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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
7:からまる紐帯

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334/422

334:変わりゆくサイモン

「……18、94?」

 俺はサイモンを見つめる。その視線の意味を察したらしく、元ラスタマンは屈託のない笑顔を浮かべた。いや、それ本当に屈託ないか?

「ああ、良い銃だぜ。西部開拓時代を支えた世界の名作、ウェスタンムービーの主役だ」

「そうな。素晴らしい銃なのは認める。まったくもって、その通りだ。俺も大好きだし、こんな状態の良い物をもらえて本当に、すごく嬉しいよ。……で、何を気にしてるかはわかってるよな?」

 そうだ。ウィンチェスターのレバーアクションライフル。西部劇の定番として、もうひとつの主役であるコルトのシングルアクションアーミー、通称“ピースメーカー”というリボルバーとともに銀幕を彩った名作だ。雌馬の後脚( メアーズレッグ )、というのはそのライフルの銃身と銃床を切り落として大型拳銃という感じにしたもので、映画『拳銃無宿』でスティーブ・マックィーン演じる主人公のジョシュ・ランダルが使用したことで有名になったカスタムガンだ。ムチャクチャ恰好良い。うん、それは否定しない。

 ただ気になるのは、ベースがM1894(・・)というところだ。ウィンチェスターライフルの進化の歴史というのは、基本的には頑丈さと信頼性のステップアップなのだ。真鍮製機関部で黒色火薬の45ロングコルト(LC)仕様だったM1866、より強力な44-40弾薬が使用可能になったM1873、その改良版のM1876、さらにM1886からは名工ジョン・ブローニングの手により構造強化が図られ、強力なライフル弾が使用可能になってゆく。そして、ひとつの完成形といえるのが、いま目の前にあるM1894だ。

 ……ということは、だ。

「ほら、純正弾薬も二百発サービスだ」

「やっぱりそれかー!」

 銀色の箱に入った弾薬を見て、俺は思わずサイモンにツッコむ。

 30-30ウィンチェスター。M1894の設計に合わせて開発されたというライフル弾で、チューブマガジンに合わせて弾頭が太く丸っこい。先端の尖った通常ライフル弾だと直列状態(たて)に装填してゆくとき雷管を突いて暴発する可能性があるからだろう。通常ライフル弾対応で箱型弾倉タイプのM1895という最終進化形もあるが、それはウィンチェスターライフルの優美なデザインが崩れていてあんまりカッコ良くない。

「なあサイモン、それ無理ないか? いやフルサイズの方はわかるけど、メアーズレッグ(そっち)にライフル弾って、まともに撃てる気がしないんだけど」

「だろ?」

「“だろ”じゃねえ。お前これ贈答品とかいってたけど、撃てない(それ)で行き場がなくなったんだろ」

「そうそう。コルトのSAAとウィンチェスターライフルのセットってのは、年寄りに贈ると妙に受けが良いんだよ。それで何セットか発注したんだけど、途中で何でかオーダーを間違えてな。さすがに老人がそんなゲテモノ撃ったら危ないだろ?」

「いや、ゲテモノ(そんなの)を俺にどうしろと」

 西部開拓当時、抜き打ちに適した拳銃と射程の長いライフルで弾薬を共用可能になり、大ヒットしたとかいう話だ。でもそれは、黒色火薬時代の定番弾薬だった45ロングコルトか、それよりちょっと強力な拳銃弾である44-40ウィンチェスターでの話だ。

 そのふたつの弾薬でさえ、ミルリルさん愛用の拳銃弾45ACPより強力なのだ。たしか45LCで45ACPの二割増し、44-40で倍近いエネルギー量だったはず。フルサイズのライフル弾である30-30ウィンチェスターなんて、45ACPの五倍はある。AKMアサルトライフルの7・62×39ミリ弾よりずっと強力な弾薬だ。そんなもん拳銃に産毛が生えたみたいなメアーズレッグで撃ったら俺の細腕が吹っ飛ぶ。

「大丈夫だ、撃っても死にはしないぞ。ちょっと……銃身が垂直に跳ねるくらいでな」

「ある意味、死ぬわ!」

 あからさまな在庫処分を兼ねているとはいえ、あんまり贈り物を悪くいうのも失礼だ。なんだかんだといったところで――メアーズレッグの方はともかく――ウィンチェスターライフルは是非とも触ってみたい名作なこともあり、ありがたくいただく。


「ところでブラザー、アンタの休暇はまだ続いてるのか?」

「ああ。なんでか戦闘に次ぐ戦闘で、全然ゆっくりはできてないけどな。今度こそ少しくらいはダラダラした暮らしを楽しみたい。それが、どうかしたのか?」

「いや、雪が解けたら建築資材や重機の需要があるのかと思っただけだ。物によっては手に入るまでに時間が掛かるから、必要なものがあれば早めにいってくれると助かる」

 そうだな。いっぺんケースマイアンの連中と今後の方針を話してみるのもありかもしれない。なんとなくだけど、合法的商材(そういうの)を買って欲しそうなニュアンスも感じたしな。

「サイモンのところは、いま順調なんだよな?」

「ああ。問題があるとしたら、俺の立場くらいだ」

「……何かトラブルでも?」

 最悪の事態を予想して、俺にできる対処とバックアップの手段確保を想定する。まずは奇跡のルケモン師匠に土下座してでもアホほどの加護を付与したお守りを作ってもらってサイモン一家に押し付けるとかな。

「いや、アンタの考えてるようなもんじゃねえ。妻の実家が政治家の家系だって、前にいったよな?」

「それは聞いた。聖人様が陰から支えるに足るだけの立派な政治家だって話だったが」

「俺の話は、どうでも良いんだけどな。その義父が、国政の中枢に引き抜かれた。不在の間の政治的空白を避けるために、だが……」

 サイモンは苦笑して首を振った。

「一任期だけの契約で、俺が市長代行を務めることになった」

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[良い点] サイモンさん、大出世!
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