結果次第で産廃なるのれす…
鳴海工機製作所からモニターテストの連絡が届いた。なると製造機のチェック、僕には簡単なアンケートがあるらしい。
なるみ2026を車に乗せて30分ほど。
「いやぁ……でかいなぁ」
自社ブランドで販売していたのは旧「なると製造器」くらいで、高度な技術力と専門性で、一部の製品は世界的にも高いシェアを誇る部品メーカーだ。
身体検査の後、「学習の進捗状況を調べます」と告げられて、なるみ2026は「はい!」と元気に答えたが、笑っているのは膝だけで、虚ろな視線をさまよわせ青息吐息だった。
「んででででゎ、行ってくるのれす!」
「すごく緊張してる? 大丈夫かなぁ」
「大鈴様は、こちらでお待ちください」
応接室へ通されて、「笠松直葉です」と名刺を差し出したノースリーブ の女性は、キリッと涼し気な目元にアンダーリムの眼鏡で、いかにも頭の回転の早そうな印象を受けた。
正直に言えば、苦手なタイプ。
テストの結果について尋ねると、「良好でした」と見せられたタブレット端末の画面に、身体各部の部品の項目が、ずらり。それぞれチェックがついている。
自動車の整備記録簿のような体裁。
テスト、そういう意味だったのか。
思わず膝を打つ、と、同時に。
ひとつ、疑問が首をもたげた。
「なると製造器から飛躍しすぎてません?」
「エラストマー樹脂製人工筋肉による、なめらかな動作。ジャイロを複数搭載し、全体を覆う触覚センサーの情報を人工知能で深層学習することで、人に近付いていくヒューマノイド。需要はあると考えていますが?」
そこが疑問だった。
なるみ2026、寄せ集めの技術で成り立っている。
「それは右足の、義足の説明ですね」
「なるみ2026になにか問題が?」
「なるみは頑張ってくれてます!!」
笠松さんは「当然です」と呟いた。
「泣いて笑って食って寝る。ゲップやオナラもするし寝相が悪くイビキまでかく。感受性豊かというより情緒不安定。ほとんど人間。ヒューマノイドって言い張るのは、無理がありますよ」
「ヒューマノイドです」
「無理ありますよ?!」
少し、迷う素振りがあった。
「昔話はお好きですか?」
「むかしばなしですか?」
クスッと自嘲気味に笑った。
「むかーし、むかし。ダンビラという不良がおりました」
「鬼とかじゃないんですか?」
「お爺さん相手にカツアゲしようとして、失敗しました」
「カツアゲ……完全に不良だ」
楽し気だったが、フーーッと長い溜め息。
「会長は年寄りのくせに強かった。しかも鼻つまみ者の問題児を拾ってくれた恩人です。客先を回り、独学で資格とって、会社で事務仕事。必死でやりました」
「ダンビラって、笠松さんなの?」
「私、年上好きなので」
「上って、何歳差?!」
窓の外を見て「歳だったから」と呟いた。
「療養中の会長のお見舞いに、社長夫婦が娘さんと家族3人で旅立って。移動中に事故に遭い、一家で帰らぬ人に。葬儀でバタバタ、社長の後任も必要で……」
「たしか2年ほど前でしたね」
「会長を元気付けようとして」
一時的に、会長に戻ってもらった。
よくある対応だが、事情が事情だ。
「にしても……なんでそんな話を僕に?」
「私は。できもしない嘘をついたんです」
「嘘?」
スマホを取り出して、簡単な操作。
手渡された画面に表示された少女。
それは――
「なるみ2026だ」
「生前のお写真です」
「あぁ! 社長夫婦の娘さんですか。つまり、なるみ2026はお孫さんに似せて作られた……っていうレベル?! まるで生き写しじゃないですか!!」
これが、嘘。
「なると製造器の次期モデルはこうなりますと、お孫さんの写真を見せたんです。なると? あぁ、なると? そんなもの、出ても出なくても、どーでも良かった。たった一人でも需要はありました! 間違いなく需要はあったんですよ!!」
興奮してバーン!と蹴ったゴミ箱。
想像以上に詰まってた中身が散乱。
笠松さん「あれ?」と呆けている。
のそのそ動いて、拾い集めだした。
「間に合わなかった、それだけ」
試作段階の、なるみ2026。
会長さんに会えなかった……。
「ヒューマノイドを作る技術なんて無い。でも、右足1本無いだけで、お孫さんの御遺体は綺麗でした。ここは工業団地で、中小企業の寄合所帯かもしれない。でも食品加工から宇宙開発まで、様々な得意分野があるんです。大の大人が揃ってて、子供の一人も救えませんか?!」
「右は義足。だから足が弱いのか」
「きんでんぎそく、という」
「子供の臓器提供は数少ないのに」
「心臓を作る会社があって」
「どうやって時間稼ぎを?」
「液体冷凍で、凍眠させて」
「刺身の? ……異業種すぎます」
工業団地に、病院は無い。
「わかってた、ただの自己満足でした。なのに、なんか、本当に動いちゃって。でも、記憶喪失だったし……どうしたらいいか困っていたら、お電話が」
「やめて? 僕まで逮捕されそ」
紙ゴミだらけの応接室。
2人で回収してまわる。
「ばかみたい! 私、ばかなんです」
「そんなことない、と思いますけど」
笠松さん。
目的のために手段を選ばなかったら肝心の目的を見失ってる。見た目に反して、ひどく乱暴者で、やさしい嘘つきで、おっちょこちょいなタイプっぽかった。
「また、定期的に検査に来ます」
「これからも、がんばります!」
「かわいい三枚おろし、そう報告がありました」
「 「 そこ? 」 」
AIが学習した内容をテスト。
結果は、コスプレ三枚おろし。
「ただ、ひどい点数ですね」
「え?」
「まだ今月の問題集は届いていないようですが」
「 え っ ?! 」
「そういえば、勉強がんばるって言ってたなぁ」




