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【2巻発売】悪役令嬢にざまぁされたくないので、お城勤めの高給取りを目指すはずでした(Web版)コミカライズ企画も進行中です。  作者: うり北 うりこ@ざまされ2巻発売
第一章 悪役令嬢にざまぁされたくないので、お城勤めの高給取りを目指します

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悪役令嬢にざまぁされたくないので、無計画に首をつっこんではいけません⑦


「お疲れ様ぁ」

 

 馬車へと戻り、仮面を外すと、レフィトは私に向かって微笑んだ。

 仮面がないとレフィトの琥珀色の瞳がよく見えて、何だかちょっと嬉しい。


「ウィッグ、外そっかぁ」


 慣れた手つきで、ウィッグを外してくれて、手ぐしで髪を整えてくれる。


「あとで結びなおすからねぇ」

「お手数おかけします」

「任せてぇ。楽しみだなぁ」


 そう言いながら、レフィトも自身のウィッグを手早く外した。

 描いたソバカスもささっと落している。

 思わず、じっと見ていれば、すっかりいつもの姿に戻ったレフィトに見つめ返された。


「可愛いねぇ」

「……えっ?」

「変装したカミレも可愛かったけど、いつものカミレが好きだなぁ」


 へにゃりと笑いながら、本当に愛おしそうに私を見るレフィトに心臓がギュッとなる。

 

「巻き込んじゃって、ごめんね。助けてくれて、ありがとう」


 せっかくのデートなのに、勝手な行動をしてしまった。

 時が戻ったとしても、また首をつっこんでしまうだろう。だけど、レフィトには悪いことをしてしまった。


「どういたしましてぇ。カミレは、あそこでスルーできるような人じゃないもんねぇ。心配だけど、そこもカミレの良いところなんだよなぁ」

 

 困ったように笑うレフィトの瞳が優しくて、申し訳なくて、上手く言葉が出てこない。

 分かるのは、ここで謝るのは間違っているってこと。


「あーぁ。カミレとの約束破っちゃったなぁ……」


 すごく残念そうなレフィトの声に、何の約束か考えるけど、分からない。


「手、離しちゃったじゃん。ログロスの馬鹿のせいでさぁ」


 唇を少し尖らせ、不満そうに言うレフィトが可愛くて、好きだな……って思う。

 もっとレフィトに近付きたくて、衝動的に手を取り、指を絡めた。

 恋人繋ぎは、いつもよりレフィトを近くに感じられる気がしてドキドキする。

 驚いたように私を見たレフィトの顔を、恥ずかしくて直視できない。視線は、窓の方へと逃げてしまう。


「嫌だった?」

「ううん。すっごく嬉しい。今度から、こうやって繋ごうねぇ」


 一つ頷き、レフィトの手の温かさを感じる。

 何となく、お互いに無言になり、沈黙が流れた。

 けれど、嫌な静寂ではない。

 少しだけレフィトに寄りかかれば、レフィトも私にもたれた。重みをあまり感じない優しいそれは、私の心を温かくする。


 何だか瞼が重くなってきて、どうにか目を開けようとするけれど、レフィトの体温と安心感が私を眠りの世界へと誘い込んでくる。


「少し寝ちゃいなよぉ。疲れたでしょ?」

「ううん。大丈夫」


 どうにかそう答えたものの、もう目を開けることが難しい。

 無理矢理、何度も開ける私の目は、白目を剥いているかもしれない。

 乙女としては失格だけど、人としてここで寝るわけにはいかない。何としてでも、起きているんだ!! と強く決意する。


「オレのそばじゃ、安心できない? 何があっても守るから、寝な?」

「安心しすぎて、眠気と戦ってるんだよ」

「嬉しいけど複雑だなぁ。カミレには、オレでドキドキもして欲しいからさぁ」

「いつもドキドキしっぱなしだよ」

「オレの方がドキドキしてるけどねぇ」

「……うん」


 頭が上手く働かない。レフィトは今、何て言ってた?


「おやすみ」


 優しい声を聞きながら、私は夢の中へ落ちていった。



 どのくらい眠ったのだろう。目が覚めると、今度はレフィトの膝枕……ではなく、きちんと肩にもたれたままだった。


「まだ十分くらいしか寝てないけど、大丈夫?」

「うん。寝てばっかりで、ごめんね」

「カミレの寝顔が見れて嬉しいから、平気だよぉ」

「……恥ずかしいから、あんまり見ないで欲しい」


 よだれ……は、たれてないよね? イビキと寝言は大丈夫だったかな。寝てる間、白目だったらどうしよう。

 まさか、ずっと見ていた……なんてことはないよね?


「恥ずかしがってるカミレも可愛い。こっち見て」


 頬に大きな手を添えられて、レフィトの方に顔を向けられる。


「オレがもっと可愛くするからねぇ」

「え?」


 レフィトの指が私の髪をすいていく。

 近付いた顔に思わず瞳を閉じる。

 もしかして、キスするんじゃ──。


 なんて思ったのは勘違いで、あっという間に髪を結ってくれた。


「カミレは何でも似合うねぇ」


 上機嫌なレフィトに、キスするのかと勘違いした自分が恥ずかしい。

 誰か、私を埋めてくれ……。


 

 再び、恋人繋ぎをすると、レフィトと一緒に馬車を降りる。


 ウィンドウショッピングをしたり、カフェでお茶をしたりと、デートを楽しんだ。

 カフェでは、「手を離したくないから、食べさせてあげるよぉ」とあーんをされた時は焦ったけれど、どうにか許してもらえてよかった。

 代わりに、別の時にする約束をしてしまったけど……。

 人目のないところなら、良しとしよう。恥ずかしいけど。


 そんな楽しい時間はあっという間に過ぎて、もう家に帰らなくてはならない。


 今日は本当に色んなことがあった。

 初めて、こんなに豪華で可愛いドレスを着て、お化粧をしてもらった。

 貴族御用達のお店でごはんを食べた。

 カガチさんのお店で変装道具をたくさん見た。

 レフィトの眼鏡姿は、本当にかっこよくて、この世界に生まれて良かったって神様に感謝したんだよね。

 それから、たくさん知らなかったことをレフィトに教えてもらった。

 まさか、変装道具をすぐに使うことになるとは思ってもみなかったけど、ジャスミンちゃんが無実の罪に問われることがなくて、本当に良かった。

 サーカスを見て、ウインドウショッピングをして、カフェでお茶をするのは、すごく休日デートっぽかった気がする。

 色々とやらかしたけど、それは今は思い出さないでおこう……。


「楽しかったねぇ」

「うん。楽しかったね」


 今日一日のことを思い返していたのは、私だけではなかった。そのことが嬉しい。

 だけど、また明日会えるのに、離れることがさみしい。

 もう少し、そばにいたい。


「お茶でも飲んでく?」


 離れがたくて言えば、同じ気持ちだったのか、レフィトは頷いた。



「ただいま」

「おじゃましまーす」


 出迎えてくれた母は、私のドレス姿に一瞬だけ驚いた様子を見せたけど、すぐに嬉しそうな顔をした。


「楽しかったみたいね」


 ふたり同時に頷いて、レフィトは私の部屋へ、私はお茶の準備をするために台所へと立った。

 お茶の準備をしていると、母が思い出したかのように一通の手紙を持ってきた。


「カミレに手紙が届いたわよ」

「手紙?」


 私宛に手紙を出す知り合いは、いない。

 レフィトが出す可能性もあるけれど、いつも一緒にいるのでわざわざ手紙を出したとは考えにくい。


「誰から?」


 お茶を淹れながら聞くと、母は首を傾げた。


「さぁ……。差出人はないわね。すごく綺麗な封筒だし、学園のお友だちからじゃない?」


 その学園で手紙をくれそうな人って、レフィトしかいないんだよなぁ……。

 不思議に思いながら手紙を受け取り、お茶と一緒にトレーに乗せる。ギシギシとなる階段を上り、部屋の前に立てば、レフィトがドアを開けてくれた。


 部屋の扉を閉め、一緒にお茶を飲む。

 

「やっぱり、落ち着くなぁ」

「安物だよ?」

「高いとか、安いじゃないんだよぉ」

 

 そんなものだろうか。

 首を傾げつつ、やはり手紙が気になって、仕方がない。

 

「レフィト、私に手紙出した?」

「出してないよぉ」

「だよね……」

「手紙って、それだよね?」

「うん。差出人の名前がないんだよね」

 

 もらった手紙を人に見せることに抵抗はあるけど、一緒に見た方がいいのだろうか……。

 悩んでいると、その手紙をレフィトは手にとった。

 

「開けるねぇ」

「えっ!?」

 

 躊躇(ためら)いもなく開けられ、中身の便箋を渡してくれる。

 

「刃物は付いてないねぇ。封筒の中身も変なものは入ってないよぉ」

「ありがとう……」

 

 一瞬でも、レフィトが開けたことに動揺して申し訳ない。

 手紙の中身を先に見ちゃうのかと思った……。

 

「オレが見ても平気そうなら、教えてねぇ」

「うん」

 

 ヤンデレなのに、しっかりとプライバシーを守ってくれる。

 返事をする前に開けたのはどうかと思うけど、紳士だ。


 二つに畳まれた便箋からは、品の良い、ほのかに甘いけれど爽やかな香りがする。

 どこでかいだ匂いだったけ?

 けっこう最近、かいだ香りな気がするんだよね。


 開いた便箋には、丁寧で読みやすい文字がつづられていた。

 

「………………え」

 

 思いもよらない内容に、差出人の名前を何度も探すけれど、そこに答えはない。

 手紙には、今日のお礼と、内緒で会いたいこと、指定の日時だけが書かれていた。



 第一章END

 

 


 

第一章完結となります。

続きの第二章は、一週間ほどお休みをしてから再開します。


ここまで読んで、面白かった! 続き、楽しみにしてるよ! と思って頂けましたら、いいねをしてくれると嬉しいです。


ブクマ、評価も非常に励みになっています。

誤字報告、いつも助かっています。


ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。

引き続き『ざまぁされたくないので』をよろしくお願い致します。


2024.10.22 うり北 うりこ

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