悪役令嬢にざまぁされたくないので、無計画に首をつっこんではいけません⑥
章設定を変更しました。読みづらかったら、すみません。
何だか、段々と収集がつかなくなってきている。
自分から首をつっこんだけど、ジャスミンちゃんの誤解をしっかり解いて、ここはもう立ち去った方がいい気がしてきた。
レフィトの暴走もだけど、周りの視線が良くない。
あることないこと、面白おかしく噂するネタを提供しているだけだ。
ログロスを踏みつけているレフィトに近付き、レフィトにだけ聞こえるようにそっと耳に唇を寄せる。
「ジャスミンちゃんの無実を証明して、そろそろデートの続きに行かない?」
そう言った瞬間、レフィトはログロスを解放した。
「そうだねぇ。せっかくのデートだもんねぇ」
私の耳元で囁いた声はいつものレフィトのもので、口調も間延びしている。
やっぱり、いつものレフィトの方がいいな……。安心する。
「この男のおかげで、話がすっかりそれてしまいましたが、そこのお嬢さんが押した証拠はありませんよね?」
変装用に切り替えられたレフィトの言葉に、マリアン御一行からの反論はない。
そりゃそうだよね。ジャスミンちゃんが押したのを誰も見てないのだから。
今更、見たと言ったところで、ジャスミンちゃんを陥れようとしているとしか思われないものね。
カナ様が視界の端で、ログロスが口を開こうとするのを必死で止めている姿は、見えないふりをさせてもらおう。
ログロスのお守り、大変過ぎない? ずっと面倒を見ていて、嫌にならないのかな……。
レフィトがカナ様のことを可哀想だって言った言葉の意味が、すごくよく分かったよ。
「君たちは、マリアンが転ばされたと嘘をついていると思っているのかい?」
今まで黙っていたアグリオから発せられた質問。
どういう意図で聞いたのかは知らないけれど、マリアンが嘘をついたかどうかなんて、私たちが知るわけがない。
「嘘をついたとも、ついてないとも思っていませんよ。押された瞬間も、転んだ瞬間も、見ていませんから」
「なら、どうして彼女の味方をしたんだい?」
「あまりにも理不尽だったからです。気が付いたら、首をつっこんでました」
「そうか……」
アグリオは少し考えた素振りを見せたあと、笑みを浮かべた。
「教えてくれて、ありがとう。つまり、犯人はどこかにいるわけだ」
「そうかもしれませんね」
いるかもしれないし、いないかもしれない。
そんなこと、私たちの知ったことではない。
「マリアン、必ず犯人を探し出すからね」
「アグリオ……」
跪き、アグリオはマリアンの手の甲にキスをする。
まるで、マリアンに忠誠を誓う騎士みたいだ。
それは、一枚絵のようだ。
もしかしたら、これはレフィト用のイベントだったのかもしれない。
アグリオのいた場所は、レフィトがいるはずだったのかも……。
その姿を想像してしまい、胸の中がモヤモヤした。
起きてもいないことを想像して、勝手に嫉妬するとか、無意味だ。こんなの、ただの迷惑行為じゃないか。
ふたりだけの世界に入ってしまったマリアンとアグリオを眺めながら、今まで知らなかった自分の嫌な部分に溜め息が出た。
前世で恋愛をした時には、こんな気持ちになったことなんて、一度もなかったのに……。
マリアンのヒロイン劇場はなかなか閉幕せず、取り巻きたちは牽制し合い、マリアンを取り合っている。
もう帰ってもいいかな? と思っていると、マリアンはジャスミンちゃんの方へと一歩踏み出した。
「ジャスミンさん、ごめんなさい。私、勘違いをしていたわ」
「えっ……」
戸惑っているジャスミンちゃんに、申し訳なさそうな表情を作り、マリアンは言葉を重ねていく。
「パンセが最近、時間さえあれば私のところに来るでしょう? だから、もしかしたらジャスミンさんが嫉妬してイジワルしたんじゃないかって、思ってしまったの……」
「嫉妬だなんて……」
か細い声で言うジャスミンちゃんに、マリアンは目に涙を溜めた。
「そうよね。ジャスミンさんは、そんなことしないわよね。私ったら……」
「「「「「マリアン(さん)」」」」」
取り巻きたちが、マリアンを慰めに行ったのをマリアンは手振りで制する。
「大丈夫よ。ありがとう。全部、私が悪いのよ。ジャスミンさん、本当にごめんなさい。許して欲しいとは言わないわ。でも、謝らせて欲しいの……」
「大丈夫です。誤解は解けましたので……」
そりゃ、そう言うしかないよね。
相手は公爵令嬢で、その周りを固めているのが王子と、この国の重鎮の息子たちなんだもの。
これ以上は、余計だな……なんて思うのだけど、最後に一言だけ言ってやりたい。だって、腹が立つんだよね。
言った後に速攻で逃げよう。言い逃げしちゃえば、怖いものなんかない。
「誤解は解けたようですが、今度から、きちんと事実確認をしてくださいね。国の未来を背負う人たちが、よく確かめもせず、冤罪をかけるなんて、絶対にあってはならないことですから」
周りによく聞こえるように大声で言い終えると、言い返される前にレフィトの手を取って走り出す。
一言じゃなくなちゃったな。
でも、何だか少しスッキリした。
マリアン御一行の手段って、噂を流したり、冤罪をかけたりとロクでもないんだもんなぁ。
「逃げるが勝ちだよ!」
少し息が上がった声で言えば、軽々とお姫様抱っこをされた。
走っている最中にお姫様抱っこをされたことに驚き過ぎて、間近にあるレフィトの顔を凝視してしまう。
「見惚れてくれるのは嬉しいけど、スピードを上げるから、しっかり掴まっててねぇ」
「ヒャッ!!」
グンと速くなり、レフィトの首にすがりつく。
レフィトは嬉しそうに小さな笑い声を上げると、私を抱えている腕の力をほんの少し強くした。
第一章は、残すところあとちょっとです。
レフィト、けっこう筋肉あります。脱ぐとすごいタイプです。……たぶん。




