悪役令嬢にざまぁされたくないので、無計画に首をつっこんではいけません④
目の前に広がる手のひらが怖くて、思わずギュッと目をつぶる。
「やめ──」
「やめなさい!!」
「死にたいんですか?」
私の小さな抵抗の声は、ログロスを止めてくれようとしたカナ様の声と、まったく温度を感じさせないレフィトの声でかき消された。
なかなか来ない衝撃に、恐る恐る瞳を開ければ、あと少しで私の仮面に届く……というところで、ログロスの手は止まっている。
無意識に後ずさりをすれば、そんな私の背中をネイエ様が支えてくれた。
「大丈夫?」
「はい」
ネイエ様に答えた声は、震えていた。
心臓がバクバクと不安を訴えかけてくる。
ログロスの手が私に届く寸前で、レフィトが助けてくれたのだ。
レフィトの腕は、今も私へと伸ばされたログロスの腕を掴んでいる。
「離せ!!!!」
ログロスは叫ぶが、レフィトはその腕を離すことはない。
ログロスの腕がミシミシと音が鳴っている気がするんだけど……。
「今、僕の最愛に触ろうとしましたよね?」
「最愛?」
「世界で一番可愛い、僕の妹ですよ」
「してねーよ。仮面を取ろうとしただけだ」
「ほら、触ろうとしたじゃないですか。死にたいんですか?」
痛みでログロスの顔は歪み、さっきまでの勢いはなくなった。
そんな大人しくなった彼の腕を、レフィトは離さないどころか、ひねり始める。
痛いとは言わないものの、ログロスの眉間にはシワがより、小さく呻いている。
その光景は、見ているだけで、ものすごく痛い。
「そのくらいにしてあげて。私は、大丈夫だから」
最愛と、世界で一番可愛いという言葉に、嬉しさと恥ずかしさが込み上げて、出た声は思ったよりも小さかった。
それがいけなかったのだろうか──。
「本当に?」
仮面の下にある琥珀色の瞳が心配そうに、じっと私を見てくる。
「うん。大丈夫だよ」
熱くなった顔は、どこまで仮面で隠れているのだろうか。
場違いにも、そんな心配をしてしまう。
顔が赤いなんて兄妹の設定なのに、おかしいでしょ。と、頭の中で声がするけれど、火照った顔は私の意思では元に戻らない。
「怖い思いをさせちゃって、ごめん」
「何で、謝るの? 助けてくれて、ありがとう」
そう言うと、レフィトの瞳が優しく細まった。
変装しているから、いつもとは見た目も声色も違うのに、その瞳はやっぱりレフィトのもので……。
いつもと同じ琥珀色の瞳の優しさに、こんな状況なのにキュンとしてしまう。
「さっさと離せよ。お前ら、気持ち悪いんだよ!!」
私たちの空気をぶち壊すかのように吐き出したログロスの言葉に、兄妹設定だもんな……と思う。
でも、そういうことを思ったとして、口にするのはよくない。
ログロスは貴族なのに、思ったことを考えもせずに口にするし、口調も周りと比べて乱暴だ。
それは、本人の性格によるものか。それとも、辺境という地方……王都とは違う文化で育っているからなのか。
うん。性格が大きい気がする。
子どもの頃から交流があると聞いたカナ様は、貴族としての教養をしっかりと身に付けられているわけだし。
気持ちが悪いと言われたわけだけど、どう返そうかな。
面倒だし、スルーでいいか……な……?
「────っっ!!!!」
ログロスは声にならない悲鳴をあげ、苦痛の表情を浮かべた。
気持ち悪いという言葉が引き金になったのだろうか。レフィトに更に痛めつけられている。
「僕のことはともかく、妹に向かって気持ち悪いという感性が信じられませんね。二度と言えないように舌を引き抜いたほうが良さそうです。でも、そうすると血が出るのか……。僕の最愛にそんなところを見せるわけにはいかないし、どうしたものか──」
「ふざけんな! お前らふたりとも気色悪いんだよ!! 仮面を取ったら、どうせブスなんだろ!!」
「あ゙?」
レフィトの地を這うような声は、ログロスが新たに地雷を踏み抜いたことを表していた。
ログロスは、何でこんなにも馬鹿なんだろうか。
痛いのに何でそんなに吠えるの?
何で、火に油を注いだの?
まさか、分かっててやってる? ドM? ドMなの?
そんな疑問が、頭の中をすごいスピードで駆け抜けていく。
「骨、折れちゃうよ!?」
本当に骨を折ろうとした気配を感じて、慌ててレフィトを止める。
こうなったら、敵であろうが協力し合うべきだ。
そう思いながら、ちらりとマリアンを見れば、他の取り巻きたちにしっかりと守られていた。
今こそマリアンのヒロインムーブが必要なのに、一体何をしているの!? ヒロインムーブ、今やらないで、いつやるんだよ!?
「マリアン、目をつぶっててくださいね」
「大丈夫だ。俺たちが守るよ」
「みんな、ありがとう」
あー、そっちでヒロインムーブ中でしたか。
それ、今じゃなきゃ駄目なヒロインムーブかな? こっちの方が急を要すると思うんだよね。
今、あなたの取り巻きのひとりがピンチなんだけど、気付いてるよね?
ログロスは、あなたのために動いてくれたんでしょう? 色々と余計なことばっかり言ってたけどさぁ。
お得意のヒロインムーブで助けてあげてよ。なんか、可哀想じゃん。
「なんかこの人、気の毒すぎるから、許してあげて……」
「気の毒で許していたら、世の中がクズの巣窟になる。骨くらいで済むことを感謝して欲しいくらいだ。僕の最愛を怖がらせたんだから、殺されたっておかしくないわけだし」
いや、おかしいだろ。
これはヤンデレ発動ってやつ……かな?
最愛という言葉に、反射的に顔が赤くなった私をレフィトは表情を変えずに、瞳だけが嬉しそうに見つめてくる。
「あなたのお兄さん、色々な意味ですごいわね」
ポツリと呟いたネイエ様の言葉に「ですよねー」と心の中で同意した。
ヤンデレ回です。
ヤンデレは好きですか?
私は、大好物です!!
ヤンデレ好きだよって方、是非いいねで教えてくれると、私が仲間がいっぱい!! って、喜びます。
よろしくお願いします!!




