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【2巻発売】悪役令嬢にざまぁされたくないので、お城勤めの高給取りを目指すはずでした(Web版)コミカライズ企画も進行中です。  作者: うり北 うりこ@ざまされ2巻発売
第一章 悪役令嬢にざまぁされたくないので、お城勤めの高給取りを目指します

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悪役令嬢にざまぁされたくないので、変装道具を買いましょう④


「破廉恥って、どういうことぉ? オレ、そんなことしたかなぁ?」

「したでしょ!」

「んー。何したっけ? 教えてよ、カミレ」


 教えて? え……、鼻にチューしたって言うの? それはちょっと……。いや、結構恥ずかしい。


「分かるでしょ?」

「分かんないから、教えてぇ?」


 嘘だ。絶対に分かってるやつ!

 私が恥ずかしいから言いたくないって、分かっててやってる。


「言わないからね」

「えー。何でぇ?」


 そう言いながら、レフィトは再び銀縁の眼鏡をかけた。


「カミレ、教えて?」


 顎をくいっと持ち上げられ、レフィトは意地悪な笑みを浮かべた。

 間延びしてない話し方もわざとだ。

 そんなこと、分かっている。分かっているけど──。


「鼻にチューしたでしょ」

「したよ。カミレが可愛かったからね」

「……それがエッチだった!」


 くぅ……。眼鏡には勝てない。逆らう(すべ)なしだよ。

 ……って、あれ? 何でレフィトが床に崩れ落ちてるの?


「レフィト?」

「ねぇ、もう学園辞めちゃわない? オレと今すぐ結婚しよう?」


 私を見上げた眼鏡の奥にある、琥珀色の瞳が熱を持っている。私を求めているのが分かる。

 思わず頷こうとした、その時──。


「はいはーい。デートを続行するお客様、プロポーズをするならもっとロマンチックなところでやりましょうか。あと、お嬢さん。流されたら、駄目だかんね」


 カガチさんの言葉に、ハッとした。

 レフィトが喜んでくれるなら……と無意識に頷こうとしていた。危なかった……。


「何で、邪魔したのかなぁ?」

「あそこで頷かせんのは、卑怯(ひきょう)だろ。おまえは、あんな状態のお嬢さんに頷かれて嬉しかったのかよ?」

「……嬉しかったよぉ?」


 そう言って、レフィトは笑った。それなのに、目の奥が暗い。

 頷くことを望んでいたけど、頷かないで欲しかった。よく分からないけど、そんな感じに見える。


 レフィトが欲しかった答えは分からない。だけど、私の中の答えは決まっている。

 結婚しようと言ってくれたことは、素直に嬉しかった。まだ早いとは思うけど。


「レフィト、ありがとう。でも、ごめんね」

「謝らなくていいよぉ。カミレの弱みに付け込んだのは、オレだからさぁ」

「うん」


 レフィトは笑っている。だけど、その瞳は捕食者のように見えた。瞬き一つでいつものレフィトに戻ったけれど。

 私が獲物で、今か今かと墜ちてくるのを、誘い込まれてくるのを待っているかのような、そんな感覚に(おちい)った。



「この眼鏡に人の心を操る力なんか、ないんだけどな。それだけ、お嬢さんが眼鏡好きってわけか。俺も眼鏡をかけたら、ときめいてくれんのかー?」


 そう言って、レフィトの顔から眼鏡を取って、カガチさんがかける。

 何というか、無口なカガチさんの方が似合いそうな気がする。


「どう? ドキドキする?」

「いえ……」


 カガチさんだって、整った顔をしているのに、不思議なくらいまったくときめかなかった。

 以前の私なら、ときめいたと思う。だけど、知らず知らずのうちに変わったみたいだ。


「レフィトだから、こんなにもドキドキしたんだと思います」

「そっかぁー。残念」


 少しも残念じゃなさそうにカガチさんは言った。そして、レフィトの方に向かって、笑いかけた。


「良かったな。お前だからみたいだぞ」


 その言葉に何度も頷けば、レフィトがへにゃりと笑う。

 さっきまでの雰囲気はもうない。そのことに、ホッとした。


「知ってたよぉ。でも、ありがとぉ」


 プイッと横を向いて、レフィトは言った。

 レフィトを見るカガチさんの視線は優しい。兄と弟。そんな表現がピッタリな気がした。



「ところで、賭けはお嬢さんの勝ちだよな? 鼻血を出してたけど、気を失わなかったわけだし」


 確かに気を失わなかった。倒れなかったら、という条件は満たしていた。


 正直、レフィトの眼鏡姿はめちゃくちゃ見たい。何度でも見たい。何なら、一生眺めていたい。

 だけど、危険でもある。お願いをされたら、叶えてしまいそう……なんて、あまいものではなかった。眼鏡をかけたレフィトの願いは、無意識に叶えようとしてしまうのだ。


「そうだね。ふたりきりの時に、たまにかけようかなぁ」

「鼻血も出したし、倒れなかったけど、引き分けでいいんじゃない?」

 

 ふたり同時に話してしまい、思わず顔を見合わせた。


「もう、見たくないのぉ?」

「見たい!! でも、正気を失って迷惑かけるし、自分を見失うというか……」


 今日まで、なくても生きてきたのだ。知ってしまった分の苦しさはあるが、迷惑になると分かっていて、無茶を言うつもりはない。

 何より、リスクが高すぎる。本当は喉から手が出るほど、眼鏡姿を欲しているけれど。


「それなら、ふたりきりの時だけにしようよぉ」


 ふたりだけの空間で、レフィトの眼鏡姿を見放題……。

 いやいや! それこそ、危険だから。早まるな、私。早まっちゃいけな──。


「オレが色んな眼鏡かけたの見たいでしょぉ?」

「見たい!!」


 あ、ハメられた。いや、まだチャンスはある。

 見たいけど、見たいけど、ものすごーく見たいけど!! レフィトの眼鏡姿は諸刃(もろは)(つるぎ)だ。身を滅ぼす予感しかしない。


「オレもカミレが喜んでくれると嬉しいからさぁ。眼鏡かけた時に約束はしないようにするよぉ」

「……いいの?」


 それなら、問題は何もない。私得でしかない。


「その代わり、またドレス着てのデートもしてねぇ?」

「えっ?」

「オレだって、カミレのドレス姿を見たいからさぁ。いいよね?」


 そう……きたか。ドレスでのデートは正直避けたい。でも、レフィトの眼鏡姿は見たい……。


「分かった。レフィトは眼鏡を、私はドレスを着て、互いに欲を満たそうってことね」


 私の方が準備も含めて大変だけど、対価が分かっている方が、眼鏡をかけたレフィトを存分に摂取できるというもの。

 がしり……と謎の握手を交わし、互いに頷き合った。

 

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