悪役令嬢にざまぁされたくないので、準備を始めましょう④
「デフューム様の眼鏡がお気に入りなだけであって、眼鏡をかけてないデフューム様に興味はないよ!!」
「眼鏡をかけてたら、興味あるんだぁ?」
「そりゃ、眼鏡をかけてれば……。でも、目の保養だな……くらいで、ときめかないから! 鑑賞してるだけ! そう、鑑賞用なの!!」
「ふーん?」
「見てるだけで、関わりたくはないんだよ。一緒にいたいとか、まったく、微塵も思わないから!!」
うん。何言ってるんだろう。
自分で言ってて、意味が分からなくなってきた。
浮気の言い訳をしてる気分だ。浮気してないし、したこともないけども。
「一緒にいたいのは、オレとだけ?」
「そうだよ!」
「ときめくのも?」
「そう! レフィトだけ!!」
「オレのこと好き?」
「もちろん!!」
……あれ? 何だか、誘導されてる? 気のせい?
「オレも、カミレのこと愛してるよぉ」
さっきまでの不穏な空気は、どこへやら。
私の手を握り、レフィトはご機嫌そうに笑っている。
「デフュームとネイエ嬢のことだよね。あのふたり、ものすごーく仲が悪いんだぁ」
「仲が悪いんじゃなくて、ものすごーく悪いの?」
責められていたと思ったら、急にご機嫌になり、あっという間に始まったデフュームとネイエ様の説明。
展開の速さに頭の中は大騒ぎだけれど、全力で切り替えていく。
「そうだよ。マリアン嬢がいてもいなくても、良好な関係は築けなかったんじゃないかな……。互いに譲るってことをしないからねぇ」
それは、大変そうだ。事あるごとに、ぶつかっちゃうってことだもんね。
でも、あのネイエ様が? お話したことはないけど、いまいちピンとこない。
「デフュームは自分が正しいと信じて疑わないし、ネイエ嬢は弁が立つからねぇ」
「……ネイエ様って、おっとり系なんじゃないの?」
「見た目だけだねぇ」
え……。そうなの?
おっとり系美女だし、話し方もめちゃくちゃ優しいのに?
「毒舌だよぉ。皮肉もよく言うしね」
「そうなんだ……」
人は見かけによらないって言うけど、ちょっと……、いや、かなりビックリした。
「ただ、あそこは何があっても婚姻関係になると思うよぉ。利害関係が一致してるし、より両家の関係を深めたいのなら、婚姻が一番手っ取り早いからねぇ」
そ、そうなんだ。
それなのに、ゲームでネイエ様って一度も登場してないんだよね。
あれか? 本当は結婚したくないから、ヒロインと結ばれてくれてラッキー的な感じだったのか?
「……大変だね」
「そうだねぇ。仮面夫婦まっしぐらだろうね」
夢も希望もないじゃないか。
私にできることってあるのだろうか。別れるお手伝い……とか? でも、どうやって?
「政略結婚なんて、そんなものだよぉ。だから、愛人を囲う人も多いんだろうねぇ」
「…………え?」
「えっと……、知らなかったぁ?」
無言で頷いた私に、レフィトは珍しく視線を泳がした。
「ごめんね」
ぽん、と頭を撫でられた。
「レフィトは何も悪くないよ。私が無知なだけだから」
乙女ゲームの世界だから、そういったものはないと勝手に思い込んでいた。
現実とゲームの線引が、まだ上手くできない。まだまだ思い込んでいることが、これから先も出てきてしまいそうだ。
「望まない婚姻をした令嬢たちの救いって、何だろう……」
愛人を囲うことだなんて、悲しすぎる。
この世界では、常識的なことかもしれない。だけど、それが幸せだとは、やっぱり思えない。
「友だちじゃない?」
「友だち……」
「学園を卒業しても、交流は続くからね。支えになってると思うよぉ。あとは……」
「えっ?」
最後はとても小さく呟いたので、ハッキリと聞き取ることはできなかった。
だけど、愛せる子どもって言ってた気がする。
「レフィ──」
「やっぱり、友だちの支えが一番大事なんじゃないかなぁ」
名前を最後まで呼ぶことも叶わず、被せられた言葉に違和感を感じた。
だけど、にっこりと笑うレフィトは、聞くなと言っているようで……。
「レフィト、少しでもつらいこと、悲しいことがあったら、一緒にいようって言ってくれたでしょ? 私も同じように思ってるからね」
私の言葉に、仮面の下でレフィトの瞳が見開かれた。
琥珀色の瞳は、まっすぐに私のことを見ている。
「言いたくないなら、言わなくてもいいの。でも、一緒にいさせてね」
レフィトが言ってくれた言葉をそのまま返す。
私も同じ気持ちだから。
「レフィトが悲しいと私も悲しいし、レフィトがつらいと私もつらいよ? でもね、レフィトがひとりで耐えているのだとしたら、そっちの方が嫌なんだ。何にもできないかもしれないけど、邪魔かもしれないけど、隣にいさせて?」
「うん」
小さく頷いたレフィトは、何だか小さな子どものようで、私は繋いだ手が離れることがないように、ギュッと強く握った。
「ありがとぉ」
へにゃりと笑うレフィトに、私も笑いかける。
好きな人と両想いで、婚約していることって、奇跡みたいなものだと思う。私の場合は、婚約が先だったわけだけど。
「ねぇ、カミレ」
「うん」
「オレの支えはカミレで、婚約者で、すっごく恵まれたことだと思うんだぁ。でも、それが友だちや家族であっても、生きる力になると思うんだよねぇ。だから、ネイエ嬢のことは心配しなくても、大丈夫だと思うんだぁ」
「……友だちがいるから?」
「うん。あと、彼女は自分の足で立てる人だから。あいつ等の婚約者は強いよぉ?」
そう言って、レフィトはおかしそうに笑った。
「彼女たちは、あいつ等がいなくても困らないけど、あいつ等は困るんじゃないかなぁ」
その言葉の意味が分からず、レフィトを見たが「そのうち分かるよぉ」と言って、笑うだけだった。
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