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悪役令嬢にざまぁされないように、協力した方がいいですか?②


 綺麗にドレスアップをしてもらい、レフィトと一緒に馬車へと乗る。

 今回は可愛い感じもあるけれど、綺麗めのドレスだ。

 前回と同じので十分なんだけど、せっかく作ってあるのだから色々と着て欲しい。もったいないとアンに説得されたのだ。


 私のサイズでオーダーしたものだから、他の人は着れないし、私が着なければ生涯、このドレスは誰にも着てもらえないままだと言われてしまい、NOとは言えなかった。もったいなさ過ぎる。

 

「へへへ、可愛いねぇ」

 

 にっこにこでレフィトは私を見てくる。

 馬車に揺られて既に十分は経過しているのに、ずっとこんな感じだ。

 

「もう、分かったから……」

「真っ赤になってて、かーわいい」

 

 赤くなっていることを指摘され、更に体温が上昇した気がした。甘さを含んだ琥珀色の瞳が、じっと私を見てくる。

 

「こんなに可愛いカミレ、誰にも見せたくないなぁ。行くのやめない?」

「……行くために着替えたんじゃん」

 

 恥ずかしすぎて、小声なうえに早口になってしまった。

 誰だって好きな人にじっと見詰められ続けて、可愛いなんて言われたら、こうなると思う。私だけじゃないはずだ。

 

「そうなんだけど、それがまた気に食わないんだよねぇ」

「えっ?」

 

 どういうこと?

 

「だって、オレのためじゃないでしょ? 面白くないなぁって。もちろん、カミレのドレス姿が見れたのは嬉しいけどさぁ」

「あ、そう……なんだ?」

「そうなんだよぉ。だからね、今度はオレのためだけにたくさん着てねぇ?」

「うん、分かった。………って、たくさん? ドレスを?」

「そうだよぉ。約束だからねぇ」


 ん? 約束? それは、ちょっと……いや、かなり遠慮したい。


「ちょっと待って……。ドレスを着るのは最小限にしたいっていうか……」

「えー、約束したでしょぉ?」

 

 こてん、と首を傾げるレフィトを可愛いなぁ……と思いながら、頭の中でクエスチョンマークが踊っている。


 今のは、約束したに入るの……かな?

 恥ずかしさのあまり、正常な判断ができなくて、思わず頷いちゃったけども……。

 それとも、前にしたレフィトが眼鏡をかけてくれる対価でドレスを着るって話の方?

 いや、この流れだと無償のドレス地獄な気がする。眼鏡のご褒美なしのドレスタイム……どうにか、回避したい。

 ドレスをたくさん着るとか地獄の幕開けだよ。


「……レフィト」

「うん?」

「レフィトはさ、普段の私の服装が嫌なの?」

「そんなことないよぉ。いつものカミレもすっごく可愛いよぉ」

 

 う……、自分で仕掛けたことなのに恥ずかしい。ドレス地獄を想像して急降下した熱が、戻ってきた。

 が、頑張れ、私。照れてる場合じゃないよ。ドレスを回避するんだ!!

 

「なら、いつもの服装でも──」 

「カミレは、オレの色んな姿を見たいと思わないのぉ?」

「思うけど……」

「そっか……。よかったぁ。オレだけかと思っちゃったよぉ」


 へにゃりと笑い、私の顔を覗き込んだ琥珀色の瞳が見詰めてくる。

 可愛い……。犬の耳としっぽが、こんにちはしてる幻覚が……。

 この流れはよくない。分かっているのに、可愛くて、レフィトのふわふわの髪に指を通せば、嬉しそうに琥珀色の瞳は細まった。


「いつものカミレも大好きだよぉ。でも、色んな格好をしたカミレも見たいんだぁ」

「うっ……」

「駄目?」


 お願い、とレフィトの瞳が言っている。

 何でこんなにあざと可愛いんだよ。NOと言える人、いるのかな?

 いたら、師匠と呼びたいくらいだ。


「駄目じゃないけど……」

「本当?」

「たまに……だよ。ドレス着るの苦手だから」

「ありがとぉ」


 へにゃりと嬉しそうにレフィトは笑う。

 可愛いけど、気分は重い。……約束しちゃったよ。

 そんな私の手をレフィトは繋いだ。


「一度にたくさんじゃなくていいんだぁ。たまにでいい。だけど、一生をかけて、何回もオレのためだけにドレス姿を見せてねぇ?」


 一生をかけてって……。なかなか重めのお願いじゃないかな……。


「……おばあちゃんになっても?」

「うん。おばあちゃんになっても」

「年に一回くらいでいい?」

「いいよ。オレの誕生日プレゼントはカミレのドレス姿がいいなぁ。オレのためだけに好きな人がオシャレをしてくれるって、すっごく特別だから、すっごく嬉しい」


 頰を染め、嬉しそうにレフィトが笑う。

 闇落ちした時に見えると怖い八重歯も、今は可愛い。

 おばあちゃんになっても、ずっと一緒にいたいと言ってくれているみたいで、私の心はポカポカ温かい。

 私も嬉しくなって笑えば、レフィトはもっと嬉しそうに笑ってくれる。


「ドレスだけじゃなくて、プレゼントも用意するよ? 大したものは無理かもだけど」

「本当?」

「本当だよ」

「絶対、絶対だからね! 約束だよぉ!!」


 レフィトのしっぽが大きく揺れている。

 琥珀色の瞳がキラキラ輝いて、何だか太陽みたいに眩しい。

 侯爵家で騎士団長の子息のレフィトなら、今まで高価なものをたくさんプレゼントされてきたはずなのに、小さな子どものよう、はしゃいでいる。


 何でだろう。レフィトなら、アメ玉一つでも喜んでくれそうな気がする。そんなこと、しないけど。



 これから手紙の送り主に会うのに、驚くほど心は穏やかで、満たされている。

 レフィトのおかげだ。


「レフィト、ありがとう」


 私の言葉に、レフィトは不思議そうに首を傾げた。そして──。


「お礼を言うのは、オレの方だと思うなぁ。カミレが隣にいてくれれば、毎日が幸せだからさぁ。ありがとぉ。オレと一緒にいてくれて」


 ギュッと抱きしめられると、ふわりとレフィトの匂いに包まれた。

 ほんの少し甘くって、爽やかで、木々を思い出すような、ドキドキするけど、一番落ち着く、私の大好きなレフィトの匂い。


「レフィトは太陽みたいな匂いがするね」


 笑ったレフィトは太陽がよく似合う。

 子どもみたいに無邪気で、真っすぐで。


「…………太陽?」

「ごめん、嫌だった?」

「違う! そうじゃなくって……」

「うん?」

「意外だったから……」


 意外……かな? レフィトのイメージにぴったりだと思うけど。


「そう? レフィトには、太陽がよく似合うよ」

「その言葉、そのままカミレに返すよぉ。カミレは太陽みたいな人だから。でも、ありがとぉ」


 ギューギューに抱きしめられ、レフィトの顔が見れないまま、馬車は約束の場所へと到着した。

 したのだが、絶対に私の顔……どころか全身が真っ赤になっているだろうから、馬車から降りるのには少し時間がかかりそうだ。

 

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