メイドさんご奉仕するれす!
「以上。お疲れさまでしたぁ」
PCをパタンと閉じたタイミングで、荷物が届いた。
「なるみ2026。仮装してこそ女児だなぁ」
「魚の下ごしらえ練習なのれ仮装は無理れす」
「まるごと解決、魔法のアイテムがあるよ?」
「ハロウィン三枚おろしれすか?」
現在、三枚おろし練習中。
ブキッチョで服が汚れる。
僕は宅配荷物を置いて開封した。
「勢いで注文しちゃったので着てください。頼む、頼みます、このとおりっ!」
「カチューシャ。下を向くと髪が邪魔でしょ?」
「おぉお?! 結ぶより、準備が早いのれす!」
カチューシャ単品は、高評価。
「それと。台所に届かなくて、ちゃぶ台を使ってるけど。低すぎるせいで、今度はシャツが汚れちゃってるでしょ?」
「そぉなんれすよぉ」
買ったばかりの服。
洗濯で落ちないシミが増えた。
「エプロンしたらどうかな」
「エプロンれすか?」
「これを、服の上に着るの」
「汚れエプロンだけ洗う!」
あっ!
「ちょ、ちょっと待って!」
「ほぇ?」
エプロンしちゃった……。
その服じゃ意味無いのに。
もう、諦めて説明しよう。
「全部入ってお得だし、服も揃えたら似合いそうだし。最短特急便で頼んでから、オンライン会議が長引いちゃって。相談する前に水色のメイド服と桃色のメイド服が、セットで2着、届いてしまいました」
一番上に入っていた紙を渡した。
「メイド服? なんれす、これは」
「それは、そのぉ。完成予想図?」
元は炊事・洗濯・掃除など家事全般を担当する使用人の服装だったかもしれないけど、今となっては生魚を捌きまくる服装じゃなくなった。
魔法少女的な要素を吸収合併したコスチューム、とびきりファンシーな水色やら桃色にリボンだらけのフリルでヒラヒラな女の子へ、見本写真どおり変身アイテムがビッシリ箱の中。
「こういうの、お好きなのれすか」
「ぁ、はい。キモくてスミマセン」
瞳にヌラリと妖光が揺らめいた。
「 こ れ を 着 る れ す !!」
ヘンタイ扱い、杞憂だった――
真逆、憧れリアルタイム年齢。
「みずいろメイドどうれすか?」
「なるみ2026最高だよぉ!」
「三枚おろしもできたのれす!」
「よし練り上げよう、踊ろう♪」
ちっちゃいメイドさんが一生懸命ブツリザクリと魚を捌く姿は、最高に絵になる姿だった。シッカリした室内ほうきに買い替えたので、練り工程も安定している。いちいちスマホで動画を撮る、すっごく忙しい。
なんだか、もう、世間体とか。
どーでもよくなってきたなぁ。
……っと?
画面にポップアップした通知。
冷水でも浴びせられたように、現実に引き戻された。
【 鳴海工機製作所 18:24
to. 大鈴みなと様
モニターテストの御連絡... 】
「鳴海工機からメールが来た。モニターテストの御連絡。その後、なるみ2026AI学習の進捗状況はいかがでしょうか。つきましては、実施日時の調整? 状態測定と確認、使用感のアンケート、状態の確認に2時間ほど……使用感って?」
画面を見せると、何度も首を左右に振っている。
「テストってなんれすか?」
「試験って意味だけど。なると作りの?」
忘れかけてた、モニターテストなんだ。
鳴海工機まで、車で30分弱。
近いから選ばれたのかもなぁ。
試験勉強するか。
なると製造機の?
「 「 ど ん な ?? 」 」
ベッドルームに座る、女児型メイドロボ。
『人類の半分は欲しがるね!』
……そう思ってるの、僕だけ?
「勉強してないのれす……遊んでばっかり」
「なると作りのテストなんじゃないかな?」
「テスト0点、産廃処理。ゎたし、おわた」
虚無を見つめる目。
無味乾燥な無表情。
ネットで検索してみるか……ぉお!
「なるとロボの原点ぽい画像を発見したよ」
この時点では、ただの人形っぽい。
感情表現はなると2026の圧勝だろう。
今は絶望すぎて、似たり寄ったりだけど。
問題は『加熱・押し出し』の工程。
「次の画像、なるとウネウネ5m押し出されてきて、どもならん状態になってる。加熱・押し出しは強かったみたい」
「 ん ご っ ……5メーターれすか!」
鳴海工機製作所が、『大失敗』としか思えない画像をプレスリリースに掲載した意図は不明。水面下で順調に進んでいた、なるみ2026の開発をカモフラージュしても、あまり意味は無さそう。
『女児型なると製造機』
開発競争の相手がいない。
画像を見せると、くるくる目を回した。
「ゎたしに、5メーターは無理なのれす」
「足が無い。鉄の棒に固定されてるなぁ」
「ベッドに寝て全力で、やっとなのれす」
「基本は足腰……なのかなぁ」
女児型になって脚力が弱い。
そこに大きな違いがあった?
なると2026は覚悟を決めたのか、電気を消して、かぼちゃランプをつけた。エプロンの肩ヒモをずらすと、胸あてと一緒にハラリと腰まで下りた。
「立ったまま出せる特訓するれす」
「えっ? あ、あぁ。特訓……か」
「これは、テスト勉強れす」
静かに決意を語り、言い聞かせるように。
水色の服を留めるボタンを外していく……
「ゆでっ……て、ぁ!」
「え? 加熱段階でつらいの?!」
「ぅぁ、あ、ぁっぃのれすぅ!!」
そっ、そうだよなぁ。
魚肉を加熱、茹でてるんだもん。
ぷにょぷにょの、おなかの中で。
断熱構造っぽかったけど。
温度は測ってそうだった。
おなかを出した女児メイドは汗だくで膝ガクガク。
さすがに限界を感じて、動画撮影の画面を閉じた。
「なっなるみ無理なら言って?」
「んむ、むむむりなの、れすぅ」
「とっくに無理だったのぉ?!」
「ゔぅう、だっ、だすしか……」
腕に掴まり、懇願するように「しゅみませ……んっま、まだぁ」と訴えてきた。茹であがらない状態で出るだろう。おへそから下腹部へかけて、白いドロドロが、でろでろと。
ぎゅっと抱くと、ガクリと膝の力が抜けて。
おへそから半生の魚肉がダラダラ出てきた。
泣き顔になって「おようふくが……」と呟いたので、「汚れたのエプロンだけ。明日の朝食は、つみれ汁かなぁ」と告げると、そのまま虚脱したように倒れ込み、力つきて寝入ってしまった――
床を汚さないように、エプロンで受け止めていたらしい。
女児型メイドロボのエプロンを薄暗い部屋で外していく。
「いっ、ぃた……いたぃのれすぅ」
「おへそ、痛かった?」
「ここに、こ、このおうちに……」
痛いんじゃなくて、居たい……寝言?
『人類の半分は欲しがるね!』
……そう思ってるの、僕だけ?
週末土曜に予約したテストに間に合うだろうか。




