焦っていれば、レフィトとネイエ様が間に入ってくれる。

 守られてばかりは嫌だと思ったばかりだけど、助かった。

 まさか、ネイエ様の次は、第二王子に勧誘されることになるとはね。

 まずは落ち着こう。話を聞いてくれない相手じゃない。

 

「リカルド王子がご存じの通り、私は貧乏子爵家の娘です。私を味方にしても、何も旨味はありませんよ」

「あるよ? マリアン嬢が嫌がるじゃないか」

 

 ……………………え?

 マリアンへの嫌がらせのため?

 

「マリアン嬢への嫌がらせは、兄さんへの嫌がらせになるからね。こんなに愉快なことは、ないでしょ?」

「そう……ですかね?」

「そうだよ。兄さんは何でも与えられて、恵まれているから、ちょっとくらい良いだろ? そうじゃなきゃ、不平等だからさ」

 

 そんな理由なの? レフィトを自身の方に引き入れるためとかじゃなかったの?

 まさか、国王になりたい理由って……。

 

「どうして国王様になりたいんですか?」

「先に生まれたというだけで、王位継承しやすいなんてズルいじゃないか。高位貴族の子息も兄さんの側近だし。俺は、兄さんに勝ちたいんだ。兄さんが手にするはずだったものが欲しい」

 

 うわぁ……。やっぱり、しょうもない理由だった。

 レオンハルトもだけど、リカルド王子が国王になっても嫌だわ。

 この国、大丈夫なんだよね? 国の先行きに不安を覚えるんだけど……。

 

「申し訳ありませんが、リカルド王子の味方にはなれません」

「どうして?」

「お兄さんのものを欲しがってるだけですよね? そんな方に、自分の未来を託すことはできません」

 

 自分でも驚くほどハッキリと言うことができた。

 けれど、私の言葉にリカルド王子は首を傾げている。

 

 もしかして、あんまり伝わってない? こんなにハッキリ言ったのに?

 

「理由は人それぞれだけど、それじゃあ誰も味方にはならないだろうねぇ」

「なったとしても、リカルド様を傀儡(くぐつ)にしたい人物でしょうね」

 

 呆れたように言うレフィトとネイエ様の言葉に、私も同意見だ。

 たとえ理由が兄に勝ちたいのだとしても、表向きには別の理由を言うべきだと思う。本音と建て前って必要だよね。

 まぁ、本音を言わないような人の味方なんて、怖くてできないけど。

 

「やっぱり、レフィトとネイエ嬢、カミレ先輩には、僕の味方になって欲しいな」

「えっ!?」

 

 リカルド王子の言葉に、思わず驚きの声が出た。

 だって、メンタル強すぎない? というか、私たちの話、聞いてたよね?

 

「そんなに驚くことかな? 率直な意見は貴重だからね。是非とも僕のそばにいて、僕を傀儡にしようとする人物から守って欲しいんだ」 

「リカルドさぁ、そんなんじゃ誰も味方になってくれないってぇ」

「うん。こんな僕だから、三人の力が必要なんだ」

 

 そう言ったリカルド王子は、真っすぐに私たちを見た。

 何となくだけど、雰囲気が少し変わった気がして、思わず背筋が伸びる。

 

「僕は、国が欲しい。理由は不純なものだし、何をしても兄さんに劣っている」

「剣は、リカルドの方が上だよぉ?」

「それは、兄さんがサボっているからだよ。勉強だって兄さんの方ができるし、周りからも愛されている。誰がどう見たって、国を継承するのは兄さんだと思うだろうね。でも、本当に? それは、王として必ず必要なもの? 僕ができなくても、周りができれば問題ないんじゃないかな」

 

 さっきまでと違い、落ち着いた声のトーンでリカルド王子は話す。

 私が思ったよりも、ちゃんと考えていたらしい。

 勝ちたいだけ。欲しいだけってわけじゃないのかもしれない。

 

「僕はね、兄さんよりも色々できない分、周りを見てきたよ。いくら見ても、みんなが何を考えているのかなんて、さっぱり分かるようにならなかったけど、能力は正しく評価できると思う。レフィトがこの国の誰よりも剣技に優れているのは周知の事実だけど、その他で言うなら、デフュームなんかよりネイエ嬢の方が宰相の素質があるってこととかね。ネイエ嬢は、いざとなったら私情を捨てられる人でしょ?」

「そんなことは……」

「そうかな。ネイエ嬢ってバランスがいいよね。貴族相手なら人心掌握(じんしんしょうあく)も上手いし、僕と違って人の心の機微も分かる。だけど、今の政治ではネイエ嬢は活躍できないだろうね」

 

 リカルド王子の言葉に、ネイエ様の瞳は曇った。


 働くことはできても、結婚すれば家に入り、家を守っていくのが貴族女性の仕事。

 デフュームが、ネイエ様が仕事を続けていくことを許すとは思えない。そもそも、学園を卒業したあと、働く貴族女性が稀なのだ。ネイエ様自身が望んでも、働くという選択肢がない可能性もある。

 

「だから、ネイエ嬢は僕と結婚したらいいよ。王妃になって、政治を行えばいい。その能力を、家を守ることだけに使うなんてもったいない」

「何を言って……」

 

 ポカンとした顔で、ネイエ様はリカルド王子を見た。

 そんなネイエ様を見ても、リカルド王子の表情は特に変わりない。

 

「ネイエ嬢がそばにいてくれると、人の心の機微がわからない僕も助かるしね。それに、兄さんに対抗するには、公爵家の後ろ盾が欲しいんだよ。ちょうどこの間、婚約者に逃げられちゃったしさ」

「それ、本当ですか?」

「あれ? まだ周知されてなかったっけ? 僕と結婚するくらいなら修道院に入るって騒がれて、すごい面倒だったんだよね。いつも香水臭いし、一緒にいたくなかったから、エスコートしなかっただけなのにさ」

「エスコートしなかったって、いつですか?」

「さぁ? ここ数年は避けてたし」

 

 それを聞いたネイエ様の表情が、すんごい笑顔になった。目は当然笑っていない。

 かなり怒ってるやつだ……。

 

「あーぁ、怒らせちゃったねぇ。これ以上は話も無理だろうし、オレたちはご飯でも食べてようよぉ。あ、オレの好きな卵焼きが入ってる! 嬉しいなぁ」

 

 マイペースにレフィトはお弁当を食べ始める。

 それを見ていたら、私のお腹がぐぅ……と鳴った。


 ネイエ様のお説教は始まっており、まだまだ終わりそうにない。

 昼休憩も限られた時間のわけだし、私もいただいちゃおうかな。

 

「リカルド王子、いただきますね」

 

 聞こえていないかもしれないけれど、そう声をかければ侍従さんが小皿に取り分けてくれた。

 持ち帰りについても聞いてくれるし、すごい優しい侍従さんだ。

 

「わ、おいしい……」

 

 さすが王族。いいもの食べてるわ。

 

「レフィトもこっち食べようよ。おいしいよ」

「ううん。オレにとっては、カミレが作ってくれたものが世界一だからぁ」

 

 どう見たって、リカルド王子の用意してくれたサンドイッチの方が豪華でおいしそうなのに、レフィトは私の手作りのサンドイッチを幸せそうに頬張った。

 

 のほほんとランチを楽しむ私たちの隣では、ネイエ様によるリカルド王子へのお説教は、まだまだ続くのであった。

 

 

 

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