悪役令嬢にざまぁされないように、静かにするのは無理でした③
「二回戦になるまで時間も空くし、レフィト様に会ってきたら、どうかしら」
ネイエ様の言葉に、思わず首を傾げる。
「会いに行っても、いいんですか?」
「大丈夫ですわよ。私も、ゼンダ様の一回戦が終わったら、会いに行きますもの」
へぇ……。ずっと席についていなくても、いいんだ。
女子生徒は、お茶の作法をチェックされているから、動いてはいけないのだと思い込んでいた。
「午後の開始時と決勝戦さえ戻ってきていれば、問題ないわ」
「そうなんですね。そうしたら、ゼンダ様の応援をしたら、レフィトに会いに行ってきます」
「待っていてくださるんですの!?」
アザレアが、キラキラした目で私を見てくる。
えっと……、そんなに感動するようなところ、あったっけ?
友だちの彼氏を応援するのは、普通のことだよね?
「待つんじゃなくて、一緒に応援したいんです。アザレア様にとって大切な方ですから」
「私のことは、どうかアザレアと呼んでくださいまし!!!!」
うぉっ……。勢いがすごいな。
前のめりに言われ、思わず仰け反った。
うーん。この前、同じことを言ってたよなぁ。
あの時は断ったけど、一緒に行動するようになったし、仲良くもなった。そろそろ、様付けじゃなくても、いいのかもしれない。
「そしたら、私もアザレアちゃんと呼んでもいいですか?」
「もちろんですわ! わ、私もカミレちゃんと呼んでもよろしいかしら!?」
「はい。是非、そう呼んでください。……アザレアちゃん」
「────っっ!!!!」
アザレアの頬は上気し、ピンクドリルが嬉しそうにピョコピョコと跳ねている。
気恥ずかしいけれど、何だか嬉しくて、アザレアとふたりでクスクスと笑い合う。
「私も、カミレちゃんと呼んでもいいかしら?」
「もちろんですよ、ネイエ様」
そう答えると、ネイエ様の笑みに凄みが増した。
私、何かしたっけ?
「カミレちゃんって呼べて、嬉しいですわね。ネイエ様!!」
「そう……ね」
ピッカピカの笑顔を向けられ、頷いたネイエ様。
笑っているけれど、何か言いたげだ。
えっと……、ネイエ様もネイエちゃんって呼ばれたかった……とか?
もし、そうだとしても、公爵令嬢のネイエ様をそう呼ぶのってハードルが高い。
呼べて、ネイエさんだなぁ。
なんて考えつつも、本人から何も言われないため、ネイエ様呼びを継続させてもらうことにする。
私の勘違いって可能性もあるしね。
「あ、ゼンダ様の試合が始まりますわ。ゼンダ様ー、頑張ってくださいましー!!!!」
ネイエ様の視線に気付くこともなく、アザレアは満面の笑みで、ブンブンと手を振っている。
ゼンダ様も仏頂面ではあるものの、小さく振り返しているあたり、かなり関係が改善されたんだな……と思う。
「ゼンダ様の対戦相手は……」
「カガチ様ですわ」
トーナメント表を確認することなく、アザレアは言い切った。
まさか、数少ない知り合い同士が対戦するなんて……。
どちらを応援すればいいんだろう。ふたりともは、ありだよね?
試合の合図とともに、ゼンダ様とカガチさんの木刀が交わった。
激しい打ち合いに、目を見張る。
「すごい……」
両者一歩も譲らず、まさに手に汗握る戦いだ。
カガチさん、強かったんだ……。
城勤めができるほど優秀だって聞いてたけど、文武両道じゃん。
「ゼンダ様、そこですわ!! あ、おしいっ。攻めて攻めて、攻めまくってくださいまし!!!!」
大声を上げ、アザレアは応援をしている。
それに応えるかのごとく、徐々にゼンダ様が優勢になっていく。
ゼンダ様が攻め、カガチさんが守る。そんな風になっていった。
カンッ──。
ひときわ高く響いた音と共に、カガチさんの木刀が弾き飛ばされた。
「やったーーーー!!!! 勝ちましたわ!!!!」
アザレアは飛び上がって、喜んだ。
ピンクドリルをピョコピョコとさせ、全力で拍手をしている。
一緒に拍手を送りつつも、ゼンダ様の表情が気になる。
興奮しているアザレアは気がついていないみたいだけど、ゼンダ様の表情が険しい。
カガチさんに話しかけている……というより、突っかかっているように見えるんだけど……。
何か、問題でもあったのだろうか。
審判が止めに入り、ゼンダ様とカガチさんは離れた。
「どうなさったのかしら……」
様子がおかしいことに、アザレアも気が付き、心配そうに瞳を揺らしている。
「ゼンダはねぇ、カガチが手を抜いたって怒ってるんだよぉ。あいつの場合、持久力がないからなのにねぇ」
「────!!??」
隣にレフィトが立っていた。
音もなく、まったく気配を感じなかった。
驚きすぎて、心臓がバクバクしている。
「暇だから、遊びに来ちゃったぁ」
ヘラリと笑い、私の横にしゃがむ。
騎士のレフィトというより、いつものレフィトだ。
「暇って、移動しても大丈夫なの?」
「次の試合に間に合えば、平気だよぉ」
「そうなの? 他の男子生徒は、誰もこっちに来てないけど……」
「勝っていれば、行く行くあたるだろう対戦相手の試合を観たりしてるからねぇ。負けたら、こっちには来づらいんじゃない?」
あまり興味がなさそうにレフィトは言った。
そして、アザレアの方に視線を向けると、首を傾げた。
「ゼンダに会いに行かなくていいのぉ? あの感じだと、次の試合まで引きずるかも──」
「私、ゼンダ様のところへ行って参りますわ。皆様は、観戦しててくださいまし」
そう言い終わるや否や、アザレアは駆け出した。
空いたアザレアの席に、レフィトが腰をかける。
「まさか、カミレちゃんの隣に座りたくて、追い出したんじゃないでしょうね」
「そんなこと、するわけないじゃん。というか、カミレちゃんって何?」
「そう呼ぶことにしたのよ。まさか、同性にまでヤキモチを妬いてるんじゃないてしょうね」
バチリと、火花が散った気がした。
今年の更新は、これで終わりです。
続きは、また来年になります。
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